「―――と、長居しすぎたな」
「ん? あぁ……もう夕刻になっていたか」
気づけば日が落ち始めていた。まぁ、かなりカミーラと話し込んでいたからしょうがなくもある。何せ、久しぶりとカミーラと話していれば、色々と話があう部分もあったのだから。より、意識が女性的になった部分があるというのも理由の一つかもしれない。なにせ、女の視点からドラゴンという種を見る事が出来るのは、今の所自分とカミーラだけなのだから。ハンティに関しては、女性意識が昔の俺並に低い為、話にもならない。そのせいかカミーラはあまり、ハンティとは話さない、というか興味がない様に見える。
まぁ、紅茶も予想外に美味しかった事もあった。おかげでついつい長引いてしまった。元々はガイの様子を見る為に来たのであって、こういうつもりは欠片もなかったのだ。それでもまぁ、悪くはない時間だった。カミーラの此方に対する感情を考慮さえしなければ。堂々と嫌いだけど飲むのは楽しいから話し相手をしてやると言ってやれるカミーラの精神強度は相当レベルが高いと思う。
そういう所、純粋に尊敬する。とはいえ、流石に長居しすぎた。一応、魔王城の家主であるガイの方に泊る前に顔を見せた方が良いだろうとは思う。それが最低限の礼儀という奴だろうとは思う。という訳で話と飲んでいた茶を切り上げる。椅子から立ち上がりながら片手しかないが、その片手をあげて世話になったと挨拶をする。
「気にするな。中々愉快な話を聞けたからな」
「まぁ、マギーホア様の醜態でいいなら何時でも話をするよ。シリーズはまだまだ数百年分あるし」
「そうか……それならそれは次回に回しておくとして」
カミーラの視線が部屋の奥へと向けられ、自分も其方へと視線を向ける。そこでは沢山食べたラ・バスワルドがルドべぇを抱いたまま安らかに寝息を立てていた。それ、俺が三超神から謁見成功した時にもらった報酬―――というか三超神ざまぁ! 曲解できるならやってみろよオラァ! 記念の品なので、なるべく手元に置いておきたい。
ほら。
中に本当にルドラサウムがいたとしても俺だけならある程度安心できるしね……?
いや、大空洞の中から大陸全体を眺める事が出来るし、態々ぬいぐるみになんてならないだろうとは思うけど。それでもハーモニットが声を震わせながら解りませんとか言ってくるぬいぐるみに関しては―――うん、とりあえず忘れよう。それよりも重要なのはしっかりと抱いて眠っている元破壊の女神の姿だ。がっちりとホールドしている辺り、引きはがすのが相当面倒なのが目に見えている。
視線をカミーラへと戻し、指先をラ・バスワルドへと向ける。
「これ……置いてっていい?」
「……後で取りに来るならな」
「泊る部屋を貰ったら引きずって帰るよ」
まぁ、寝相は良いから寝かしておいて問題はないのだが。それでも放っておく事自体にちょっとした罪悪感を覚える。だがよく考えてみればアイツは魔人だ。そもそも最初から俺に監督責任なんて欠片も存在しなかった。面倒を見る必要なんて最初から存在しなかったわ。それを思い出した所でラ・バスワルドを一時的にカミーラに預けることにして、ガイに顔を見せに行くことにする。部屋を出る前に一度だけ振り返る。
「じゃ、またねカミーラ」
「あぁ、次があるなら、な」
なんともカミーラらしい言い草だった。苦笑しながら扉を出て、魔王城内に感じられる魔王の気配を察知する。この気持ちの悪い、魔血魂の気配の中でも特に強い魔血魂の存在感―――それが魔王の気配だ。魔王城に近づいてからはずっと感じているひときわ大きな魔血魂の気配。だがそれはジルや【血の記憶】だった頃の気配と比べれば、大きくその勢いと気配を失っている様に感じられる。まるで【血の記憶】のままだった時の方が強かったような、解放状態にあったような、そんな感じがした。
あぁ、だがそういえばランスが遠い未来で【血の記憶】と戦ったのだ。
それに向けて【血の記憶】が解放された時、戦えるようにチューンアップされているのかもしれない。
そう考えると魔王は新たな生贄なのかもしれない。【血の記憶】の檻としての。ガイにはその役割を肩代わりさせてしまった。そして魔王戦争の結果、正史と比べて20年、その役割が早くなってしまった。リトルプリンセスが魔王を継承できる歳までの間、誰かが魔血魂を引き継がないといけない。それはガイが裏技でも使って魔王の任期を延長するかもしれないし、
或いは資格があると判断された俺が魔血魂を受け継いでもいい。昔は一発で人格を乗っ取られる気がしたが―――今は、そうでもない。完全にルドラサウムの生物として生きている以上、漸く抗えるような、自分の精神を自立させているような、そんな気がする。まぁ、魔王になって自我が持つかどうかは、実際に経験しない以上はどうともいえない事でもある。ただまじめな話、将来的にも考えておかないとならない話ではある。
空白の20年をどうするのか。
「魔王ウル……んー、実に良い響きだ」
UL歴を始めるのも面白そうかもしれない。正史においては魔王リトルプリンセスが魔王に覚醒せずにひたすら逃げ回って、魔人と人類の戦いが発生したのだ。あの時代には人類に魔王と戦うだけの力がなかったのは事実だ。才能や技術的に、GLクラスの人類の強さを発揮できていない。だけど自分も未来に向けて色々と仕込んだのだ。
間違いなく正史よりも人類の強さも、残された遺物の数も多い。全体的に人類の強さそのものが上がっているのだ。だったらちょっとぐらい、魔軍を纏めて人類に喧嘩を売ってもいいんじゃないか?
ランス君全盛期の時代に魔王のいる魔軍とぶつかる―――うん、それはそれで楽しそうだ。
きっと神々も楽しみそうだ。
だけどマギーホアがキレそうだ。あぁ、確かにこれはキレそうだ。キレて止めに来そうだ。それは困る。マギーホアが暴れると割とまじめに負ける気がするし。未だにあのドラゴンにはタイマンで勝てる気がしないのだ。
戦士としての年季が違うから当然なのだが。それでもまぁ、何時か一本は取ってみたいと思わなくもない。
そんな考えはともあれ、
相変わらず、魔血魂の気配は気持ち悪い。
魔血魂の気配が奥へと進めば濃密に感じられる。その気配の強さは歴代魔王と比べると―――そう、大体スラルやナイチサクラスだろうか? ジルから魔王を引き継いだガイとはいえ、そのままジルの強さを引き継いだようではなかった。とはいえ、魔王としての力を備えているだけの気配がある。
とはいえ、伊達や酔狂で最強種を名乗っているわけではない。その頂点とも言えるLv3を冠しているのも飾りではない。今の自分の実力であれば、並みの魔王相手であればそれなりに遊べるのではないかと思っている。
昔、ナイチサを殺そうとした時は完全に遊ばれて戦うという体裁さえ取り繕うことが出来なかったが、ジルの様な規格外でもない限りは、今ならそれなりに戦えると思っている。
ほら、マギーホアが魔王相手に勝てるって話だし。マギーホアが出来るなら俺でもね……?
とはいえ、真実、どこまで戦えたもんか解ったもんじゃない。相手の気配で自分がどれだけ戦えるか察知できるのは、強者の嗅覚だ。ドラゴンの戦闘本能的に、相手の大体の強さは察知出来てしまう。だが魔王と相対すると、魔血魂との気配がごっちゃになっていて大体、そこら辺が上手く読み取れないのだ。
少なくともマギーホアが大体の魔王に勝てるだけの力を持っているのだから、それに並ぶ実力があれば魔王には勝てると思いたい。
ただしククルククルは除外で。
そんなくだらない事を考えている間に魔血魂の気配の大元へといつの間にか到達していた。今なら会う事もなく帰れる―――なんて事を一瞬だけ考えてから、魔王のいる部屋へと続く扉を蹴り開けた。
「ウル様だ来たぞ! 涙を流しながら喜んで歓待するのを許す!」
言葉を放ちながら玉座の間―――ではなく、魔王ガイの私室らしき部屋へと入り込んだ。
扉を木っ端みじんに粉砕しつつ。
それを解っていたかのように半身が人間、半身が怪物の姿をしている男、魔王ガイは部屋の奥でデスクに向かって座りつつ、視線をこちらへと向けて、軽い溜息を吐いてから再び視線をデスクの上の書類へと戻した。
「久しぶりだな―――よし、帰っていいぞ」
「ガイ君が超冷たい。お姉さん泣きそう」
「お前はそういう歳でもないだ―――」
「言葉には気を付けろよ小僧。女はそこらへんデリケートだからな?」
ガイの直ぐ横の空間に《ガンマ・レイ》を放って壁に大穴を開けながら軽くふしゃー、とドラゴン的に威嚇する。それを見たガイがまた壊れた、とため息を吐きながら片手で顔を覆った。
「おいおいおい、ガイ君ちょっとウル様が来たってのに対応が淡泊すぎないか? もっと大歓迎していいんだぞ」
「どの世界に破壊魔と厄介者を歓迎する君主が居る。せめて王だった頃の威厳かカリスマは取り戻して来い」
「すまんな、アレはジル相手限定なんだ」
「だろうな」
そう言ってガイが再び視線をデスクの方へと戻した。忙しいからさっさと帰ってくれ、と言っているのがその背中が姿から解る。なので素早く接近し、座っている椅子の後ろに回り込む。そしてそのまま、デスクの上に広げられているガイの作業を見た。
普通に書類仕事だった。
「ここでえっちな本でも読んでたらなー」
「正気か……?」
「バッドガイ君ならやりそう」
「……」
悪ガイが実際にやりそうな事だと悟った善ガイは数秒程、窓の外へと視線を向けてから俯き、現実逃避する様に書類仕事へと戻った。書類を確認すると共用語で陳情や報告が書き込まれているのが読める。スラルの時代にも似たようなことはやっていたが、ガイの手に握られているものは街に関する物だった。
「ん? お前、アレを支援してるのか?」
「あぁ。壊す事ではなく、作る事や慈しむ事を覚えれば少しは変化があるかと思ってな……まぁ、大体の場合では破壊されるのだが」
通りすがりの配管工風味のトッポスに。まぁ、ガイの言いたいことは解らなくもないが。
「魔軍が文化を育むと手が付けられなくなるから程ほどにな」
「その場合はお前がどうにかするだろう?」
「お前……!」
「冗談だ。トッポスが暴れて壊すことを込みでやらせている。何らかの方向性にエネルギーを注いで置かせておけばその分、破壊的な方向へと流れないからな。最終的にどこかで暴発するだろうが、それまでは良い時間稼ぎになる」
「お前は?」
「私も……そうだな、何時までも耐えられるかどうかは保証がないな」
「その時は真っ先に翔竜山にカモン。俺様が前人未到の魔王ソロ討伐を成し遂げるから」
中指を突き出しながら挑発すると、ガイが此方に一瞬だけ顔を向けてから再び視線を書類に戻した。その姿に向けてしばらく中指を突き付け続けたから、
「かーまーえー! 俺様に構えよ! ほかの魔王は一応何らかのもうちょいリアクション出してたんだぞ!! なぁ、オイ!!」
「誰か、居ないのか? こいつを適当に歓待しておいてくれ」
「クッソ! この! ガイ君の分際で! ガイ君の分際で! あー! いいのかお前! あー! お前! お前―――! ガイお前―! 遊びに来たんだからもっと構えよお前―!」
「ウル様、はしたないですからそういう言葉遣いはやめた方が宜しいのでは」
「うるせぇケッセルリンク!」
「ガイー! 後悔するなよてめー! 一生恨むからなー!」
ケッセルリンクに半ば引きずられるようにガイの部屋から追い出されつつ、ガイの方を見れば、此方へと視線を向けるまでもなく、片手を持ち上げてしっし、と手を振っていた。アイツ、絶対に泣かしてやるわ。
心の中で固くそう誓いながら、久しぶりの変わらない友人の姿にほっとした。
ぼちぼち更新再開。コミケ終わるまでは緩めの更新速度になるけどね! それでもウル様の冒険は続くよ。
という訳でコミケ当選祝いつつ更新再開。