【NTR】奥手なエロゲー主人公の代わりにヒロイン全員攻略してみた 作:悠木仁
帰り支度を済ませた生徒たちがぞろぞろと会議室を出ていく中、響は筆記用具を片づけている最中の凛祢に声をかけた。
「雛守、ちょっと頼みがあるんだけど……」
「……? 頼み?」
こちらを向き、優しい笑みを浮かべる凛祢。どうやら機嫌はある程度戻ったらしい。
「いやー、実はさ。勉強を教えてほしいんだ」
「勉強……?」
「なぜ自分が」とでも言いたげに、凛祢は疑問を顔に出した。
「ほら、体育祭が終わったらすぐに期末テストがあるだろ? 俺、あんまり勉強得意じゃないんだよ。特に今回は委員会の仕事があるから、勉強時間も確保できなさそうだし……」
「うーん、たしかに委員会に入った人は厳しいかもね」
凛祢はまるで他人事かのようにそう言った。普段から予習復習を欠かさない彼女にとっては、多少勉強時間が削れたところで特に影響はない。むしろ初めから、委員会に入る羽目になるのは目に見えていた。学校行事の前にあらかじめ予習を多めに行っておくのは、もはや習慣になりつつある。
「雛守って勉強得意だろ? 俺の周りであんまりそういう人いなくってさ」
「あー……」
凛祢はふと凪の顔を思い浮かべる。彼もあまり勉強が得意な方ではないのだ。それに、他人に教える才能が微塵もない。小学生の頃、凛祢が解けなかった算数の問題を偶然解いてしまった彼に解説を求めたのだが、支離滅裂な説明をされて全く理解できなかった。当時は理解力の足りない自分が悪いのだと思っていたが、今にしてみれば明らかにあの男が悪かった。困り果てていた自分をヘラヘラと笑いながら見ていた彼の顔は、今でも忘れることはない。
「なんか腹が立ってきたわね……」
「えっ?」
「あっ、なんでもないの。ただの独り言だから。……わかった、そういうことなら手伝ってあげる」
体育祭の準備期間中は部活の助っ人に呼ばれることもないので、特に用事はない。委員会の仕事と並行するのはやや面倒ではあるが、頼みを断るほどでもなかった。
(相変わらず私、頼み事とか推しに弱いなぁ……)
委員会の仕事も、本当は断りたかったのだ、だが、周りからの期待につい応えようとしてしまう。そんな自分が、たまに嫌になる。
『凛祢のそういうお人好しなところ、俺は好きだよ』
高校に入学する前、凪に言われたあの言葉が頭をよぎる。彼にはイラつかされたことも多かったが、支えてもらうことも多々あった。そういうところには、感謝している。
(まっ、あいつは自分が言ったことなんて、全然覚えてないだろうけど)
そんなことを考えていると、無意識に頬が緩んだ。
「どうかした?」
響が不思議そうに尋ねる。凛祢は自らの頬に手を当てると、そこで初めて自分が笑っていることに気がついた。
「ううん、なんでもない」
屈託の無い笑顔で、凛祢はそう応えた。
*** *** ***
「ここなら誰にも邪魔されずに勉強できるんじゃない?」
そう言って凛祢は、用意されていた長机に向かう。響は鞄を床に置き、その隣に腰を下ろした。静かな部屋の中で、パイプ椅子がギシギシと音を立てる。彼女に案内されてやって来たのは、学校の三階にある図書室だ。この時間になると教室はすでにカギがかけられており、中に入ることができない。したがって、彼女の提案でここで勉強することになったのだ。
響は周りを見渡すが、どこにも人がいる気配はない。広い部屋に、二人きりの状態である。
「いつもこんなに静かなのか?」
響が凛祢に尋ねる。
「普段はこの時間でももうちょっと人がいるんだけど……今日は珍しく誰もいないわね」
神が与えてくれたチャンスだろうか。響はにやりと悪い笑みを浮かべる。とはいえ、別にこの場でどうこうするわけではない。そう
『特に進展がない状態で襲う、なんて馬鹿なことを考えてはいけませんよ? するにしても、最低限の下積みは必要です。あなたの目的は犯すことではなく、堕とすことなのですから』
「さて、そろそろ始めましょうか。何からやりたい?」
「えーっと、とりあえず数学からかな。雛守、数学得意だったよな?」
「えっ?」
響の言葉に面を食らう凛祢。
「違ったか?」
「私、神園くんに言ったことあったっけ?」
「いや、前にな……女友達から聞いたんだよ」
「ふーん……?」
「凪から聞いた」と言おうとして慌てて訂正する。彼女の前であの男の話題を出すのは禁止されているのだ。
「まあいっか。数学のことならなんでも聞いてちょうだい!」
「おっ、頼もしいな」
凛祢は自信満々に腰に手を当て、胸を張った。すると、パツパツになった胸元のボタンが今にも弾け飛びそうになる。
「……! ひ、雛守。さっそくこの問題を教えてほしいんだけど……」
「んー? どれどれー?」
凛祢は体を寄せ、教科書をのぞき込む。二人きりだからだろうか。会議の時に比べて、お互いの距離が近い。
「えっと、これはここをこうやって……」
凛祢がシャープペンシルを持って響のノートに書き込もうとすると、さらに体が密着し、彼女の豊満な胸が腕に触れる。柔らかな感触が、彼の腕を包み込んだ。
(こ、この場合は指摘した方がいいのか……?)
さすがの館主も、初日からこんなシチュエーションが訪れるとは予想もしていなかっただろう。響は堪能したい気持ちをグッと堪え、凛祢にそれとなく伝えようとする。
「雛守、その……当たってる……」
「ん? 何が……って、あっ……」
凛祢は顔を赤らめ、慌てて響から距離をとった。
「ご、ごめんね! 近づきすぎちゃって……」
「いや、俺のほうこそ。ちょっと神経質だったかもしれない。不快にさせたなら謝る」
「……」
頭を下げて謝罪する響の姿を見た凛祢は、意外という顔つきをみせた。
「なんだ?」
「いや、そんなこと初めて言われたから……」
凛祢はふと、凪の姿を思い起こす。彼とも同じような出来事には何度か遭遇している。しかし、彼はいつも何も言ってくれなかった。別に、謝罪をされたいわけじゃない。しかし、せめて何か言ってほしかった。彼は自分に興味がないのではないか。女として見られていないのではないか。そんな不安に駆られていた。
「じゃ、じゃあ気を取り直して! 続き、しよっか!」
それからさらに一時間、二人きりの勉強会は続いた。