985年。
ついに、人類の魔王に対する大反攻作戦が開始される。
それまでは防衛にのみ徹していた人類軍が
作戦は成功した。
また、それと同時に翔竜山で今まで戦闘を行わなかった
人類軍、その戦力の全てをつぎ込んだ反攻作戦は《無敵結界》の存在一つで瓦解する。人類軍には《無敵結界》を容易く貫通できる攻撃手段が存在しない。ドラゴンは強くてもその無敵の護りを突破する手段がない。故に物量をぶつけたとしても、最終的には魔人側が丁寧に戦力を破壊していくことで決着が付く。それが人類と魔軍の戦争における基本的な認識でもある。
だがこの瞬間。
人類が全戦力を投入した事によって、漸く、魔王城とその制空権が喪失する。
百に届くドラゴンの群れからメガラスはダメージは受ける事が出来ないだろう。だが同時に、これだけの数千年生きた修羅を、メガラスは葬る事が出来ず、地上を守る為に、そして魔王ジルの命令を守る為に絶対にドラゴン達を迎撃し続けなければならなく、つまり
これに加え、動き出した魔人永劫の剣を異世界からやってきた無名の緑髪の闘神を名乗る青年が撃退に登場する。永劫の剣を次元を超えて追いかけてきた青年の手によって、その姿が結晶領域から不動のものとなる。
魔人ますぞえ、魔人レキシントン、魔人アイゼル、魔人パイアール、魔人レイ、魔人レッドアイが行動を活発化させ、人類軍への迎撃を開始する。正面からの戦いに1時間が経過した頃には、既に最前線では魔人による蹂躙が開始される。
その時に―――動きだした。
「よし―――見えてきたぞ、魔王城だ……!」
ドラゴン空戦部隊に騎乗し、或いはゴンドラに吊り下げて貰って東ルートを大きく迂回する様に主戦場を離れ、メガラスを釘付けにして貰っている間に魔王領へと侵入する。人類軍の数が凄まじい勢いで削られているが、全ての魔人を最前線に引き付ける必要があった。だがそのおかげで魔王城がフリーとなった。全戦力を投入した、対魔王最終作戦によって、
今、魔王城へと空から強襲をかけていた。
「よし、そろそろ降ろすぞ!」
「頑張れよ人間ども!」
「俺達は一緒に戦えないが魂は共にあるぞ」
「じゃあな、良き闘争を祈っている」
「マギーホア様、武運を祈っています」
「うむ―――君達も存分に暴れなさい。世紀の決戦だ」
魔王城付近に近づいた所で高度を降ろし、ゆっくりと移動に協力してくれたドラゴン達が降ろしてくれる。ゴンドラや背中から降りながら魔王城付近の大地に降り立ち、今回作戦に参加するほぼすべてのメンバーがここに集まった。空気に乗る、僅かな緊張感を感じながらも、ドラゴン達は言葉を残しながら仲間たちの戦場へと合流する為に去っていった。
振り返れば、悪魔特有のワープによってレガシオが合流し、ハニーキングが派手なサウンドエフェクトと共に登場した。その姿に少しだけ和みながら、マギーホアを見て、頷きを貰った。
―――空気に血の匂いを感じる。
「うっし―――最後の仲間が待ってる、合流するぞ」
今更、覚悟やどうすればいいか、なんて問うている必要はない。ここに居る時点でもう、全員契約は完了している。故にそれ以上の言葉はなく、仲間たちを率いながらそのまま、魔王城の正面へと向かえば、
魔王城の扉の横に、背中を預ける様に目を瞑り、宝剣イングランドを手にする英雄の姿が見えた。その姿を見て、最初に声を零したのはガイに握られているカオスだった。
「ブリティシュ、お前―――いや、それにカフェも。その姿は……」
「カオス、それに日光も久しぶり。うん……君達も、きっと僕に言いたい事はたくさんあると思うんだ。だけど今は……いや、ジルとの戦いが終わるまで……待っててくれないかな?」
その言葉に日光とカオスは黙った。それぞれを抜いたガイとライコウは、ちゃんと日光とカオスがカフェとブリティシュを見える様にしており、しかし、日光とカオスはしばし沈黙を保ってから。
「……ち、儂らのリーダーの言う事じゃしな」
「えぇ、そうですね。ブリティシュなら仕方がないですね」
「えー、なんだよその僕なら仕方がないって」
「ブリティシュだし」
カフェのその言葉に小さくカオスと日光が笑い、そしてブリティシュが此方へと視線を向ける。
「……いけるか?」
「元より、僕の剣は人界を守る為にある。エターナルヒーローは崩れて消えた。それでも、まだ残されるものがあるんだ―――ならば、剣を振るって守る事に憂いはない」
「がっはっは、良し。お前も俺様が率いてやる。俺に付いて来い!」
手を差し出し、ブリティシュと握手を交わしてから軽くその頭をよしよし、と撫でてやる。良く頑張った、と。それを受けてブリティシュは軽く恥ずかしそうにしていたが、気にする事無く横を抜けて、
久しぶりの、魔王城へと突入する。
途端、凄まじいプレッシャーが城内から漂ってくる。
魔王城全体をすさまじい瘴気が充満しており、それが絡みついている。それこそ心臓の弱い人物であれば、ここに近づくだけで即死するような、そんな邪悪さの入り混じった瘴気だった―――いや―――情報としてだけなら、自分も知っている。将来的にケイブリスが纏う恐瘴気だ。それをもっと邪悪に、そして殺意を磨き上げたような、そんな瘴気を充満させている。
それを浴びながら城内へと、自分の記憶にある姿よりももっと広くなっているその中へと侵入した。
「なんだ、この……気持ち悪いのは」
「瘴気だけど、ここまで凄まじいのは初めてね」
「レベルが低いだけなら即死しそうだな、これ」
ハニーキングへと視線を向ければ、
「レベル20以下なら問答無用で即死かなっ!」
「人類の大半がやべーんだけどそれ……」
「……奥は更に濃度がありそうね」
「まさに魔王、って感じだな……」
「ま―――今更この程度でビビる連中なんていねぇぜ、大将。死んでも俺達は戦い続けるぜ」
「うっし、言ったな? じゃあ行くぞ―――決戦の時だ」
魔王城を進んで行く。数人の魔人に悪魔、竜王、そして人類最強の部隊。自分がこの数十年間で揃えられる最強のチーム、最強の決戦部隊。【撃滅隊】は今、【魔王討伐隊】となった。他の誰にも真似出来ない、一度限りのドリームチーム。
そのトップに立って率いるのは、俺だ。
故に俺が前に立って進む。
黒い、魔王に合わせた装束を纏い、瘴気に片腕を覆うマントを揺らしながら、自分の足で立って歩きながら進んでいく。前よりも広くなった魔王城、恐らくは《ゲートコネクト》の理論で魔王城内部の空間が拡張されている。
全員で戦える広さまで。
その中を進んで行く。
奥へ―――ジルの気配へと向かって。進めば進むほど瘴気が強まっていき、普通の戦士であれば即死する濃度、鍛えた戦士でも死ぬ濃度、才能がある程度であれば死ぬ濃度と瘴気が増していく。
それでも誰も脱落しないのは、これが人類最強のチームだからでしかない。ここに居る全員は、国家最強クラスの最強精鋭しか集められていない。故に少し辛くても、全員がこれを乗り越えられる。或いはこれが
そんな事を考えながら歩けば―――あまりにもあっさりと、妨害もなにもなく、魔王城を抜けた。
そして到達する、その一番奥、
玉座の間へと。
その姿は更に広く変貌しており―――天井が消えていた。玉座の背後の空間も消えており、その向こう側には血色の空が広がっていた。気持ち悪さと気味の悪さが融合した上で、生理的嫌悪感を感じさせる気配が空間に充満している。それを知っている。
血の記憶だ。
脈打つ血管の様な音が脳裏に響き続ける。
そうやって変質した魔王城の一番奥、玉座に一人、黒ドレスに身を包んだ美しい髪の女が座っている。玉座の横には巨大な骨と棺桶が置いてあり、それを横に並べた状態で目を閉じている。
今なら目を閉じているから殺せる―――なんて、事を考える者は一人としていなかった。その気配が圧倒的過ぎた。もはや生物として本当に表現していいのか、それだけ次元違いの力を感じさせる気配を保有していた。あのマギーホアでさえ、沈黙し、警戒しながら全体を見守る様に足を止めているのだ。その存在の凄まじさは、伝わってくる。
だが、誰も脱落していない。
誰もがこの圧倒的な気配と、そして君臨する絶望を前に立っていた。膝を付く事無く、脱落する事無く、まだ戦える、と、それを証明する様に存在し続けていた。
その気配を前に、
―――ゆっくりと、魔王が目を開いた。
その姿を見て、喉に詰まっていた言葉を、小さく、しかし、はっきりと口にした。
「ジル」
言葉に反応し、魔王が微笑んだ。ぞっとする程美しさと艶のある笑みに、男女関係なく見た者が魅了されるであろう笑みに、しかし堪えながら、視線を向けた。目覚めたジルは、小さく、唇を震わせた。
「あぁ……先生か。やっと、来たのか。この時が」
言葉を零しながらジルがゆっくりと視線を持ち上げ、血色の空を見上げる。
「先生……私はずっとこの時を待っていた。お前が……人類を率いて来るであろうこの時を、誰よりも、何よりも……ずっと……待っていた」
ジルは空を見上げながら呟く。隙だらけの姿。しかし圧倒的な威圧感がその言葉を邪魔する事を許さない。何時でも戦えるように誰もが武器を握りながらも、視線と耳は、ジルへと向けられていた。
「お前は……私にとって母の様な人物であり……姉の様であり、友の様であり……そして、一番最初に私に愛を教えてくれた存在でもあった。私は―――そう、愛を知っている。素晴らしいものだ。美しいものだ。かけがえのないものだ……それを……私は知っている」
呟き、くすりと笑いながらジルは笑い、そしてはっきりと、意識を覚醒させた。
「あぁ、だが―――終ぞ、私が手に入れられなかったものでもある」
「ジル……」
それを失わせたのは俺である為、何も言い返せない。シナリオの奴隷だったのは事実だ。その言葉に相応しいだけの存在だった。だからこその後悔がある。そして、それを変える為にここにやってきたのだ。だから視線をジルへと向ければ、ジルは、愛しむ様な視線を向けてきているのが解る。
「あぁ……だから―――いや、これ以上は語る内容でもないか」
そう告げて、ジルは立ち上がった。戦闘の気配に、ルドぐるみを背負う様に尻尾を握りつつ、よし、と呟く。
「ジル」
「なんだ」
「大人しく負けるつもりはないか?」
「く、ふふふ……この期に及んでそんなことを言えるのは先生ぐらいなものか……あぁ、だが先生の言葉なら許そう。だが私は負けるつもりはない。思った事はないか?
神々の遊戯盤。
どう足掻いても争う人類。
絶対に勝てないゲーム。
決められた悲劇。
「くだらん―――実にくだらん。触りしか分かっておらず働いている一級神も。解っていながら何も変えようとしない永遠の八神も。理解しながら盲目のまま従い続ける三超神も。教えられない限り学ぼうとしないルドラサウムにも」
深い、深い憎しみがジルから滲み出す。怒りが空間を震わせ、生物にはありえないとでも表現できる魔力が放たれる。それに抗う様に大地に足をつけたまま、ジルを見た。ジルも此方へと視線を向け、
「だから私は決めた―――
創造神の殺害を宣告した。それに即座にハニーキングが言葉を遮った。
「残念だけどそれは無理だよ、無理無理。大陸の全ての生物を殺して、リソースを回収した所でルドラサウム様には届かないよ。悪いけど君のそれは意味がない」
「ハニーの王か。成程、確かに貴様の言う通りだ。私ではルドラサウムを殺す事は出来ないだろう。だが何時私自身が殺せばいいと言った? 私が何の為に時間を異世界の捜索に割いたと思っている?」
ジルの言葉に、まさか、と声を零した。
「……見つけたのか、
「あぁ、やはり先生は解ってくれるのか」
嬉しそうにジルはそう言って、
自分の手首を切り裂いた。それにより血が飛び散り、玉座の横にあった骨と、そして棺桶に掛かった。ジルから飛び散った血液が棺桶の中へと入り込み、そして骨の中へと染み込んだ。
それは一瞬の静寂を経て、命を吹き込む。
「異世界E9H5には神殺しと呼ばれる戦士がいる。この大陸の全てを滅ぼして得たリソースをそこへと流し、その上で世界を繋げた場合―――面白い事になるとは思わないか?」
「ほ、ほー……君、生徒の教育はもうちょっとまともにした方がいいんじゃないかな……」
「ぐうの音も出ねぇ」
ハニーキングの言葉に冷や汗を流しながらジルの本気の気配に、覚悟するしかなかった。やる―――この子は本気だ。ルドラサウムを本気で殺すつもりであるし、それを成し遂げようと全力を注ぐだろう。そしてこの世界の全てがルドラサウムから生まれている以上、ルドラサウムが消滅すればこの大陸も永遠に消え去るだろう。
未来もクソもない。
果たしてそれが本当に可能なのかどうか、という言葉はいらない。
それを実現できそうなのが、ジルという存在だ。
そしてジルの気配に呼応し、骨はその骨格を再生させ、肉を纏い、皮を纏い―――そして翼を伸ばした。合わせる様に棺桶の内側から、一つの影が立ち上がる。片方が全身が黒く染まった、巨大な爬虫類の様な姿であり、もう片方はどこまでも無機質な、人間味を欠片も感じさせない男の姿だった。
それは血の記憶に記録された残影。
咆哮を上げながら黒翼を広げるかつて、一つの時代に君臨した元魔王の姿。
「マギーホアァァ!! 再び争おうぞ! 再び! 何度でも! 殺し合おう! マギーホア! そして今度こそは! 今度は! 俺が、俺の勝利で終わらせてくれる―――!!」
静かに、マントを揺らしながら、それが面白いか否かのみを捉え、剣を抜く一つの時代を恐怖に叩き込んだ元魔王の姿。
「これもまた良い遊戯になるだろう」
元魔王アベル、元魔王ナイチサ。その二つの姿が血の記憶からジルによって再生された。かつて感じた事のあるアベルやナイチサよりもやや、弱くなっている気がする。それでもその存在が絶望的な程に脅威である事に変わりはなかった。
「さて、これで役者も揃った」
玉座から降りて立つジルは腕を広げ、風を受け入れながら魔王の闘気を纏い、そして人類の前に―――或いはこの大陸の、全生命の前に立ちはだかった。
「さぁ―――この大陸の行く末を決めようか人類!」
ジルの響く声を前に、これ以上会話が続く事がないのを悟り、
いよいよ、戦いが始まる。
「アベル……いや、私もなにも言うまい。私はその権利をもはや喪失している。故に―――今度こそ滅びる時だ、アベル」
マギーホアが猫の姿を捨てる。偽りの姿から真なる姿へと回帰する様に、ネコ人の姿が消失していき、その姿は遥かに巨大な、そして強大な力を秘める紅色の竜王の姿へと変貌していく。そしてその姿は、最終的に一つの時代を完全に制覇した、偉大なる王の姿へと回帰する。
「吠え狂えアベル。貴様にくれてやるのは敗北だけだ」
マギーホアがルビードラゴンとしての姿を取り戻す。竜王の咆哮に人類の底力が限界まで解放される。士気が限界を超えて高揚され、力が引き出される。竜の王国を築いた王の号令が熱狂を生み出し、
また同時に宝剣、聖剣、魔剣、古今東西ありとあらゆる武器の類が異次元から引き抜かれた。一斉に魔王城に突き刺さる様に出現したそれを人類勇士に貸し出しながら、三魔子の一人がそれを10の腕で握り締め、そしてかつて、ドラゴン達と戦った時よりも遥かに鍛えられた力で引き抜いた。
「毎回終わった後で話を聞かされていてな―――俺も割と誘われるのを楽しみにしてたんだ。暴れさせて貰うぞ」
「今日は全力で消し飛ばしていいんでしょ? 任せなさい、それだけは得意だから」
「僕の奥義で味方への被害は全部遮断します―――遠慮なく、本気で」
「あーあ、ついにここまで来ちゃった……」
「ご安心を、必ずお守りいたしますので」
「ま、何とかなるだろ」
「禁呪にて限界を超えて力を引き出す。行くぞ」
「相手は魔王、不足はない……!」
「人の未来の為。この大陸の未来の為、負けられないんだ」
「ここまで来たんだ。最後までぶっこんでくぞ!」
「ウル様、準備は何時でも」
背後から心強い仲間たちの声が聞こえる。誰も逃げようとしない。誰も心が折れたりしない。魔王に元魔王が二体。アベルとナイチサは魔王クラスの能力は持っていなくても、ジルと共に出現しているというだけで状況が地獄と化すだろう。だがそれでも、誰も恐怖に震えていない―――それに立ち向かっている。
故に、
「行くぞジルッ!」
―――そして、戦いが始まった。
支援配置の数ばっかじゃねーの。なんだお前この数。
そして揃うアベル&ナイチサ。スラルも居るので実は歴代魔王、ククルククル以外は揃っていたりするんだけど大丈夫? 大陸割れない? 魔王城消し飛ばない?
とか思ってるけど、決戦なんだから派手じゃないとなぁ、という感じd絵一つ。
魔王ジル戦、開始。