【NTR】奥手なエロゲー主人公の代わりにヒロイン全員攻略してみた 作:悠木仁
放課後、校舎の二階にある第一会議室に集められた体育祭実行委員たちは、長方形をかたどるように並べられた長机にそれぞれ向かっていた。生徒会長に副会長、さらに書記と担当教師が黒板側に座り、それ以外の場所には各クラスから選ばれた男女二名ずつが腰を下ろしていた。響の隣には凛祢が座っており、会議が始まるのをじっと待っている。委員決めを行ったのが今日最後の授業時間だったので、彼女と話す前にここへ来ることになってしまった。しかし問題はない。彼の目的はこの会議の後にあるのだ。
時計の針が17時を示す。生徒会長が立ち上がり、会議の開始を宣言する。
「それではこれより、体育祭実行委員による会議を行います」
優美な雰囲気をまとった
「まずは事前に各クラスで決めてもらったスローガンの中から、学校全体のものを一つ選びたいと思います。これから10分間の時間を設けるので、時間内に全員一つに絞ってください。その後、多数決をとります。挙げられたスローガンは、先程配布したプリントに記載されています」
手元の紙に目線を落とす。プリントには計30個のスローガンがずらりと並んでいた。これを時間内に全部読んで決めるのは手間がかかるだろう。隣の凛祢の様子を見てみると、やや面倒そうな表情をしていた。どうやら彼女も同じようなことを考えているようだ。響は館主の言葉を思い出す。
『一度逃した機会は二度とやってきません。どうせ次も逃してしまうからです。逃すことが決まっているなら、それは無いのと同じこと。そう思いませんか?』
響は意を決したように、凛祢へと話しかけた。
「雛守。もしよかったら二人で考えないか?」
「……二人で?」
こちらへ振り向き、疑問を顔に出す凛祢。その顔を見て響は続ける。
「それぞれが半分ずつ読んで、一番良いのを選ぶんだ。その後でお互い選んだものを出し合う。そうすれば全部読まなくて済むだろ?」
「へぇ、なかなかいいアイディアじゃない。いいわよ。それじゃあ私は上から読むから」
そう言って、凛祢は再びプリントに目を向ける。響も彼女と同じように、16番目のスローガンからプリントを読み進めた。『一致団結』『全力を出し切れ!』という定番のものもあれば、『one for all all for one』のようにやや工夫されたものもいくつかある。限られた時間で選ぶのであれば、15個でも多いくらいだ。響はそれから5分ほど悩んだが、結局『一致団結』を選ぶことにした。
「雛守、そろそろ決まったか?」
「うん。結構良いのが見つかったから即決しちゃった! 神園くんは?」
「俺はこれにしたよ」
「どれどれ?」
響が『一致団結』の文字を指さすと、凛祢が体を寄せてプリントをのぞき込んだ。密着状態になり、彼女の匂いが漂ってくる。これまであまり女性と関わる機会がなかった響にとって、それは新鮮な香りだった。シャンプーでも芳香剤でもない。心にグッとくるような、そんな香りがした。
「一致団結……ずいぶん無難なのを選んだわね」
「そういう雛守は何にしたんだ?」
「私? 私は……これっ!」
凛祢が掲げたプリントには、響と同じように多くのスローガンが並んでいたが、そのうちの一つが楕円形の丸で囲まれていた。
「えっと……進撃の
「そう! かっこいいと思わない? 特にこの『進撃』ってところとか!」
明凛とは、この学校――明凛高校のことだろう。よほど気に入ったのか、目をキラキラさせながら熱く語る凛祢。しかしそれとは裏腹に、響はとてつもなく微妙な顔をしていた。
(だっさ……これで提出したのどこのクラスだよ……)
その場のノリで決まったのか、本気でこれをかっこいいと思ったのかは知らないが、おそらくこれになることはないだろう。そもそも、あの生徒会長が許しそうにない。
しかし、響はそこで館主の言葉を思い出す。
『女は同意されたい生き物です。同意されるだけで相性が良いという錯覚に陥ります。特に、女性からの提案は絶対に否定してはいけません。まあもちろん、自分をもっと否定してほしいというソッチ系の女である可能性も――』
とにかく、ここで思ったことをそのまま口に出すのは悪手だろう。響はできる限り笑顔で応えようとするが、逆にそれが顔を引きつらせてしまう。
「あ、ああ……いいと思うぞ……」
「やっぱりそう思う!? じゃあ私はこれにしようかな。神園くんはどうするの?」
「俺もそっちにしようかな。……かっこいいし」
「やった!」
凛祢は嬉しそうに、胸の前で小さくガッツポーズをした。どうやら作戦は成功したようだ。響がほっと一安心していると、黒板の方から声が聞こえてくる。
「はーい、そこまで。みんなー、そーしゅくにー」
「それを言うなら
「あれ、そうだっけ? 先生ってば細かいなー。じゃあみんな、せーしゅくにー!」
呆れたように溜息を吐く先生。その隣に立っていたハイテンションの女子生徒は当然音葉ーーではなく、副会長の鈴原みちるだ。明るい茶色に染まった巻髪のポニーテールという、生徒会の人間とは思えないほど派手な格好をしているが、一応彼女も選挙で選ばれた役員だ。彼女も音葉同様、生徒からの人気は高いが、どちらかというと凛祢に通ずる何かを感じる。
(なんであの人が仕切ってるんだ……?)
3年生で生徒会の一員とはいえ、進行役としては明らかに不適だろう。響は話し合いの直前まで音葉が座っていた席を見るが、そこには誰もいない。周りを見渡しても、どこにもいる気配はなかった。
「じゃあこれから多数決をとりまーす! 一つずつ読み上げていくから、一回だけ手を挙げてね。まずはー――」
多数決が始まり、一人一人が順々に手を上げていく。そして、ついに『進撃の明凛』の番になった。
「次。17番、進撃の――ぷっ、くくっ! なにこれ、ださくない? これ考えたのどこのクラス――」
「鈴原さん?」
「えっへへ……ごめんなさいつい……」
先生に喝をいれられ、恐縮するみちる。どうやら彼女も響と同じことを思ったようだ。いや、おそらくこの場にいる全員がそう思ったことだろう――一人を除いて。
「……」
響が横目で凛祢の様子をうかがうと、そこにはみちるの様子を不機嫌そうに見つめる彼女の姿があった。すかさず響はフォローをいれる。
「お、俺は本気でいいと思うぞ!」
「……ありがと」
凛祢が拗ねた声で応える。
「えー、気を取り直して! 17番、進撃の明凛!」
(取り直せるわけねーだろ!)
そう思ったが、声には出さずに黙って手を上げる。案の定、響と凛祢以外に手を上げる者はいない。
(おい! これを提出したクラスはどうしたんだよ!)
結局、多数決が終わるまで凛祢が機嫌を取り戻すことはなかった。
「えー、集計の結果、スローガンは『一致団結』に決まりました! ……うわー、ふつー」
(((お前が言うな!!)))
その場にいる全員の考えが一致した瞬間であった。
「じゃあ次の議題なんだけど……ちょーっと待っててね。そろそろ連れ戻してくるから」
(連れ戻す……?)
そう言ってみちるは会議室の前方の出入り口へと歩いていく。ガラリと扉を開け、
「音葉、次の議題に移ったからそろそろ戻ってきな」
なにやら話し始めるみちる。会話の内容からして、相手は音葉だろう。
「馬鹿なこと言ってないで戻ってくる! みんな待ってるんだから」
「ちょ、ちょっとみちる!」
みちるが腕を引くと、掴まれた音葉が廊下から現れた。
「なーくんごめんねー、音葉につき合わせちゃって。またいつでも生徒会室に遊びに来なよ」
みちるは最後にそう言うと、ゆっくり扉を閉めた。戻ってきた音葉が、しずしずと自分の席へ座る。コホンと小さく咳払いし、何事もなかったかのように進行を進めた。
「そ、それでは次の議題に移ります」
その後は何事もないまま、一回目の会議は終わりを迎えた。