※この作品はR-18です。

ルドラサウム転生異聞録   作:てんぞー

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60年

 ―――AV歴60年。

 

 トロン建国から丁度1年が経過した。ちゃんと身嗜みを整えて、鱗を磨いて、角を磨いて、爪のケアを行って、それでみんなの前に出ても恥ずかしくない姿をしているのを確認した。そうやって自分の姿が恥ずかしくないのを確認してから―――建国から丁度1年が経過した日、

 

 再び、翔竜山に戻ってきた。

 

 翔竜山の中腹にある、広大な決闘用の広場―――マギーホアが挑戦者を迎え撃つ為の場所に一人で降り立ちながら、四足で身を立たせた。無論、誰にもこの訪問の事は話していない。だから誰もいない。それは当然の事だ。故にここに降り立ち、記念すべき1年目の日に、

 

 空へと向かって全力の咆哮を放った。空間を、空を震動させる咆哮に大気が目に見える形で震え上がり、そして大地が僅かに崩れた。本気のドラゴンクライだった。おそらくは生まれて初めての、本気で狂気を全て捨て去った上での咆哮だった。そしてそれは同時に挑発だった。ドラゴンにしかわからない、挑発の咆哮でもあった。

 

 こないなら勝手にチャンピオンを名乗らせて貰うぞ、と。そういう挑発だ。

 

 それに惹かれる様にドラゴン達が集まり出す。

 

「おい、あれウル・カラーだぞ」

 

「カラーの癖に戦争で暴れたって……」

 

「少し前までは気狂いなだけだったんだがな……」

 

「俺は嫌いじゃないぞ、アイツ」

 

「戻ってきたのかアイツ……」

 

 ドラゴン達が決闘場の付近をホバーする様に囲み、声を零す。その内何割かは尻尾を股の間に挟んでチンコを隠しているのが解る。お前ら、そんなに俺の事が恐ろしいのか……? まぁ、結構な有名人になってしまったなぁ、とは思わなくもない。まぁ、それでも後世にまで生きる、キャンテルやノス、ハンティの記憶に少し頭のおかしなドラゴンとして残るだけだ。それ以上は何も残らない。残らなくても良い。ただ、ハイパー兵器は祭壇を作って飾ってきた。奴は是非とも後世に残すべきだと思って。何時か、第三世代プレイヤーが祭壇を発見した時、余りにも神々しいハイパー兵器が祭られているのを見て、発狂するだろう。その光景を見られない事だけが心残りだ。

 

 ……いや、ここでマギーホアを殺す事が出来れば、ドラゴンは存続できる。心配する必要もないだろう。100パーセント無理だろうとは思っているが。

 

 そう思っていると、ルビー色の影が空から降りて来るのが見えた。威風堂々と、隠れる訳でもなく、王者の風格を漂わせるルビードラゴンのマギーホアがゆっくりと翼を広げながら降下し、そして正面に降り立った。

 

 その体は大きい。ドラゴンの王を務めるだけあって、全ドラゴン最強の存在である。赤い肉体は美しく、そして此方の体躯の倍近い差がある。その上でククルククルとの戦いを数千年間務め、《ドラゴンLv3》という技能、経験、その上でドラゴンの王であるという自覚によって成り立つその強靭な精神はまさに王の中の王という言葉に相応しい。色々と準備してきたものの、うん、と心の中で頷く。

 

 勝てねーわこれ。

 

 それでも全力を尽くすが。

 

 降り立ったマギーホアは問題児を見る様な視線を此方へと向けて来た。しかしそこにはどこか、楽しそうな物が見える。

 

「また貴様かウル・カラー。相変わらず貴様は出て来る度に問題と笑いを巻き起こしてくれるな」

 

 実際、マギーホアは楽しそうに苦笑していた。トロンが建国され、この大陸は統一されて平和になった。もはや娯楽や鍛錬以外でドラゴンが争う必要はなくなった中、ちょっとしたトラブルは娯楽の元なのだろう。マギーホアは挑まれながらも、楽しそうにしていた。余裕のある王様、実に素敵だ。だがそれがドラゴンを破滅させる。

 

「いやぁ、お久しぶりですマギーホア様。実はここ1年、国の外で修行していまして、その成果にマギーホア様を超えていこうかと思いましてね?」

 

「くっくっくっく、相変わらず突飛な発想を出してくれる娘だ。で、今回はどういう理由なのだ?」

 

「無論チンコです」

 

「やっぱりか」

 

 うん、と頷くと、浮かんでいるドラゴン達も腕を組み、まぁ、そうだよなぁ、と納得しながら頷く。お前らほんとなんで納得しているの? ともあれ、狂気を井戸から引っ張り上げて、自分の脳味噌にどばどばとぶちまけて行く。

 

「いいですか、マギーホア様。俺はよく考えました」

 

「聞こう」

 

「神様に謁見してハイパー兵器を得るというたくらみ、まさか神々から面会拒否をされたうえで別売りチンコを渡されるとは思いませんでした。そこから方向性をシフトし、魔法研究によって生やしたり性転換を狙いましたが、これでも大体失敗しました」

 

「アナル趣味に目覚めてしまった多数の同胞と共にな」

 

 まことに申し訳ない―――とは特に思っていない。刹那的な竜生なのだから、楽しめる物は楽しんでいた方が良いと思う。それはそれとして、まるで自分の体に興奮出来ないので生まれてからこの方自分は一度も発情もしたことがない、清い体をキープしちゃっているのだが。

 

 ともあれ、

 

「という事でアプローチを変える事にしました」

 

 人差し指をぴきーん、と持ち上げながらジェスチャーすれば、マギーホアがそれは、と聞いてくる。

 

「つまり俺が雄である必要にするのです」

 

「雄である必要……ん? ん?」

 

「そう、俺がマギーホア様を打ち破ってキング・ドラゴンになれば俺が王冠をゲット、繁殖の義務が生まれる! 即ち繁殖できる体にシステムが適応しようとして俺は雄になるか生やせるという事だ……!」

 

「貴様は、一体、何を、言ってるんだ……?」

 

 マギーホアが心の底から理解できない者を見る様な視線で完全にフリーズしていた。そして周りのドラゴン達もフリーズしつつ、大爆笑していた。中には応援してくれる奴もいた。大陸が統一された事で心が豊かになったドラゴン達が笑ったり、眺めるだけの余裕が出てきている。悪い事ではないのだ、それ自体は。

 

 そしてフリーズしていたマギーホアが首を傾げた。

 

「いや……まぁ、うん……正気か……?」

 

「正気ですよ! 俺は! マギーホア様に勝って! ハイパー兵器を! 手に入れるのだ! マギーホア様、貴方には何の罪もない。だが悪いのは貴方のチンコだっ!」

 

「キメ台詞みたいな言われ方をしてもとても困る……」

 

 マジかこいつ、みたいな表情をマギーホアに向けられるも、全身から竜のオーラと魔力を放ちながら殺気立てば、此方が本気である事をマギーホアが察す。その反応に周囲が更に空間を空ける様に離れ、そしてマギーホアの表情が変わった。

 

「……良いだろう。王として決闘を望む者に背を向ける事は許されない。たとえどのような相手であろうと、どのような状況であろうと、それを正面から迎え撃つのがこのマギーホアの王道である!」

 

 ルビードラゴンの咆哮が轟く。自分が放ったものなんかよりも遥か遠くの空へと響く、最強竜の咆哮だ。心臓を止めるかと思われる程の咆哮を堪えながら、真っ直ぐと、戦意を纏ったマギーホアを正面から見据えた。その覇気を受け、観戦に回るドラゴン達が吠える。歓迎する様に、興奮する様に、正々堂々としてドラゴン同士の決闘に燃え上がる様に興奮の声を空に響かせ、決闘場から離れていく。

 

 自分たちが巻き込まれないように。

 

 高まるマギーホアの気配に合わせ、負けじと此方も全力で力を放つ。思考を極限までクリアに保つ為に、才能というシステムを全力で運用する為に一時的に狂気を遮断し、正気とクリアな思考でマギーホアを捉える。放つ力を全て圧縮させて自分の肉体から漏れないように滾らせつつ、マギーホアを見た。一滴も力を零さないように体の内側に抑え込み、

 

「先手は譲ろう」

 

 マギーホアの言葉に迷う事無く左腕を決闘場の大地へと叩きつけた。圧縮された竜の力、魔法、それを才能と理論で結合させ、圧縮させながらその反動で解き放つ。大地を一瞬で亀裂が走り、その中を光が生まれる。先手、それを譲ったマギーホアが言葉の通り、その発動を見てから回避する為に飛び立とうとするが、

 

 その翼は広がった直後に体諸共、大地に叩きつけられた。

 

「これは―――」

 

「《ファルミナス・レイ》」

 

 圧縮、拘束、引力、つまりは()()だ。光と重力のドラゴン。名前は知らないし、興味はない。だがその属性を最大限まで引き出せ、そして象徴するのが自分というドラゴンだった。故にそれを最大限まで発揮できる地上という環境でマギーホアを呼び寄せ、立たせ、そして絶対に回避できない先手を貰った。

 

 大地の亀裂から走る《ドラゴンLv2》と《魔法Lv2》の複合必殺技は、光の斬撃を極限まで重力で圧縮したものを亀裂から放ち続け、それを圧縮し続け、亀裂の上にある存在を刻み続けながら最後に圧縮の全てを解き放つことで解体、粉砕破壊する為の完全抹殺を目的とした必殺技だった。制御を間違えれば圧縮時点で自分が内部から破裂するという必殺技でもあるが、その理論構築を手伝ったのはハンティ(Lv3)である為、不安はない。

 

 先手必殺。

 

 確実に殺す為の必殺技をマギーホアを大地に縫い付けつつ放った。亀裂の上に倒れ込むマギーホアの体を光の斬撃が切り裂き、傷口を焼きながら圧縮し、歪めて細胞を崩していく。かかればその瞬間にはデッドエンドという必殺技、必要なのは相手を確実にハメられる状況と、破壊していい足場と、そして力を練る為の時間。

 

「チンコを寄こせ! マギーホア!!」

 

「その言葉を最後に死ぬ事は出来んな……!」

 

 咆哮を放ちながらマギーホアが体を無理やり立ち上がらせた。まだ必殺技は継続している。既に五秒以上光の中に飲み込んでいる。並みのドラゴンであればこれで即死させる事も出来るだろう。

 

 ただ単純にマギーホアが並み程度ではない、というだけの現実だった。

 

 大地を粉砕する様に四肢に力を籠め、マギーホアが咆哮を放つ。天へと向かって放つブレスをそのまま、振り下ろす様に此方へと目掛けて落としてくる。体を動かせば必殺技が解除される。その瞬間、勝機が消える。

 

 故に上から落とされる様に放たれるブレスを、回避する事無く受けた。

 

「―――姉さん!」

 

 君はこんなところに来なくても良かったのになぁ、と全身をルビードラゴンのブレスに焼かれながら、そのまま、歯を食いしばって耐える。全身を熱とマグマが焼いていき、頑張って磨き上げた鱗がくすんでいく。あぁ、酷い。でも、まぁ、綺麗な姿を覚えられたのならいいかな、と思いつつ、自分の中にあるすべての力を解き放つように、

 

 全てを必殺技に注ぎ込んだ。

 

 決闘場がその圧力に耐えかねて、粉砕され、崩壊する。それに合わさって集められた光が重力によって圧縮される、その限界を超えて破裂しそうになる。だがその前に、一つだけ、放出点を与える。《ファルミナス・レイ》の限界爆破がマギーホアの方へと向けられ、

 

 ルビードラゴンの姿を飲み込んだ。

 

 その背後の山肌を綺麗に消し飛ばし、背後に穴を開け、貫通しながらその向こう側に広がる青空を晒した。地平線の果てまで吐き出された全てのエネルギーは、翔竜山を抜けても尽きず、そのまま世界の果てへと飲まれて消えていく。マギーホアを倒す為に溜め込んだ力、秘策、

 

 その力の全てを吐き出した。

 

 そして、

 

「―――実に、素晴らしい力だ」

 

 焼け焦げながらも、致命傷には届かない傷だけを見せたマギーホアの姿が粉砕された足場の中から現れた。全ての力を吐き出した此方はブレスによって削られた分もあり、そのまま崩壊した足場に倒れ込む。ダメだった。勝てなかった。やっぱり王様には勝てなかった。ごめんなさい、本当にごめんなさい。

 

 知っていたのに、ドラゴンの運命を変える事が出来ませんでした。

 

「驚いた。純粋に。侮っていた訳ではない。だが純粋なドラゴンの力だけではない。それと別種の力を組み合わせることで、本来は成し遂げられない様な強大な力を発揮する事が出来た。驚愕と共に、その探求に敬意を抱こう、ウル・カラー」

 

 マギーホアが大地を歩きながら近づいてくる。偉大なる王様、マギーホア。完璧なほどに強く、そして賢い。だからこそ魔王に勝利し、大陸を統一出来てしまった。凄い王様、マギーホア。愚かな王様、マギーホア……。

 

「あーあ……負けちゃった……」

 

「嘆くな、ウル・カラー。その力は目を見張るものがあった。このマギーホア、その力に本当に、驚かされた」

 

 そう言ってマギーホアは近づいてくる。あぁ、駄目だ。ドラゴンに騒乱を巻き起こす事が出来なかった。これで確定だ。もう見える。もう聞こえる。破滅の鐘の音が鳴り響くのが聞こえている。あぁ、出したぞ、神々が。ドラゴンを始末しろ、という言葉を。来るぞ。

 

「ウル・カラー。此度の決闘、理由は聊か……うむ、なんというか……不純? いや、違うな……表現する言葉が見つからないな……」

 

「マギーホア様、たぶんそれ頭が悪いって表現します」

 

「あぁ、うん、成程。確かにそうだ。その表現は覚えておこう」

 

 ドラゴン達が浮かんだまま、健闘を称え合っている。良く戦った、カラーの癖に凄かったぞ、と。マギーホアを良くあそこまで追い詰めた、と。誰も何も見えていない。未来を見据えているようで全員盲目だ。

 

 思わず、

 

「は、はは」

 

「ふ……ウル・カラーよ」

 

 マギーホアが手を差し伸べて来る。

 

「友になってくれないか? 貴様の様な面白い友人が傍に居ればきっと、この先統治も退屈しなさそうだ。その狂気を晴らし、共にトロンを繁栄させよう」

 

 笑いを堪え切れなかった。

 

はーっはっはっはっは! ひーっひっひっひっひ! ひゃはっはっは、ははは、あーはっはっはっは! は、ははは……はは、はは……友達、だって。一緒に国を繁栄させようだって。あー、駄目だ、面白すぎる。ふ、ひひひ、ひひひ……」

 

 笑い声をこらえきれない、倒れたまま、何とか仰向けに転がりながら、腹を押さえ、笑い声を零す。最初は提案を良い意味で笑っているのかとマギーホアが笑みを浮かべたが、次第にその表情は変わっていく。

 

 どういう意味で此方が笑っているのか、それを察したのだろう。

 

「……ウル・カラー」

 

 笑っているのではない。

 

 嗤っているのだ。

 

 嗤いながらマギーホアを倒れたまま、見上げる。あぁ、これでドラゴンは終わりだ。俺も終わりだ。破滅が来るぞ、今に来るぞ。ほら、見えてきた。遠い空に【第三世代型メインプレイヤー】の姿をしたエンジェルナイトの姿が。一人一人が魔人の力を持つ戦士たちが、神に創造された粛清部隊が、意思のない人形の兵士がやってきた。

 

「あぁ、何て愛らしく愚かなんだマギーホア」

 

「ウル、カラー……?」

 

「賢く、強く、格好良く、そして実に優秀だ。きっと王の中の王とはお前の様な存在の事を言うのだろう。お前程優秀で、そして理想的な統治をする存在も見た事がないよ。あぁ、だからこそなんてざまだ。ざまぁないなぁ、マギーホア。お前が―――」

 

「なぁ、なんだアレ?」

 

「新しいモンスターか?」

 

「おい、来るぞ!」

 

「敵か!?」

 

 エンジェルナイトが迫ってくる。武器を手に殺しにやってくる。気の早いドラゴンは真っ直ぐ先に殺しに行こうとして、首を胴体を斬り飛ばされて一瞬で絶命して。それに怒ったドラゴンは数十頭突撃し、全員虐殺される。いや、一頭生き残った。優秀なドラゴンの戦士だった。エンジェルナイトを3人も殺して、その後で全身をバラバラにされて死んだ。

 

 その光景をマギーホアが見てしまった。

 

「―――お前があまりにも優秀だから、世界が終わってしまったじゃないか」

 

「―――」

 

 マギーホアが言葉を失い、動きを止めた。しかし、直ぐに振り返り、見下ろした。

 

「どういう事だ……どういうことだ!!」

 

 その焦り具合を見て、笑い声を零す。焦燥しているマギーホアの表情を見ているとスカッとする。これが八つ当たりだというのは解っているが、この事実を一人だけで抱えて死にたくはない。誰か、一緒に地獄に落ちる奴が欲しい。

 

 だったらやっぱり、引き金が知るべきだよなあ?

 

「解らないのかマギーホア? なんで! 神々はドラゴンをククルククルにぶつけた! なぜ! 態々火種が残る様な魔王継承システムがあるのか! 考えた事はないのか、マギーホア? 態々悪意を凝縮した様な魔王という存在。そして生まれてから与えられたククルククルを殺せという意識、何故神が植え付けたと思っているんだ?」

 

「……あ、いや、まさ―――いや、ちが―――」

 

 嗤いながら、告げる。

 

「教えてあげよう、マギーホア」

 

 左腕を伸ばし、マギーホアの首を掴んで、その耳元に囁く。

 

「神様は最初から苦しみと絶望しか求めてないのさ」

 

「いや、違う! 私は! 純粋に!」

 

 言葉を囁く。

 

「絶望と苦しみしか求めてないのに、世界を統一したらどうなる?」

 

「やめろ、それ以上喋るな、ウル・カラー! それ以上の言葉を―――」

 

 嫌だね。

 

「おめでとう友よ(マギーホア)、君が世界を統一した事によって俺らは滅ぶ」

 

「グルルルルァァァア―――!!」

 

 怒りのままに咆哮したマギーホアが腕を薙ぎ払った。たったそれだけで左腕が根元から千切れ飛んだ。激痛が脳にダイレクトに叩き込まれるも、両手で顔面を押さえ、剥がれたマギーホアは血涙を流しながら咆哮を響かせ、荒れ狂っていた。あぁ、そうだろう。偉大なる王様マギーホア、責任感がお前は強い。そして賢い。既に知っている事実から、そして俺の性格から、嘘をついてないという事を、事実である事を理解するだろう。

 

 最も賢く、そして気高いドラゴンだから。

 

 壊れるのは簡単だ。

 

「はーははー! これが見えるかルドラサウム! へーい! これがFuck youのサインだぜ? 俺の茶番劇は面白かったかクソ鯨? ははー!」

 

 超楽しかった。最後の最後で誰とも共有できなかった爆弾を完全に破裂させる事が出来て楽しかった。左腕が消し飛んでいるせいで滅茶苦茶痛いのだが、それが気にならないレベルで今、超楽しい。

 

「はぁ、マギーホアに滅びの責任は取らせたし、これで大体満足だな。後はチンコさえあれば話は別―――」

 

 殺されたドラゴンの下半身がすぐ側に落ちて来た。その下半身を掴むと、新しい下半身が落ちてきた。ついでに2個も落ちてきた。死ぬ直前に生存本能刺激されていたのか、どれも勃起している。なのでとりあえずタイトル、《電車ごっこ》というアートオブジェにしておく。その醜悪過ぎる姿を言葉にして表現する必要は恐らくないだろう。

 

「出血大サービスのつもりかなルド君? それにしても俺は別にディルドを頼んだつもりはないんだけど」

 

 ま、サクッと殺してくれることだけを後は祈る。瓦礫の中、翼を広げながら日光浴する様に体を倒し、足を組もうとするけど、ドラゴンの足の長さ的に足が組めない。残念。これでサングラスがあれば完璧なのになぁ、と思いつつ、

 

「ここにいるぞー! 殺しやすい様に翼広げてるぞー! おーい、こっちだぞー」

 

 残った片腕を振って、エンジェルナイトへとアピールしてみる。やる事は全てやったから。後は第三世代に全てを譲って消えるだけだ。果たしてルドラサウムと一つになるとはどういう感じなのだろうか? たぶん死んだらまた転生して魂を流用されるのだろうなぁ、とは思う。あぁ、でも、好き勝手生きて来たから魂が汚染されているかもしれない。その場合、悪魔王に魂を持って行かれるかもしれない。

 

 まぁ、結果として変わらないよな。

 

 じゃ、死ぬか。エンジェルナイトを待ち望み、殺されるのを待って―――しかし、エンジェルナイトは来ない。おかしい、そう思いながら余裕の姿勢から起き上がり、空を見上げ、どんどん殺されて行きながらも戦線を何とか維持しようとするドラゴンとエンジェルナイトを見た。

 

 そしてエンジェルナイトが此方を確認してから去って行くのが見えた。

 

「待て、なんで無視した」

 

 痛みを訴える全身を無視して、翼を広げ、大地を蹴りながら飛び上がった。そして戦闘の最前線へと自分から突っ込んで行く。ドラゴンと殺し合っているエンジェルナイトはそれに合わせ、避ける様に距離を開けていく。

 

 見間違いなんかじゃない。

 

 ()()()()()()()している。

 

 俺だけを。

 

「いやいやいや、あそこまで神に対して暴言を吐いているのに見逃すのか。ないだろ、なぁ、ねぇ……」

 

 接近する。飛翔する。エンジェルナイトを残された腕で掴む。

 

「何故だ! 何故俺を殺さない!!」

 

 その言葉にエンジェルナイトは答えない。ただ無言のまま、此方を見つめるだけだった。此方へと向けられる瞳には感情も殺意もない。

 

 俺を、完全に見逃すつもりだった。

 

 或いは神が、そう命じた。

 

「ふ、ざ、けるなぁ―――!!」

 

 エンジェルナイトの頭を噛み千切った。怒りのまま食い殺し、次のエンジェルナイトを更に噛み千切って殺し、血肉を咀嚼しつつ怒りのまま殺して喰らう。ふざけるな、ふざけるな。死ぬと解っていたからこそ何もかもできたのに。死ぬと解っていたからこそ非道になれたのに。

 

 なのに、こんな土壇場で、

 

「殺せ! 俺を殺してくれ……!」

 

 殺さないってのは、ないだろう―――。

 

 エンジェルナイトを片っ端から殺し、喰らって、飲み込んでも怒りは消えない。それどころか絶望感が心に満ちて行く。自分が、自分がやってしまった行いが、ついに追いついてきた。絶望と共に激痛が体に走り、翼の動きが止まる。息を失いながら落下し、体が翔竜山に堕ちて叩きつけられる。

 

「か、は、ひゅ―――」

 

 そして―――()()()()()()()

 

 ドラゴンが死んで行く中、エンジェルナイトの粛清が進む中、体が、新しい形に、新しい世界の舞台へと適応する為に溶けて、変わっていく。やめろ、その先に行きたくはない。止めてくれ、次のゲームには参加したくない。ここで死なせて、お願いします、殺してください、ここで死なせてください。

 

 祈っても、祈っても、祈りは届かない。

 

 この世界には邪神しか存在しないから。

 

ルドラサウムゥ―――!!!

 

 怒りと恐怖と絶望の嘆きの絶叫が喉の奥から咆哮として飛び出る。体が変化して行く事実に意識が耐えきれず、闇の中へと沈んで行く。

 

 その合間、聞こえたのは、

 

くすくす……いいなあ……あいつ……苦しんで、憎んで、面白いなぁ……

 

 耳に残る、幼い子供の様な声だけだった。その声の主を理解してしまい、脳が理解する事を拒否し、

 

 全てが、

 

 悲鳴と怒号の中で、

 

 闇に包まれた。

 

 そして―――ドラゴンの時代が終わった。




 そしてドラゴンの時代は幕を閉じた。余りにも優秀過ぎたマギーホアによって先導され、大陸統一なんて平和を成し遂げてしまったから。なお決闘ではしっかりと手加減してくれていた。じゃなきゃブレスで死んでるという。

 次回からメインプレイヤーが変わるぞぉ。
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