「ふぅ―――こっちに来るのも久しぶりになるな、ルドべぇ」
その言葉にルドぐるみが大地の上をびたんびたんと跳ねるので蹴り飛ばして送還する。流石にこれから人類圏を歩くのにルドぐるみと一緒だと一瞬で正体がばれてしまうからだ。個人が特定できなくなるように印象をぼかす魔法を使いつつ、帽子にはキャスケット帽とゴーグル、動きやすい冒険者ルックに黒腕を生やし、その見た目を通常の腕の様に魔法で騙し、変装は完了する。長年磨いてきた変装スキルは人類で戦っている間にパンドラをはじめとした諜報部から学んだ技術でもある。
たとえ技能が存在しなくとも、経験によって自分の行動をコントロールすればなんとかなる。そういうものもある。
ただし、スラルの料理は除く。
なんで虹色に輝くのアレ?
経験でカバー出来るものもあれば、なぜかウルトラCを描いて輝き続ける技能もある。まぁ、そこらへんは創造神であるルドラサウムがぽやぽやしててどことなく適当だししゃーないとも言えるかもしれない。ともあれ、魔法と技術、経験を駆使して変装を行えばちょっと美人さんの
GIに入ってしばらくJAPAN圏をうろつき二代目妖怪王とか魔王戦争が終わった後で名乗り始めた妖怪の顔面にウルキックを叩き込んだり、うっかり異世界を彷徨ったり、異世界でウル様大冒険したり、お礼参りしたりしてしまえばそれなりに年月が経過していた。数年なんて昼寝で吹っ飛ぶ程度の時間という認識しかしないが、それでも人間からすれば数年という期間は非常に長い。その長さに関しては少し前に味わったばかりでもあり、
そろそろ、大陸の方も混沌から復帰しているのではないかということから、
JAPANを出る事にした。
天満橋を抜けた先、大陸南東部へと入って向かう場所は無論、自分が終わらせた場所であり、そして現在はどうなっているのか、気になる場所でもあった。正史には存在しなかった俺が作り上げた人類最強の国家でもあり、同時に俺が裏切ったとも言える国家だった。使用された技術の大半は無論、バランスブレイカー認定されているため、ALICEから魔王戦争後は解体指示を出されていた。それをガイに任せることでジルの次の魔王であるガイが、
一種の茶番である。
だがガイは先代の魔王よりもさらに恐ろしいというのを見せつけなくてはならなかった。それは必要な行いだった。人類には敵が必要でもあった。その結果が解体と同時に行うこの茶番だった。そしてその結果、ククルは解体されている筈、なのだが、
JAPANから出て、西へと向かって進む。
そしてかつて存在していた一つの都市を基盤として超国家ククルは解体されており、
それは広い範囲に広がる様にもっと大きな国家、そして複数の都市へといつの間にか姿を変えていた。
JAPANの天満橋から急がず歩いて二日ほどでもう小規模ながら街に到着する事が出来た。ここはいわゆる自由都市地帯と将来的には呼ばれるエリアだったが、既にある程度しっかりとした建築をベースにした都市が建造されていた。ククルの様な戦争と生産を目的とした超都市ではないものの、道路はタイルによって舗装されており、歩きやすく整備されている道路が用意されていた。その光景にちょっとだけ驚いた。
「んー、もしかして予想外に結構時間経ってた?」
キャスケット帽を片手で押さえつつ、ぐだぐだやるときは徹底的に時間間隔が狂う自分の種族の性を嘆く。まぁ、それはともあれ、見た感じ10年以上は時間が経過している様に思える。
その事実にちょっとぞっとしない。普段ならもうちょい時間の変化とかに気付くのだが引きこもっていたのがJAPANというのが駄目だったのだろうか? あそこは基本的に人間と妖怪が戦ってるか、或いは人間と人間がずっと殺し合っているだけの環境だから本当にどうしようもない。時間が経過してもやってることが何も変わらないのだ、あそこは。
「……うーん、しかしこの感じ、ククル中央は解体されたか?」
まぁ、何年前の話になるんだよ、という話である。まずはどこかで適当に情報収集するか、と久しぶりにJAPANを出てきたところで探索することを開始する。タイル張りの道路の上を歩けば、忙しそうにうし車の行商人が道を抜けて行くのが見える。忙しく資材などを運んでいる姿を見れば、まだまだ街を発展させようとする意志が見える。どうやらこの小さな街も発展させる心づもりらしい。
……これ、自由都市地域が別の地域にならない? とは思わなくもない。
と、そんな事を考えながら街中を歩く。
やはり天満橋が近い事もあり、JAPAN人の姿が見えるが、それでも多いのは大陸の人間だ。その中にカラーの姿は流石に見えない。配下のカラーには全員、引き上げて森に戻る様に指示を出していたが……流石に逆らうやつもいないだろう。人類は直ぐに目を離せば成長しているなぁ、とその雑草の様な強さに感心しつつ街中を進んでゆく。
とりあえずは、セオリーだ。
酒場だ。情報を求めるのなら酒場を探すのが一番だ。これは古来ファンタジーのお約束ともいえるものであり、同時にこの世界での基本でもある。冒険者共は大体酒場で情報収集するのだ。
なぜなら仕事の後の一杯は美味しいから。
「さて、俺が居る間はギルドなんて必要なかったからなぁ……この時代はどうかな」
呟きながら通行人を何人か捕まえ、この街で人の集まる酒場、或いは情報収集の行える場所を聞き出してみる。やはりというべきか、質の良い冒険者が集まる酒場があり、そこで仕事の依頼なども行えるらしい。それを聞いて感謝しつつ酒場へと向かう事にする。
薄暗く汚い店内に怪しい連中が集まっている―――なんて事はなく、開け放たれた窓から日の光を受け入れている酒場の店内の様子はむしろ落ち着いているもので、暇そうにしている冒険者もいれば、掲示板を見て仕事を選んでいるような連中の姿も見える。流石に整った身なりはしていないが、それでもどことなく傷のある装備に注意深く入店する存在を窺う視線、そして情報交換しながら次の行動を決めようとする姿は確かに、冒険者の姿だ。
懐かしい。GLに入ってから冒険者という連中は絶滅危惧種になっていた。何せ、GLの間は魔人が唐突に人間の集落に出現して皆殺しにする時代だったし、人間の大半は家畜だった。あの状況から人類は立ち直れたのだろうか? 少なくともククル周辺は復興している様に思える。まぁ、それでもククルがあった所を見なければ判断するには早過ぎるだろう。
そう判断し、適当な席を取って座る。ミニスカートのウェイトレスが此方が適当に座るのを確認すると、メニューを片手にやってきた。
「お姉さん、綺麗な人ですね」
「ありがとうよ。エールだ、まずはエールだ。後はお勧めのおつまみセットで」
「はーい!」
昼間から飲む事に対する躊躇はない。なのでエールを注文してしまう。最近は清酒ばかりJAPANで飲んでいた記憶もあり、こういう場所へ来るとあの雑なエールの味が恋しくなってしまう。あぁ、でも偶には異世界産の美味しいラガービールも悪くないと思える。今度、異世界に行ったら酒でも買い込もうか。食べ物だけならバランスブレイカーに認定されないし。
あぁ、だがカップ麺は戦時携帯食の事情改善の危険性があるって前ダメって言われたっけ。そこらへんALICEはきっちりしてるよね、とは思う。いや、俺に対して特例が多すぎるだけで本来はもっと残忍なのだろうが。こう思うとなんだかんだで今までやってきたことも無駄ではなかったと思える。なんだかんだで、世界を違う方向へと引っ張る事ができた俺は、それはもうルドラサウムに気に入られている。
鳩のハードル上がってない? と自分の行動を冷静に見直しながら思う。そうであっても、未来へと到達する事そのものが一つの試練だからしゃーないのだが。
「あぁ、考え出すと憂鬱になるなぁ……」
やらなくちゃいけないこと、やりたい事、色々とあって大変だ。まぁ、義務と思っていたことの大半は今では投げ捨ててほとんどやりたい事になっている。ランス君が生まれ、そしてがははと笑いながら冒険する様子は俺だって見たい。凄く見たい。物凄く見たい。それはそれとして今更ながら、軽くロリ化した方が変装には適していたのではないだろうか? と気づく。
「俺、こういうパターンが多いなぁ……ケアレスミスというか……集中力足りてないのかなぁ……」
はぁ、とため息を吐きながら片腕で額を押さえながらテーブルに肘をつく。運ばれてくる冷えたエールを受け取りながら視線を店内へと巡らせ、そこに見えるものを確認する。酒場の奥には冷蔵庫らしき魔道具が、掲示板は絵だけではなく文字が書かれている。文字が使われているという事は、つまりは教育するための基盤が出来ているということだ。ククルはそこらへんめっちゃ気を使ったのだが、どうやらこのJAPANに近い地域でも結構識字率は高そうである。
まぁ、文字を読める読めないはかなり生活が変わってくるから、効率的に生きる上では必須ともいえる能力なのだが。
あー、ダメだ。考えるの面倒になった。
この先の未来で、自分が再び指導者になる様な流れは来ないはずだ。聖魔教団はMMルーンがいるし、ハンティは関わるかもしれないが俺は興味ない。聖魔教団にカラーが便乗するならそれでいい。俺自身は全く興味ない。まぁ、カラーが便乗するという選択肢を取ったらケツ持ちしてやるだけだ。流石に全部面倒を見る気にはなれない。もう統治者は疲れた。二度とやらない。
いいか、二度とだ。
良し。
心の中でフラグを建設し、エールと一緒に食べられるおつまみを貰った。シンプルなチーズとくるみにサラミのセットだがこういうチープなのもたまには悪くない。とはいえ、こうやってエールを片手に安っぽいつまみを突っついていると、ルシアが作ってくれるおつまみセットが恋しくなってくる。アイツも料理の腕前を上げたもんだよなぁ、としみじみ思わなくもない。俺も久しぶりになんか作りたくなってきた。
外食も楽しいが、自分で作るのもそれはそれで楽しい。
うーん、やはりスパイス探しの旅にでも出るべきか。異世界から輸入するのが早いのだが、それはそれで情緒がないし。やれることは結構あるのであれこれと結構悩んでいる。
時間は無限に有限なのだから、その使い道を考えないと実にもったいない。
「とりあえず今がGI何年か調べる所から始めるか……」
エールに口をつける。この安っぽい味、まさに庶民の味だ。だけどこの雑さが嫌いじゃないのだ。上品なものばかり食べていてもつまらないしなぁ、と思っていれば、こちらに寄ってくる人間の姿が見えた。どうやら身なりからそれが冒険者であるのが解るが、明らかに此方を食い物にしようとする視線が見て取れた。
流石にここまでストレートな視線を受けるのはかなり久しぶりだった。この視線を向けられるとあぁ、ルドラサウム大陸に戻って来たな……という感慨深さがある。
「よぉ、そこの美人さん」
「あん?」
「ちょっと俺らの相手をしてくれないか?」
「もちろん、ベッドの上でな!」
男の背後の方からのテーブルから下品な笑い声が聞こえる。ここまでストレートな誘いは本当に久しぶりというか、GLでは一切こういう出来事がなかっただけに、もう人間の質が下がってきているのかと思わされることでもあった。
……あそこまで苦労して築いたククルだったんだがなぁ。
積み上げるのは大変でも、崩れるのは一瞬だ。こういう人間ばかりじゃないとは思うが。
「帰れ」
「あぁ?」
「見て解らないのか? 美人が一人憂鬱な表情で酒を飲んでるんだぞ? ここは絵になる場面だから放っておいて遠くから眺めてろ。それがツウってもんだろ」
「お、おぉ……?」
解る、と頷きながら同意している奴がいるが、目の前の男はやや引いてから、此方の姿を捉え、
「……口は塞げばどうにかなるか」
そう言って口の端を持ち上げた。明らかに此方に対して強気に出ているのだが、その根拠はどこから来ているのだろうか? 不思議とこんなシチュエーションは経験したことがない為、ちょっとだけ興奮してきた。どうしようか、貴重な経験だ。
このままパンツひん剥いてチンコ採点してやろうか。
―――良し。
ひん剥こう。そう思った瞬間、下品な冒険者が力を失う様にゆっくりと床に倒れた。そしてそれと入れ替わる様に、長身、初老に入った男の姿が立っていた。
「女性を誘うのであれば、もう少し言葉遣いを改めた方がどうかな? ……と」
紳士的にそう告げて冒険者を気絶させた男はこちらへと視線を向け、苦笑した。俺もその笑う姿を見て、相手が誰であるのかを察した。
「お前……歳をとったなぁ」
「そう言う貴女は変わらず―――いえ、更に美しくなった。顔は解らなくても貴女を知る人は声で解りますからどうにかした方がいいですよ」
「あっ」
あちゃー、と片手で額を押さえる。そういえば声も変えないと駄目なのだろうか。ダメだ、下手な事をやるとやっぱり失敗する。ここら辺、技能がないのが関係しているのかなぁ、
そんな事を思いながら、男に答えた。
「久しぶりカムイ君。大きくなったね? 白髪も……白髪もってお前元々白かったな」
「ははは、お久しぶりです……四十年ぶりに会えましたね」
GLの決戦、あの頃勇者だった少年は青年となり、男となり、そして中年を迎え、それを超えて―――そして今では初老の男性となっていた。
時を経て、昔の仲間との再会だった。
お散歩気分で40年近く適当に徘徊してたやつ。長命の種の時間感覚という奴は本当に狂ってると思う。
という訳で40年後のGI、世界はどうなってるのかを60台に入りかけた元勇者に聞こう。