※この作品はR-18です。

ルドラサウム転生異聞録   作:てんぞー

13 / 172
100年

 最前線まではうし車に乗せて貰って移動した。その間に片腕で演奏する為に覚えている初級魔法を調整して、ハンティがいた頃に練習してた初級というか汎用魔法、《念力》と言えるようなものを開発してた。ぶっちゃけ、ドラゴンの指って器用からほど遠いから、魔法に指先の代わりを務めさせようという魂胆だった。そうすればドラゴンでも細かい作業が行えるのでは? と数百年前に考案した魔法だったが、人間の時代になって漸くその意味が出てきた、という次第だった。

 

 そのチューニングを終えて、楽器を壊さないように弦を魔法の圧力で押さえ、指で弾く。中々音は悪くない。Lv2の《演奏》技能によって支えられた楽器による独奏は中々好評なようで、うし車に乗って最前線へと向かう間、一緒に向かう兵士や同乗者に対して何度もアンコールを求められるレベルだった。とはいえ、ちゃんとしたナンバーを用意している訳でもないので、吟遊詩人を名乗るならちゃんとした歌か詩のバリエーションでも用意しなきゃダメだろう。

 

 どうだろう?

 

 ドラゴンの愚かな歴史を綴る歌とか? あぁ、でもこれはマギーホアに怒られそう。止めた方がいいな。でも適当に自分が見てきた歴史を歌にして旅をするってのはちょっと楽しそうだ。どれだけ人類が愚かで馬鹿で、そして苦しんできたのか、それを後世にまで伝える手段としては丁度良さそうだ。

 

 神の道化ならそれぐらいはやらなくては。

 

 ともあれ、適当な演奏と言えども技能で補正された演奏、それなりに良いものに仕上がったらしく、観客たちは満足だった様子。この程度で満足されてくれるなら、まぁ、別にいいか、と思いながらもそのまま揺られ揺られ、

 

 魔軍と人類が戦う、最前線までやってきた。

 

 数千を超える人間に数千を超える魔軍の存在。陣地を構える人類に対して、遠く、ドラゴン・アイによって捉える遠い向こう側に魔軍の存在が見えた。その姿は統一された、外殻装甲に包まれている様に見える。つまりは《魔物兵》という規格で統一された軍隊だ。既にこの時代からあのシステムは存在していたっけ、と到着した陣地から魔軍の姿を眺め、首を傾げる。

 

 まぁ、でも、ナイチサとかジルとかそういう技術を生み出すタイプではないよなぁ、とは思う。ナイチサは純粋に残虐だし。ジルに至っては人間を恨んでいるあまりそういうのを作るよりは自分の手で家畜化させているし。ガイは大体引き篭っているし、開発しそうなのは確かにスラルぐらいだろう。だけどもっと、後世で出現したような気もするのだが……?

 

 まぁ、どうでもいいや。

 

「いやぁ、いい音だったぜ姉ちゃん」

 

「所で夜の方もいい音を奏でそうだけど」

 

「お、去勢がお望みかな」

 

「あ、なんでもないっす」

 

 中指を突きつけて失せろ、と示す。何でもかんでも直ぐにセックスと結びつけようとする連中ばかりか、ここは。軽く呆れながらうし車から離れて前線陣地を確認する。様式は……まだちょい原始的? 堀を掘ってあったりするものの、城塞化はされていない。寧ろそういう壁が見えるのは魔軍の方だ。

 

 まぁ、人類と魔軍の戦いは根本的に人類の方が不利になる様に出来ているのだから、押されていて当然なのだが。まぁ、それでも人が楽しそうにしている姿は見ていて気分が良い。ほら、必死な人間ってどこか笑っているし? まぁ、魔軍とわいわいやれているようで自分はそれで良いや。なんか前線に来ただけでだいぶ満足してしまった。

 

「じゃ、帰るか」

 

「!?」

 

 そう呟くと到着したばかりの此方の姿を見て驚愕する姿が多数見えた。いや、だってなんかここまで来たら満足してしまったのだ。だったらもう帰るべきなのでは? それにこの景色を見て人間の愚かさを後世まで伝える詩を思いついたのだ。これは戻って作曲作業に入るべきだ。そうすべきだ。マギーホアがクイズ狂いになってしまってるんだから、それに対抗して俺も、こう、濃いキャラクターを付けなきゃダメだよね、と思う。だって、ほら、ルドラサウムがワクワクしながら期待しているし。

 

 なおちゃんとチャンネルが此方を向いているかどうかは不明である。

 

 と、帰ろうと思った所で、怒号が空気に響くのが聞こえた。お、と思いながら振り返れば人類軍が沸き上がりながら攻め込んでくる魔軍に対して迎え撃つように武器を取り、構え、そして走り出して行くのが見えた。どうやら、魔軍と人類軍の衝突の時に来てしまった様だ。リュートを片手に握りつつ、ほえー、と声を零しながら人類軍と魔軍の衝突を見る。

 

「んー……」

 

 人類軍と魔軍の衝突、一方的に崩されるのは人類軍の方だった。武器やら鎧、盾で武装しているが……知っているLP歴の武装と比べればだいぶお粗末だ。それが魔軍との技術力の差として出ている影響で、武器やらが破壊されて魔軍に押し込まれている。まぁ、同じレベルでも魔物の方が強いというのがこの世界におけるルール、というか単純な生物としてのスペック差の問題だ。だから人類が魔軍に対して勝利するには、バグにも似た超強力な人間を筆頭に少数精鋭で魔人や魔物隊長、将軍等をガンガン削って行く必要がある。

 

 その上でドラゴンの時の様に魔王を封印しておくのがベストだ。

 

 ただそうすると人類が今度は滅ぶ。

 

 なのでベストは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という形だ。

 

 というかそれしか人類には道がない。勝ってはいけない。勝利してしまえばその瞬間、生物としてのデッドエンドが決まってしまうから。だから人類が魔軍を押し込むようであれば、()()()()()()()()()()()()()()()()も考えていたりはする。とはいえ、見ている感じ、その必要性は皆無だった。魔軍の統率された動きは人類を少しずつ、少しずつ削って苦しめている様に思えるとはいえ、必要以上に突破するような事はせず、人類に余力を残させる。

 

 絶滅はさせない。削り削り、少しずつ苦しめて再起させる余裕を与える戦い方の様に思える。実際、そこまで戦場には悲壮感がない。人類は押されているものの、拮抗に近い劣勢というのが現状だった。

 

「魔人……は、いないみたいだな」

 

 メガラス一人でこの戦線、消滅させられるだけの力がある筈なのに、魔人の姿がないのも特徴的だった。ナイチサやジル辺りだったら間違いなく皆殺しにするのだろうが。やはり、魔王スラルは人類に対して手加減しているのだろうか? まぁ、情報が足りないのでどうしようもねぇな、と思っていれば、

 

 軽く、前線の魔軍が吹っ飛んだ。

 

 それを目撃した兵士たちが咆哮しながら声を放つ。

 

「動いた! ガルティアが動いたぞ!」

 

「押せ! 押し返せ! ガルティアに合わせて動け! あいつが開けた隙間を広げる!」

 

 ははーん、と声を零す。どことなく残されている人類軍の余裕はこれが原因か、という感じだった。陣地にある物資を足場に、戦場の様子を眺める。その中でも戦場に飛び出したガルティアの実力は一人だけ、次元が違うと表現できるレベルのものだった。片手に剣を握り、もう片手はムシに覆われているガルティアは剣で切り裂きながらムシを複数同時に使役し、そしてムシの集合体である巨大なムシを体から出して、一人で軍に匹敵するだけの戦闘規模を繰り広げて潰していた。

 

 成程、これがちゃんと戦えるLv3技能保有者なのか、と納得する。マギーホアも《ドラゴンLv3》の持ち主であり、怪物だった。実力で言えばガルティアはマギーホアに劣るだろうが、それでも別方向で怪物であるのは間違いがない。

 

「化け物が抑え込んでいる内に再編成しろ」

 

「クッソ、ムシ使いの分際で……」

 

「だけどアイツが居なきゃ……」

 

「そんな事はない。あんな奴がいなくても俺達でどうにかなるさ」

 

 だが嫌われている。活躍する奴に陰口がついて回るのも基本か、と納得する。そういやぁガルティアは青年の間にスラルに魔人にされるんだっけ? と軽く思い出す。となると1、2年の間には魔人にされるのかもしれない。或いはこの陰口を聞いていると割と直ぐかもしれないと思える。人類も人類でランス君なしだと内ゲバが酷いよなぁ、と思う。まぁ、あの超英雄が生まれてくるのは3000年先の未来だ。

 

 それまでの3000年間は純粋な悲劇と絶望の物語だ。

 

 それまで、人類にも魔軍にもせいぜい絶望し続けていて欲しい。

 

「ガルティアが出てるなら―――お」

 

 と、ガルティアの進軍を阻止する様に魔軍の奥から飛び出してくる姿が見えた。赤い鱗を全身で覆っている爬虫類の様な、しかし翼を生やした姿は同胞であるドラゴンの姿だった。どうやらアベルの時代に魔人になったのが今まで生き残っていたらしい。その姿を見ておほー、と思わず声を零してしまった。

 

「なんだ、お前もエンジェルナイトの粛清を逃れられたのか」

 

 同胞が戦場に居るなら暴れてもいいよな、と判断し、物資から飛び降りて素早く自分に魔法を唱えて強化する。《重加算衝撃》、《ゆらゆら影》、《高速飛翔》、《アイの加護》。お馴染みの強化魔法セットを自分に唱えつつ、人間が多すぎて邪魔なので人間の兵士を足場にしながらそのまま一気に最前線、ガルティアとドラゴンの魔人が戦っている所まで飛び込んで行く。

 

 この100年間、上がったレベルと鍛えた魔法の前ではその距離は余りにも短く、

 

 足場(へいし)を蹴り飛ばしながらリュートをハンマー代わりにドラゴンの横っ面に叩きつけた。

 

「レッドドラゴンくーん! チンコちょーだい!」

 

「このイカレっぷりと飽くなき逸物への執着心とどこか見た事のある色の髪―――ウル・カラー、生きていたのか……!」

 

 リュートを振りながらドラゴンの顔面を叩き飛ばし、ドラゴンの魔人が僅かに吹っ飛びつつも、魔物兵を巻き込む様に大地に爪を突き立て、そして体勢を整えながら―――またの間に尻尾を挟み込んだ。

 

「待って、お前、俺を判別する方法ちょっとおかしくない? 普通髪の色が先に来ない?」

 

「お前戦場で笑いながらドラゴンの陰部毟り取って点数付けながら捨てたの全魔軍のトラウマだぞ」

 

 そんな事をしていた気もする。お前のハイパー兵器10点な! とか宣言されながら死んでいったドラゴンの悲しみの表情を今になって思い出す。ちなみに100点なのが北部の神の扉の前に設置した祭壇の上に置いて来たゴッド式ハイパー兵器なのだ。アレを基準としているので皆クソ雑魚兵器でしかない。

 

「いや、正直すまんかった。闘争本能キメまくったおかげで大分前後不覚になってたんだ……これから点数と一緒に地獄に送るからアベルちゃんに俺の代わりにごめんなさいしておいてね……?」

 

「ま、まだ毟り取る気満々だこいつ……!」

 

 だが残念、人間の体では魔人相手に単体で戦って勝てる程のスペックはない。レッドドラゴンの魔人がかつての戦場におけるトラウマを発症している間に、片手で魔法を発動させ、与えられるバフをさりげなくガルティアに与えておく。初めてみる相手からの支援と突然のエントリーに驚く様子を見せるものの、此方が支援したのを見てからいつでも動けるように待機するのが見えた。本当に戦士としてはクッソ優秀だなぁ、と納得する。順応性が早い。それだけにガルティアを人類が手放したのも痛かった。

 

 まぁ、それはともあれ、

 

「いや、待て、今のその姿は―――」

 

「《黒色破壊光線》―――!」

 

 喋っている間に殺そうとしたが滅茶苦茶焦って回避された。レッドドラゴンが信じられない者を見る様な目で此方を見た。

 

「こっちは喋るのを待っていたのに!?」

 

「俺が法なのは決まってるじゃん……?」

 

「ほんと、こいつ……!」

 

「そんじゃ、遠慮なくやらせて貰うぞ?」

 

 レッドドラゴンが此方の暴君っぷりに震えている間にガルティアが動く。それに合わせレッドドラゴンが歴戦の戦士として一瞬で思考回路を切り替え、翼を広げて飛び上がろうとする――のを即座に無詠唱の《握撃》で翼を捉え、捻じ曲げる。ドラゴンとしての魔力抵抗が強く、翼の動きを阻害させる程度の働きしか生み出せないものの、その一瞬にガルティアが接近し、

 

 剣を振るった。

 

 爪と剣が衝突し、一瞬の閃光が生まれる。その動きに合わせてムシが同時にレッドドラゴンの体に食いついた。鱗に噛みつくのではなく、溶かす様に体に穴を開けていきつつその体に飛び移った。純粋な斬撃やら刺突やらには異様に生物として強い、ドラゴンの特性を理解している様だった。

 

「もっぱつ《黒色破壊光線》!」

 

 そこから飛び上がろうとする姿を制限する様に、態と頭上に向かって破壊光線を放ち、跳ぶ姿を牽制する。それに合わせて横へと移動するドラゴンにガルティアがムシを使って組付き、そしてそのままその体に登って行く。

 

「はは、これはいいな。体が軽いわ」

 

「ドラゴンには……こうだな! 《魔抵封じ》、《ジャクタイン》、そんで《ストップ》!」

 

 ドラゴンの高い魔力抵抗をまず削ぎ、そこから《ジャクタイン》で防御力を削り、更に《ストップ》で動きを一瞬だけ止める。RPGの基本としてアタッカーがいるなら一人、徹底してサポートに回った方が遥かに勝率が上がったりするものだと思っている。武器は持っていないし、というか先ほどリュートを壊したばかりだし、迷う事無く魔法によるサポートでガルティアの戦いを演出する。

 

 今、ドラゴンを相手に戦えているその姿はまさしく、英雄という言葉に相応しいぐらいに輝いているだろう。

 

 それが墜落の原因になるのだからやはり、人間は愚かだ。助けて超英雄―――3000年後ぐらいのタイミングで。

 

 今のこの時代に救える命は一つもないし。

 

「これで終わりだな」

 

「殺されるのは良い、だが点数だけは―――」

 

 ざくり、とガルティアの剣がレッドドラゴンの首を絶った。それによって名も知らぬレッドドラゴンの魔人が滅びた。その死体は崩れて行き、そして首を絶たれた魔人と引き換えに残されるのは透明感のある、赤い球になる。レッドドラゴンと入れ替わる様に登場する血の塊とでも言うべき宝玉に、ガルティアが手を伸ばした。

 

「ん? なんだこ―――」

 

 それが出現した瞬間、全力で飛び出した。間に合うかどうかなあ? と思いながらバフを行っている自分自身の肉体に信頼を置きつつ、

 

「《白色破壊光線》!」

 

 黒色よりも詠唱の早い白色の方を選択し、それで一気にガルティアの横を予測しながら射撃する。それにガルティアの戦士としての感覚が迷う事無く反応出来る攻撃に対して反応して、直感的に宝玉を守る様に動いた。

 

 そしてその直後、白い残像がタッチ差でガルティアを掠めた。

 

「BINGO」

 

 無詠唱で《粘着地面》を放ちながら大地を蹴り上げ、戦争時代にもやった粘着ネットを放って、ガルティア周辺にそれを広げる。それで白い残像―――いや、おそらくほぼ確実に魔人メガラスであろう存在の移動できる範囲を制限する。

 

 そしてそこまでやってしまえば、ガルティアも敵を認識する。

 

「ん? 成程、こいつが欲しいって訳か」

 

「……」

 

 宝玉―――つまりは魔血魂の奪取に失敗したメガラスは一瞬停止し、此方を見て、少しだけ驚くような表情を浮かべてから、《ハイスピード》に入ろうとする姿勢を見せた。どう足掻いても魔血魂を魔王の下へと持ち帰るつもりの様子だった。そりゃそうだろう、魔血魂は魔王の血だ。それそのものが魔王の力だ。魔人が増えれば増える程魔王の力が下がるのは魔人に対して魔王の血が分け与えられているからだ。

 

 逆に言えば増えた魔人を処理し、魔血魂を封印すればそれだけ魔王の力を弱められる。

 

 魔王を弱らせる事に興味はないが、アレがあれば魔王に対して交渉する事も出来る。というか遊びに使えそうだ。絶対に、欲しい。そう思って《ハイスピード》に入ろうとするメガラスをどう止めるかを考えた所で、

 

「じゃ、こうすれば奪われる心配もないな」

 

 そう言って、

 

「!?」

 

「あ゛あ゛あ゛!?」

 

 ガルティアが、

 

 口の中に魔血魂を放り込んだ。そしてそのまま、おそらくは始まる魔血魂との魂の戦いを開始して横に倒れた。その様子をメガラス共々、呆然と眺めるしかなかった。数秒間、無言のままその光景を眺め続けた所で、

 

「……ムシ使いの食欲……成程……」

 

「た、たぶん違うんじゃないかな……」

 

 無知って怖い。ガルティアの暴挙に対して、メガラス共々そんな考えしか浮かばなかった。その衝撃たるや、思わず素面に戻ってしまう程だった……。




 ガルティア! なにやってんだよガルティア!!!

 まぁ、正史よりは楽しい理由で魔人になれたんじゃないかなぁ、って……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。