※この作品はR-18です。

Day Walker   作:美砂

104 / 105
トラブル

「凛、あのさ、話がある。」

「何?改まって?」

 

天馬も少し驚いてる。蓮から話。

 

「半年くらい前にさ、株主総会あってその時、知人にあって飲み会行ったんだよ。覚えてる?」

「う〜ん、あんまり覚えてないかなぁ。なんでそんな前の話?」

「久しぶりにさ、酒沢山飲んでね、凛に面影が似てる女の子に、その、あれだ。」

「手を出したんだ?」

天馬が言った。

「また、浮気?ちゃんと清算してこいよ、もう。」

多少、傷ついたけど、酒の場だし仕方ないと思った。

「・・・その女の子が、その妊娠したって連絡が先月あった。」

「ハァ?妊娠?」

声が裏返った。生殖能力は、無いはずなのに。

「今月、胎児から羊水取って血液型、確認したらどうやらその、俺の子らしい。DNA検査は生後じゃないと正確に分からないって。」

 

心が、スーッと冷たくなるのが分かった。

「もう6ヶ月なら中絶無理じゃん、何やってんの?パパ?」

「蓮、どうするの?」

「示談交渉しようかと。」

 

「馬鹿じゃない?その女の子、1人で出産と育児?金で解決?・・・荷物まとめて、彼女のトコに行ってくれる?」

「凛?どうして?俺は凛だけ・・」

「じゃ無かったってことじゃん。こっちは、天馬の育児終わったし、蓮が居なくても平気。」

「でもっ!」

「彼女は1人?だったら、支えてやんなよ。赤ん坊に罪はないよ。責任はちゃんと背負って来い。」

蓮が、俺に触れようとした。

「さ、触るな!俺に触るな。蓮の無責任さにもう辟易したよ、許してやる方法は1つ。」

「な、何?何でもやる。」

「荷物、まとめて出て行ってくれ。」

 

蓮は、哀しそうな顔をしながら、離れた。

まただ。また、お別れだ。今回は、どうしようもない。子供が生まれる。逃げようがない。

 

翌日には、元々私物が少ない蓮は出て行った。

一言も交わさず。30年。離れたり、くっ付いたりしたけど、これはもう戻って来ないだろう。

「凛、本当にこれでいいの?」

天馬が心配気に声を掛けてきた。

「仕方ないよ。育児に1人は大変だもの。テンもデカくなったし、しょうがないんだよ。」

 

また、独りぼっちになった。好きとか嫌いとかそんな感情は、持ち出せなかった。赤ちゃんが生まれるんだ。父親は必要だもの。身を引く以外に選択肢は無い。蓮が残していったプリンターで、携帯に入ってる蓮の画像をプリントアウトして、写真立てに。もう2回目だな。今度は、長い付き合いになりそうだね。写真立てに話しかける。置いて行った指輪と自分の指輪を外してケースに入れた。

(終わりって、いつも呆気ないよね。)

涙は出なかった。

 

華の耳にも入ったが、何も言わなかった。

 

毎日、虚ろな日が続く。俺は少しずつ、壊れ始めた。

 

「美容室、行ってくる。買い物もしてくるから、遅くなるから。テン、隆のトコに行ってて?」

「うん、分かった。」

 

美容室で、髪の毛をストレートにした。女性の髪型にした。女顔だから、違和感ない。

帰りには服を沢山買った。ワンピースや、スカート、靴に下着。

 

家に帰って、翌日から女の格好で生活し始めた。

「凛、どうしたの?」

不安気に天馬が尋ねる。

「この方が違和感ないだろ?外にもあんまり出ないし。・・・パパは女性が好きなんだよ、だから帰ってきてくれたら、女になってなきゃまた、出て行っちゃう。」

「凛・・・。」

自分で、追い出したのに帰って来てくれるのを待つなんて、矛盾も理解出来ない。

 

蓮の携帯にも電話するけど、出てくれない。

(元気かな。彼女と上手くいってるんだろうか?上手くいってるから電話でないのか。)

 

数ヶ月したら、やはり1人だと痩せてしまった。

 

朝、目が覚めた。けど辺りは真っ暗。何でだろ?手探りでスマホ見つけて触るが、灯が見えない。

何とか音声機能使って、天馬を呼ぶ。

「凛!どうしたの?何があったの!」

「ごめん、どうやら目が見えなくなったみたい。どうしようかな。」

「どうしようかなって、病院!」

 

 

「ストレス性の視覚障害ですね。様子見るしか。」

天馬と華が福祉に取り合って、杖を持ってきた。

「ありがと。これがあれば何とか生活できるよ。テン、隆のトコに帰っていいよ、華も。」

「身の回りどうすんのよ。」

「大体、覚えてるし、風呂は音声機能あるし、料理も宅配にして貰うよ。だから、大丈夫。」

 

何とか2人を帰らせた。

折角の写真、見れないな。楽しみは気に入った音楽を鬼リピート。

(蓮の声、聴きたいなぁ。)

でも、そろそろ赤ちゃん生まれる時期だ。騒がせたら邪魔だな。

 

洋楽のハローって曲、英語苦手だけど、俺の気持ちと重なってずっと聴いてたら覚えた。

 

 

 

 

もう数年経ったけど、相変わらず俺の世界は真っ暗。何も見えない。

身支度も簡単な料理も出来るようになった。

まぁ外には出ないけど。あぁ、数ヶ月に一回、美容室に行く。ストレートにして貰って綺麗にしとく。見えなくても、見えなくても蓮に会った時、綺麗で居たいから。

 

風呂上がりに、テンが時々様子見にくる。

「綺麗だね、凛。」

「ありがと。髪の毛おかしくない?」

「うん、大丈夫。綺麗。」

テンの顔も見れないな。寂しいかも。

 

 

朝起きて、音楽流してソファーに座って時間が過ぎるのをただ待つ。手には写真立て持って。(多分。見えないから分からない)

 

インターフォンがなる。壁伝いに出る。

「どちら様ですか?」

『俺だよ、蓮。』

 

驚いたけど、追い返す訳には行かない。だって会いたかった。ずっと。多分、女性の元へ帰るんだろうけど。

 

「いらっしゃい。」

蓮を迎え入れる。

「何で、部屋真っ暗なんだ?」

「今の俺に灯要らないから。」

「え?」

「えへ、見えなくなっちゃった。突然ね。もう数年前だから慣れたよ。」

「な、何も見えないの?」

「うん、何も見えない。でも生活はちゃんとしてるよ?大丈夫。」

パチっと灯を付ける音。

「その姿は?どうして女性の格好、髪型まで?」

「こっちの方が違和感ないでしょ?まだ見えてる時からやってたからおかしくない筈なんだけどな。」

笑ってみせる。ちゃんと笑えてるかな?

「今日は、話があってきた。」

「うん、ちょっと待って。コーヒー淹れるから。」

手探りで、豆とミルを準備する。

「だ、大丈夫、コーヒー、要らないから。」

「少し時間かかるけど、コーヒー位飲んで帰って?滅多に人に合わないから嬉しいんだ。」

ガリガリと豆を挽く。お湯を溢しながら、何とかコーヒー作った。

「どうぞ。飲めるかなぁ?」

「大丈夫、前と変わってないよ。」

「お、美味しい?」

「美味しいよ、甘い。良い豆だね。」

蓮の顔、見たいけど声がする方を何となく見つめる事しか出来ない。

「あのさ、子供生まれたんだよ。もう3歳になる。」

「そう、可愛い盛りだね。」

「・・・可愛いんだけどね、俺にちっとも似てない。彼女には悪いけど、子供連れてDNA検査、3回したよ。」

「 ・・・・。」

「3回とも、親子関係無しだと。」

「え?蓮の子じゃないの?」

「あぁ。だから彼女を追求したら、子供の為に俺を父親にしたかったってさ。俺の人生滅茶苦茶にしておきながら、被害者ヅラして。」

「・・だけど、子供に罪はないよ。」

「分かってるよ。でも、最初から怪しかったから、婚姻届も出す振りして出してない。」

「・・・結婚してないの?」

「あぁ、してない。しなくて良かった。騙されたんだ。今も喧嘩してきた。」

「・・ちゃんと仲直りして?例え血が繋がってなくても、子供は、蓮がパパだと分かる年頃だろ?」

「俺は彼女と別れるつもりだ。父親もちゃんと分かってるし、彼女の気持ちも俺じゃなく、その父親、彼氏にしか向いてない。」

「そうか。じゃ、蓮は、フリーになるんだね。自由だ。」

「戻りたい。ここに。ダメ?」

「・・・もう、何回、同じ事繰り返した?俺達は、同じ道じゃないんだよ。過去から、学ばないとね。」

「俺の事、もう好きじゃない?愛してない?」

「もう、遠い存在かなぁ。蓮の足を引っ張る役目じゃん、いつも俺。」

「そんな事ない!足引っ張ってないよ!」

「今だって、見えないんだよ?現実見なきゃ。・・・たまに、コーヒー飲みに来て?それなら、お互い迷惑にならないだろ?」

「俺が来たら迷惑なのかよ。分かったよ。もう、来ないよ。」

立ち上がる音。違う、違うのに。だけど、呼び止める勇気出なかった。せめて、見送ろうと、慌てて立ち上がって、盛大に転んだ。

「イテテッ、れ、蓮?まだ、居る?今日、来てくれてありがと!ま、またいつか、来てね、嬉しかったよ!」

別れて始めて涙が出た。またいつか、いつか来てくれたら、来てくれる希望だけで暗闇でも生きていける。

「いつかって何だよ、ずっと一緒に居たら駄目なのかよ。凛。」

すぐ耳元に蓮の声。

「蓮は自由になったんだよ。だから、縛り付けたくない。いつか、また、コーヒー飲みに来て?そしたら、俺頑張って生きていけるから。」

「分かったよ、コーヒー飲みに来るよ。」

「うん、ありがと。」

手を伸ばすけど、蓮に触れられない。もどかしい。

「俺はここ。ほら。」

顔、触れた。優しい笑顔が浮かぶ。

「濡れてる。泣いてるの?蓮、泣かないで?また、遊びに来て?友達に戻るだけだよ、ね、泣かないで?」

 

「じゃ、また来るね。」

「うん、またね。」

 

嬉しい。蓮に逢えた。泣きながら笑う。暗闇の中だけど、顔にも触れた。

 

久しぶりに熟睡出来た夜だった。

 

 

数日後、気分が良くて一人で、マンション横の公園にでた。寒いから人の気配はしない。スマホから、音楽流して、ハローを歌ってみた。

 

今までの事、本当にごめんね。

ただ言いたいだけなの。

 

もしもし 聞こえるかしら

精一杯貴方の事呼んでるの

 

貴方を傷つけた事 ごめんね。

 

もしもし

貴方に電話にでてほしいの。

今までの事謝りたいだけなの。

 

だけどもう大丈夫よ

貴方を傷つける事さえ出来ないんだから

永遠に

 

下手くそな英語で、呟くように歌った。

 

蓮に届くといいな。

 

しばらく冬の日向ぼっこして、部屋に戻る。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。