豚バンバラの肉を一口大にカットして、すでに準備が整っている鍋の中へと投入。既に浮かんでいる野菜などを別のお椀の中に収穫しつつ、それを醤油に付けてから口の中へと運んで行く。白米が欲しい所だが、流石に魔物界で白米を炊く事は出来ない。そこは素直に諦めるとして、鍋をそのまま単品で楽しむ事にする。
「んー、んまい。鍋は多少雑でも食べられるからいいよなぁ」
「んまんま」
ラ・バスワルドと二人で魔物界の大地で鍋を食べている。具材は持ち込んだ野菜に現地で収穫した豚バンバラのお肉を使っている。基本的にランクの高い魔物の方が味がある為、結構高位の豚バンバラを狩ったのだが、元女神の魔人と最強種のタッグで殺せない魔物がいればそれは何らかの突然変異を起こしたトッポスぐらいだろう。アレはマジで怖い。
なおこの世で一番恐怖を感じたのはマギーホアのキレた姿である。
バンバラ鍋は作りが雑でもレシピ通りにやれば味にややムラが出ても、基本的には美味しく仕上がる料理だ。どんな料理下手がやっても変なものでも投入しない限りは美味しく作れる為、《ドラゴンLv3》となって不器用となっても、問題なく作ることのできる料理の一つだった。なぜか【うはぁん】だけは昔同様一切の無駄なく完全に作る事が出来るんが不思議なのだが。ともあれ、鍋は雑に作れて、それでいて美味しい料理だ。プロフェッショナルが手を出すとかなり拘る事の出来る料理らしいが、今はそういう話じゃない。
鍋を食べて基本的に満たさなくても良い腹と、燃費が悪いから暴れると大量に食べなきゃいけない腹を満たし、満足気な息を漏らす。やはり食べるという行いは幸せを補給する物だと思う。美味しいものを食べている間はそれだけで心が満たされる気がする。食べ物をただの栄養補給としか考えてない連中とは一生相容れない気がする。それはともあれ、食べた所で満足すると、頭が回り出すので、食事が終わった所で話を始める。鍋と器が空っぽになったのを確認しつつそれを下に置き、
「えー、それでは魔王城で何をするかという事に関する会議を始めようかと思います」
「わーわー、どんどんぱふぱふー」
ラ・バスワルドがわざとらしくファンファーレを入れて来る。サンキュー、サンキュー、と軽く頭を下げてからもう一度さて、と声をこぼす。
「実は特に理由がない」
「困ったわね。理由がないと適当な理由で飯が巻き上げられないわ」
「それな」
魔王城に行くのは良いのだが、そのまま普通に向かっただけでは非常につまらない。せっかく百数年ぶりに魔王城へと向かっているというのに、ただ普通に魔王城へと向かうっていうのもなしだ。これはあまりにも面白くはない。だからと言ってテロを仕掛けたら《破局崩壊》と《ウル・アタック》でうっかり魔人を殺してしまいかねないだろう。それはそれで非常に困る。特に最近は野生のグナガンが魔物界を走り回っているし。魔物界もこの先が不安になってくる程度には未来から乖離しているのかもしれない。
そんなことを考えつつ、
「とりあえず魔王城の下見をするか」
「何か美味しいものがあるといいんだけれど」
「ほんと飯の味を覚えやがってこの駄女神……」
鍋などを片付けた所で、魔王城までの最後の空路を進んでゆく。
魔物界同様、荒れ果てた大地に禍々しい城を正直な話、イメージしていた。CG等から未来における魔王城のイメージはおぼろげながら理解していた。その為、魔王城がどういう姿をしているかは知っていた。だが魔王城に接近した所で見えたのは、
魔王城とその城下町の姿だった。
「何これ」
「俺が聞きたい」
魔王城は良い。それはまだ良い。だが問題は魔王城の目前に広がる小規模ながら発展を見せる城下町だった。拙い建築技術によって建てられた、人類の技術を模した建造物によって都市が構築されていた。そこを魔物兵や、普通の男の子モンスターや、女の子モンスターが歩いている姿が見える。それは魔王城の前に広がる、魔物達の都市として存在しているのだった。いや、魔物の街は確かに存在する事は知っていた。魔物界にはそういうコミュニティも存在するのだと。だがこうやって魔王城の前まで、繋がる様に都市ができているのを見るのは初めてだし、知るのも初めてだし、歴史にこんな出来事は無かった。
「どうしよう、流石にこれは予想しなかったわ」
「食える場所があるならどこでもいいわ」
そういうとラ・バスワルドはルドべぇの背中の上に飛び乗り、そのままだらりと体を動かさず、ルドべぇの移動を待つ。その姿を見て、本当にとことん魔人として活動する事も行動する事も興味がないんだなぁ、というのを理解させられる。この女神、破壊の女神のロールからジルによって解放され、その上で魔人として破壊する事には欠片も興味を持っていない為、ある意味一番救われている存在なのかもしれない。
その代わりにラ姉妹が生まれていない為、既に未来が不確定になっている。
まぁ、そこらへんは今更って話ではあるのだが。
「仕方がねぇーなぁー。適当に散策すっぞオラ」
「何か美味しそうなものを見つけたら教えて」
「魔物界で何を期待してるんだお前……」
軽くラ・バスワルドの反応に呆れつつも、歩き出せばルドべぇがふよふよと空間を泳ぎながらついてくる。その上でだらりとくつろぐラ・バスワルドは他の事に我関せずという様子で、実にめんどくさそうにしている。本当にダメな子だった。
そんな事を考えながら魔王城前の城下町にやってきた。近づけば更にその文明レベルに驚かされる。ルドラサウム大陸の平均的なレベルの建築技術が使われているのではないだろうか? ここまでの建築技能を魔軍側が発揮するなんて自分は初耳だ。少なくとも都市規模へと大きくなりそうな魔軍の都市なんて、今までは存在しなかった。
それに此方が都市にやって来て、魔物達の反応は薄い。此方へと視線を向け、偶に欲情の視線などを向けるが、別に統括している魔物隊長らしい存在によって睨まれ、視線を外している。恐ろしい事に、魔物による文明、文化の構築が行われていた。恐るべき光景だった。人類が唯一、魔軍に対して勝てる要素はそれが人類が文明であるから、という点にあった。だがそれが今、魔軍が都市を築き、そして文明を生み出そうとする姿によって破壊されている。
これは、本格的に放置してはならないものだと、直観的に理解する。このまま残して文明を進歩させれば、それがやがて人間を滅ぼす遠因になる事を理解する。
誰かは知らないが、魔軍に文明を構築し、築き上げる概念を与えたやつはまさしく、バランスブレイカーだ。
「―――俺じゃん……!」
一番最初に料理する事の楽しさ、積み上げることの面白さ、努力を教えたのは俺だった。そういえばSS時代にそんな事教えたよなー、俺。あの時の魔物達は誰かの使徒になってるんだろうか? ガルティア辺り飯の為に使徒にしてそうだけど。あ、いや、その前に流石に寿命が尽きただろうか? というかこの広がり具合は俺が原因か、うむ。
「滅ぼ―――」
すか、と言葉を告げようとする前に、
「イヤッフゥ―――!!」
赤い台風がケツワープからのスーパースライドで街へと衝突した。アッパーで魔物兵をミンチにするとそのまま暴風の如く家を引き抜いてそれをハンマーに魔物が作り上げた全てをスクラップ&スクラップして行く。その配管工のオーラを感じる赤いオーラを纏ったトッポスの姿はもはや魔物界の自然災害としか表現できない。その前に立つ魔物兵、魔物隊長は当然の様にミンチになりながら、その進路上の建造物は全てが跡形もなく吹っ飛ぶ。配管工オーラを纏ったトッポスはもはやアンストッパブルだった。ひたすら本来の本能に任せて魔物を虐殺しながら魔軍の生み出した建築と街並みの全てを破壊し続けている。
「……魔王城に行こうか」
「何も食べられそうにないしね」
お前本当にそれしか考えてないよな、と飛んできた魔物兵の内臓を魔法で消滅させながら降り注ぐ血の雨を消しながら魔王城へと向かって歩き出す。町ではジェノサイドが巻き起こっているが、丁度良いぐらいなので見なかった事にして放置する。ドラゴン本能的にはトッポスと戦ってみるのも楽しそうだが、ここで戦ったら間違いなく魔王城まで巻き込んで収拾がつかなくなるルートに入るだろうし、ここはぐっとこらえて我慢する。
あのトッポスが居る限り、魔軍の文化や文明が大きく育つ事はまずありえないだろうから、安心して殺戮現場を後にして魔王城へと向かった。トッポスがヒアウィゴー! でアピールしているのを無視して先へと進めば、そんな血生臭ささからはやや解放された魔王城前にまで到着して来る。
そのデザインはどことなく旧魔王城に似ているような気もする。旧魔王城をモデルにして新築されている魔王城は、前の魔王城よりも一回り大きく見える。それに前よりも城壁などが堅牢に作られているようで、基本的にスラルが作った魔王城の設計をベースに、現在の建築技術を上乗せする事で更に拠点としての能力を上げた魔王城を作っていた。或いは城下町は建築技術を試す為の場所だったのかもしれない。前よりも立派になった城を見上げる。
「頑張ってんなぁ。偉い立派な城になってんじゃん……」
「でもお城ってちょっと息が詰まるわよね。私は木造の方が気持ちよく眠れるから好きよ」
「解る」
生活していてわかるのだが、木造と石造ではまるで住みやすさが違うのだ。ペンシルカウは豊富な自然から切り出した木材から建築しているのだが、これまた南のゼスと北のヘルマン―――まだ名前はないのだが、その両方の空気が翔竜山によってぶった切られているので、丁度良い感じに気候が調節されているのだ。おかげでペンシルカウは本当に過ごしやすい場所になっている。裏庭の原っぱでごろり、と転がって眠れるぐらいには。
「木造魔王城」
「良く燃えそう」
「寧ろ燃やしてみたい」
「気持ちは凄い解る。見ろよ魔王、お前の城が燃えてるぜ! ってやってみたいよね」
「楽しそうよね、燃えている魔王城の前で項垂れる魔王を見ながら笑うの」
ラ・バスワルドと熱い握手を交わしながら炎上魔王城の話題で盛り上がり始めると、扉が開き、その向こう側から呆れた表情のカミーラが姿を見せる。その登場にやや驚いた。カミーラといえば魔王戦争のときも一切顔を見せず、引きこもりながら戦いに参加する事もなかった魔人、プラチナドラゴンの魔人だ。しかもかなりのめんどくさがり屋であり、大体引きこもって自堕落な日常を過ごしている魔人だった筈だ。
それが呆れた表情を浮かべているものの、扉を開けて迎えに来るという姿は中々ショッキング―――という言葉は悪いが、それでも驚くべき事だった。
「あ、カミーラ」
「何時までそこで貴様とその駄女神は遊んでいるんだ。入るならさっさと入れ」
そう言うとカミーラは魔王城の中へと戻って行った。その姿を見てからラ・バスワルドと視線を合わせると、ラ・バスワルドがルドべぇのケツを蹴って先へと進む事を促し、魔王城の中へと向かって進んでゆく。
「温かい紅茶と一緒に食べるクッキーの気配がした……!」
「なんだお前のその食欲センサーは」
魔王城の中へと入って行くラ・バスワルドの姿には欠片も警戒心が存在せず、遠慮もない。まぁ、今の実家と言えばそうなのだろうが。とはいえ、カミーラを待たせるのも悪いだろう。せっかく迎えに来てくれたのだ。
最近のマギーホアに関する事を愚痴る事に決めた。
一回、カミーラに怒られたらマギーホア滅茶苦茶罪悪感で落ち込んでくれないだろうか?
そんなことを考えながら、新・魔王城に到着した。
久しぶりに喋って動くカカカさん。今、ポジション的に物凄い複雑なんだよなぁ、ドラゴン関係としては……。久しぶりにお話しできるね。そして最近の父親面に関してもチクれるね。