※この作品はR-18です。

ルドラサウム転生異聞録   作:てんぞー

11 / 172
XXX年

 これだけ苦しいのに、生きている事に意味があるのだろうか?

 

 ―――ある、きっとある。

 

 苦しみ、憎悪に濡れて、絶望しながらでも、《■》の未来が遠い、遠い未来にはあるのだ。そこに未来と希望の全てが待っている。そこまでの道のりは遠いのかもしれない。だがそれだけ遠い未来でも、希望があると思わなければ、体は動かせなかった。

 

 だからゆっくりと、目を開いた。

 

 大地の匂いがする。草の感触を感じる。長い、長い間、眠っていた気がする。

 

「……F……ck……」

 

 残された片腕で中指をとりあえず突き出す。まず最初に人生の一歩は神をディスる所から始まる。Fuck you、地獄に落ちろクソ神共。この精神だけは忘れてはならない。あぁ、久しぶりの感覚だ。数百年ぶりとでも言うべきか。指がある感覚だ。ドラゴンの鍵爪とは違う、指の感覚だ。肉体としての感度が、感覚がまるで違う。神経が肉体の末端にまで届いている感覚は、肉体のスペックが超越種として完成されているドラゴンとはまるで違う。柔らかい肉と、鋭敏な感覚と、そして器用にそれを利用する事の出来る体。

 

「ぁ……ぉ……っ、ぇ……」

 

 発声器官がドラゴンとは違う。体の構造がドラゴンとは違う。もはや人間であった時間よりも、ドラゴンとして過ごしてきた時間の方が、十数倍長い。それでも前世、なのだろうか? ランスという世界に関する知識を忘れなかったのは根本的なドラゴンという種族のスペックによるものだった。果たしてそれもこれから、続くかどうかは不明ではあったが、

 

 とりあえず、

 

 叛逆せずにはいられない。

 

「Fu……ck……」

 

 見える? この中指が立っているのちゃんと見える? 第三世代メインプレイヤー移行と同時に最初にやった事だからしっかりと歴史に残しておけよ? 心の中で呟きながら目を開き、そして空から降り注ぐ光量に目が焼かれそうになる。呻くような声が喉の奥から溢れ出し、そして気力が削れていく。それでも生きているのであれば、やらなくてはならない事がある。やらないとならない事があるのだ。

 

 そう―――チンコがあるのかどうか、それを確かめなければならない。

 

 体の感覚が重く、非常に怠く、大地に倒れ込んでいる。頬が大地にタッチしており、全く体を動かす事が出来ない。初手、神へのディスりと中指だけはもはや本能で行ったようなものだ。それ以上は全く体が動かない。発声器官もドラゴンとは構造が違う様で、声を上手く出す事が出来ない。だから全神経を集中させ、自分という肉体をコントロールする事に神経を注ぐ。

 

 魔法はどうか? いや、駄目だ。肉体が新生されたので上手く制御できるか解らない。ほとんどの魔法は詠唱必須だし、無詠唱のそれも肉体の変異に伴い、歪んでいるかもしれない。そう考えると簡単に魔法に頼る事は出来ない。それに片腕が無くなってしまったせいで、今までとは同じような感覚で動かす事も出来ない。困った。

 

 だが頑張る。

 

 陽の光が沈んで行く。

 

 そしてまた朝がやってくる。

 

 そして次の日がやってくる。

 

 飢餓は感じない。ドラゴンをベースとしたカラーになったから……なのだろう、たぶん。まだ自分の体を調べられていないから解らない。ただ、恐ろしいほどに体が鈍く、そして感覚が鈍い事も解った。戦争で頑張ってレベルを100ぐらいにまでは上げていたつもりだったのだが、その力を全て失ったような感覚だった。あぁ、嫌がらせでレベルリセットされたのかもしれない。そう思うとこの脱力感も納得できる。

 

 まぁ、それでも、頑張る。

 

 時間はかかるし、日にちの感覚が狂っている。朝になったと思えば既に夜だった。それでも少しずつ神経に感覚を通し、それを肉体と馴染ませ、少しずつ、少しずつ、体を動かしていく。

 

 そして漸く、何日か、或いは何週間か、それだけの時間を大地に倒れたまま過ごしてから、体を転がす事が出来た。漸く、前面が大地から解放され、空を見上げる事が出来る様になった。そうやって見上げた空はどこまでも蒼く、変わり映えがなく、ドラゴンの時見ていた空と変わりがなかった。なのに今、それが遠く感じた。翼を失った喪失感。尻尾を失った喪失感。それを肉体に感じ取っていた。

 

 そしてかつてはトロンをにぎわせていたドラゴン達の姿が、ない。

 

 何年、何十年……或いは何百年、眠っていたのだろうか。転がり、見上げながら見える風景は、崩れた岩場に苔が生えている。間にツタが育ち、そして木々が少なくとも数百年、育っている様子が見えた。その間、どうやら自分は一切触れられる事はなかったらしい。或いはそれは、サービスなのかもしれない。どちらにしろ、

 

 ドラゴンが滅んでも空は蒼かった。

 

 何故―――空は変わらず、こんなにも蒼いのだろうか。

 

「……っ、ぁ……ぁ」

 

 声を出し、空を見上げ、それだけで涙が出て来る。既に絶望しているという事実はそこにあった。だけど最初から、生まれてきた時点でこの世界の真実を知って、絶望していた。救いがないという事も解っていた。もう、心は砂になって砕け切っていた。それでもまだ、体は動かせていた。絶望しきってもまだ、動く。これ以上なく絶望しているから、これ以上絶望する事も出来なかった。だから涙は出ても、意思は途切れない。体を、声を動かそうとする。

 

「っ、ぁ、ぁ―――」

 

 首を動かし、視線をズラす。少しずつ動く様になってきた体で、視線を空から、下へと移動させ、

 

「巨乳になったら下が見えないってマジだったのかよ! ワオ! あ、声出たわ」

 

 自分の胸に生える乳房の姿、そしてそれによってブロックされる視界に、ある種の驚きと感動を覚えた。こりゃあ是非ともSNSで拡散しなきゃならねぇなぁ! と思ったが、そういやスマートフォンが絶滅している世界だった。しゃぁねぇなぁ、と思いながら今のショックで体が動く様になったのでもう一度転がり、片手で体を支え、足をふらふらさせながらなんとか三足で体を持ち上げる。

 

「ふぇ、へへへ、へへへ……やっべぇ、二足歩行とか久しぶり過ぎて逆に笑えてくるわへへへ」

 

 数百年ぶりに人の体だった。笑い声しか出てこない。狂ってしまったように笑い声を零しつつ、ふぁさり、と自分の前に見慣れた色ではあるが、見慣れないものがおりてきた。金髪―――正確に言えば白に近い金髪、世間ではもっとも美しい色の髪色の一つ、プラチナブロンドと呼ばれる色合いの髪が上から降りて来たのだ。

 

「おぉ……俺の髪か」

 

 触れてみて、結構いい艶をしているのが解る。体も結構しなやかで、胸もある。ケツは……ちょっと見えないけどさわってみた感じ、大きさはない。まぁ、顔は見てないが美人じゃねぇの? って思える要素は揃っていた。そして額に触れてみれば、

 

 通常のカラーとは違う形状のクリスタルの感触がそこにはあった。触れてみればそれが紡錘形であるのが解る。通常のカラーとは違う形状のクリスタル。つまり、ドラゴン・カラーとしての特性を引き継いだまま、ヒューマン・カラーにコンバートされた、ハンティ・カラーと同種の存在である事を示している。という事はドラゴンとしての力を覚醒させればこれが《第三の目》として開くのだろう。

 

 オイラはシヴァ……?

 

 あ、でも腕が複数あるのはハンティの方だ。インド枠はあいつにくれてやろう。

 

「よ、と、と、った。な、なんとか、バランスが、取れそう、だな、っとと」

 

 人間だった頃の記憶を引きずり出して体のバランスを制御しつつ、両足で立ち上がる。それで踏み出そうとするが、さっそく大地の上に転がってしまう。駄目だ、まともに歩けそうにはなかった。とてもじゃないがこのままでは普通に歩けない。しばらくは歩くのを諦めて、リハビリしつつ魔法の修正を行った方がいいんじゃないだろうか、これは?

 

「……ん?」

 

 人型にコンバートされても、ドラゴン・カラーとしての知覚が接近する生物の気配を察知する。葉の大地に座り込みながらその方向へと視線を向ければ、大地を害する様に歩く赤い、そして複数の触手を生やした姿が見える。タコさんウィンナーにも似たような妙な姿をしているのは、

 

 第三世代型モンスター、アカメの姿だった。

 

「こ―――」

 

「がぶり」

 

 三足で、ドラゴンの時に近い体勢で一気に体を突き飛ばし、そのままアカメに接近、たぶん……首元? らしきところに噛みつきながら、歯を食い込ませたままブレスを吐き出してみる―――出来た。光と熱のブレスをアカメの体内に直接流し込み、一瞬で焼き殺す。そして殺したアカメの肉を食い千切って咀嚼してみる。

 

「あ、フランクフルトみたいな味がする。こいつは食えるな?」

 

 獣の様にアカメを食い千切って咀嚼する。長い間食べていなかった影響か、物凄い飢餓感を急激に感じる。それをアカメを食い千切る事で腹の中に収めつつ、生焼け部分をブレスで焼いて最後まで全部食べつくしてしまった。

 

 そうやって腹の中を満たすと、多少は満足感があった。第三世代型モンスターはぶたばんばら、イカマン、アカメと食べられそうなラインナップが多いので実に楽しみだ。特にぶたばんばらって絶対に豚肉だよね? 鍋やひき肉にしても美味しそうだと思う。うん、そういう意味では楽しみだ。

 

「さーて、と。どーしたもんか……」

 

 今が何時かは解らないし、ここはたぶん翔竜山の傍だろう……場所を動かされていなければ。翔竜山を登れば生き残った同胞の姿を見つけられるかもしれない。だが同時に、そこには間違いなく狂ってしまったマギーホアもいるだろう。あいつは強すぎて、エンジェルナイトですら殲滅できなかった竜王なのだから。彼が俺を許すとも思えない。となると翔竜山には登れない。出来てカラーの森に引き篭もる所で限界だろう。この髪色を見れば一瞬で俺が誰だか、マギーホアなら解るだろうし。死ぬ事前提ではっちゃけてたのに今更マギーホアに会えるかよ馬鹿野郎。

 

「とりあえず……トイレかな……」

 

 なんか尿意がやってきた。ちょっと我慢して、適当に隠れられそうな所で―――下半身に感じる僅かな解放感と濡れた感触。なんかそんな事を考えている間に全く我慢が聞かず、自然と漏らしていた。

 

 違う、ドラゴンや男の体と全然違う。そもそもドラゴン、食べるものは完全に消化して排泄なんてしなかったし。男の頃はもっと普通に我慢できていた。男と女の体でこんなにも違うのか、と色々、問題を感じ始める。

 

 これは軽く、生理が来た時が恐ろしいかもしれない。ドラゴンの肉体、苦痛耐性高くてまるで生理とか平気だったし。

 

「あー……とりあえず川に行くか……」

 

 漏らしたままの汚れた体を放置する事も出来ない。早めに人としての尊厳が保てるレベルまで何とかしないと。そう思いながら嗅覚と聴覚を駆使し、記憶から周りの地形を思い出しつつ近くの川へと向かった。

 

 

 

 

 地形そのものは変化していなかったおかげで、川にどぼんする事が出来た。それであえなく窒息しかける事になったのが問題だったが。流石人間の体、ドラゴンより超弱い。第三世代型プレイヤーである人間は、ドラゴンよりも多様性を広げたものの、あの糞バランスをどうにかする為に、ドラゴンと比べると遥かに弱い生物として完成されてしまった。

 

「ふぅ……どーしたもんか」

 

 全裸のまま、川の浅瀬に座り込み、下半身を流れの中に沈めながら足を組んで座りつつ、どうしたもんだこれ、と頭を悩ませた。未来があまりにも遠過ぎる、目標を作るにしても今が何時頃なのかがまるで解らない。だからといって何かに溺れる程、暇じゃなかった。というか数百年付き合ってきた体なのだ、姿が人間になった程度で興奮するような物はなかった。

 

 というか寧ろ、ドラゴンの姿に慣れてしまったので人の姿の方に違和感を覚える始末だった。

 

「まぁ、だけど何もしないって訳にもいかねぇんだよなぁ……」

 

 娯楽が必要だ。定期的な悲劇が必要だ。だが同時に、未来への希望も必要だ。この世界で生きて行く上で絶対に必要な要素だ。なんとか、なんとか自分が《決戦》で人類を勝てる流れへと―――なんて事は考えない。

 

 それでもあの糞鯨に一杯食わせてやりたいというのは事実だ。

 

 とはいえ、服もない。武器もない。レベルも1……いや、アカメを殺して食ったから2ぐらいはあるかもしれない。それにしても足りないものが多すぎる。今の時代は? 今の文明は? 人はどれぐらいまで成長している? どこまで力をつけている? 今の勢力圏は? 魔人や魔王はどうなっている?

 

 問題や疑問があまりに多すぎる。そう思った所で、

 

「―――新たな魔王が誕生しました」

 

「あっ」

 

 振り返り、水辺に咲く花を見た。聞き覚えのない声はその花から漏れている。

 

「新たな魔王はスラル、魔王スラルになります。これにより来年からSS1年となります。お間違え無きように」

 

 アナウンスを終えたアコンカの花は黙り込んだ。それを聞いて、腕を組み、そして頷いた。SS歴の開始、そして魔王スラルの誕生。

 

 つまり、魔人ケッセルリンクがこの500年の間に生まれてくる。

 

「性転換魔法、殺してでも奪い取るぞお前……!」

 

 とりあえず生きる目標が出来た。SS歴が始まったが、それでも頑張って生きて行こうかと思う。




 という訳で次回からSS歴始まるよ。

 待ってろよ!!! ケッセルリンク!!!

 お前の!! 性転換魔法!! 貰うからな!! 絶対に貰うからな!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。