「休暇は十分に楽しんだか? んじゃ、ガルティアを引き込みに行くぞ」
ケッセルリンク加入からしばらく、調整や休暇でたっぷりとコンディションを整えつつ、再び進軍する事が決定した。その間に襲撃して来る魔人はなく、領地から飛び出してくるような魔人もなかった。唯一の気がかりは魔人永劫の剣が飛び出してくる事だったが、これに関しては微動だにせず足を止めている事が確認されている。恐らく強さではそうでなくても、厄介さに限っては魔人の中でも随一を誇る相手だ。戦闘する場合は殺すのみでしか結果を残す事は出来ないであろう為、動かないでいてくれるのは実に助かっていた。
ともあれ、漸く進撃準備も整った為、いよいよガルティア解放のターンであった。983年現在、魔王に挑戦するのが985年として、そろそろ最終戦力を加えたい所だった。最終戦に向けた調整等があるのも事実だ。その為にも最後の戦闘メンバーである、ガルティアを仲間に加える必要があった。そういう訳で、
「今回も頼んだぜ、スラル。ガンガンメタ張って楽させてくれよ」
「もー、こういう時だけ頼るんだからー」
そう言いながらも、スラルは頼られるのが少し嬉しいようで、微笑を零している。そしてその側にはケッセルリンクの姿もあり、
「私が居る限りはスラル様に傷一つ付かぬように注意している。安心するといい」
「流石にそこまで心配しなくても大丈夫よ? 私だって危なくなったらワープして逃げるし」
「逃げんな」
どことなくふざけている様子のスラルを見て、ケッセルリンクは軽く肩を揺らすも、どことなく楽しそうな気配があるのは解っている。良く考えればケッセルリンクが魔軍以外の所属で何かをするのは、或いはスラルと肩を並べて戦うのはこれが初めてなのかもしれない。基本的に魔王だった頃のスラルは徹底したリスクコントロールで引っ込んでいた。だから前線に出る、という事はしなかった。
……そのことを考えると、確かに、ケッセルリンクとしては守らなくては、と思いながらも肩を並べられるのは嬉しい事なのかもしれない。アイツ今、人生が楽しそうだなぁ、と思える。まぁ、そのスペックは存分に戦闘で振るって貰うとして、ケッセルリンク以外にも今回は味方が増えた。
16歳になった事で才能はあっても死ぬ可能性があったため、参戦出来なかったパンドラの部下の子が参戦してくれた。デスマスクを装着したタキシード姿の少女は《奇術師Lv3》という稀有な技能を保有した子であり、既にパンドラの部下として色々と諜報の為に走り回った事から、戦える十分なスペックを保有している事は判明している。ケッセルリンク共々、正史には存在しなかった新たな仲間の登場である。
ルドぐるみの上に乗って、片足で額を踏む様にしつつ、風に片腕を隠すマントが揺れる。この戦いも後半戦に既に突入している為、自分の服装もそれに合わせて黒を基準とした、闘衣を纏っている。決戦も近い、そろそろ気を引き締めるという意味でも、ある程度整った、戦う為の恰好をする事には意味がある。
「うっし―――じゃあ目的地は魔王城西、ガルティアの所だ。はっ倒して仲間にするぞ」
「うっす! 了解でっす!」
「前回の様に開始早々倒れないように頑張らなくてはな……」
「うむ……」
「おぉぅ、剣士組がやる気満々だな……」
特にライコウとガイはケッセルリンク戦、開幕ダウンを喰らって最後まで役立たずだった為、今回に限っては凄まじいまでの気合を見せている。二人だけでガルティアを一気に押し切りそうな程の気合を見せながらも、それが空回りしなければいいなぁ、と思いつつ、溜息を吐きながら良し、とルドぐるみの上から声を放つ。
「行くぞ、野郎共……魔王城を刺激しない様にな!」
「姉御ぉ……」
うるせぇ、俺だってラスボスが唐突にエンカウントしに来たら怖いんだよばぁーか! と心の中で叫びながらガルティアを迎える為に移動を開始する。
途中、カミーラの領地の様子を見たら意外と快適そうに巣を作って引きこもっているカミーラの姿が発見できた。どうやら戦わなくて済む場合にはそれなりに楽しく過ごしている様であり、此方を見かけると露骨に嫌そうな顔をして戦闘の準備をし始めたため、そのまま去る事にした。ノスが嘆かわしいとばかりの表情を浮かべているのが特徴的だった。カミーラは正史の様に弱体化する事はなくても、それでも闘争本能の大部分は薄れている様に思えた。
その他にも永劫の剣の領域を確認したが―――かなり酷かった。
荒野一面が結晶に包まれており、とてもだが人が踏み入る事の出来る領域にはなってなかった。永劫の剣そのものを確認する事も出来ず、動き出さない限りはノータッチで放置しておくのが一番の様に思える。
そして魔王城。
将来ではリーザス城と呼ばれるその城は―――遠巻きに見ても、凄まじいほどの威圧感を放つ場所であった。昔は大量の魔軍を抱えて維持する為に土地が荒廃していたものの、緑化をジルが進めたのか、緑の大地が魔王領周辺では見かけられる様になっており、木々が育つのも見えていた。その意図は測り切れないも、将来に向けて環境を変えているという事だけは解った。
そこになるべく近づかない様に気を使いつつ、魔王城迂回ルートを取りながらガルティアの領地へと向かう。ここまで来ると、それぞれの魔人は与えられた領地で過ごしやすい様に改良しており、既に数十年は引きこもっている事もあり、
ガルティアの領地も、大きく本来の姿から様変わりしていた。
ガルティアが設置された魔王領の領地、そこへと着いて一番最初に見かけるのは
魔物兵たちが管理する農園や農場、牧場。それによって大量生産される食糧。そして常にどこからか漂う飯の臭い。ガルティアの所だけ、今まで戦っていた魔人の領地とは、まるで違う空気が漂っていた。
「……なんじゃこりゃ」
「えーと……魔人ガルティアの領地……ですよね?」
困惑する声を聴きながら隊を率いて領地の中を進んで行けば、即座に魔物兵に見つかる。しかし敵意はなく、此方を見つけると軽く驚きつつも、
「おぉ、ガルティア様の言っていた人類軍ですね? ガルティア様から来た場合はお迎えしろ、と言われています。今案内しますね」
「おう、任せた」
「では此方へどうぞ」
そう言って先導し始める魔物兵の姿を見て、更にえぇ、という声が背後から漏れてくるもので、笑い声を我慢できない。ケッセルリンクもやれやれ、と溜息を吐きながら小さく声を零している。
「奴も奴で変わっていないようだな」
「魔人ガルティアか」
ケッセルリンクの言葉にガイが頷いた。そしてその言葉に反応し、槍を担ぐエルドが先導する魔物兵に従いながら周りを警戒しつつ、軽く視線は向けても収穫などの作業に没頭する魔物兵たちを見てて、首を傾げながら言葉を作った。
「なぁ、旦那たちよ。魔人ガルティアってのは……こう、どういう奴なんだ?」
「……話、聞いてなかったの?」
「いや、聞いてたけどよ」
テスカの言葉にエルドが反論するが、言葉のニュアンスは伝わっている。そうだな、とガイは声を零し、しかし続けるのはケッセルリンクだ。付き合いで言えば、魔人としてはケッセルリンクが長い。故に簡潔に魔人ガルティアという男を説明した。
「戦士だ」
「え? あ、いや、それは解るんですけど」
「奴は《ムシ使いLv3》技能を持った戦士だ。だが別段、戦士だからと言って戦いを求めている訳ではない。
「抜けば?」
「アロハな気分にさせられる」
「アロハな気分に」
「そうね……アロハな気分になるわね」
「アロハ……アロハ……?」
ガルティアの使っている剣がハワイアンソードとかいうネタだらけの武器で、斬られるとアロハな気分というか常夏な気持ちで死ねるらしい。ガルティアの様に武器は武器、と完全に割り切れる様な奴でもないと使用しない死ぬほど格好悪い武器の一つだ。そんな事を言ったらルドぐるみを武器にしている俺も俺なんだが。
「冗談を抜きにすれば獣の王、等と呼ばれる程度には荒々しくも研ぎ澄まされた剣の使い手だ。敵として相対するのなら《ストマックホール》の存在を合わせ、恐ろしいほどに強い相手になる」
「……アロハは?」
「ガルティアに殺されるとそうなる」
「そうか……俺、死なない様に頑張ろ……」
それが一番だよ。そう思いながら魔物兵の先導に従って進んで行けば、広大な広場へと到着する。様々な料理の匂いが混じって湯気が上がっている環境の中で、広いスペースには巨大なマットが敷かれており、そしてそこにはありえない、とでも表現するような皿が見える。その大量の皿の上には山盛りの料理が乗せられており、
それを一人の男が片っ端から食べ続けていた。
「BからFテーブルまで食べ終わったぞ!」
「追加持って来たぞ!」
「こっちだこっち! 早く回せ!」
「肉はどうした!?」
「今絞めてるとこだよ! しばらくは魚でやり過ごせ!!」
まさに戦場とも言える様子で魔物兵たちが料理を運び、料理をし、それを片っ端からガルティアが食べていた。いや、或いはそれはもはや飲み込むという言葉に等しい。腹に開いた穴、《ストマックホール》ではなく、人間らしい口から食べるという行いをしているのに、それでもありえない数の料理がその口の中へと消えて行く。当然の様に皿の上に塵の一つも残さずに食べ切りながら、ガルティアの食事は無限に続いていく。
「……え、なにこれ」
「ムシ使いは体にムシを飼っているからその分の食事を取らなきゃいけない。だけど、まぁ、ガルティアは《ムシ使いLv3》で、ありえない数のムシを飼っているし、それを合体させて使徒にもさせている。それを維持する分を考えると
「マジかよ……」
「流石に自分の目で見るとびっくりするわね」
「私も毎月、ガルティアの食事に頭を悩ませたもんよ」
いつも厨房に入り浸っていたSS時代のガルティアの話は懐かしい。まさか魔血魂を勢いのまま食べて魔人化されたとか、今になっても誰も信じないだろう、アレは。なんともまぁ、懐かしい話である。
ともあれ、ガルティアも食べながら此方の存在に気付くと、食べ進めていた手の動きを止めた。その姿を見た魔物兵たちがざわざわと声を漏らし始める。
「が、ガルティア様が食べるのをやめた……?」
「止まったのか!? 本当に止まったのか!? 止まっているぞぉ―――!」
「うおぉぉぉ! おお―――!!」
「どんだけ食べ続けてたんだよ……」
誰かの漏らす声に苦笑するが、それがガルティアという存在だ。食費に450万Gを消費する男というのは伊達じゃない。そんなガルティアはどうやら、待っている間ひたすら食べ続けていたらしく、口元を軽く拭いながら視線を向けつつ立ち上がった。
「ふぅ―――もう俺の出番か? 食い溜めしてきたから何時でも動けるぞ」
「食い溜め……食い溜め?」
「食い溜めの概念が崩壊し始めてる」
ガルティアの食べる量は尋常じゃない。その上でペースも異常に早い。それを見て食い溜め? とは首をかしげたくなるのも事実だ。だがガルティアが食い溜めと言うレベルの食事に魔物兵たちは付き合わされていたのだ。
……流石に同情する。
「で、これからお前を解放する為に戦おうって話だけど―――」
その言葉に武器を構えようとして、あぁ、待て、とガルティアが言う。立ち上がりながら声を零すと、軽く体を動かし、そして視線を【撃滅隊】へと向けて来る。
「まぁ、様子を見れば戦いに来たのは解るが……別に、無駄に戦って味方を減らす必要もないだろ。戦うと腹が減るしな」
「……ジルの命令には抜け道があるのか?」
「おう」
その言葉に短く返答しながらガルティアは頷き、
「ジルは
「んな無茶な……」
という訳で、と、ガルティアが言葉を口にし、そしてニヤリ、と笑った。
「ここはひとつ勝負といかないか」
もう、その発言で嫌な予感しか感じない。だがストレートにガルティアと戦うよりはだいぶマシだと判断し、それで、と続きを求める様に催促し、ガルティアはその口を開いた。
「勝負の内容は簡単だ―――
ニヤリ、と笑みを浮かべながら平和に、そして何よりもガルティア自身が一番楽しめそうなスマートな内容に、内心で叫んだ。
一番無茶苦茶な要求来たぁ―――!
魔人ガルティア、戦闘に関しては酷くドライだけど身内に対しては優しく、気さくで、基本的に善良。ただし根本の部分が戦士なので戦うという事になった私情を挟まず、単純に殺すだけというタイプ。
ガルティア、結構いいキャラしてるんだよなぁ。正史でもスラル、ガルティア、ケッセルリンクと並ぶ姿は見たかった。