「うまうま。やっぱり買い食いも旅の醍醐味だな」
「ウル様は昔からよく食べていましたよね」
「見た目は華奢だけど中身は完全にドラゴンだからな。食べるときは結構食べるよ、俺」
特に《ドラゴンLv3》になってからは食事の量が一気に増えた気がする。《魔法》も《槌戦闘》もロストして、ほかの戦闘技能も全部食われた結果《ドラゴンLv3》という技能に達した。それは生物として最強格である事を証明する。ドラゴンは神が生み出した失敗作の一つだ。あらゆる能力が高く設定されており、生物として完成されている存在だとも表現できる。
その特徴は―――強さだ。
スペックとして最上級にデザインされた生物。ドラゴンという言葉はそのまま強さを意味する。そして《ドラゴン》技能はそのまま、生物としての格の高さを表現する技能だと思っている。技能レベルが低いとブレスを吐くことさえ一苦労するが、レベルが高くなれば当然の様にブレスが吐き出せる。ドラゴンとして備わった機能、その強さを運用出来る才能、素質、能力を示すのが《ドラゴン》という技能であり、《ドラゴンLv3》というのはつまり、ドラゴンという生物の中で最高位の素質と才能を証明し、その強さでほぼ何でもできるという事を証明するもの……だと思っている。
魔法は使えない。
だが魔法っぽい事は出来る。
武器での必殺技は繰り出せない。
だが武器を握って必殺技っぽい事は出来る。
ようはそういう風にとんでもない、あり得ない、或いは理不尽―――そう、理不尽とでも表現するべき能力と暴れっぷり。まさしくそれこそがドラゴンという生物、そして技能を説明する要素だと思っている。ただ今のところ、技能成長前にできた事しかできていないので、間違いなく能力を腐らせている。マギーホアに後で会おうと思っているのは、そこら辺を学ぶ為でもある。
話がそれた。
ドラゴンは強い。
エネルギーをたくさん使う。
良く食べる。以上。
美味しい。
「うまうま」
アカメフルトを噛み千切りながら味わう。縁日や祭り等での基本的な食べ物だが、まさか道中にサービスエリアみたいなスポットがあって売っているなんて思いもしなかった。ここら辺は一足先に文化が育っている地域のようだった。この様子だと定着した文化が自由都市地帯ではなく、別の国家を生み出しそうな気がする。あぁ、いや、それはそれで面白そうだから別に良いのだが。
だが300年後には聖魔教団が出没するはずだ。良く考えたらそっちの方で統一されるから消えるのではないのだろうかこの文明も? まぁ、なんにせよ、自分が表舞台で活躍する時代は過ぎた。
もうすでに色々と滑り出している。種は撒いた。後はそれが芽吹くのを待つだけだ。未来に対する変化の流れはもはや避けられない範囲になっている。ランスが生まれるとして、もうすでに前提となる幾つかの要素が破壊されている。
それらを俺が眺める日も実に楽しみである。
ふよふよと低空で漂うルドべぇは普段よりもやや大きめのサイズとなって自分とカムイを背に乗せていた。その上に乗りながら小走りする程度の姿で進んでいる。ルドべぇもルドべぇでふよふよと浮かんでいる姿はどことなくのんびりとしている様に思える。まぁ、のんびり出来ているのはいい事だ。
アカメフルトを食べつつ、それを飲みこみ、
「現実逃避をやめましょうか」
「そうだね」
視線を正面、未知の続く先へ―――城塞都市国家ククル跡地へと向ける。まだ、見えてくるのはかつて城塞都市を守っていたその城壁の姿までなのだが、その上が実によろしくない。城壁の向こう側、ククル内部の上空を暗雲が漂っている。そこだけまるで夜になったかのように暗雲が立ち込めて闇が渦を巻いている。
「何時から元俺の国ラスダンになったの」
「数年前に様子を見に来たときはこうではなかったのですが……」
元俺の国の様子が完全にラストダンジョンのそれとなっていた。たぶんこれ、勇者とその仲間たちが遠くから眺めながらあそこに魔王が……とか言えるような展開になるだろう、そういう感じのオーラを纏っている。完全に魔城とか魔境とか呪われた大地とかそういう感じのオーラを放っていた。その様子を食べ終わったアカメフルトの串を捨てながら見て、首を傾げ、
「ククルだよな?」
「その筈ですが、この景色を見ていると疑いたくなってきますね」
現実逃避を見ていつの間にかラストダンジョン化していた自分の国を見て、その周辺からも人の気配がないのを感じ取る。歩ける距離にまで近づいた所でルドべぇから降りて立ち上がり、カムイも剣を抜いて立った。ルドべぇの尻尾を握って何時も通り鈍器としてフルスイングする準備を整えた。肩に乗せる様に背負いながらうっし、と声をこぼす。
「悪戯した奴がいるかもしれねぇな」
「生まれ故郷で悪さをしようという者は少々許せませんなぁ」
ドラゴンと元勇者に見つかったのが運の尽きだな、と思いながらククルへと向かって戦闘態勢を取りながら進んでゆく。その先導をカムイが行う。
「正面からはガイ殿が強襲した時に封鎖されました。こちら側から今なら入れるはずです」
「頼む」
カムイが正面からではなく回り込む様にククルを囲む城塞の東方面へと向かって移動する。
「戦いが終わった後、一部の者はククルを放棄せずにいた為、ガイ殿が約束に従いここを破壊する為に動きました。ですが知っての通り、城壁はククルククルの亡骸から作られたため、余程特殊な攻撃手段でもない限りは突破できません。ですがそれを可能にしたのが魔人ムサシでした」
案内するカムイに従って移動すれば、城壁の一つが縦に大きく割れているのが見える。ムサシの必殺技、《次元斬》は距離、物質の強度関係なく相手を切り裂くことのできる究極の斬撃だと表現できる。ライコウの剣が回避不能の魔剣なら、ムサシの剣は防御不能の魔剣だった。石丸はそこらへん、
しかし死んでいるククルククルでは《次元斬》には勝てなかったか、と理解する。生きていたらどうなんだろうなぁ、とか、ジルが魔人総攻撃をかけてこなくて助かったなぁ、とか、ちょっと戦ってみたいなぁ、と考えたり、割れた城壁の隙間からかつての最強国家の都市内部へと進んでゆく。
「……」
「ようこそ、そしてお帰りなさい、ククルへと」
中へと踏み込むとカムイがそう声を後ろからかけてきた。それを受け取りながら中へと進み、荒廃したその姿を見た。メガストラクチャーとでも表現すべき構造をしていた建築物は破壊され、崩され、そして誰も住んでいない廃屋が並んでいる。人の気配は消失しており、荒れた大地が広がっている。40年、戦いが終わってから放置していた時間だったが、
「40年でこうなるものか」
「私の記憶が正しければここまで荒廃していたわけではありませんが……崩壊や廃屋はそのままですね」
「ふむ……」
どうやら土地がここまで枯れているのがおかしいらしい。片膝をついて黒碗を生やしながら大地に片手で触れる。まるで栄養を全て吸い上げられたように荒廃している。舗装された足元の大地は大量の亀裂を刻まれており、その合間から見える大地は砂になりつつあった。もう、この場で緑が芽吹くようなことはないだろうと思える。まぁ、ウェンリーナー辺りならその問題も解決できそうだが。死者蘇生ができるならこれぐらいも出来るだろう。暇なときに見つけて頼むのもありかもしれない。
代わりにイケメンの魔物を見つけてくるとかそんな感じで。
「一応は偶に流れの者が立ち寄って一晩休む程度には人が居たのですが……その気配もありませんね」
「あからさまに何かあったなぁ、これ。……奥に行くぞ」
「了解です」
久しぶりに戻ってみればこんな事になるのだから、つくづくトラブルという概念に愛されているなぁ、と思わされる。毎回毎回トラブルばかりってのも困るのだが。トラブルに遭遇して欲しいのはランス君であって、俺ではないのだから。そんなことを考えつつぬいぐるみと武器を手に、昔は知っていた景色を進んでゆく。
崩れた廃屋の姿は流石に、ちょっと辛い。
自分が積み上げて自分の都合で破壊した場所だったが、それでもその景色を見せられると寂しさを覚える。ここにいた頃は毎日がなんだかんだで楽しかった。また、あの頃の様な騒がしさを取り戻せるのは何時になるのだろうか。いや、この地はもう二度とあんな風にはならないのかもしれないのだろうが。
空いている手で軽く頭を掻きつつ市街地から商業区へと抜けて行く。こちらはさらに念入りに破壊されているようで、大規模な戦闘痕が見られる。技術関係は徹底して破壊する必要があった。それがALICEとの契約内容でもある。その為、最新の兵器や道具等を用意していた商業区と研究所は念入りに破壊する様に頼んだ。
その結果がこれなのだから……甘んじて受け入れるべきなのだろう。
「しかしなんだこりゃ」
「這いずったような跡ですね」
奥へと進んでゆくと荒廃した道路の上に、スライムが這いずったような痕跡が残されていた。しかもかなりの巨体で、引きずり、大地に痕跡を残しながら、周辺の建築物を押し潰し、
「溶かしてる……んでしょうか?」
「いや、これは吸収だな。これ、地層の断面見てみろ」
「あぁ、成程。押し固められているのではなく綺麗に抉られていますね」
「うん。跡がまだ綺麗だし、比較的最近だぜこいつは」
つまり、動き、這いずりながら何かが食いつつ移動している。そんな存在が居る。記憶の中にそんな奴いたっけ? と思い出してみる。レズ合体するラ姉妹は違うし、大怪獣クエルプランだってまだ存在していない。いや、あれはそもそも無機吸収とか行わないし。んー? と声をこぼしながら首を傾げる。
流石に歳を食い過ぎた。
【ひつじNOTE】を確認しないとここら辺、全く知識を思い出せない。
「参ったな、エンカウントしたことのある範囲だったらするっと思い出せるんだけど……まぁ、昔から勉強は苦手なタイプだったしな、俺は」
「とてもそうは思えませんが」
「いやぁ、そうでもないんだよなぁ。必要に駆られて覚えたのと、楽しかったから覚えられたのが大半で……」
まぁ、勉強なんてそこに楽しさを覚えられるか否かが判断の範囲だ。楽しければ積極的に覚えようとするだろう。そうじゃなければ覚えようともしない。それだけの事だ。まぁ、人間大半そういうもんだろうけど。
「んー、この感じ、奥に進んだか?」
「司令部の方ですね」
となるとそっちに何かがあるのだろうか? もう俺のじゃないけど、それでも元俺の国で好き勝手やってくれる奴は全員ぶち殺すと決めている。ただじゃおかんぞ、と思った所、
次の瞬間、危機を察知した。
それを同時に自分だけではなくカムイが察したのも理解し、言葉もなく大地を蹴って跳躍する。
その直後、先ほどまで歩いていた場所に砲撃が叩き込まれた。足場が粉砕され、廃屋が吹き飛び、破片が弾丸の様に飛び散って襲い掛かってくる。それをルドべぇをスイングして弾き飛ばし、カムイは切り払いながら互いに回避する事に成功する。
「敵襲とは余程ハイレベルな自殺志願者と見ました」
「人類最強と俺様を相手するとは―――っと!」
言葉を続ける前にさらに連打する様に砲撃が叩き込まれてゆく。その方角はバラバラ、異なる方向から連続で砲撃と表現できる爆裂が連続で叩き込まれてゆく。それを素早く身体能力任せに連続で動いて回避し、飛んでくる砲撃をルドべぇでスイングし、飛んできた方向へと向かって叩き返す。だがそれが何かにヒットするような感触はなく、むなしく弾き返せただけだった。
そのまま空中で一回転しつつ着地し、更に連続で叩き込まれてくる攻撃を見る。
「カムイ。10秒」
「お任せください」
ルドべぇを砲撃の中へと蹴り飛ばしながら両手をフリーにし、それを合わせる。そこに飛び込んでくる全方位砲撃を素早く割り込んだカムイが二刀流で動き回りながら切り払い、爆発に爆発をぶつけて連鎖爆発させる事で相殺し、その衝撃を此方へと届かせない。その間に素早く合わせた手で印を組み、魔法陣を組み合わせ、混ぜながら合体させて、
10秒ほどで空間干渉魔法を完成させる。それにより空間を乱し、空間干渉による魔法が行えなくなる。同時に、
「ガ! ン! マ! レイっ! わっしょい!」
《ガンマ・レイ》を拳に纏いながらそれを空間に殴りつける。狭間に隠れていた存在がそれにより空間の外側へと叩き出される。空間を殴り飛ばす様に割って出現するのは、瘴気を纏ったスライムの様な存在であり、
どこかで見た事のある様な武装をその体から変形させるように生やしていた。
「あれらは破壊されたはずの……食らって取り込んだのか?」
「さて、な。どちらにしろ俺の国での不始末だ。ぶち殺すぞ」
不定形、変形し、兵器を喰らって蠢く瘴気のスライム。その姿を睨み、飛んできたルドべぇの尻尾を掴んだ。
滅びた国の大地に現れた貪食のスライムとの戦いを始める。
謎の失敗作、一体何なんだ……!
という訳で新たな敵に登場。まだまだルドラサウム大陸には悪夢みたいな連中が残ってるんだよなぁ。