※この作品はR-18です。

ルドラサウム転生異聞録   作:てんぞー

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984年 食券 マッハ

 スラルの料理によって宇宙の狭間へと意識を吹っ飛ばされたガルティアが心からの敗北感を味わい、それを見た他の料理人たちも料理という概念を再検索し始める事で魔人戦に勝利した。茶番だし出来レースだし、勝利? という概念も怪しくなってくるが、ガルティアが領地から出てククルへと移動する事が出来たため、問題なく勝利と言えるのだ。という訳で人類軍にガルティアが加わった。これにより最初に想定した大軍団での戦闘が行えるようになった。何よりもガルティアの《ストマックホール》が便利だ。

 

 これで魔軍を軽く飲み込めば大軍団の処理と、ガルティアの食事を同時に処理する事が出来る。軍団を一瞬で無力化する事が出来る手段があるのは実に助かる話だ。だがそれ以上に、想定されていた最終戦力を獲得する事が出来たというのも大きい。これによって、戦力は大幅に増えた。

 

 魔人戦力はガイ、ケッセルリンク、ガルティア、ラ・バスワルド、ブリティシュ。

 

 ドラゴン戦力はマギーホア、ノス、俺、ハンティ。

 

 人類最上級戦力に勇者カムイ、武士ライコウ。

 

 神魔から悪魔スラル、ハニーキング、そしてレガシオも参戦してくれると言った。

 

 以下、【撃滅隊】所属人類最強戦力総勢40名。

 

 通常の道理で考えれば、この大陸そのものを粉砕、破壊できるだけのメンバーと戦闘力。未来におけるレベルスタンダードを考えれば()()()()()()()()()()()()を保有しており、Lv2技能をメインにしている、才能、スペック、経験、全てにおいて最上級の戦力ばかりが揃えられている。時代が時代であればこの大陸をそのまま制覇できる人材だ。軍隊を正面から相手して、それでも勝利し続けられる。或いは魔王ナイチサが相手であれば、問題なく勝てる面子だっただろう。

 

 恐らくは人類史上最強のチームだ。

 

 かつて、歴史にこれよりも最強と呼べる面々が揃った事もないだろう。これを超えられるのは―――ランス君が人類を率いる時ぐらいだろう、と思う。だがこれによってついに、初期に想定していた決戦メンバーが揃ってしまった。

 

 984年現在、

 

 人類軍は揃えられたメンバーを合わせ、最終決戦に向けて装備や必殺技のアップグレードに励んでいた。そう、流れは全て、最終決戦へと向かっている。戦力はついに揃えられた。自分が想定していたよりも、戦力は向上している。ブリティシュ、ラ・バスワルド、ハニーキング、レガシオの参入が非常に助かっている。自分が想定していたよりも遥かに強い面子が―――最強の討伐隊が結成された。

 

 これにより、漸く魔王と戦うだけのステージに立てた。不安は確かに多く残るものの、予想していたよりも良い状況でジルと相対するだけの用意をする事が出来た。自分が保有する戦力、そして持てる手札、切り札、鬼札―――最後の手段。その全てを加味し、都合良く物事が進んだとして、最終的な勝率は四割を切るだろう。

 

 ……これ以上勝率を盛るのは、あまりにも都合よく考え過ぎだと思っている。

 

 その全てを、自室の机に向かいながら、計算する。ジルの成長、【ひつじNOTE】から知り得たこの世界に関する情報から増やせる手段。その他の可能性。それらを考え、そして考慮してどれだけジルが成長しているであろうかを考える。

 

 そう、ジルもまた成長しているのだろうと思っている。

 

 少なくとも彼女は()()()()()()だった。目的の為に自分なりの努力でステップを踏みながら成長していく、そういう賢者だったのだ。だからジルは成長する事を忘れない。前にあった時よりも強くなっているだろうと思う。それでも彼女がなにを願っているのか、

 

 それが未だに自分には解らない。

 

「それでいて彼女の師とは笑わせるな……」

 

 小さく呟きながら息を吐き、軽く椅子に寄り掛かる。結局のところ、ジルにハッピーエンドを叩きつけるという宣言はしているが、具体的なプランが非常にあやふやだ。俺に出来る事はジルを倒し、魔血魂を吐き出させて次の魔王を生み出す事ぐらいだ。ガイと二人だけで、このことに関しては話してある。

 

 次世代の魔王。

 

 それは絶対に必要なシステムでもあるのだから。故にガイと相談し、俺かガイ、ジルとの戦いで最終的に動けた方が魔王を継いで、という風にお互いに決めてある。魔王を救うというのは、それ以外に方法がないからだ。魔王を止めさせても、別にそれで死なない事は未来のガイが証明している。大体の場合は魔血魂を受け継がせた後の出来事で死亡するか、死んで継承されているからだ。

 

 だから殺さずに血を大量に吐き出させ、魔血魂を継承したら治療を行う。或いはナイチサが行った、魔王の継承を魔王側からやらせる。それでジルを魔王の役割から解放する事は出来るのだ。唯一の問題は本当にジルに勝てる? という事なのだけであって。ただ、考えれば考える程、解らない事が増えてくる。

 

「ふぅ―――疲れたな」

 

 そう、言葉を漏らすしかなかった。少しだけ、疲れた。自分としてはちょっとだけ珍しい弱音だった。後でマギーホアかスラル辺りに愚痴を聞いてもらおうか、なんて事を考えると、

 

「では全部捨てて逃げてみるか?」

 

 声に振り返る。そこに道化師の神の姿を見るが、

 

「マッハ―――いや、ハーモニット様」

 

 七級神マッハの皮を被っている三超神ハーモニットだった。三超神は下界での活動の為に、それぞれが化身という力を分けた姿を持つ。PLとPCのアバター関係が、表現としては一番近く解りやすいだろう。そうやって化身の姿を持つ事で三超神は様々な活動を行うのだが、

 

 七級神マッハは三超神ハーモニットの化身であり、また三超神が保有する化身の中では一番等級が低く、そして唯一、メインプレイヤーにダイレクトで関わってくる三超神でもあった。普段はマッハというガワを被っていて、その中身を見せる事もないが、今日は珍しくその中身が見えていた。ハーモニットの気配にルドぐるみもはしゃいでベッドの上でびたんびたんと跳ねている。嘘じゃないよ。ほんとだよ。

 

「いや、ここまで来て逃げるとかないですよそりゃ」

 

「本当にか? 実は全て投げ出して逃げたいと思っているのではないか? 或いは違う創造神の支配する異世界であれば干渉されずに生きて行ける、何て事を考えた事はないのか?」

 

「それは……まぁ……」

 

 考えた事はあった。それはまだこの世界に骨を埋める事を決める前の出来事だったが。異世界には異世界の創造神が存在し、そこは違う法則で支配されており、ルドラサウムとは別の創造神がいる。だからもっと善性の強い創造神の居る異世界へと《ゲートコネクト》で逃げる事が出来れば―――それは、この世界の因果から逃れる手段になるのではないか? という考えだった。

 

 あくまでもルドラサウムが絶対的なのは、ルドラサウムがこの大陸と世界の創造神だからだ。その外側へと視線を向ければ、そうでもないらしい。とはいえ、既にこの世界に骨を埋める覚悟を決めているんだ。

 

「今更どの口で逃げるって言うんだ」

 

「辛くてもか?」

 

「生きるのが辛いのは当然だろう?」

 

 生きるのが簡単って、一体どこの異次元で生まれてきたんだ、と言いたい。

 

「苦しいし、悲しいし、痛いし、辛いし―――それでも、その中で幸福を見つけて、それを糧に生きていくのが人生ってもんだろう? 逃げたところで現実は変わらないんだ。だったらそれに立ち向かうしかないだろう―――あ、やべ、敬語外れてました」

 

「気にするな。私としてもお前の様な存在は非常に面白く、好ましい。自由であれ、ウル・カラー。貴様の愉快さは全てそこにある」

 

「言われなくてもそうしますよ。そうしてきたんですから」

 

 ハーモニットだけは身近過ぎるのが原因でちょくちょく言葉遣いを忘れてしまいそうになる。それだけ日常的にマッハとして関わっている、という事実もあるのだが。それにしても、と思う。

 

 視線をマッハーモニットの方へと向けつつ、

 

「そうやって口にするのは珍しいですね」

 

「私が、か? 私としても気に入った玩具が壊されるのは余り面白くない」

 

「やっぱそう言う視線かよ畜生」

 

 まぁ、天上の神々に期待はしてなかったんですけどねー、と思いながらも、そうやって口に出して此方を心配するマッハ、或いはハーモニットの存在は実際に珍しい。失敗すれば大陸を壊してリセットすればいいという価値観の奴らなのに、態々メインプレイヤー一人に気遣い……という言葉はおかしいかもしれないが、こういう風に注意を向けるのは面白いと思った。

 

 大体、個人個人を監視するのはALICEの仕事だからだ。

 

「……マッハーモニット様、メインプレイヤーとして遊ぶの楽しんでいる?」

 

「恐るべきことにな」

 

 マッハの姿をしているハーモニットは楽しそうに声を零した。

 

「主が何故エール・モフスとしての冒険を楽しんだか。それを忘れられないのか。何故変わる事が出来たのか……私はその経験を驚きと共に感じている―――成程、確かに何も知らずに味わえば、永遠に変わるだろう、これは」

 

「そこまで?」

 

「そこまで、だ」

 

 故に、と笑って神は姿を消した。

 

「励め」

 

 それだけ言葉を消してマッハの姿が消えた。忠告でも警告でもなく、ほぼ雑談に近い内容だけを語って消える姿はとても新鮮に見えた。消えた場所をしばらくの間、無言で見つめながらぽつり、と声を零す。

 

「……もしかして、応援したつもりだったのかな?」

 

 マッハとしてではなく、ハーモニットとして?

 

「……」

 

 その可能性を一瞬だけ考慮してから腕で胸を抱える―――これが大体、腕を組む代わりの考えるポーズなのだが―――そして考え、それを止める事にした。まぁ、どちらにしろ、

 

「ハーモニット様がこの戦いの行方を楽しみにしている、という事だしな……俺も負けてられないな」

 

 ジルの顔面にハッピーエンドを叩きつけるという目標、目的、それを簡単に諦めるつもりは一切ない。そもそも、この戦い自体俺が始めたようなものだ。だとすればそれを途中で投げ出す事なんて出来やしない。

 

 人も、神も、魔も。全部全部巻き込んで始めた大戦争なのだから。正直、これが後世に残す影響や、後輩たちへのハードルを考えると少々厳しいものを感じられるが、それでも勝たなければ後の世もクソもないのだ。それに関しては誰だって同意してくれるだろう。

 

「あーあ、またスタバで珈琲でも飲みに行きたいなぁ……」

 

 ジルと二人で異世界のカフェで飲んだり食べたりした事を思い出す。全部終わったらスラルとハンティを含めた女子組で異世界女子会を堪能するのも悪くはないかもしれない。

 

「買い物して、美味しいものを食べて、友達を作るのを手伝って……」

 

 拳を作って握る。だがこの話も全て、計画通りジルを解放出来たら、という話が前提になる。二重人格の魔王だった魔王ガイでさえ、魔王から解放された瞬間に罪悪感で死を選ぶ程、魔王であった時と、本来の時とは性格や或いは、人格そのものが違ってくるのだ。ジルが魔王から解放されたら、彼女が本来の、賢者であった頃の彼女へと戻るとも限らない。

 

 それでも……それでも、

 

「助けるって決めたんだ。俺がやる前から諦めてどうすんだ、って話だよな」

 

 だから諦めない。

 

 もう散々折れるだけ折れ続けて来たんだ。今更になって困難を前にした程度で折れるものか。もう、人類全体も、天上も、そして悪魔も巻き込んだのだ。歴史に名前を残す準備もした。史上最悪、最低の鬼畜女王として後世の歴史には名前が残る様に。もう既に事前準備は全て整えた、整えられるだけ。

 

 無論、気になる事はある。

 

 ルドラサウムの反応、永遠の八神の動向、三超神の思惑、ALICEの監視、魔人レッドアイや魔人レイ等の撃破済みではあるがまだ戦える魔人の行方、魔王ジルが一体何を思っているのか。

 

 だけど物事が理想的に、想定したように動くとは一切限らない。

 

 恐らくは―――いや、ほぼ確実にイレギュラーに直面するだろう。

 

 だがそれを考慮しても、

 

「ジルに勝てるのは今しかない」

 

 今、この時、この瞬間だけ。神も魔も人も、全部巻き込んで最強のチームを編成したこの時だけ。このタイミングを見過ごせば、後は弱くなっていくだけだと思う。だから、今が勝率が一番高い時。

 

 984年現在―――時は後少しで985年へと針を進めそうになっている。

 

 そのタイミングで、

 

「魔王城を攻める」

 

 魔王ジルとの決戦。それに向けた準備ももう、終わりに近い。それが終わり次第出撃の時が来て、決戦の時が来る。その果てに来る結末を、

 

 まだ、俺も―――そして神々も視ていない。

 

 決戦開幕まで、あと僅か―――。




 マッハーモニット様の激励。なんだかんだで一番近く、そしてずっとウル様の活躍を見てきた奴。ある意味、一番のウル様ファンと言えるのはこいつなのかもしれない。

 決戦前夜挟んだらGL期決戦開幕。
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