「俺様が一人!」
「俺様が二人!」
「俺様が三人!」
「そして消えるッッ!!」
「消えるの」
「消えるのだ!」
忍者の真似事で久しぶりに《分身の術》とかを使ってみたが、三つに一時的に分身出来る程度で、中身はスカスカ、本場JAPANの忍者の様な綺麗な分身はできなかった。攻撃する事さえ出来ないだろう、これは。分身を作るために印を合わせていた両手を解除しつつ、成程なぁ、とラ・バスワルドの前で行っていた技能チェックを完了させる。分身が消えたのをチェックしてから動く。体を停止させてないと分身出来ない辺り、完全な失敗作だとも言える。とはいえ、《忍者》技能が必要なものだと思えば、それをある程度《ドラゴン》で補えているだけ、まだましなんだろうが。
それでも、
「出来る事と出来ないことの範囲が見えてきたな」
ルドべぇの背の上にごろりと倒れ込んでいるラ・バスワルドがそれを聞いて首をかしげる。まるで興味がなさげなごく潰しだった。魔王ガイからさえも管理したくないと放置させられた破壊の元女神の存在に関しては、食費を消費するだけして、仕事をしようとすると全て破壊してしまい、何もしないでもらうのが一番環境とお財布に優しいという悲しすぎる事実が発覚している。だからラ・バスワルドは生きている限り、ごく潰しであることを継続するのが世界の為になる。それはともかく、暇なのでラ・バスワルドをオーディエンスにしていた風に技能チェックを行っていたのだが、これで大体解ってきたこともある。
「Lv2やLv3の高位技能で代用できる範囲にもやっぱり限界があるか」
「一つの技能で何でも出来るようならそれこそ完全なバランスブレイカーなんだから当然じゃない?」
「それでも最上位のLv3技能は結構やれる範囲が多いぞ? それこそ解釈と応用方法でどうにかしてしまうレベルで」
例えば《魔法Lv3》は歴史の中でも一番ユーザーが多い技能である。特徴的なのはLv3で解禁される時空間への干渉能力だ。《魔法Lv3》ともなれば異世界へと扉を開き、そこから道具や人を召喚する事さえ出来る。極論、《魔法Lv3》になればほかの技能が駄目でも、それ一つで召喚やら魔法で操ってどうにかしてしまえばいいのだ。
《執事Lv3》だって執事なだけで魔法があるわけでもないのに、主の為であれば掃除し、侵入者を排除し、魔法を解除し、ワープの真似事までする。
つまり、技能は単純に出来る事の才能だけではなく、そこに複数の技能が格納されているのではないだろうか、という仮説だった。高位技能はそれ自体に複数の技能が組み込まれているという説だったのだが―――これは違った。いろいろと試した結果、純粋に高位技能が他の技能を取り扱う事が出来て、
個人の資質によって出来る事出来ない事、その範囲が左右される。
例えばハンティとジルでは同じ《魔法Lv3》でも出来ることが違う。ジルは繊細な時空系の魔法が得意だったが、ハンティは逆にそういう繊細な魔法は不得意で、逆におおざっぱで高威力な魔法の方が得意だ。これには人間とカラーの違いという部分もあるが、何よりも個人の性格や気質というものが反映された結果の様に思えるのだ。技能は。だからこそ《ドラゴンLv3》という技能をコントロールして、自分の出来る範囲を調べていた。
極論、Lv3の技能となってくると教えられるものではなくなってくる。
Lv3は完全な才覚を超えた領域。才能であればまだ、教えられる範囲も存在するだろう。だがそれを超越したのがLv3という領域になってくる。同じLv3から教わろうにも、教えられるようなものではないのだ。初歩的な部分は学べるかもしれない。だがその先からは感性の問題になってくる……様な気がする。
Lv3は伝説、とも表現出来る技能だ。
それを正確に捉える事は、他人には難しいだろう。
故に個人の力で何ができるのか、というのを把握しなくてはならない。根本は一緒でも、そこからどう変わるのは個人の気質や性質、素質で変わってくる。究極的には、自分とマギーホアの《ドラゴンLv3》という技能は別物だと表現できるからだ。基本的なドラゴンとしての動き方、戦い方、ブレスの吐き方などは教えて貰えた。だがそこからどうやって自分の力を使うかは個人で調べながら育てるしかないのだ。マギーホアはそれが物凄いストレートで、ドラゴンとして、ほかの応用もクソもなく肉体の強さ、その暴力で蹂躙するあり方が恐ろしいほどに強い。他のものが何もいらない。
俺は純粋なドラゴンとしての身体能力よりは、ドラゴンとして備わった光と重力の属性を操る方が得意だ。身体能力でぼこぼこするよりは、属性の力を操った戦い方の方が得意なのかもしれない。だからブレスとか、周辺の空間を捻じ曲げたり、殴ったりするより放ったりする方がもっと
逆にマギーホアはブレスはそこまで。肉弾戦メインである為、初級の魔法でさえ使用する事がほとんど出来ない。お互いに《ドラゴンLv3》でありながら発生するこの差は間違いなく、技能以外の要因によるものだと言えるだろう。
そういう訳で自分で出来る事をチェックしていた。
「魔法を使ったり武器をぶんぶんするのは結構いけるんだよな」
元々前から使っていただけあって、その延長線上で活用できる感覚だった。ただ間違いなく斧や槌を使った戦闘に関しては劣化したと断言できる。昔ほど技能のキレが良くなくなった。その分、重力や光に対する働きは遥かに向上したし、身体能力も底上げされているから、武器を握るなら殴り飛ばした方が強いという感じがある。
「ただその代わりに、細かい技術関係はもう、どーにもならんな、俺は」
《レンジャー》や《忍者》とかを始めとした細かい事に注意を払って成果を生み出す技能や、《技術》をベースとした剣術とか武術とか。そういうのが全般、駄目になっている。いや、完全にダメという訳ではないが、
全体的におおざっぱになっている。
前までは出来ていた細かい技術系統が使えなくなっている。
ただ、まぁ、
「
なんというか、《ドラゴンLv3》を獲得してからは、
たぶんだけど、自分の技能は
俺が人間的過ぎたから。或いは俺の魂が混入したから。それが原因だと思う。
「ま、これで大体俺が何ができるのか、ってのが発覚したからいいか」
戦闘全般は問題なく行使可能、その中でも適性が高いのが武器を振るったり叩きつけたりする事や格闘戦になる。つまり体を使った戦い方だ。その次に適性があるのが魔法であり、基本的には破壊系統、それも重力や光ベースの魔法の方が得意で―――時空系統も、簡単なものであれば単独行使出来る。
ただそれに比べ、ほかの作ったり、修復したり、回復したり、そういう系統が壊滅的になっている。簡単な《ヒーリング》程度であればどうにかなるが、それ以上の回復とかになってくると難しい。楽器での演奏も今では全く指が動かなくなるぐらいには出来なくなってしまった。料理も、得意なもの以外は作りづらさをどことなく感じる。
「しかしそれが解った所でどうするの?」
「うん?」
「いや、だから解った所でどうするの? 何か意味あるの?」
「特にない」
「特にない」
「いや、だって興味を満たしているだけだし」
「50年かけて?」
「50年かけて」
ペンシルカウに居ると本当にゆっくりと時間が過ぎ去って行くのを自覚する。ラ・バスワルドが言葉を口にしたおかげでもう既に50年がアレから経過しているのだと思い出す。ゆっくり流れているようで外の世界では時間の流れが一瞬だ。こうやって何かに没頭しているだけで気付けば人間一人の一生が終わってしまう。50年なら既に平均寿命を迎えた人間が死んでいるだろう。
もう、ククルの時代に生きていた普通の人間は全員死んでいる筈だ。
そう思うと少しだけ寂しい。
なんだかんだで、皆で暴れていたあの時代は楽しかった。
「……」
「ウル?」
「ん? あぁ、いや……他のみんなは元気にしているかなぁ、って」
「そういえばもう100年以上は会ってなかったわね。捨てられてから」
「意外と根に持ってるなお前」
ラ・バスワルドが不貞腐れる様にルドべぇの上でぼよんぼよんと体を弾ませる。ルドべぇの顔がやや潰れてから元に戻ったりして見ているのが面白い。しかし元魔王討伐隊、今では普通に魔王ガイの魔人として魔物界に引っ込んでいる連中だが、本当に何をしているのだろうか? ケッセルリンクは一回死亡して、そこから儀式によって復活したという話は聞いた。他の魔人もあの戦いに参加した連中は基本的に大怪我の影響で全く動けなかったとか。ブリティシュだけはまた旅に出たという話を聞いた。多分どこかで英雄として活躍しているだろうとは思う。
……やっぱ会いたいなぁ、連中と。
視線をラ・バスワルドへと向ける。視線を受けたラ・バスワルドが首をこてん、と傾げる。その姿に向けて中指を突き立てる。
「そろそろこの神々最大の不良品を魔王城に返品しに行くか」
「私の扱いが酷いんだけど。こう見えても私二級神よ」
「元って言葉を付けろよポンコツ」
「私に対する敬意足りなくない? 足りなくない……?」
だったらもっと神らしくしてみろよこいつ、と思った所でわー、と漏れる声が聞こえてきた。視線を声の方へと向ければ、チェック用に使っていた屋敷の裏庭に小さな侵入者たちが現れていた。屋敷の裏庭を外から遮断するフェンスとして働く背の高い植込みには目立たないが小さな隙間がある―――それこそ子供が入り込める位の隙間は。
ワザと残してあるのだが。
「ウルさまとごくつぶしだー!」
「ごくつぶしー!」
「その名前で私を覚えるのやめない?」
「ごーくつぶしー! それいけー!」
植込みの隙間から出てきたカラーの少女たちはまだまだ幼い子供の姿をしている。カラーの成長は非常に早く、数カ月の間に幼児まで一気に育つ。そこから20歳ぐらいまでは人間同様の速さで育つものの、幼児の間は非常にはしゃぐ子が多い。その為、昔から探検気分でこうやって忍び込んでくる子が多いのだが、
まぁ、ルートを用意すれば飛び込んでくる場所は指定出来る。
そういう事で昔からこの屋敷には、子供の為の忍び込むルートがあったりする。今でもそういう子供が隙間を通って裏庭にやってくると、そのままルドべぇの上に転がっているごく潰しに襲い掛かった。鬱陶しそうにラ・バスワルドが払いのけようとするが、ルドべぇが倒れそうだったり落ちそうな子供を尾びれ等でキャッチするので、適度な遊びになっている。
「ウルさまー! あそんであそんでー!」
「よーしよし、来い」
わーい、と飛び込んでくる子供を一人掴んで、それを全力で空へと向かって投げる。そこに通りすがりのドラゴンが子供を掴んでそのまま空を飛び回る。キャッキャしている子供たちを前に、片手で数人持ち上げながら片手でジャグリングを始める。楽しそうな笑い声が聞こえる。
「よしよし楽しいか? お前らは将来有望だなぁ」
「うーん、この違和感があるようで全くない光景」
上からドラゴンが解放して落ちてきた子を重力制御で優しくキャッチし、ジャグリングに加えて遊んでやる。重力の操作はお手の物、落としたとしても一切のけがをする事無くそのまま空へと射出する事が出来る。
「もーいっかい! もーいっかい!」
「つぎはわたしわたしー!」
「え、ぼくのだよー!」
「やだー! わたしがやりたーい!」
「こらこら、幼馴染だったら仲良くしなきゃダメだろ? そうら」
再び子供たちを空へと放り投げながら空の旅を楽しませる。やっぱり子供たちの相手をするのは楽しく、そして心が安らぐ。ここで生まれ育った子達は全員自分の子供の様な存在だ。それだけでもう、かわいい。
「そんなに子供が好きなら自分でも作ったらどうなの?」
「流石に自分の子を持つのは怖いしなぁ」
後、これでドラゴンが生まれてくるようであれば―――いや、ヒーロー・ヘルマンの事を考えると恐らく生まれてくるだろう。そうするとドラゴンの数が増えるだろうし、それによって生物のバランスも崩れてしまう。純粋に子を孕むのが怖いというのもあるが、それはそれとして、生物のバランスを崩すのは不味い。
「とはいえ、何時かは俺もなぁ……」
子供、欲しいなぁ。種の本能として。或いは自分個人の願望として。何時かは欲しい。そう思える相手は―――どうなのだろうか?
居るのだろうか?
現れるのだろうか?
ごくつぶしの魔人ごくつぶし。
子供好きのウル様。やっぱりどことなく自分の子供が欲しいなぁ、と思っているので完全に雌。女、ではなく雌。基本的に価値観が人間じゃなくてドラゴンであることを忘れてはならない。
子供、は二部へと繋がる要素でかなり重要なもの。
では不良品は返品で。