まぁ、ぶっちゃけ、ラ・バスワルドを魔王城に送り返す必要は皆無なのだ。なんだかんだでこいつが馴染んでいるのは事実だし、こいつ程度の食費で家計が傾くようなこともない。そりゃどれだけ食べた所で一人分の食費でしかないのだ、ガルティアでもないのだからそれで苦しむ様な事はない。だがそれはそれとして、ガイにラ・バスワルドを叩きつけるのは楽しそうだと思っている。それにそろそろ魔王城の様子を見たいというのも事実だった。
つまりラ・バスワルドを口実に魔王城へと飛び込もうという話だった。
歳を取ると行動の一つ一つ理由を付けないと行動出来なくなる。見栄とかを張りたくなってくる。歳をとっていい事なんて一つもない。見栄と意地ばっかり積み重なって中々自由に動けなくなってくる。それを一切持たずに動き回れるランス君が凄い、という話でもあるのだが。あのフットワークの軽さは本当にうらやましい。早く生まれてこないかなぁ、一緒に遊んでみたい。
そんな事からペンシルカウを出る。
大陸中央に存在するペンシルカウ、クリスタルの森は行こうと思えば大陸中央からどの地域へもアクセスする事が出来る。むろん、JAPAN以外に限るが。故に今ではガイがひきこもる大陸西部、魔物界へと進むルートも当然ながら存在する。昔はただの荒れ地と異常繁殖しているだけの地域だが、シルキィ・リトルレーズンによって魔王ガイが西部へと移住してから魔軍も其方へ、魔物の大半も西部へと移動した為、魔物界として認識されている。魔物界は魔王、魔物、魔人の存在する地域でありながら環境もかなりハードである為、人類からはアンタッチャブル扱いされている環境であり、魔王城を新たに建築した魔王を始めとした魔人たちがそこに住まい、
それ以外は開拓されていないと言われている。実際、それは正しい。大陸西部の領域は人間が生きていくには少々厳しすぎる。その為、まだまだ西部へと入り込むルートは少ない。道を選ばなければ入るだけなら入れる。ただやはり、整備されている道を保有しているのはクリスタルの森から進むルートだけになるだろう。
そのため、クリスタルの森から出て西部へと向かうルートは道に沿って行くだけで良いので楽だ。それが終わっても飛行すればいいので、自分とラ・バスワルドだけで移動するなら非常に楽になる。
そういう訳で、魔王城訪問が始まる。
ここら辺は歩くのは面倒なもんで、ルドべぇを少しだけ大きくさせてその背中の上に二人で座って乗っている。こうやって移動するのにももはや慣れたもんで、ゆっくりと宙を泳ぎながらルドべぇが進んでゆく景色を眺めて行く。
とはいえ、
「やっぱこっちは荒れてるなぁ。なーんでこんなに荒れてるんだか」
「そういえば魔王が住まう地域は段々荒れるって特性があったけど、こっちは最初から荒れてたわよね」
「そうなんだよなぁ」
【ひつじNOTE】の見直しで気付いたのだが、どうやら魔王が存在する周辺地域は段々と禍々しく変貌するらしい。旧魔王城だったリーザス周辺地域は常に争いによって周辺環境が破壊され尽くす事が多かったため、環境が禍々しくなる前に全て吹っ飛んでいたから解りづらいが、それでも植生などが大きく変わってきていた。この現在の魔物界は、そういう魔王の影響を受ける前からこうなっていた。それが今、ガイの登場によって更に本格的に禍々しくなってきている。地上を歩く必要があれば、相当苦労するであろう事実は周辺に溢れる魔物の姿を見れば理解できる。
「私は数百年の記録しかないんだけど、もっと昔はどうだったの?」
「ここら辺か? んー……俺がドラゴンだった時代も結構荒れてたな。今ほどじゃないけど」
「へぇ、どうしてなんだろう」
「さぁ?」
ルドラサウムが魔物界のデザインを気に入ったとか、そんな適当な理由じゃないのだろうか? そもそもあの創造神はほとんど白痴だ。何かをする上で深く考えているわけじゃない。あ、それ気に入った! と思ったらそれをそのまま愛でるタイプだ。面倒なのは全部三超神の管轄だし。難しい事は大体部下が担当している。アレ、考えてみるとルドラサウム大陸の運営とはブラック企業なのかもしれない。
「そんなブラック企業に内定の決まっているドラゴン・カラーがいるそうである」
「ウル・ホームラン!」
急に、マッハが、出たから。
尾っぽを掴んでウル・ホームランを叩き込んで魔物の群れに神の姿をデッドボールしたら再び浮かべた状態の背に乗ってふわふわぷかぷかと移動再開する。周辺には戦いの気配を感じ取った魔物がどんどんと集まってくるが、それが集まった時点でラ・バスワルドが《破局崩壊》を打ち込んで悲鳴が漏れる前に蒸発していく。悲鳴が聞こえないので魔物がまだ集まってくる。そしてそれが言葉を放つ前に蒸発していく。そして発生するドロップを適度にルドべぇが口の中にバキュームして回収していく。
便利な道中だった。これでレベリングになるかは微妙だったが。
それでも魔物界らしい道中となっている。これほどフリーの魔物に絡まれるというのも稀に見る、というか経験としては割と珍しい事であった。
「ガイが魔王として特別強いわけじゃないんだろうけど……元々あんまり良くない土地だったかもな」
「ふーん」
「まるで興味なさそうだな、おい」
「だって興味ないし。私、楽してゴロゴロして生きて行けるならそれでいいわ」
「本当にポンコツニートになりやがってこいつ……」
「だって怠惰しているのが一番楽じゃない。無駄に望まなければそれで十分な生活送れるし」
ある意味ラ・バスワルドは真理を突いている。下手に望まなければ不幸になる事もないだろうというのがこの大陸におけるルールだ。行動したり、目立ったりするからこそ不幸になる。人生が狂っていくのだ。それを誰よりも自分が良く経験し、理解している。とはいえ、楽しいイベントが目白押しなのでそれに便乗したくなるのはドラゴンという種族としての本能なので回避のしようがない。まぁ、闘争に関してはもう完全に楽しんでいるところがあるので、聖魔教団が動き出す頃が楽しみである。
闘神シリーズ。
その実力は魔人さえも凌ぐとの噂である。
本稼働された闘神シリーズがどう動くのか、実に興味がある。何よりも現状のペンシルカウの状況を見て、ドラゴンやカラーが聖魔教団に同調するとは欠片も思えない。絶対に無視して引きこもるに決まっている。そして大陸統一のために聖魔教団が此方に手を出して来たら、
そりゃあ魔軍vs聖魔教団vsカラーで三つ巴の戦争を始めるのも楽しそうだ。
人類の未来はイベントが豊富で実に明るい。この先の世界も楽しみが続くだろう。だがその前にはまず、魔王城の様子を見なくてはならない。ガイが歴史通り進むか、それとも歴史から逸脱して行動するのか。既にガイが魔剣カオスを握り続けているというイレギュラーが発生している。それによって既に流れは変わっているのだから、完全に同じとはいかないだろう。流れ次第ではガイがもっと早い段階でホーネットを仕込んでいる、なんてルートもあり得るかもしれない。
しかし父親としてのガイとかまるで想像できない。
それよりも魔人に囲まれた生活でストレスのたまったカオスが殺させろと叫んでいる姿しかイメージ出来ない。
あいつ、未来まで寝かしておく方がいいんじゃないのだろうか。それともどっかに封印とか。現状、存在しているだけでカオスが可哀想な状態になっているのだし。
久しぶりにケッセルリンクやガルティアにも会える。皆、元気に飯食ってるだろうか。ケイブリスもそろそろ良い感じに腐敗してないだろうか。どれだけ強くなったか気になるし。ちょっかいかけてやるのも楽しいかもしれない。またケイブリス、ジョバってくるだろうか? きっとジョバってくれるに違いない、だってケイブリスだし。GLの後期はエンカウント出来なかったし、地味に気になる存在だった。
ペンシルカウの復興は終わったし、ククルの封印の事もルシアに伝えておいた。これで俺がうっかり数百年暇潰しに没頭していたとしても、問題はないだろう。俺は寝過ごし実績があまりにも多いので信用してない。まぁ、言葉を残してきたのだから大丈夫だろう。あと最近お見合いを進めてくるマギーホア。
「んー、あんまり景色が良くないなぁ此方は。サクッと魔王城へと飛んでった方が良いか? 個人的には旅をする以上、折角だからゆっくりと楽しみたい所なんだけど」
「え、この虐殺を楽しみたいの」
「……流石に俺でもそれは嫌だなぁ」
常に魔物に襲われながらそれの蒸発を楽しんでゆく旅。確かに魔物界でしか味わえない経験だが、こんな経験したくもない。片っ端からラ・バスワルドが消滅させているが、それでも段々とめんどくさそうな表情を浮かべている。先ほどから豚バンバラなどが登場している辺り、消さずに殺して肉を得たら鍋にするのも美味しそうだと思いつつ、さっさと移動することを決意する。
ゆっくり移動してもたぶん、ずっと魔物に襲われ続けるだけだし。24時間余裕で戦えるとはいえ、流石に雑魚を消滅させ続けるのは面倒だ。さっさと魔王城に到着して美味い飯でも食べたい所だ。魔王城名物とかあるのだろうか? こう、魔王饅頭とか。歴代魔王人形コレクションとか。
流石に不敬か。今度ペンシルカウで流行らせよう。
「ルドラサウム大陸の歴史に登場した偉人、有名人とかをカードゲームのキャラにして販売したらいい感じに売れそうだな……」
「また変なことを企んでる……」
失敬な、そう思いながらさっさと空に逃げて、そこから魔王城を目指す事に決めた。そうと決まれば地上に居る理由もない。襲い掛かってくる魔物を無視してルドべぇに高度を上げさせる。それによって基本的に地上を走り回る魔物達はこちらに近づけなくなってくる。それをルドべぇの上からラ・バスワルドが見下す。
「ふふふ、やっぱり空から雑魚を見下ろすのは楽しいわねぇ。あぁ、そうよ。やっぱり塵芥は見下ろすに限るわ」
「やっぱこの世界の神魔ってどうしようもなくクソだわ」
ラ・バスワルドが怒りを見せながら下から攻撃を届かせようとするも、全てが無意味な抵抗になる魔物の姿を眺めながら笑う。それで久しぶりに怠惰モードから復帰したのか、ラ・バスワルドが片手に《神光》を集めた。
「別れの餞別よ。これでも……持って逝きなさいっ!」
そして放った。特大の《破局崩壊》が地表を薙ぎ払い、地層を貫通して大量の魔物を痛みを知覚させる暇もなく問答無用で消滅させた。それを見てラ・バスワルドが舐め腐った表情で地上を見下ろしながら笑っている。自分でまき起こした破壊を見て、
「そう! これよ! 私は破壊神ラ・バスワルド」
「元な」
「そう! 私は元破壊神ラ・バスワルド!」
「訂正するのかお前……」
ツッコミをスルーし、ラ・バスワルドは高笑いをしながら塵の様に消し飛んだ地表の痕跡を眺めていた。
「私は元々恐怖と暴力に彩られた破壊の女神! 本来はもっと恐れられ、畏れられ、そして崇められる存在! そもそも雑に私が扱われている状況がおかしいのよ!」
「そろそろお口チャックしないとご飯はなしだぞ」
「はーい」
ラ・バスワルドが素直に座り、膝を抱える様に丸まりながらルドべぇの背の上で黄昏れ始める。元二級神だった頃と比べると明らかに転落しているとしか表現できないラ・バスワルドの姿に関しては全く同情しない。一度お前に消されかけた事実は一生恨んでいるからな、と心の中で唱えつつ、
地の底、ラ・バスワルドが割った大地の底から沸き上がってくる黒い煙と力の塊を感じた。ラ・バスワルドもそれを同時に感知したようで、冷や汗を垂らしながら視線を必死で逸らしているのが見える。そんなラ・バスワルドへと視線を向けていれば、へたくそな口笛で誤魔化そうとし始める。
「お前さぁ……」
「私は! 悪くないでしょ! それに出てきた所で消し飛ばせばいいんだから」
「あ、馬鹿お前そういうフラグはやめ―――」
言葉よりも早く、立ち上がったラ・バスワルドが亀裂の中から出現しそうだった影へと向かって再び《破局崩壊》を放った。それが亀裂の中から出現する影によるビームとぶつかり合う事で間で爆裂する様に相殺し合った。その間に地の底で眠っていた存在は亀裂から飛び出す様に両手で大地を叩いて飛び上がった。
巨大であり、そして異形の姿をした魔
「よーぞーらーの―――」
ラ・バスワルドを蹴り飛ばしながら空中に浮遊する此方を狙う様に拳を振り上げたそれに合わせてルドべぇが伸ばしてきた尾を掴んで自分から飛行し、フルスイングでルドべぇを叩き込む。硬質な感触と質量に、ジャストミートした感触が伝わり、そのまま振り切る。
「―――星になれ! 昼間だけど!」
ホームランを叩き込んだつもりだったが、弾き飛ばされながらも巨大な魔神の姿は空中で一回転すると、額の青いクリスタルを輝かせてから大地へと向かって落下し、本編では一切披露されることなかった全身を世界に対して晒す事となった。
本来は遺跡の奥深くに封印され、表に出る事のない強大な力を秘めた魔神。
寄生魔神グナガン。本来であれば迷宮に寄生して無尽蔵に魔物を吐き出し続ける魔神と呼ばれる異界の存在。それがどうやら、ラ・バスワルドの八つ当たりビームを喰らった事によって迷宮から解放されてしまったようだった。白目になりたいのを抑え込みつつ、ラ・バスワルドを見る。
「あんなのが埋まってるなんて知らないわよ!」
「馬鹿! こ、この馬鹿! ほんと馬鹿! 馬鹿!!」
「私は悪くないってばぁ―――!」
お前は本当にもう、とか思いながら出現した魔神グナガンをどう処理するか一瞬考える。だがそう考えた直後、グナガンが此方へと視線を向けたまま大きく跳躍する事で後退した。
そして此方から距離を取ると、
魔物界へと向かってダッシュを始めた。
その姿を浮かんだまま、ラ・バスワルドと共に眺める。魔物界へと全力でダッシュするグナガンが魔物を生み出しながら地形を破壊しながら楽しそうに魔物界へとダッシュしている。
「……」
「……」
そのまま、魔物界の果てへと消えていく姿を見送る。
「……ねぇ、今回見た事は忘れた事にしない?」
ラ・バスワルドのその言葉に腕を生やして組み、首を傾げ、空を見上げ、下へと視線を向ければサムズアップのマッハが見えた。それを見て頷き、
「採用! さて、魔王城に行くか!」
「魔王城でのご当地グルメが私を待っている!」
魔王城は観光地かよ、とツッコミをラ・バスワルドに叩き込んでから再びルドべぇの上へと乗りこみ、省エネモードで魔王城へと向かった。
なんの問題もなく魔王城に到着できそうだ。
野生になってしまったグナガン。今までずっと遺跡の奥ばかりで登場するボスだったし、外に開放されたグナガン君はきっとスキップしながら魔物を無尽蔵に生産してくれるでしょう。
基本、ポンコツ。