【NTR】奥手なエロゲー主人公の代わりにヒロイン全員攻略してみた 作:悠木仁
ましろの転校から二ヶ月が経過し、6月も終わりを迎えようとしていた。結局、響は彼女との進展がないまま普段通りの生活を続けている。親友の凪を通じて何度か話してはいるものの、友達と呼ぶには程遠い状況だった。彼女の性格上、あちらの方から関わってくる望みは薄い。ともなれば、必然的にこちらからアプローチしていく他なかった。しかし、どうしてもその勇気が出なかった。誰かに恋をすること自体初めてだった彼が、女性の口説き方などわかるはずもなかった。
そんな彼がいつものように遠巻きにましろを見守っていると、凪が彼女に平然と声をかける。
「ましろ、次の化学は実験室だから移動だぞ」
彼の様子に気恥ずかしさなどは見られない。これが経験の差というやつなのだろうか。いつの間にか下の名前で呼んでいることから、2人の距離が縮まっているのがわかる。
(俺もあいつみたいにモテモテだったらな……)
何の気なしに、そんなことを考えたりする。自然と相手の方から寄ってくる――いわゆる『常時モテ期状態』のあの男を尊敬こそしたが、羨望したことは一度もなかった。『友人だから』とか『人それぞれだから』とずっと思っていたが、それは誤りだった。ただ単に、自分に好きな人がいなかったからだったのだ。自分に被害がなかったから、あの男に対して嫉妬せずにいられたのだ。
「ナギ、連れて行って」
ましろは座席に座った状態で、ちょこんと彼の裾を掴んだ。その瞬間、響は胸がえぐられるような痛みを感じた。
「よし、ちょっと早いけど行こうか。また走ることになったら大変だし」
凪が優しく微笑むと、ましろも笑顔でそれに応えた。子供をあやすような態度をとる凪に対して情熱的な眼差しを送る彼女の姿を、響は見逃さなかった。
*** *** ***
その日の放課後、帰り支度をする響のもとに凪がやって来た。
「悪い、響! 今日は一緒に帰れそうにない」
拝むように体の前で手を合わせる凪。去年から生徒会の臨時の手伝いとして派遣されることもあった彼だ。特に珍しいことでもない。
「別にいいけど、今日はなんだ? またあの美人生徒会長に呼び出されたのか?」
響は茶化すように言った。そこに嫌味など一切なく、いつもの調子で彼をからかう。
「そんなんじゃないって。実は、ましろを家まで送ることになっちゃって」
響の表情が凍り付く。
「へ、へ~……」
それ以上言葉が出てこない。響は気持ちを隠すように、笑顔を絶やさないよう努力する。
「トラブルがあってましろの迎えが来られないんだってさ。特に用事もないから別にいいんだけど――」
「……なあ、凪」
何かを決断したかのように、響は尋ねる。その表情は、かつてないほどに真剣だった。
「お前にとって月ノ下さんって、なんだ?」
「なんだ、って……大切な友達だけど……」
困惑した様子で答える凪。「そうか」と言って、響は続ける。
「もう一つだけ。……お前、あいつが好きなのか? もちろん異性として」
「なっ!」
予想外の質問に、凪は戸惑う。
「何言ってんだよ! いい友人だとは思ってるし、可愛いとも思うけど、そんな風に思ったことはないって。第一、俺とは釣り合わないだろ……?」
その言葉を聞いた刹那、響の中で何かが吹っ切れた。心を覆っていた霧が晴れる、そんな気がした。
「……そうだな。たしかにお前じゃだめだ。お前じゃ
「……なんか他人に言われると腹が立つんだけど」
ムスッとした顔をする凪。そんな彼を見て響は表情を明るくする。
「いや、悪かった。変なこと聞いちゃって。さ、月ノ下さんも待っているだろうし行った行った!」
「お、おい押すなよ! まあいいや。またな、響」
「ああ――」
廊下で待つましろのもとへと駆けていく凪を見送ると、響はぼそりと呟いた。
「さよなら、凪」
ノクターン・ノベルズにて連載中。
そちらでは15話まで公開しています。(8月17日現在)