【NTR】奥手なエロゲー主人公の代わりにヒロイン全員攻略してみた 作:悠木仁
図書室の壁に掛けられた時計が19時を示すと、学校中のスピーカーから完全下校時刻を知らせる音が鳴り響いた。これ以上校内にいると、警備員に怒られてしまう。響と凛祢は勉強道具を鞄にしまうと、その場を後にした。
「家まで送っていくよ」
靴を履いて外に出ると、響は凛祢にそう言った。日はとっくに落ちており、外は暗闇に覆われている。部活をしていた生徒たちも帰宅し、辺りには静けさに包まれていた。
「そこまでしてくれなくてもいいってば」
「俺のせいで遅くなったんだ。これくらいはさせてくれ」
「……そう? それじゃあ、お願いしようかな」
心の内でグッとガッツポーズをする響。どうやら作戦がうまくいったようだ。当然ながら、彼女を家まで送る、というのも館主のアドバイスである。
『今日仲良くなったばかりの人に家まで送られるとか、普通に怖いし気持ち悪いですから。送るならそれなりの理由と断れない状況を作ってください』
勉強に付き合ってもらったのも、下校時間を遅らせるためだ。自分のせいで遅くなった、という状況を作り出したかった。
響と凛祢は並んで歩き、学校近くの駅へと向かった。駅とはいっても、通学の時間帯以外は人通りも少ない、小さい駅である。この時間になると、近隣に住む小中学生も出歩かないので、静かな夜道が真っ直ぐに続いていた。
(俺の目的をなしにしても、女の子が一人で出歩くには少し危ないな)
部活の助っ人をよく頼まれる彼女にとっては、こんな時間に下校するのは日常茶飯事なのだろうが。
駅に到着し、ホームで電車を待っていると、凛祢が響に尋ねる。
「神園くんの家はどこにあるの?」
「ここの隣の近く。ちょうど雛守が降りる駅を――って、そっか。凪がいるもんね」
響はこくりと頷く。
「でも本当にいいの? 私の駅で降りたら二度手間になっちゃうけど……」
「気にするな。なんなら運動がてら歩いて帰ろうと思ってたくらいだ」
「絶対嘘だ」
クスクスと笑う凛祢。響にとって、彼女のこんなに無邪気な顔を見るのは初めてのことだった。クラスメイトと一緒に笑っているところは普段も見かけているが、それとは少し違う気がした。少なくとも、凪の前では絶対に見せない表情だ。
彼女にとって、凪はなんなのだろうか。響は改めてそんなことを考えた。
*** *** ***
「送ってくれてありがと」
凛祢の家にたどり着くと、凛祢は別れを告げるようにそう言った。
「お礼を言いたいのはこっちだ。教えてくれて助かった」
「私もいい復習になったから。お互い様ってことで」
外灯に照らされた凛祢の顔に笑みが浮かんだ。
響がその場を立ち去ろうとすると、突然隣の家の扉が開かれた。中から出てきたのはーー凪だ。凪は扉を閉めると、すぐに二人に気がついた。
「凛祢と――響? どうしてお前がこんなところに……」
「委員会の仕事で遅くなったから、家まで送りに来たんだよ。お前こそ、こんな時間にどこ行くんだ?」
下手に誤魔化すようなことはしない。しかし、念のため勉強会のことは伏せておく。自分も参加するなどと言われたら面倒だ。
「ちょっとコンビニに行こうと思って。それにしても、凛祢が誰かと帰って来るなんて珍しいな」
凪は驚きつつも、どこか嬉しそうに言った。彼にとっては、幼馴染に新しい友達ができた、くらいの感覚なのだろう。
「……それだけ?」
凛祢がぽつりと呟く。
「え?」
「私がこんな時間に神園くんと帰ってきて、珍しいって……それだけなの?」
「それだけって……他に何かあるのか?」
「……もういい」
凛祢はそう言って、扉の鍵を開けた。
「神園くん、また明日」
「あ、ああ……」
響が返事をすると、凛祢は凪には何も言わずに、家の中へ消えていった。
取り残された響は、立ち尽くす凪に尋ねる。
「……お前、ほんとにコンビニへ行くために外に出てきたのか?」
「……本当のことを言ったら、大きなお世話だって怒られると思って」
「逆効果じゃねーか」
相変わらず鈍感な男である。きっと今も、どうして彼女が怒ってしまったのかわかっていないのだろう。
「じゃあな、凪。あとで謝っておけよ」
響は踵を返し、駅の方へと歩き始める。闇に包まれた暗がりの中で、彼はひっそりと笑みを浮かべた。
*** *** ***
(そうだ。あの人に報告しなきゃな)
帰り道の電車の中で、響はスマートフォンを起動する。開くサイトは当然、恋の館。響が空白の記入欄に指を伸ばすと、そこで館主からの返信が届いていることに気づく。しかし、そこに表示されていたのは『回答』ではなく『メッセージ』。
(なんだ……?)
響は右下の赤字を指でタップする。そしてその直後、彼の背筋が凍った。
そこに書かれていたのは――
『次のステップに移りましょう』