「正直な話―――すまないと思っている部分はある」
夕闇が街に掛かる頃、徐々に陽の光が沈み始める頃に、隊の面子に、最終作戦に参加するメンバーだけを集め、翌日に控える魔王城襲撃作戦に備えて、【撃滅隊】のメンバーに普段は開放していない自分の屋敷に全員を集めて、ホールで酒宴を催していた。まぁ、なんというか、明日、生きて帰って来れないかもしれないのだから、これぐらいはやって当然だろう? と思う所もあり、普段はほぼ誰も入れないこの屋敷ではあるものの、今日だけは特別に開放しており、
来れる連中は全員集まっていた。料理も自分やルシアが必死に作ったもので、それを並べているのだが、片っ端からガルティアが既に食べ始めているので、話を聞きながら食べ始めている連中が多い。まぁ、しょうがないよね!
と思ったら《男には容赦しない》がガルティアに刺さった。ガルティアがその場でダウンさせられ、手が止まったのを見て、ケッセルリンクがどうぞ、と先を促す。良し、最初からぐだぐだな気配がしてきたな。
「まぁ、真面目な話、ジルが生命根絶を掲げたのは大体、俺が原因だ。それにこの都市の歪なシステム、その根本を構築したのも俺だ。そして、お前らが当然の様に戦い、そして戦友が死んでいく理由も俺が原因だ。今世紀における大体の死因、原因は遡れば俺に理由があるんだよ」
ジルを―――あの時、見捨てなければ。ランスは生まれなかったかもしれないが、それでもランス抜きの未来を考えれば、それで良かったのだ。だけど俺にはそれを選ぶだけの勇気がなかった。度胸がなかった。今の俺はそれを超越できるかどうか、実に怪しい所ではあるものの、
絶対に、ジルは見捨てなかっただろうとは断言できる。ただ、それは今の話だ。かつての事を考えると同じ選択は取れなかっただろう。あの頃の俺は―――そう、あまりにも弱すぎた。ちからではなく、心が。運命の奴隷だったとも表現できる。流されるまま、シナリオ、プロットに従って進んで行くだけの存在だったのだ。
果たして俺はそれから脱却出来たのだろうか?
その答えを自分で見つけるのは恐らく不可能だろう。自分でそうだと決めただけでは到底答えにはたどり着けないからだ。周りからそう見られ、自分でもそういう風に考えられる様になって、その上で結果を出して、
それで初めて、変われたと思えるのかもしれない。自分はまだ、その具体的な成果を上げる事に成功していない。故に―――一つ、魔王ジルとの決着をつける事は、ウル・カラーという女の人生における一つの決着、結末に辿り着く事になる筈だろうと思う。だからこそ、ここは外せない。負けるわけにはいかない。だけど自分一人でどうにもなる事ではないし、自分一人の為の戦いではない事を忘れてはならない。
「で、文句を言いたい奴っている?」
「今更だろ」
「どうでもいいわよ、そんな事」
「俺達ゃぁ姐御についてくって決めて戦ってるんすから」
「そうそう、気にする必要ないって」
「始まりは確かにウル様だったかもしれんけど、今では居なきゃならない存在ですから。僕達は、愚かな指導者に従っている訳じゃないんですよ」
「馬鹿しかいねぇなぁ、ほんと……」
だがそんな皆が好きだった。ここに居る馬鹿な連中一人一人が非常に好ましく、そして愛しかった。こんな時間が永遠に続けばいいのに……そんな事をいつもいつも、思っている。だけどダメだ。それは叶ってはならない願いだ。邪悪な願いだ。時は過ぎ去る。そしてだからこそ、次がやってくる。その流れを堰き止めるような事は―――出来ないのだ。
「よし―――バカなお前らに朗報だ。俺達の戦いはいよいよ、終わりが来る。明日、魔王城強襲作戦を開始する」
魔王城に行くまで数日かかるので、明日直ぐに戦いが終わるという訳ではない。だがそれでも、明日、作戦を開始すれば終わるまで―――ここに戻ることもないし、これが最後の作戦行動になるだろう。
「これが終われば魔王が大地を支配する時代に終わりが来る。魔王ジルの時代が終わり、昔みたいに再び人類が大陸の各地で生活できる時代がやってくる―――だがそれ自体は俺に取っちゃどうでもいい話だ。それでも……それでも、これで最後だ。いや、最後にしなければならねぇ。解るか?
敗北すればそこまで。再編成する余裕なんてない。敗北する時は恐らく、全滅する時だ。そしてそれ以上の戦力を用意する事なんて出来ない。だからこれで最初で最後だ。二度目の魔王への挑戦なんて絶対に用意出来ない。だからこの一度だけで決めねばならない。
「覚悟……なんて今更問うもんでもないな。ここに来てくれている以上、そういうもんだと思っている。ちゅーわけで、今夜は俺の奢りだ! 飲め! 食え! そして笑え! それを活動力に魔王城に乗り込むぞお前ら!!」
その言葉と共に歓声が戻ってくる。そして解放された連中が飯に飛びつく。その様子を苦笑しながら眺め、色々と集まった連中の様子を眺めてみる。どの連中も楽しそうに話し合い、肩を組んだり酒を飲んだり、飯を食べたりし始めている。ゴーサインが出た所でガルティアも復活し、再び食べ始めている。その底なしの胃袋を観察しようとして―――一人、ストマックホールに吸い込まれそうになっている。
ケッセルリンクの拳、再び唸る。
それをスラルが呆れながらもどことなく楽しそうに見ている。あぁ、そういえば平和な場所で、スラル、ガルティア、ケッセルリンクという三人が集まる光景は実に稀だ。元々スラルを守る為に魔人となったケッセルリンク、自然とスラルを守る為に剣を取っていたガルティア、その二人が今、スラルの安全を保証出来る場所で、楽しく笑っているのだ。
……なんとなく、邪魔してはならない気がする。
三人はそのまま放置するとして、マギーホアのいるテーブルを見つけた。マギーホアのテーブルには一緒にハンティと、ライコウの姿が見えた。そこに近づき、ネコモードのマギーホア様に軽く挨拶をする。
「む、これはウル殿」
「あ、姉さん。ちょっと、ライコウを止めてくれない? この馬鹿、マギーホア様に挑むとか言ってて……」
「竜王マギーホア殿、ウル殿さえも超える天上の実力者と聞く。武芸者として、是非に一度は本気で……!」
「いやぁ、私も応えてあげたいんだけどね? ほら、ね? ははは……」
マギーホアも完全にライコウからロックオンを受けていた、苦笑を零しながらちょっと、困った様子を浮かべていた。《剣戦闘Lv3》であっても、根本的にマギーホアの実力は次元が違う。戦った所で恐らく、攻撃を受けてもマギーホアが無事な姿を見せてそのまま食い殺すであろう未来が見える。それがライコウもある程度見えているのだろうが、それでも武芸者の本能か、戦いを求めて目を輝かせている。
「ウル様も止めてくれませんか? これではライコウが死んでしまいますので」
「何を言う日光。JAPAN武士であれば強者との戦いに果てるのは本望。いざ、そこの庭でも……!」
「おめー、魔王城で最終決戦やる話を聞いてなかったのかよ」
「それはそれ、これはこれ」
「《スリープ》」
ハンティと二人でライコウに《スリープ》を叩き込み、二人で手を叩きあってから拳を合わせ、サムズアップを向け合った。一気に睡眠に落ちたライコウはそのまま床に倒れ込むが、それを無視して今度は別のテーブルを見に行く。別のテーブルでは男どもが酒をジョッキに注ぎながら飲み比べをしていたが、
カムイが圧勝していた。一人だけ圧倒的なスピードでジョッキを傾けて、無限に飲み続けていた。
「……カムイ君酒豪だっけ?」
「勇者特性だってよ」
「そんな使い方があるのか勇者特性……」
勇者特性便利に使われ過ぎてない? と思ったらカムイが飲んでいるビールにむせた。そしてそれでそのまま酸欠で喉を押さえ、顔面からテーブルに倒れ込んだ。
「勇者特性?」
「勇者特性」
不幸な目に遭うのもまた勇者特性の一環である。カムイの任期もあと少しだ―――それが終われば勇者特性もほとんどが失効する。そうもなれば不幸の方は消えるだろうし、多少マシになるとも言えるだろう。まぁ、今は生活が楽しそうだしいいか、と思いながら別のテーブルに移動し、
ひたすらレガシオに接待する月餅を見つけた。
「レガシオ様! 此方はどうでしょうか!? あの女帝が作った肉料理との事ですが!?」
「うむ……アイツ、普通に料理うめぇよな。偶に作りに来てくれねぇかな。後嫁」
「ですよね! ですよね!! 交渉してみますね! 私! ささ、レガシオ様! 此方をどうぞ……!」
サラリーマンが社長を接待するような姿になっていた。JAPANでも悪魔界でも基本的に苦労し続ける悪魔、月餅。君が休まる日は何時になるのだろうか。そう思っているとレガシオがこっそりとウィンクを送ってくるので、気付いていて月餅で遊んでいる様だった。憐れ、月餅。死ぬまで苦労は続きそうである。
放置する。月餅君頑張って。何時かその努力が報われると信じて。
と、次に面白そうな連中を探そうとすると、メイド服姿のラ・バスワルドを発見する。その横にはルシアが付いている。ラ・バスワルドを見てからルシアを見て、ラ・バスワルドを指さす。
「いえ……客人でもないのにひたすら何もさせずに置いておくのも問題だと思いまして。このまま放置しておくのも本人への教育を含め、影響が良くありません。ウル様は直ぐに若い者を甘やかそうとしますので、しばし働かせる事にしました」
「まぁ、見てなさいってば。この私が華麗に給仕してるところを。こう見えても私元二級神? あ、いや、現役二級神よ! 魔人が本業なんかじゃないんだからねっ!」
「もうこの時点でダメそうな気配がする」
「しっかり教育します」
そんな事を言っている間にメイドの仕事にとりかかったラ・バスワルドがさっそくエルドの髪の毛のみを《破局崩壊》で消し去った。爆笑と悲鳴が轟き叫び、ラ・バスワルドが涙目になりながら逃げ出す。お前、《無敵結界》があるから逃げなくても平気なんだぞ? と言いたいが、追いかけられる姿が面白いので黙っておくことにする。ラ・バスワルドもかなり人間的というか、生物的というか、
個人、という存在が確立されている様に思える。インストールされた設定よりも多くを覚え、そして更にポンコツになったような気がする。
でもまぁ―――その方が、少女らしさがあっていいと思う。
どうやら突発的に始めた宴だったが、それでも流れは悪くないらしい。各々が何時も通り、騒ぎながら楽しんでいる様子が見れる。
ただ、それを遠巻きに見つめているだけのガイを見つけた。
よ、と片手を上げながら近づけば、真っ先にカオスが反応した。
「若い姉ちゃんでいっぱい溢れているのに何で近づいてくるのがお前なの? あー、魔人斬りてぇ……」
「お前ほんと安定してるな……」
カオスがあー、魔人斬り殺してぇ、と呟くのは何時もの事だった。だがそんなカオスを腰に帯剣しながら、ガイは腕を組み、背中を壁に預けたまま静かに皆で騒いでいる景色を眺め、呟いた。
「……私は、刺し違えてでもジルを殺すつもりだった」
ゆっくりと、口にした。
「私が禁呪を行使すれば、レベルを大幅に増やす事も、短時間であれば魔王級の実力を発揮する事も出来る。それでジルを討ち、この世の地獄を終わらせるつもりだった……だが今となってはどうだ。穴だらけの計画に、失敗する未来が見えていた。私はジルという女をあまりにも甘く見ていたのかもしれない。だが―――」
だが、とガイは付け加える。
「まさか、魔人である身でこうやって、人の輪にまた関われる時が来るとはな。私は自分の運命がジルを討った所で終わるものだと思っていたのだが……」
「ガイ君にはこの後にも盛大に苦労して貰うんだから死んでもらっちゃ困るのさ。なぁ、カオス」
「おう。儂を握って他の魔人ぜーんぶぶっ殺して貰わないとな!」
カオスの魔人に対する背景や性格を一切考慮しない殺意というものはブレなさ過ぎてある種の尊敬を覚える。それでもカオスはガイに死ね、とは言わない辺り、ガイに対しては何らかの特別な友情を感じているのかもしれない。
「ふっ、その後か……」
ガイはその言葉に小さく笑い声を零しながら、そうだな、と呟く。
「ジルを倒した後の事もあるか―――止まってはいられんな」
「俺かお前、どちらかが……」
「あぁ、恨みはしない」
「うし」
ガイと視線を合わせ、頷き合い、視線を外し、人の輪へと戻っていく。
そうやって時は過ぎ去っていく。
騒ぎ、忘れ、馬鹿をし、そして回る。
泣いても笑っても次は来ない、
これより―――最終作戦が始まる。
という訳で、GL期における全ての準備はおしまい。
次回からGL期の最後、魔王ジルとの戦いを始めましょう。いよいよ終わるんだなぁ、って。一番長かったGLも終わって、いよいよ次はGIか、或いはULか、それとも別の魔王か……。
なお、この更新を行っている間は電波が届かない場所に居るので、誤字報告は翌日朝になるよ。