レイピアを胸元まで持ち上げ、切っ先を上に迎える様に構える。
一度、二度と横に振るってから後ろへと軽く体を回しながら踏み下がり、力を込めてからまっすぐ突き出す様にレイピアを渾身の力で突き出した。姿勢制御、力の込め具合、それらを完全に全て制御して放った一撃に応える様にレイピアは空間を貫き、そして直後にその反動に負けて刀身から砕け散り、柄までぼろぼろに崩れて散った。ぱらぱらと手の中に残るレイピアだった物の塵を払いながら視線を戻せば、
「次はこれだ」
「ウル様此方を」
「うーん、壊れちゃった……むむむ……」
そう言って次の武器を投げ渡される。堕天使ルシアから受け渡された両刃槍を受け取る。数歩離れてから片手でバトンの様に回転させながら握り直し、軽く上に回転させながら投げ、落ちて来るのを掴み、それだけで両刃槍の持ち手が軋む。それに気にする事無く左半身を前に踏み込み、回転で載せた勢いをそのまま放つように右半身を前へと引きずり出しながら振り抜く。
それが完全に振り抜ける前に、塵となって砕け散った。
「次を」
「此方をどうぞ、ウル様」
「うわぁ、それは金剛貝を材料に使ってたんだけどなぁ……」
作製者の悲鳴が轟く中で、ルシアから大斧を受け取る。長さも刃も完全に人間の背丈を超える巨大なサイズの両刃の大斧を距離を空けてから持ち上げ、頭上で回転させてから背後の大地へとたたきつけ、大地を引きずる様に持ち上げてから振り上げ、飛び上がりながら正面、誰もいない大地へと向かって振り下ろす。耐えきれなかった柄が折れ、次に破壊が刃へと伝わり、そして攻撃よりも先に武器が粉砕される。柄だけ、何とかぎりぎり形を保っているが、それも強く握れば塵になって風に消える。
「あぁ……持つか!? って一瞬思ったのにぃ……あぁ、さようなら逆鱗……」
「次はこっちを」
「どうぞ」
マギーホアの指示に従ってルシアが此方に武器を渡してくる。次は刀だった。
離れた所で腰に構え、居合の姿勢から斬撃を放つ。一閃、二閃、三閃と連続で放てば刃が抜刀の瞬間に砕け散った。大きな斬撃の軌跡を空中に描く姿は好きなんだけどなぁ、と思いながら連鎖する様に鞘までが崩壊した。もう、この武器を使うこともできないだろう。塵の山となりつつある武器の残骸をルドべぇが吸い込んでいく。ルドべぇ、バキューム機能搭載。いつの間に。
「では次だ」
「どうぞ」
ルシアからオーソドックスな片手剣を貰う。そういえば剣とか王道な武器なのに、俺はあんまり使ったことないよなぁ、と思いながら握り直し、柄を両手で掴む。左半身を前に出す様にやや前傾姿勢となって剣を構える。
そこから一気に踏み込む。大地の上をギリギリで滑る様に飛び込み、通り抜けながら虚空を全力で切り抜いた。それに合わせる様に刀身が一瞬だけ歪み、時の遅れを取り戻す様に時間差ですべて砕け散った。柄だけが残った事はある意味、進歩だったかもしれない。それも投げ捨てると、
「これで近接武器は全滅ぅ……」
「やはりまともな武器で耐え切れるものはないようだね」
「全力で振るうとぶっ壊れちまうな」
ペンシルカウ発情求婚パニックから15年が経過した。
面倒な作業が大半だったが、それでもペンシルカウは少しずつ昔の姿を取り戻しつつある。前回の反省を促して都の中に水路をもっと通す事にし、それにより素早く火を消す事が出来る様に、少しずつだがペンシルカウというカラーの都を進化させている。個人的にはヴェネチアみたいな都市にしてみたいなぁ、とか趣味全開で思っていたりするものの、それにはまずここら辺を水没させる必要があるので、とりあえず案としては却下されている。楽しいと思うのだが、水のある都は。
ともあれ、そうやってペンシルカウに滞在しているとやっぱり、個性豊かな奴が育っているのが解る。その中でも特に個性豊かなのが森と自然に生きるカラーとしては非常に珍しく、鋼と炎に魅了されたエルザ・カラーである。ペンシルカウで鍛冶に精を出す彼女は趣味で武器を打っており、その為に様々な事を学んでは自分の作製する武器に技術として盛り込んでいる。ルドラサウム大陸的には間違いなく危険思想の類だろう。だがまだ何も作れていない事実からALICEからはスルーされている模様。
コネによる贔屓とかなんでもなく、こういう部分がALICEの管理下にはある。なんとなくだが大陸を混沌とさせる為の小さな火種を放置する、というレベルの様にも思えるが。
そういう訳で、ペンシルカウに戻って来て復興を手伝ったり新しく区間整備を行っている合間にこうやって自作の武器を持ち込んではそのテストを頼んでくる。そこに立ち会うのが同じ《ドラゴンLv3》を保有するマギーホアであり、いつの間にかそこに存在している従者筆頭のルシアである。
今日もまた、エルザが持ち込んだ近接武器の類は全て振り抜いて破壊した。
これまで此方の攻撃に耐えきれた武器は一つも存在しなかった。全てが全力で振るえばそのまま崩壊している。当然と言えば、まぁ、当然だ。ドラゴンという生物の最強の武器は己の爪と牙、そして肉体だ。それ以外の装飾はむしろ不純物だ。
「ドラゴンは肉体的、そして能力的な理不尽、怪物とも表現できる。私達は生物として比喩でもなんでもなく、上位の実力者としてこの大陸に存在している。それ故に武具の類はただの手加減の為の道具にしかならない。私がこうやってこのステッキを振るっているのもその為だ」
マギーホアがそう言いながら何時も使っているステッキを見せてくれる。バランスブレイカーで、かなり頑丈だ。だけどそれ以外の何物でもない。それを壊さない程度に普段は手加減して振るっている。それレベルで振るえば生物を一方的に殺さない、解りやすいラインだと言っていた。まぁ、自分の場合は全力で振るっても壊れないルドべぇがいるから別に武器なんていらないのだが、
それでも自分で作った武器を全力で振るう姿を見たい、との希望だった。だからこうやって付き合っている。根気よく数世代に渡って付き合えば、それなりに面白そうな事になりそうだ、と思いながら。
自分の手を見てぐーぱーと開き閉じを繰り返し感触を確かめる。
「呪いとかじゃないと思うんだけどなぁ。たぶん勢いとマッスル」
「なんで勢いと腕力だけでここまで粉々に壊せるんですか……普通こんな風にはなりませんよ……」
エルザは自分の作った武器の残骸を確かめながら分析している。それをマギーホアと一緒に視線を合わせて、首をかしげる。
「こうなっちゃったしなぁ、としか」
「実際それが全てだ。特にLv3の領域は常識から逸脱している。ある意味システムから半歩踏み出しているとも表現出来る。我々ドラゴンは強靭で、身体の理不尽とも表現できる。その極みが《ドラゴンLv3》で、私達にとって武器はこの肉体が最上級。だとすれば、純粋にこう答えられるだろう」
マギーホアがそこで一旦言葉を止め、
「
「格、ですか」
「そうそう、武装としての。強度それ自体の問題もあるだろうけど、武器そのものが
「なんですかそれは……」
「あー……」
でも確かに、【タワーオブファイア】や【クールゴーデス】をぶんぶん振り回すと壊れる事はなかった。衝撃で歪みそうになったらラ・バスワルドに必死に回収されてしまったが。アレ、そういえばこの子が研究用に預かっていたな、という事を思い出す。またぞろ、変な技術でも生まれてこなければいいんだがなぁ、
そんな事を考えながらちょっと離れ、拳を握り、左腕を生やしながら格闘の構えを取り、いくつか昔見て覚えた型をなぞってみる。
《格闘》の領分に入るであろう動きに、ちゃんと体がついてくる。不思議なもので、剣や槍、斧を握ってもそれを振るう事が出来た。この世界の法則的に考えると、保有しない技能に関しては、それを満足に振るうどころか、大失敗に常に繋がってもおかしくはないからだ。例えば《剣戦闘》の技能を保有しない者が剣を握って戦闘をしようとすれば、剣が毎回手をすっぽ抜けて空を飛びながら味方を殺すだろう。
技能が存在しないというのはそういうレベルで失敗を巻き起こす。
俺が釣りをしても全く釣れない、まともに釣れないのはそれが原因だ。技能が存在しない事をやるのがそもそもの間違いなのだが―――自分の技能基準で考えれば、
感覚的に言えば武器を振るっている時も、体で格闘を仕掛ける時も、《ドラゴンLv3》技能を使用している感じに近い。とはいえ、本来の使い方ではない分、魔法や武器を使って戦おうとすれば、その分力を発揮し切れないのも感じられる。
「技能って、上位であればあるほど、それで他の技能に対して代用できるって感じはあるよな」
「私がこのような姿に変わったり、起こす余技の数々も大体はドラゴンの力をそういう風に使える様に苦慮した結果だ。君が魔法や武具を使えるのも本来の使い方ではない、副産物から来るものだろうね……この大陸において、強くなる上では技能そのものの応用方法を探すのもまた一つの手だ」
ただし、とマギーホアが付け加える。
「私の経験上、最終的に竜体になって爪や牙、後はブレスで戦うのが何をするよりも強い。魔法も、武器を取るのも、戦術や戦略を練るのも
「うーむ……確かに」
腕を生やしたままの状態、腕を組みながら首を傾げる。結局のところ、ルドべぇを振り回しているよりも、ドラゴンの姿に回帰して噛み殺したり殴り殺したりする方が遥かに強いというのは解っている。ただし、ドラゴンの姿に戻るには相当エネルギーが必要だ。それを理解しているからこそ、マギーホアは猫人間の姿をしている。自分も、この人間体の姿からドラゴンの姿へと戻る事は、《ドラゴンLv3》へと至った時にある程度自由に変化できるようになった。
それでも人間の姿を維持しているのは今ではこちらの方が馴染み深いのと、ドラゴンの姿はやはり、非常に消耗が激しいという事実がある。それでも、暴れるならドラゴンでの姿の方が人間の姿をしている時よりも遥かに強いというのは事実だ。
ならメインプレイヤーとして、人間として戦う事に意味はないのか? そう問われれば違う、という事になる。この先の時代、自分が本気で戦ってしまえば不都合になるときも来る。なら
ほら、
【ランス03】が消えたのだ。
―――だとしたらノスの代わりにパットンをけしかけてリーザスを奪うのも楽しそうだ。
そうすればランス君と戦える。殺さない様に。しかし全力で戦えるように、一緒に遊ぶ手段を用意しておきたい。
そう、本気で戦えばもはやメインプレイヤーなんてぷちぷち殺せるぐらいの力があるのだ。慢心するわけではないが、自分に制限でも課さなければ、簡単に人間という生物は死んでしまう。そうなるとこう、
なんかの拍子にランス君を殺してしまう。
それはだめだ、実にダメだ。
将来的にランス君とは遊びたい。戦いたいし、一緒に冒険してもみたい。その時に全力で手加減できる武器がなければ困る。ルドべぇはなんか、こう、武器にしてて大丈夫? 本当に? って感じがあるし。
なので、全力で戦えるような武器が欲しい。
「ま、長い目で見て期待してるよ、エルザ。俺も俺で気合入れて強くなるから」
「私も久しく鍛錬になりそうな相手ができた事だ。レベルアップを目指してみても悪くはないかもしれないな」
まだまだ、強くなれる。レベルが1000程下がっているのだから、ロスした分、まだ強くなれるという事は発覚しているのだ。いずれ、ククルククルが再び復活するとして、メインプレイヤー最強生物をそれまでに出来るだけ強くしておく必要もある。最悪の予想が的中した場合、
復活完全体の血の記憶ククルククルにルドラサウム大陸の全生物が純粋な武力で絶滅するだろう。その事を考えると今から対策と鍛錬を1000年後の未来へと向けて準備し始めていても遅くは―――いや、相手の強さを考えるとやや遅いかもしれない。
まぁ、まだまだとれる手段はある。これからも何世代も生まれては死んでゆくのだ。その間の成長に期待しよう。自分やマギーホアの様な超長命種は、根本的に変化するのが難しい。今を積み重ねて強くなる事しかできない。だから短命な種―――人類のそういう成長に関しては眺めているだけで楽しい。
時折、理解も出来ない事をやらかす辺りが実に。
「さて……これで武器のテストは終わった事だしウル」
「ん? なんですかマギーホア様」
「何時になったら君は番を作るのかな?」
マギーホアが質問をそう投げてきた瞬間、背中を向けて逃げ出す。
「やだぁ! 俺様、番はまだやだぁ! 最低でも俺を倒せるような雄じゃないとやだぁ!」
「そんな事を言わないでくれ。私だって強制したい訳じゃないんだ。だがな、前回の発情期の事を考えると……」
「デリカシー! 雌に向かって発情期の話を切り出すとかデリカシーないですよマギーホア様! 100年絶交で!」
「待ちなさい、ウル……ウル! 見合いという形で始めるのはどうかな!?」
「うるせー! マギーホア様なんか大っ嫌い!」
「待ちなさい、待ちなさい……!」
マギーホアから逃亡しつつも、まだ、大陸に動乱の気配はない。半壊から復興しつつ、
今日もペンシルカウは騒がしかった。
マギーホア様、そろそろ孫がみたいの巻き。
翔竜山でも次の発情期はまだか……!? という感じの空気はあるので、それ対策でもあるのだけど、やっぱり一頭でもいいから新しいドラゴンが生まれて来ればそれだけで種族全体の未来が明るいからね。
やっぱりウル様には卵を産んで欲しい。あといい加減落ち着いてほしい。