「は、ははは―――はーっはっはっは! 震えろ! 怯え―――たらちょっと傷つくからさらに震えろ! そしてもっと震えろ! 俺様一番……!」
人から見れば巨大過ぎる竜の手を拳にせず、その爪の鋭さを証明する様に一気にジルへと向かって腕を振るう。空間を轟音と共に、普段は全身で全力で繰り出す様な速度が軽々と片腕で出せた。発生する衝撃は斬撃となって後方へと抜けていき、異界の残骸を容赦なく真っ二つに引き裂きながら粉砕し、その残骸その物が弾丸となって流星のごとくジルへと向かって降り注ぐ。
「くっ、それでも……私は……!」
魔血魂の暴走を精神力で抑え込みながらジルが神魔式の瞬間移動で瞬時に姿を消し、回避しながら頭上を取ってくる。無詠唱で大魔法が放たれ、それが空間を跳躍して襲い掛かってくるのを、背後へと向かって体を翼で羽ばたかせながら、ロールを行う様に移動する。すさまじい魔法抵抗値を保有するドラゴンの肉体―――その中でも最高位に達した肉体は、魔法をほぼ遮断する。バックロールを行いながら尻尾を鈍器としてそのまま振るい、
空間を薙ぎ払う。
尻尾と大魔法が衝突し、尻尾が僅かに焼かれながら大魔法を叩き潰し、そのままジルへと向き直りながら爪を連続で振るう。滞空する爪撃が結界の様に連続で放たれ、一つ一つが必殺技のような殺傷力を誇る。連続で瞬間移動しながらジルが無数に魔法を連続で放ち、それで爆裂させながら距離を開け、大魔法をチャージする。
そこにドラゴンの巨体で高速で接敵する。正面から放たれてくる大魔法を爪を折り畳むように拳を握りながら、
「《ラグナロク》……!」
「《ウル・アタック》!」
Lv3の大魔法とLv3の必殺技が衝突し、僅かに鱗を焦がす感触と共に大魔法の脅威を突破した。口から反転極光の気炎を漏らしながらジルの真正面にまで接近することにした。片手に魔法剣を生み出しながらジルが口を開く、
「なぜ、《槌戦闘》技能を武器もなくっ!」
「これが! お前に対して振るう! 愛の鉄槌だからだ……!」
「くっ!」
「ご、おぉ―――」
ジルをそのままこぶしを振り抜いて殴り飛ばしながら、浮遊する大地に叩きつけて、貫通させる。それに合わせる様に六枚翼を広げ、その前にそれぞれ重力球を浮かべ、それに光を混ぜ、六つの同じ魔法を同時に完成させる。
「六連《ガンマ・レイ》……!」
放射される重力の破壊光線が広げて放たれ、それが収束する様にジルへと向かって空間を薙ぎ払う。大地を内側から破壊しながら空間への扉を広げたジルが、破壊光線の先を飲み込んで此方へと放ち返してくる。高速飛翔をしながら放射を続け、飛行しながら射撃と回避を行う。虚空を飛翔しながら駆け抜けて行く、次元の狭間へと漂流する物を遮蔽物にしながら、
尻尾で、大地や建造物を弾き飛ばす。
それが音速を超えた弾丸として―――一つの隕石や流星の様にジルへと向かって降り注ぐ。
「がっはっはっは! 漲るぜパワー! 溢れるぜパワー! 止まらないぜパワー!」
「力だけか!」
「そうとも言う!」
降り注ぐ脅威を前にジルが焦る事無く魔法を超広域展開し、それで空間諸共薙ぎ払ってくる。対応する様に体内で生成するドラゴンのエネルギーを口からブレスとして吐き出し、光のブレスがジルが放つ《ゼットン》《絶対零度》《メタルライン》《雷神雷光》《黒色破壊光線》《白色破壊光線》《ガンマ・レイ》、その全てが混じった連続砲撃と正面から衝突し、
体をひねる様に空中でバレルロールを行いながら回避する。ジルの魔法がブレスを貫通してきた。応戦する様にブレスと《ガンマ・レイ》を複数同時に発生させて連射しながら高速飛翔し、ジルとドッグファイトに持ち込むが、それでもジルの魔力がずば抜けている。
―――僅かに負けてるか……!
超越とも呼べる段階までレベルを上げ、魔血魂を暴走させ、心を剥き出しにした。それでも基本的に魔王化されたスペックが生物として高過ぎる。そのうえで此方の力もある程度取り込んでいる以上、ジルのスペックは凄まじい―――魔法という領域においては、戦ってもまともには勝てないだろう。
となると、此方の領域で戦う必要がある。
「愛の鉄槌、落とすぞ……!」
「惜しいが……今は遠慮させて貰おう」
ジルの姿が瞬時に消える。そして瞬間移動で接近する気配に咆哮を轟かせて、空間の流れを歪めて無理やりジルを空間の外へと叩き出し、瞬間移動をキャンセルさせる。だが出現するジルの側には既にゲートが出現しており、
そこから鋼の兵器が姿を見せる。
サイズから持ち出すことを完全に諦めていた鋼の兵器の名前はある次元、或いは異世界、スチールホラーと命名されるそこではこう呼ばれている。
「
「マジか」
大魔法を放ちながら同時にゲートを繋ぎ、そこから武装を召喚する様に引き出し、ミサイルを連続で放ってくる。流石に喰らったらやばいと解る地球製兵器に、攻撃を放棄して素早く飛翔する。虚空を逃亡する様に翼を畳んで加速し、追いかけて来る魔法をロールした回避をすれば、ミサイルが追ってくる。
「俺でさえやらなかったのにこいつ……!」
背後へと向かって《ゼットン》を放つ。ミサイルの爆風が一瞬だけ視界を覆い、直後、頭上に衝撃が来る。額の第三の目で視線を持ち上げれば、その先、角の上に立つジルの姿が見えた。両手でジルが角を掴み、
「おい、待て、角は結構敏感だから」
「お、あ、ぁ、あ、アァァァ―――!」
「がぁ―――く、そォ―――!」
前転する様にジルが角を掴んだまま、魔法と身体のスペックを使って角を引っ張る様に、
―――体全体を前転して投げる。
虚空に体が勢いよく投げ飛ばされ、追撃に《ラグナロク》が連続で叩きつけられる。全身を焼く大魔法の衝撃に痛みを感じつつも背後の建造物に衝突し、動きを停止させながら振り払うように体を引きずり出そうとしてジルが両手を挙げながら熱の塊を生み出すのが見えた。ゲートにより異世界から熱量を奪いながらそれを圧縮させるまた別の大魔法を放ってくる。それを目視し、翼を広げながら重力球を生み出して、結合し、融合させ、巨大な《ガンマ・レイ》を生み出して放つ。
「オォォォォォ、《カオスフレア》ァァァ!」
「ぐ、お、お……!」
放たれたそれを即座に迎撃する。だが黒く染まった炎は薄暗く発光しながら重力を燃やしながら迫ってくる。回避すべきなのだろうが、
ここで回避していてはジルに一生届かない事を直感する。咆哮し、空間を震わせながら翼を広げて大魔法へと自分から飛び込んでゆく。勢いに乗って大魔法が叩きつけられ、全身が燃やされる。だがそれを気合と根性と、後は無駄に高くなったレベルで耐え抜いてジルの正面に戻り、超高速で、巨体のまま衝突する。
「かはっ」
音速を超えた衝撃にジルが吹き飛ばされる。追撃のために加速しようとすれば全身に突き刺さる痛みに悲鳴が溢れ出る。視線を巡らせれば周囲にはゲートが、そしてそこから突き出す大量の魔法剣の姿が見え、それがアンカーとして体に突き刺さり、動きを止めていた。
「少しは、手加減しろォ!」
咆哮しながら束縛を力づくで無理やり粉砕し、開放される。そのまま世界回廊へと落ちながら魔法を紡ぐジルを追いかける様に落下する。見上げるジルが悲鳴に近い声を叫ぶ。
「誰も! 先生を救おうとしない!」
「頼んじゃいない!」
「自分で自分を救おうとしないなら無理やり救うしかない!」
「余計なお世話だ!」
「そうしなければ! 何も! 報われない……!」
そんなもの、求めてもいない。だけどそう―――俺に罪があるとすれば、ジルにそう思わせてしまったことが俺の罪なのだろうと思う。だから止める。求めてないし、必要もない。ウル・カラーという女はそんなものが必要ないほどに、自由な女であることを教えなくてはならない。
そう、
逃げたければいつでも逃げられたのだ。
ルドラサウムの力が及ばない、遠い異世界へと。何時でも逃げる事が出来た。
それでも俺はそれを選ばなかった。
落下しながら《ガンマ・レイ》とブレスを連射し、迎撃する様に落下し続けながら《ラグナロク》などの大魔法を放ち続けるジルへと少しずつ接近して行く。大魔法が衝突するたびに鱗が焦げ付き、《神光》が僅かに陰っていく。それを防ぐために心の底から勝ちたいと咆哮し、気合を入れて纏い直す。今、ここで頑張らなくて何時頑張るのだ。
「俺は―――」
ブレスが魔法を焼き尽くし、その先へと到達する。ジルへと接近しながら爪をこぶしに握り直し、必殺の《ウル・アタック》を放つ。《槌戦闘Lv3》の感触はしない。《魔法戦闘Lv2》の感触も消えている。全てがドラゴンとして回帰した瞬間、それに吸われたか、構成する為のパーツとして食われたような、そんな感触をしていた。だがそれはどうでもいい。重要なのは、
これが、Lv3に相当する力であり、
ジルと戦う為に必要なものであるということだ。
故に必殺技を放つ。ジルという小柄な女の姿に対して人類の知覚を超えるこぶしを放ち、拳だけではなくドラゴンの巨体での蹴りと尻尾による鞭打、そのすべてで《ウル・アタック》を放つ。対抗する様に放たれる大魔法が必殺技との衝突でお互いの体を焼き焦がし、体から血を流させながら炸裂して行く。
「―――それでも、お前と会えたこの世界を愛している……!」
「っ……!」
ジルの攻撃が一瞬揺らいだ。最速で突進する。頭からジルに衝突し、回廊の漂流物を粉砕しながら突き進み、その姿を吹き飛ばした。弾き飛ばされたジルの全身に裂傷が走り、血を流す。
そう、魔の血を。
どろりと、厄と殺を込められた魔血魂。魔王に宿る最悪の存在。魔王という存在の人格。暴走するそれがジルの体から少しずつ、流れ出す。受けたダメージ、勇者のそれが呼び水となり、この戦闘で蓄積するダメージが魔王から魔血魂を追い出しかけている。後少し、あと少しでジルを魔血魂から解放出来るのを確信する。
そうすれば―――此方の勝ちだ。
「だとしてもっ!」
瓦礫の中からジルが立ち上がった。ボロボロのドレスを引きちぎり、涙を流しながら叫ぶ。
「だとしても! それは
「ジル」
「神々の愉悦も、救いのない未来も、教えなければ学ばない餓鬼の鯨など必要ない! その上で全てが終われば邪神のものになる魂、死んでも救われないなら私が救うしかない、救うしかないのだ……!」
言葉で語り尽くしても分かり合えないことは明白だった。
勝利し、言葉を押し通すしかない。それしか勝利するカギはない。
故に、全力を繰り出す。翼を広げ、その先端から持てる力を全て圧縮し、目前に光と重力の集合体として生み出し、極限までそこに《神光》を織り交ぜて、圧縮する。同じようにジルも魔法陣を描き、極限まで魔力を引き出し、最大最強の一撃を放つ準備に入る。
相手が同じことを考えていることを悟りながら、
目の前に生み出した極黒球体に噛みついた。
そしてそれを飲み込む。
体内で生成するブレスと合わせ、翼の先端からたぎらせたエネルギーを集中させ、体内で融合させ、昇華させ、それを超越として吐き出す為の準備を整えた。内臓をエネルギーが暴れ回り、内側から激痛が走るのを堪えながら、ドラゴンの身でのみ行える最強の必殺技を放つ為の準備を終わらせた。
視線を、そこからジルへと向け、彼女も同じように大魔法を放つ体勢に入っていたのを見た。
「こいつで、終わりにしようぜ……!」
「ここから、この世界から絶対に連れ出す―――その為に、私は耐えてきた」
視線が一瞬だけ交差し、互いにその瞬間に必殺技を同時に放つ。ジルは《ラグナロク》を複数の大魔法を織り交ぜて融合し、それを全てのみ込んで生み出した一筋の闇の砲撃。魔王としてジルが磨いたものだけではなく、それ以前の経験も、それからの全ても、学んできたことを諦めずに積み重ね、その先へと進むように進化させた、ジルだけに扱える究極の大魔法。
「《ラグナロク・デストラクタ》ァァァ!」
全てを完全に消し去る、空間消滅のそれは、ジルが最後まで使わなかったシステム権限、《削除権限》のそれを魔法として完全に再現させたものであり、突き進む空間がそれによって消え去っていく。
合わせ、自分が放てる最強の一撃を、ドラゴンとして、ブレスとして口から放った。
「《
言葉にならぬ咆哮をブレスと共に放った。黄金から極黒へと反転してから白く染まった咆哮が空間を抜けて行き―――ジルの大魔法と正面から衝突する。本来、戦いにおいてあり得ない拮抗、
だがそれは発生した。
「ぐっ」
「ぐるるぅっ……!」
必殺と必殺、超越と超越。大陸で行えばどれだけの被害が出たかわからないような奥義が衝突し、拮抗する。だがそれも、
「これで―――!」
ジルに軍配が上がる。
少しずつ、少しずつ、吐き出す力が減って行き、ジルの力が押し込んでくる。互いに血を流しながら向き合い、全てを吐き出して叩き続けている。一度天秤が傾けばもはやそれが元に戻る事はあり得ない。
故にジルの大魔法が一気に押し切ろうとして、
蒼い流星が回廊を駆け抜けた。超高速で飛翔するそれは
エスクードソードによって次元に僅かな裂け目を生み出し、カムイが全力投擲したそれが大魔法で押し切ろうとするジルへと向かって飛翔する。回避不能な速度で迫るそれを、
「先生と私の間に入るなァ!」
ジルが片腕でバリアを張り、一瞬で破壊されるも、それを僅かに反らす。勇者、渾身の一撃が失敗に終わる様に見え、
ジルが僅かに反らしたエスクードソードの先に、
ルドぐるみが漂っていた。
「しまっ―――」
言葉よりも早く、ルドぐるみの尾びれがエスクードソードを弾き、それをジルへと叩きつけた。威力自体は全くない。だがエスクードソードは【刹那モード】へと突入していた。それ自体が魔王に対するような毒、劇薬、アポトーシスのような存在へと変貌している。
それゆえに、僅かな攻撃でさえ、ジルに対する負担は凄まじいものとなり、
―――その魔法が揺らいだ。
「―――!」
瞬間、残された全ての力を吐き出す様に一気に力を込めた。残された力、そのすべてを《ウル・アタック》へと込めて吐き出し、一瞬で揺れた大魔法を飲み込んで、そのままジルへと迫った。
その景色をジルが目を見開いて見た。
「その娘の体から出ていけ」
そして―――ジルの姿が咆哮に飲み込まれた。
これにて、元賢者ジルとの決戦、決着。
次回、魔血魂、血の記憶、継承、そして魔王。
次に来るのはULか、GIか、或いは血の記憶の終わりか。