煙草を吸い、気まぐれに出かけ、愛もなく交わる。
何処までも無機質で、空虚な話
どういういきさつかはよくは話さない事にする。言葉にすると、多分うまく伝わらないし、長くなる。
とにかく僕は、出所したての、行く先も、帰る場所もない、19の小柄な女の子、地下鉄のベンチで12月の夜を越そうとしていたその子を、連れて帰る(お持ち帰りではない....と思うのだが...)事にした。
「コーヒーで良い?」
彼女は頷く。彼女は頷く。
反芻しないと、忘れそうな動作だった。ほんの気遣いとして、できるだけ美味しいコーヒーを作った。何も言わずに、彼女はそれを飲んだ。12月の冷たさは、改善されるだろうか。気がつくと外は雨で、形あるもの全てに冷気が行き渡っているような気がする。
僕はあきらめて先に風呂に入る。どうせ盗まれて困るようなものなんかはない。時間をかけて服を脱ぎ、時間をかけて、体と頭を洗う。湯を浴びた床はすぐにコンクリートみたいに無機質な冷たさに冒されてしまう。脱力して湯船に寝転がる。
やがて彼女が入って来る。脱衣場に入って来て、服を脱ぎ始めた時は、時は、さすがに少し驚きはしたが、止めなかった。これは何かの流れなんだ。フォークがあれば指す必要がある。
彼女は冷蔵庫から勝手に取ったらしい缶ビールを2本持ってきた。モルツだ。モルツはいささか美味しいのにスーパードライとなぜ生産量にあんなにも違いが在るのだろうと考えたが、止めた。どうせ理由があっても認めないだろうから。事態が動かなければ、理由もないのと同じであろう。そうして彼女が持ってきたビールを舐めるように飲みながら、彼女が体を洗うのを眺めていた。出所明けらしい、健康的な体だった。貧相気味ではあるが、全然固そうな印象はなかった。髪は短く、あまり十分なケアを長い間されていないような印象を持ちもったいないとも思った。そうして二人浴槽に向かい会うようにして、ビールをちびちび飲んだ。二人とも、うつむき、膝を曲げて。そうして僕は彼女の美しい脚や、華奢な肩なんかを眺めていた。
性器や、乳房には、できるだけ目をやらないようにする。二人とも、全くの無言で、ひどく頭はボーッとしていた。脱け殻になってしまった気分だ。
雨は止むことを知らないように、窓に勝手にぶつかる。
やがて彼女が先に上がり、まもなく僕も上がる。
彼女は、押し入れから引っ張り出した、忘れかけられて、まだ世界になれていないようなスウェットを来た。女性用下着なんてものはないから、下半身はいささか寒いだろうし、乳首も擦れていたくなりそうだが、仕方ない、それでも、埋め合わせとして、新品の歯ブラシに、フロスとタンブラシもつけてあげた。紅茶を、やはり無言で飲み、歯を磨いて、寝る。
僕が住んでいるのは、アパートの一室であり、彼女に別の部屋と、布団を用意なんてできなかった。彼女にベッドを使って良いと言うと。遠慮もしないで潜り込んだ。やれやれとは思いながらも、床に布団を敷き、グラスに2cm位ウイスキーをついで、飲む。雨は止まない。しかし、それを切り離せたのなら、多分見たことも聞いたこともないような沈黙だろう。ひどく安心したような、悲しいような気分になった、彼女は向こうを向いて寝ていた。いや、実際寝付いてはいないのだろうけど、肩は規則正しく上下していた。どうしても眠れなかった。いろんな事を、思いだしかけて、無理やり引っ込めた。
やがて彼女が声をかけて来る。社会的に落ちたはずなのに、何故かその声を神々しくまでも感じた......。過言かもしれない。
「ねぇ。」
必死にまどろみの縁をつかもうとしていたのが、強制的にこっちに引き戻される。
「ねぇ、眠れて無いんでしょ。」
「............」
「わかるんだよ、あっちには、毎晩の人いたから、なんだか...わかる......」高めで、軽い、どちらかと言えば可愛らしい声だ。
「こっちに来て。」
「......」沈黙が続いたが、やがて痩せて弱った熊みたいに立ち上がり、彼女がいる、僕のベッドに滑りこむ。
しばらくお互いの顔を見る。彼女の目は、平淡だが、澄んでいた。でもそれは、段ボールにガラス塗料を塗ったようにも感じた。それを改善する事は僕の役目じゃないし、必要もないのかも知れない。
やがて彼女は僕の首に腕を回す。僕も彼女の腰に手をやる。どこか冷たく、泣き出しそうだった。
そしてキスをする、どことなく、物理的にではなくて、どこか 乾いた印象を受けた。 久しぶりなのか、少し彼女の唇はこわばっていた。僕は彼女の頭の後ろに手をやり、もう一度キスをする。彼女は、少し声を出した、それは、声というよりは、少し息がつまった、というようなイメージに近かったのだが、それは雨に吸い込まれた。長いキスで、彼女の唇もほぐれた。舌を差し込んで来る。それに答える。深く絡め、離れる度に糸を引く。呼吸が荒くなる。軽いしゃくりのような息使い。 彼女は何故こんなことをするのだろうと考える。僕の事が好きではないことはわかる。確信が持てる。しかし、単なる性欲処理には思えない。それには少し、必死すぎる。そう、どこか必死なのだ。僕は、彼女の肩から腰、腰から尻という順で、ゆっくりと愛撫し、高揚しているのを感じ取りながら、とある事を考える。彼女は、こちらに出てきて、失われたものを、損なわれてしまった自分を、取り戻したいのだと、それならば、誰でも言い訳であるから、僕が相手でも納得が行く。何より彼女が、ほんのわずかではあるが、漏らしている意識の水飴から、僕の考えてに近いものを感じる。
やがて彼女は大きく息を乱す。それから、誘いかけるように僕の内股に手を這わせる。 僕は彼女の上に四つん這いになる、彼女は何も言わず。僕の目を通り、戻ってきた自分の目、もしくはもっともっと遠くの方を見るような目で、僕の目の方を見る。それから僕は、彼女が着ているスウェットを、母が子にするようにして脱がせる。補助はしないものの、素直に彼女は応じた。すっかり脱いでしまうと、少し、無の時間、いや、眠った時間が流れた。 僕は彼女の首に、キスをし首筋を舐めあげる。それから、鎖骨、肩、脇と、したに向かいながら、ゆっくりとキスをし、舌を這わせた。彼女は、波のように始まりのはっきりとしない、小さな声を出す。それから薄い乳房を手で覆う、本当に優しく。それから砂山をならすように、ゆっくりと手を動かす。乳輪に指を当てる。彼女はもう、はっきりと声をあげるようになっていた。乳首を子供が物珍しそうにラジオのつまみをいじるみたいに刺激する。彼女は身をよじる。僕の指の間で固くなるそれに、今度は唇を持っていく。そして、それを小さな範囲で吸い、軽く頬張るように吸い、舐め、あまがみをする。彼女はたまっていたように感じる。同時に彼女の尻と、腿を撫でる。彼女は濡れていて、強く入って来ることを求めていた。僕は頭を持っていき、優しく又を開かせる。少し愛撫し、鼻を陰毛に触れさせてから、彼女の小陰唇の間を舌で、軽く開くようになぞり、クリトリスを舌で転がす。彼女は僕の頭に手を置いて、激しく身をくねらせ、声を上げて感じる。僕はさらに深く押し広げるように、混ぜるように、彼女の膣内で舌を動かす。それから指を入れ、グレフェンベルクスポットを刺激し、指を動かす。間もなく彼女はオルガズムに達する。膣は激しく収縮し、声がこぼれ、身を大きくよじる。それでも彼女はまだ求めた。
少し間を置いて、僕はコンドームをつけて、彼女の中に入る。難なくではないが、拒む事なく、入る事ができた。
それから僕はゆっくりと、動かし始める。浅く、深く、スローに、それでいてリズムを持って。彼女はそれにあわせて喘ぐ。動かしているとき、ただならぬ事を感じたのだが、僕はそれを永遠に言葉にする事は出来ないだろう。
やがて彼女は二回目のオルガズムに達する。しかし、それは、先ほどよりも、もっと深く、これまでに聞いたこともない、悲しい、湿ったオルガズムだった。
事を終えた後、彼女は少しだけ泣いた。少しだけと言うか、本当に一粒だけ。 でもそれは、僕を避けたし、僕はその涙を弾く存在だった。だから僕はその事について、考えても、感じる事はなかった。そして僕達は眠る。というか、泥に沈むように、いつの間にか。冷たさと音を含んだ闇が、僕達にも訪れる。
朝、ざらざらしたような、古くなった自転車のグリップみたいにべたべたした口内と体で目覚める。音のしないホワイトノイズ。人形を自分の脳で動かしている感覚がする。震えながら服を着て、ウイスキーの匂いがするグラスを持って、開放的なだるさで、キッチンにたどり着く。グラスを洗い。コップで水を立て続けに2杯、大型犬みたいに飲む。冷えた頭で昨日の事をもう一度考えるが、ひどい空虚感に揉まれかけたので、止めた
熱い湯で丁寧に髭を剃り、熱い湯と贅沢な量の泡で顔を洗う。シャワーで体を流す。自分についた、余分な何かを湯で溶かして落とすように。
一瞬昨日の雨を思いだしたが、シャワーの水は、都会人のようにイライラしたように、足早に下水に向かっていくし、音が違った。 決定的に。
長いシャワーから出て、黒いジーンズ、四色の薄く、暖かい靴下を履き、コットンの薄いシャツ、ぶかぶか気味の白いセーターを、手早く着込む。鏡に写った誰かを見る。久しぶりに意識した。串をかけて、頭を強めに大きく振って、髪を整える。軽く頭が痛む。
もう一度鏡の中の誰かさんを見る。
戻ると彼女が行儀よく座っていた。着るものがあんまり無いのかと、今更気づく。もっともどれくらいここにいるのかはわからない。僕が連れて来たのだから、あまり文句は言えないし、そこまで辛辣な人間ではないと思っているので、後でいろいろと買うという。彼女は頷く。とりあえずシャワーに入れ、二人分の朝食を作る。玉ねぎとわずかなベーコンと、棚から引っ張り出したコンソメスープの元を鍋に放り、8枚切りの食パンを、一枚づつ、かなりしっかり焼く。退屈な作業だ。料理をしている方は、しているだけで空腹が満たされるので、そんなに作っても食べないし、かといって料理をしないでいると、空腹が来るのだから、なんかよくわからないと、一人暮らしを始めた頃はよく思ったものだ。今は、バランスを見つけて慣れた。 結局、簡単な朝食を、大小あわせて14回のあくびをする間に作る。
あがって来た、彼女と、朝食を食べる。彼女は、何かをポツリといいかけて、思いだしたように止めた。どれもこれも、決して良い代物ではない。今日の夜には忘れてしまっていそうな朝食だった。
すっかり食べ終えると、僕はベランダに出て、煙草を吸った。ケントを吸う。気だるい。隣に彼女がやって来たので、一本勧めると、素直に受け取った。僕はそれに火をつける。彼女は、ゆっくりと吸い、それから煙を体の中に巡らすようにしてから、ゆっくりと吐く。愛煙家とまでは行かないものの、好きだということはわかった。僕は手すりに軽く手をついて、彼女はうずくまり気味に、肘をついて、僕達はしばらく無言で煙草を吸った。やがて、彼女が口を開く。(この後も、ほんの機会に、彼女は僕に、様々なことを話す。それは、僕を、少し切り離したような、混乱したような気分にさせる。)
「あっちでも、こういうのって......その、不正じゃなくても出来たの。」彼女はいう。「よく一緒に吸う人がいたの......そして、彼女は......いうところの模範囚だった。」彼女は、少し間を置いて、続ける。
「本当に、顔立ちもよくて、頭がキレた。仕事も出来るし、クラブ活動なんかでも、よく目立つような人だった......。」ほんのわずかだけ後悔したように声が小さくなったが、そのまま続けた。「本当に囚人であることを忘れてしまうくらい。なんでこんな人が、こんな所にいるんだろうって。........................でも、ある時なんかわかった気がしたの。 その人...本当に、本当に些細な事だったんだけど、はんだが少しかすったとか、そういうレベルだったと思う。それに対して、その人、何かにとりつかれたように、爆発的に憤慨したの......私も、びっくりしたというか、結構恐ろしかった。それくらいに大噴火起こしたの。それでその人、立場もがた落ちして、結局収容期間もすごく伸びてしまって.................................... それで気付いた。
あぁ、この人差が激し過ぎるんだって。onとoffしかない...というか、0km/hの次が210km/hのレーシングカーみたいな、そんな感じ。特に悲しいとか、可哀想とかは、思わなかったけど、なんか......上手く言えない。」そう言って少し首を振る。それから黙る。僕も黙る。長く、ベランダの二人というタイトルの彫刻になりそうな位。
僕は寒そうなチノパンツとトレーナーの彼女に、くたびれたカーキ色の、膝をかくしてしまうくらいの長さのモッズコートを着せる。それはファー付きで、防寒に優れた物だったから、まぁ大丈夫だろうと思った。それから、ローリングストーンズのニット帽を被らせ、外出する。下着から服から食料品まで、いろいろ買わなきゃならないと思う。何より彼女が居る間は、面倒を見なくてはならない。どちらにせよ、大学は冬休みだし、大した友人もいない僕は、バイト代もたまっていて、余裕が無い訳ではなかった。それにしても、彼女が隣を歩くのは、何故か新鮮な気分だ。ガールフレンドと歩いて居るのとは少し違った、悟りすぎた犬を散歩しているような、そんな気分だ。
僕達は、とりあえず必要だと思われる物を買った。彼女は少しはお金を持っているといったが、決して払わせなかったし、もとより大した額ではなかった。目についたファミリーレストランに入って、昼食を取る。彼女はサラダとドリアを、頼み、僕はサラダとパンケーキで済ませた。彼女は急ぎはしないのだが、その食べ方に全くの遠慮が無い。食後のコーヒーを、新聞紙を湯で絞ったみたいな不味いコーヒーを飲み、アパートに帰る。乾いた寒さだ。コンクリートも、銅像もひび割れてしまいそうな寒さだ。
それから家に帰ると、買ってきた物を整理し、思いだしたように歯を入念に磨き、セックスをする。こなれたと言うか、成熟する事を思い出したというか、幾分落ち着いたセックスで、彼女の方から動く事もあったし、幾分しっかりとした前戯があった。渇きは満たされた気もしたが、思い出せば、戻ってきそうだ。そしてまたベランダに並んで煙草をふかす。今度は何も語らない。見れば空も透き通り過ぎて、簡単に割れてしまいそうだ。
次の日、特にする事もなく、テレビにいささか呆れ、本を読んで退屈の中を生き延びた。夜、僕達はバーに行くことにした。退屈だったし、バーテンにも、久々に会いたかった。
奥まった場所にあるそこのドアを開けると煙草の煙と、フライドポテトの油煙と、アルコールの匂いが、ぴったりティラミスみたいに次々に襲ってきた。床も妙にてかてかして、今さっき、ピスタチオやらピーナッツやらの殻を掃いたようだった。いつもの風景、客は10人弱。
「やぁ、なんか久しぶりにな気がするけど...」
「ホントにね、久しぶり 。」このバーは彼が一人で切り盛りしていて、若干太った感じはむしろ良い感じにキャラがたった。髪は、2ヶ月とちょっと位のペースで切っているなという長さで、不潔感は無いが、若干曲がって、いつも少し油っぽかった。自己流の匂いが強いが、それなりのカクテルを作り、それなりのフライドポテトを作り、それなりのBGMをかけた。 その日は、ニルバーナがかかっていた。何のアルバムか、ベスト盤なのかは判らないが、ちょうど「スメルズ」がかかっていて少しラッキーだと思った。
「今日は初めから女の子連れてるんだね。」
「まぁ、そうだね。」
「色男め。ここだけの話、ここに来る娘の中であんたの事狙ってんのは結構居るからね。」そう言ってウインクする。「ただあんた、一人を長く愛でる事もしなきゃいけないよ。結構大切な事なんだ、それって、俺はゲイだけどさ、気づかない物もあるし、そのうち虚しくなる。そういうのって悲しいよね、まぁ別にとやかく言うつもりは無いし、性欲ってめんどくさいし、 何もあんたに説教してる訳じゃ無いんだよ?」
「うん。それはわかってるよ、それは実は僕自身も結構考えてるんだよ。」
「そんな気がするよ。 ところでその子とはどういう?」
「事情があるんだ.........。出来ればあまり詮索されたくない。」
「そうなのかい嬢ちゃん?」彼が答えを求めていないという風に聞く。彼女は少し頷く。
「ふーん。まぁいいさ。決まったら呼んでくれね。」
間もなく僕は、ジントニックを、彼女はスコッチ&ソーダを頼み、ピスタチオをつけた。
「良いところね......」少しスコッチ&ソーダを飲んで言う。「そうかい? ここは別に綺麗でもないし、お洒落でもないし、まぁ料理は悪くないけどさ。 第一あの人は明るすぎるし、なんと言うか......結構特殊な人だよ。まず、普通の人とはいささか凹凸が合わない。ゲイみたいだし。第一彼の詳しいことって誰も知らないんだ。.......
とにかく...君みたいな若い女の子が初見で気に入るようなところじゃないと思うよ。」
「でも、あなたは好きじゃないの?」こっちを見つめてから、氷をカランと鳴らして、そう言う。
「それはそうだね。随分長い付き合いだよ。あの人はいい人だしここは落ち着く。」
「私も、ここは落ち着く気がする。」ピスタチオの殻をいじりながら言う。
「これ固いからあげる。」僕はそれを受けとって「ノルウェイの森のワンシーンみたいだ。」という。
「私は緑(ノルウェイの森の登場人物)みたいに明るくない。............あなたは似てるかも知れない。」
「 『僕』に? そうだね、似てると言うかほぼまんまだよ。」
結局数杯だけ飲んで、帰った。外飲みを二人分で、そんなに飲んでもいられないから。 それでも、二人、雨の時から抜けきらなかった冷たさがアルコールとヒトデに相殺されたようになくなった。紅茶を沸かし、二人とも本を読む。僕は、東野 圭吾の『手紙』を読んでいたが、気を使ってカバーを裏返しにかける。しかし、ふと、彼女の方を見ると、彼女は、カミュの『異邦人』を読み、足元には、中古で買ってきた、病院の匂いがする、『罪と罰』がある。やれやれ。
その日のセックスも、どこか、生身で無いような、テレビの奥のセックスを体現したようなものだった。そして、事後に彼女は口を開く。
「.........ある少女がいたの。」彼女は指で僕の腹に円を書きながら言う。それの居場所を探すように。
「その人は、あんなところに居るのを、むしろ好意的に思ってるみたいだった。特に特徴の無い人。毎日決められた時間に寝起きして、遅くも早くもない、食事ペースで、毎日ラクダみたいに働いて、たまにやる映画とか、読書なんかで、退屈の中を乗りきってきた。そんな人。......でも、初めから、少し違和感を感じてた。 あの皮を剥いだら、多分決定的におかしなところがあるって。何せ、どこか、何かを避けてるような、少しずつ選びながら動いてるように感じてた。
............彼女は、何かの拍子に、こぅ......ぽこぽこっと、周りには出さないけど、いろいろ思い出した。」少間が空いた。文字通り空いた。
「彼女は、デキ婚で、不必要に、いろんな事をならすみたいにこの世に落とされた。
.........その親達は、もちろん.....もちろんは適切じゃないかもだけど、ろくでもない人だった。」彼女は、言葉を先に選ぶようにして、続ける。
「母は......意味の判らないホストクラブに、使わないことを勿体がるみたいにお金をつぎ込んだ。安い仕立て屋で働いてたって言うのに、体重をお金を排出して減らすみたいにして、尋常じゃなかった。そして、大抵、滝を浴びたみたいに泥酔して帰ってきた。......帰って来たときはいつもそうだった。っていう方が真理かな。路上で寝たり。電信柱と喧嘩してきたり。真冬にスズキ抱いて凍死しかけたりで、警察が、何度も呆れたように送ってきたりした。そういうとき決まって、何故かその子を、非難がましい、蜘蛛みたいな目で見たの。......それもそうよね、彼等の中にほんとうの正義感なんて無いんだもん、国からお金もらって、本質はあんまり変わんないような人達いたぶってるんだから。」外は、眠そうに家に帰る車の音、馬鹿な酔っぱらいサラリーマンの声なんかが聞こえる。
「父親だって酷いもんだった。畜生よ、その子が凄く小さかった頃から、ストレスの捌け口にしてた。怒った顔とか、頭を掻く動きとか、似てるところは結構あったけど、その子を子供としてなんて全く思ってなかった。安い賃金で工事現場で働かされて、それの不満やらストレスやらを娘に当たって、残りはバイクをぶっ飛ばして解消してた。もともと、学生の時から、悪さばっかりで、退学したこともあった。そんなんで、ろくな仕事にもつけないで、いつまでもたっても完成されない洗濯機みたいだったんだ。」
少し力を込めたような口調は、違和感を感じさせた。
「......その子は、いたって普通の小学校、中学校、高校と進んだ。特に目立つような事はなかったから、いじめとか、そういうトラブルに巻き込まれたりはしなかった。 その代わり、誰一人として、親しい友達なんてできなかった。
そうして、毎日を、空虚な穴埋めとして消費してたの。部活にも入らずに、ほどよく及第点と赤点を取って、たまに良い点数を出して。誰も彼女を覚えないし、彼女もそれを望まないかった。ただ、少しの現実逃避にして、先なんて何にも見えてなかった。いや、見てなかった。」
沈黙が流れる。遅く長い、スクランブル交差点で20分の無人状態が起きたんじゃないかと思う位。
彼女は、その夜はもう、口を開かなかった。
眠れない夜という物は、僕に結構訪れる。僕はそれに、いささか参っているのだが、おせっかいで面倒くさい大家さんみたいに、それはやってくる。何かを考えてしまうこともあれば、理屈無しに眠れない事もある。時には、体から切り離された僕が、起きていて、眠れないということもある。
そんなとき、僕はいろんな事を押し殺して、ひたすら眠りが見かねて包んでくれるのを待つか、ウイスキーを飲むかして眠ろうとした。 それでも眠れない時か、気が向いた時は、何かをして、時間を消費するようにしている。
その日も、眠れないよるがやって来た。彼女は隣で整ったジーンズのチャックみたいに、寝息を立て、眠りに沈んでいる。 そんな彼女の横から滑りでて、僕は起きる。
キッチンで、きつめのギムレットを少し作り、何をしようかと考える。
そして、ラジオが、目に入る。比較的新しい物だ。音質があまり良いとは言えないが、チャンネル数は多かった。ラジオは眠れない夜の定番かと思い、適当にノブを回して、聞くことにした。
サプリメントと、頭痛生理痛の薬と、車保険のコマーシャルがなって、ちょうど番組が始まるところだった。
『眠れないティーンズと、コアな音楽ファンの為の、ラジオ番組、「bitter sweet symphony」今夜も始まります。』妙にカッコつけたみたいな、高学歴英語教師みたいなしゃべり方だ。
『この番組では、悩める青少年達の意見に、個人的なアドバイスと、素敵な音楽でお返しする、甘くて苦い、そんな番組です。今年のクリスマスは何処に行こうかなぁ......とか、私個人の世間話もしていきたいのですが、お便りが届いておりますので、さっそく答えていきたいと思います。
埼玉県にお住まいの、ラジオネーム「非常ハシゴ」さん、21才。良い年齢ですね。大人になりきれず。ティーンの匂いが抜けきった...... そんな年齢ですね。どれそれ...
「先日、彼女と喧嘩をしました。
というのも、彼女の方は、成績優秀せ、スポーツも万能で、おまけにモデルをやっていると言うハイスペック彼女です。「何が不満なの?」 と、言われてしまいそうですが、そこなのです。僕の方は何も持っていなくて、凄くギャップを感じてしまいます。でも、いくら考えても、やっぱりその人が好きなのです。どうしたら良いでしょうか?」
だそうです、なるほどぉ...
非常ハシゴさんは、多分...気づいていないだけなんです。こぅ...... 外面的に気づきにくい自身の魅力に、そういうところを探して、胸を張れる自分になって、もう一度彼女さんと向き合って見るのが一番だと、思います。最後は二人の問題です、じっくり話し合って見てください。』
間を作って、うまく言ってるみたいだけど、誰でも言えるような、うんざりした返答だ。声に出して大きくため息をつく。
『それでは、そんな「非常ハシゴ」さんからのリクエスト、oasisで、「Don't look back in anger」
心の奥に視線を滑り込ませれば、
もっと良い遊び場が見つかるってわかってるだろう?
でも、一度だって見てきた物が長続きしたことは無い。
革命はベッドの上から始めるんだ。
お前は笑うけど。
いっそ夏の草原に飛び出して、
暖炉のそばから立ち上がり
そんなんじゃ、僕のハートはなんともない。
そう、サリ―は待ってくれる。
隣を歩くには遅すぎるって知ってるから。
彼女の心は離れていく、でも、それを怒りに転嫁しちゃいけない。君は言った。
oasisで、「Don't look back in anger」でした。』
ブチッ.................. OFF
翌日、昼前に目が覚める。時間的には大したことな
の無い時間なのだが、どうも頭が三日間煮込んだみたいに重い。やれやれ。そう思ってベッドから転げ落ち、布団を押しやって、あくびと寒さに見舞われながらおきる。
彼女は床に新聞を置いて見ている。4ヶ月も前の物だ、それを、じっ、それでいて関心がなさそうな、気だるげな目で。部屋には、ドラムがうるさくないと思う位の大きさで、『Gorillaz』がかかっている。これでもかと言うくらい、ラップが絡む。
やれやれ 靴磨き。
その日、僕は車をレンタルした。最近はあまりに暇だったし、取った免許を使わないと言うのも少し癪に感じたからだ。
「どこに行くの?」
「海。」
「真冬の?」
「そう。」
「寒いよ。」
「もちろん。」
「まさか私も?」
「もちろん。」
と言う経路で、海に行く。
「飴ちゃんいる?」そう言って、ミルクの飴を差し出す。彼女は受け取って、舐める、時計に目をやる、午後5時21分。これだと帰るのはいつになるのかな、と考える。トースト色に暗がり、平等に誰もを追いかける空。コンビニで買ってきたコーヒーを少し飲む。 コンビニコーヒーは、良いクオリティだ。特にローソンの物は素晴らしい。
彼女は、若干不機嫌そうではあったものの、久しぶりに足を伸ばせることを、別に悪くは思っていないだろう。僕は、のんびりした運転だが、決して下手ではない。最後に運転をしたのはいつだっただろう。故郷で、青い小さな車で、今と同じように女の子を乗せていた気がする。スピッツの『青い車』を流し、若さのいきがりで、初陣の馬みたいにスピードを出していたきがする。今は、随分落ち着いた。大人になったと言うよりは、押し入れに全部押し込んでしまったのだろうけど、忘れた物も、置いてきた物も、多分少なくは無いだろうけど。 カーステレオからは、The stone rosees の『I wanna be adored』
良い曲だ。
それで海に着いた僕達は、青く暗い、車のでセックスをした。むさぼるように、激しく。
彼女は、僕の背中に爪をたて、周りを気にせず大きく喘いだ。
結局僕達は4回セックスをした。
終わった後は、二人、長い間何も言わず。日が出てくると煙草を吸った。
次の日、彼女は、ありったけの煙草と、タスポと、衣服。それから現金4万円ほどを持っていなくなった。
彼女は何処へ行くのだろう。空は割れんばかりに、地上を呼んでいる。
スピーディーと言うか、焦りすぎと言うか、そんな文だった。
失望に似た感じと、披露で、なんだか空っぽです。
まぁ、皆さんに伝わろうが、伝わるまいが、少しでも、皆さんの靴が綺麗で、この作品を楽しんで頂けたらいいです。