「ふっ―――」
一瞬で加速したカムイの姿が不定形の背後へと出現し、同時に不定形の後部が変形して盾を生み出した。それを両断しながら斬撃をカムイが叩き込み、擬態した兵装を背後から粉砕する。それに合わせてルドべぇで《ウル・アタック》を叩き込む。横殴りされた不定形が衝突した衝撃によってバラバラになりながら飛散し、その身から突き出ていた残りの兵装と姿を散らせた。
「どうだ……?」
ルドべぇを振り抜いた状態、大地を抉り取る様に放った必殺技に生物が粉微塵に消し飛ぶのは、ドラゴンという生物の腕力を振るう事が出来る自分からすれば当然の結果でもある。だが同時に、この程度で終わるハズもないというどこともない確信が自分の中にはあった。そんな奴が態々こんな場所に来るはずもないだろう。インパクトを叩き込むのと同時にそれを利用した反動で自分の体を後方へと向かって流せば、飛散した不定形が集まって姿を再構築するのが見えた。
「こういう物の定石はコアを潰す事ですが見えませんね……」
「つまり跡形もなく蒸発するまで消し飛ばせばいいってことだろう。やるぜ」
「合わせましょう」
視界の中で不定形のスライムが膨れ上がり、家を一つ飲み込めそうなサイズにまで膨れ上がり―――それをカムイの二刀が一瞬で交差する様に斬り払って押し込んだ。純粋に斬るだけではなく、押し込みながら叩く事でスライムを斬り裂かずに斬撃の衝撃を通し、その巨体を後ろへと押し込んだ。そうやって生み出す動きの始動に《ガンマ・レイ》を一瞬で完成させればスライムが《魔法バリア》を張りながら砲塔を無数に体から出現させ、鎖の様なアンカーを大地へと向かって伸ばしながら体を固定しようとする。
「うるせぇ死ねぇ……!」
砲撃と《魔法バリア》の上から《ガンマ・レイ》を放つ。極黒の重力砲撃が光を飲み込みながら貫く。貫通された所からスライムが《ガンマ・レイ》の内側へと向かって飲み込まれていき、着弾個所に重力球体が生み出される。そこに魔法陣を編み込み、黒い霧と風を生み出しながら雷鳴を巻き起こす。
「《ラグナロク》」
握り潰す様に完全に包み込んだ不定形の存在を蒸発させるために大魔法を放った。大地を抉りながら放った一撃が不定形をそのまま消滅させるのを魔法の感触で感じ取った。消え去ったのを感じ取りつつ魔法を解除し、ルドべぇを解放しつつ跡地を見る。生命反応はもう感じ取れない。スライムの一片までも完全に蒸発させ、消滅させる事に成功した。
「予想外に弱かったな?」
「或いは本体ではないのかもしれませんね……よし、剣身には何もついていないな」
ルドベェも一応チェックしてみるが、飛散したスライムの一部がくっついている、という事はなかった。破片からも再生しかねないので念入りにチェックしつつ、カムイと共に相手が飛散した辺りを魔法で焼き払って念入りに消滅を狙う。これで確実に殺したというのを確認する。
「こうやって念入りに潰す動きを取ると昔を思い出しますね」
「あの頃も割とえげつないゲリラ戦術取ってからな……」
殺せるときに確実に殺す。それがククルでの戦術の基本的な考え方だった。殺し損なった場合、間違いなく地獄を見るのは自分とその仲間だ。そうならない為にも、殺せるタイミングがあればそこまで確実にぶっ殺す様に、こういうタイプの敵は念入りに殺すことを目指す。しかし、予想していたよりも弱かった。
感じられる気配は間違いなくやばいと感じさせるものだったが。
「うーん……どっかで聞いた覚えはあるんだよなぁ……」
胸の谷間に手を突っ込んで【ひつじNOTE】を取り出しつつ、ページをめくって内容を確認する。魔物系じゃなかったと思うんだよなぁ、と呟きながら中身をチェックしていく。
「相手は解りますか?」
「あーん、どこだったかなー。どこらへんかなぁー。魔物系だったっけ? えーと……」
「ウル様……」
「今思い出す! 思い出すからぁ! あ、あったあった。こいつだ」
ページを開き、トロスと書かれている生物の存在をチェックする。条件に一致しそうなのはこれぐらいだ。進化をする凶悪な生物。
「トロス、ですか」
「そうそう。試作魔王トロス。弱かったらしいけど原始生物産の存在だった筈だ。丸いものから生まれたと考えればたぶん自己進化する生物だったんだろうけど……こういうことか?」
「どうでしょうか? 試作魔王と呼ぶにはあまりにも弱過ぎましたし」
「うーん……」
空を見上げる。トロス……トロスなのだろうか? それにしては弱く感じるし、たぶんまた別の生き物なのだろうと思う。まぁ、NOTE内には存在しないまた別の生き物かもしれないし、プランナーかローベン・パーンが新しく生み出した生物なのかもしれない。どちらにしろ、
今のスライムを討伐した所で空の暗雲は消えていない。原因は今のところにはなかったのだ。無駄―――ではないが、それでも余計な時間を食ってしまった。見上げた空の暗雲、その中心点は司令部の上にある様に思える。ここからも既に司令部の姿は見えるが。
が、確かめる必要もある。
「行くか」
「飽きない旅になりそうです」
「はっはっは、刺激のない人生なんざ死んでるのも同じだぜ」
「それは身をもって理解していますよ」
小生意気に言い返せるようになったカムイの姿に成長を感じつつ、司令部へと向かって進む。
そして到着した司令部は、当然の様にその姿を変質させていた。
まず、その壁からは結晶の様な鉱石が生えていた。幸い、虹色のアレではない。流石にそうであったらこの大地を全部消し飛ばす必要があった。自分の見た事のない透き通った、水晶の様な輝きの結晶は司令部を覆いながら、地面を伝わって広がっている。その内側からは確かにエネルギーを感じる。明らかにまともではないとその景色を見れば理解できるだろう。そして同時、自分の記憶にもこうなる原因が一切解らないことが理由で、首をかしげる必要があった。だが解るのは、
「次元の境界線が揺らいでるの……か? はーん、どっかとゲートが繋がったな、こりゃ」
「解りますか?」
「なんとなくな。感覚的部分が絡むから断言できねぇけど、このカオス具合は間違いなく《外》から浸食されている時のもんだぜ」
自然現象でそうなるとは思えないし。恐らくは《扉》がククル崩壊後に出現してしまったのだろう。或いは誰かが《ゲートコネクト》で悪さをした、という所か。時空間に乱れを感知しているから、それさえ直せば後はどうにかなるだろうとは思う。とはいえ、その特定までが大変なのだが。ともあれ、この様子だと司令部の中に問題の扉が出現している様に、自分には感じられる。
「カムイ、一番安全そうなところを斬って道を作ってくれ。俺がやると手加減出来ずぶっ壊しちまう」
「少しは手加減を学んでみたらどうですか?」
「いいんだよ、代わりにやってくれる奴がいれば。ほら、今はお前がいるし」
「全く、相変わらずどことなく不安にさせますね……ではいきますよ」
そう言うとカムイが水晶で覆われた司令部の壁を斬撃で一瞬で斬り裂いた。それで水晶と鋼鉄の壁を斬り裂き、斬り裂いたところを蹴って向こう側へと押し込む。そしてその向こう側に広がる景色を見て、あちゃぁ、と声を零しながら片手で顔を覆った。カムイもカムイで、あんまり嬉しそうな表情を浮かべていない。
そのまま、確かめる様に中に入る。
瞬間、視界が反転する。
視界は逆さまに、足元は階段を踏んで、周囲には宇宙の様な空間が広がっている。背後の壁が崩れている影響で、虚空の亀裂が広がっており、それが外へと通じる出入口となっている。完全に扉から浸食する何かに飲み込まれた影響で、空間が歪み、変質しながら、
「マジで俺の国がダンジョン化してやがる……!」
「流石ウル様ですね。後にも先にもこんな事を経験できるのもウル様ぐらいですよ」
「何笑ってんだてめー」
後ろから笑っているカムイの姿を見てから、逆さまに踏んでいる階段を見て、それが交差するこの不思議な空間へと視線を向ける。所々、《扉》の存在が確認できる。どうやら複数の異世界へと通じる扉がここには発生しているらしい。どういう事だろうか? とてもじゃないが、自然的にこんな事になるとは思えない。それに、どことなく下の方からは何か、強大な気配を感じる。
「……本体の方か? トロス。それとも別の奴か?」
或いはまったく別の異世界からの侵略者か。どちらにしろ、間違いなくロクな存在ではないのは確かだろう。司令部内部を完全にダンジョン化した上で、外側へと向けて侵食も行っている。このまま放置していればそのうち外へと向かって更に広がるだろう。これを放置しては置けないだろうが―――流石に、このまま奥へと進むのはただの自殺志願者だ。
「封印するか」
「出来るんですか?」
「俺を誰だと思ってやがる小僧」
階段を上がって軽くカムイの頭をぽんぽん、と撫でてから外に出る。カムイがそのあとに続いたのを確認し、黒碗を生やした状態で両手を合わせる。そのまま何度か組み合わせを変え、魔法陣を出現させ、それを重ねて融合させていく。また別の魔法をマルチタスクで発動させ、魔法研究用のノートを浮かべる。それを浮かべさせたままぱらぱらとページをめくらせ、空間魔法系統のページを表示させる。
額のクリスタルを開眼させ、第三の目を見開く。
「あー、えーと、これをこうして、ここを……あー、こうだったか? えーと、こう……こうだな!」
「見ているだけで不安になるんですが」
「なぁに、安心しろ。俺様はウル・カラー様だぞ! この程度どうにかしてやるさ! おっととと、アブねアブね……」
「ウル様??」
「ちょっと手が滑った! だけ! だからっ!」
腕を叩き合わせながら語尾を強く吐き出し、そのたびに魔法陣を拡大させる。そして生み出した虚空に描かれるワイヤーフレームの様な文様。火花の混じった光の線が優美な軌跡を描きながら魔法としての意味を生み出し、それをそのまま正面の司令部へと叩きつける。
貫通するそれは司令部をロックする様に嵌まると、その建物の表面にそのまま文様として刻まれる。
そこから生きるヘビの様に文様は動き始め、司令部の表面を走り抜けながら文様を更に複雑に絡み合う様に描いていき、内側から溢れ出す別次元の力を封じ込ませる様に割り、抑え込みながら、調律していく。そうやって封印術式を完成させて次元ダンジョンを外側から封印する。
両手を合わせた状態、サードアイを開いたままの状態でしばらく、手を組み続けて眺める。
「……ウル様?」
カムイが横から声をかけてくる。それを無視しつつ、竜鱗を纏いながら更に魔力を体から引き出しながら本気で力を術に流し込む。魔法陣の色が赤熱化していく。それが太くなり、更に締め付ける様に刻まれてゆく。流し込む様に力を込めながら、完全に内側から溢れ出す波動を抑え込むのに力を注いでゆき、術式を強化し、それを積層させる。複数の同式の術をリンクさせて重ね、効果をマルチに発揮させ、
「ふぅー、終わったー……」
部分竜化を解除し、注ぎ込んでいた魔力を切り上げる。疲れた所で後ろにルドべぇが回り込み、座り込んでくる此方のクッションになってくれるのでもふ、っと安心して着地出来る。良い子だ、とルドべぇの頭を―――なんでぬいぐるみの頭を撫でるのだろうかはさておき―――撫でて、軽く一息つく様に力を抜いた。
「ウル様、そこまで難しい事でしたか?」
「あぁ、いや、時空の封鎖とかそういうのはジルの転移や《ゲートコネクト》対策に腐るほどやったんだけど、内側からの力が馬鹿みたいに強くてな。抑え込む術を安定させるのに手間取っちまったわ」
予想外に浸食の波動とでも言うべきものが強かった。それを完全に魔力で抑え込みながら魔法で安定させるにはそれなりの労力が必要とした。俺か、《魔法Lv3》技能持ちでもなければかなりメンドクサイ事になっていただろう。
「が! このウル様が来たことが運の尽きだな!」
「……大丈夫ですか?」
「あー……定期的に再封印しなきゃダメだなこいつは」
カムイの言葉に立ち上がりつつ真面目に答える。マッハが出現しない辺り、放置した所で苦しむのはメインプレイヤーだけで、ルドラサウム大陸そのものは平気―――或いは俺が死力を尽くせばどうにかなる範囲なのかもしれない。どちらにせよ、自分がここまで苦労して封印したという事は、通常のメインプレイヤーではどうしようもないレベルだ。
だとしたら俺が定期的に再封印の為に来ないと駄目だろう。
「強度的に100年に1度ぐらいか? 定期的に様子を見に来ないと駄目だな」
「ですがウル様、100年程度なら寝過ごすでしょう?」
「カムイ君、歳をとって生意気になってないか? ん? おい、こっち見ろよ」
「はっはっはっは」
ったく、と息を吐きながら司令部へと視線を戻す。
ジルの一件で大体の厄ネタは乗り越えたばかりだと思ったのに―――どうやら、まだまだルドラサウム大陸はトラブルを欠かさないようだった。
という訳で????とはいったい何だったんだろうね!! 何者だったんだ……。
ジル戦でそれまで積み上げた全てを放出したような勢いだけども、それでもまだまだルドラサウム大陸にはネタがいっぱいあるからね。まだまだ敵はたくさんいるし、ランス君だって楽しんでくれるはず。
楽しんでくれるはず?
次回、帰郷。