目が覚めた。
「うぉっ!?」
「お、起きた……?」
直感的に目覚めるべきだと判断した瞬間には目が覚めた。見れば自分の部屋に侵入している姿が複数見えた。
全部、雄の魔物だった。
ベッドに寝転んだ状態、まだルドぐるみを抱いている状態で侵入していた魔物どもを見て、視線を逸らして顔を抱き枕に埋めた。
「お、お前、しっかり眠ってるって」
「ちゃんと睡眠の香は今も焚いている筈だぞ……?」
「へ、へへ、構う事はねぇ。このまま犯しちまえよ」
下衆な言葉が聞こえるが、相手するのも面倒だ。まあ抜けない眠さに軽く欠伸を漏らしたらルドぐるみを抱いていた片腕を解放し、
それを無造作に振るった。
近づこうとしていた魔物、その背後の魔物、見守っていた魔物。
その全ての上半身を纏めて血風にするように消し飛ばした。
チンコを出しておっ立てている下半身だけが部屋にオブジェの様に残される。その姿をもう一度見てから腕をルドべぇに回して目を閉じる。
「4点……」
おやすみなさい。
「と、いう事が今朝あったんだ」
「お、おう、そうか」
魔人レイはそうやって今朝の出来事を話してみると、物凄い困った様子を浮かべた。
「いやぁ、そのまま寝直したから朝起きたらなんでこいつ4点おっ立てながら死んでるんだ? って一瞬考えちゃってさ、寝ぼけながらぶっ殺したんだったわ、って思い出したんだよ。でもその頃には血も乾いててさ、ケッセルリンクの使徒たちに早く呼んでください! ってすっげぇ怒られたわ。がーっはっはっは!」
今朝がたの経験を笑いながら語ると、レイがやや引き気味なのが目に見えていた。その姿を見てえー、と声を零す。
「今のは笑いどころなんだけど」
「いや、笑える要素……あったのか? だけど姉御だったら間違いなく笑ってたな……」
「ジルだったらその場で乱交しつつ全員吸精で絞り殺してたな」
少なくとも魔王就任後はそういうモードに入ると手が付けられない部分があるし。終わった後はそうじゃなかったが。そういう性質はしっかりと此方に引き継がれているので、どうしようもない。一回ぐらい子供を産めば発情体質も多少はマシになるかなぁ、とは思っているのだが今は相手がいないし困ったもんだ。
ともあれ、魔王城を散策している所で本日は魔人レイを見つけた。
大戦時は魔軍側に立って、ついぞ人類側に加勢する事のなかった魔人レイは魔軍や人類の味方ではなく、どちらかと言うと魔王ジルの味方だった。とはいえ、ジルの記憶を辿るとジルのレイに対する評価は愚かな男だというもんだったが。まぁ、そもそもジル自身レイプされて以来は男に対して完全に心のガードを下ろした事はないし、最初に来るのは疑念だ。それも経歴を考えてしまえば当然と言えば当然なのだが。
だからレイがずっと、ジルに認められる事もなかったというのは一つの事実だ。
「ウルの姉御は」
「俺か? 俺が体を許す男は1000年に1人レベルの英雄か、或いは俺を倒せるような奴だけだよ。後は俺が認めたやつとか。そうじゃなきゃかわいい子には手を出す」
「あぁ、両刀なのは姉御と変わらねぇのか」
まぁ、そこは純粋な趣味の問題になってくる。なんだかんだでえっちするのは楽しいし、嫌いではない。ただ体を許せるほどの相手が世の中には少ないという事だ。だから、まぁ、M・M・ルーンにはちょっと期待している。このGI期、最大最高の英雄と呼ばれる男だ。絶望して堕ちる未来が存在するのもまた事実だが、それでも闘神に闘将を生み出した男だ。
俺を屈服させるだけの力があるのか、それが楽しみだ。
と、そこでレイの視線が此方に向けられているのを感じた。
「どうしたレイ。ジルが恋しいか」
だがもう俺のだぞ。どこにも行かないし、誰にも渡さないぞ。
「そうじゃねぇよ……ただ惚れ込んだ魔王が求めていたものを俺は最後まで解る事も出来なかったな、って思っただけだよ」
そう言うとレイは軽く手を振って去っていく。もうこれ以上話すつもりもなかった。まぁ、自分も目的地へと向かうついでに話かけただけなのだから別に問題はないのだが。
「じゃあな。もう戦う日が来ないのを祈るぜ」
「えー、俺を殺しに来いよー」
「間違いなく殺される戦いはしたくねぇよ」
ひらひらとレイが手を振りつつ去って行く。タマなし野郎め―――とは言えないだろう、流石に。まぁ、自分も正面から魔軍とぶつかるようなことは恐らく、もうしないと思っている。少なくとも自分の影響力と強さはこの大陸でも有数だ。それが自由に暴れればあっさりと大陸のバランスが崩れて、何ともつまらない物語になってしまうだろう。
それは実に困る。まだまだ、この大陸には楽しい場所でいて貰わなければならないのだから。あの様子を見る限り、レイが此方を殺しに来るようなことは無さそうだ。少し残念だ。アレでかなり武闘派だから期待していたのに。
まぁ、本命は別だ。
寝て頭をすっきりさせた今、気配も匂いも追うことが出来る。レイが去った所で視線を窓の外へと向ける。
「あっちの方か」
久しぶりに察知出来た、前よりも更に強くなっている気配に笑みを浮かべてから―――窓を蹴り開けて外へと飛び出した。
ここまで来れば間違える事も迷う事もない。窓から飛び出した所で大きく空を蹴って跳躍し、そのまま自然落下に任せて、目的地へと向かって一気に落下し、地面を陥没させながら着地する。
そうやって魔王城裏手の広大な土地の一角、荒野しか存在せず、しかし暴れるには丁度良い何もなさの空間。そこで剣を二本両手に握った巨大な姿の前に着地した。昔見た姿よりも更にその姿は成長していた。
前は見なかった鎧をまとい、もふもふでどこか愛嬌を残す姿ながら、鍛えられていることが解る強靭な肉体。力は外向きではなく内向きへと圧縮されており、正史に見られた余分なパーツはないが、異形感の強い副腕はそのままとなっていた。もっとスマートになっているとも言えるのは、成長の方向性が違っているからかもしれない。
握っている剣の他に槍、斧という武器を装着しており、それを異なる腕で扱えるような気配も併せ持っている。ドラゴンとしてのセンサーに、ビンビンと強者の気配が引っかかる。
昔見た姿よりも立派で、そして確実に強くなっている魔人ケイブリスの姿を前に、笑みを浮かべて口を開いた。
「ケーちゃぁーん!!」
がおー、と鍛錬中のケイブリスを軽く威嚇し、笑いながらその姿を久方ぶりに見て、笑った。
「ケーちゃん大きくなってんじゃん! もう完全に俺よりも背を高くしちゃってさぁ! それになんかかっこよくなってんじゃん? なってるじゃん? もう完全に男の子って感じあるよね、ケーちゃん。もうこれは毛玉扱い出来ないなぁ……とりあえず久しぶりに窓から投げ捨てても良い?」
矢継ぎ早にケイブリスに言葉を叩きつけながら、軽く片手を上げてケイブリスに挨拶をしてみる。だが剣を握った状態のまま、ケイブリスは不動のまま視線をまっすぐ、此方へと向けていた。
「ケーちゃん……? もしかして怒って―――」
と、そこでケイブリスの様子を見て察した。
「き、気絶してる……!」
「お前、俺様を脅かそうとするの止めない?」
「ごめんてば」
ケイブリスが気絶から回復した所で半分笑い混じりではあるが、謝った。いや、まぁ、無駄に高ぶってケイブリスを脅してしまった自分が悪いのだし。でも、まぁ、期待させるような成長をしているケイブリスが悪い。うん、やっぱりウル様は何も悪くない。悪いのはクソ雑魚心臓しているケイブリスで終わり。
まぁ、それはともあれ、
「久しぶりだな、ケーちゃん」
軽く謝った所で改めてケイブリスを見た。本当にモフ玉リスから良くここまで進化したものだと思う。もう姿としては正史の姿に似ている部分はある。凶暴性が減った分、もっと洗練された暴力が肉体には見え隠れしているような気もする。ケイブリスの事だ。使えない武器を持っている程馬鹿じゃない。使えるからこそ持ち歩いているのだろう。
うん―――物凄い楽しみだ。
「いやあ、ケーちゃんが大きく育ったようでママは感激だよ」
「誰が俺様のママだってよ。ブチ殺―――あ、無理だわ。糞、見た目は何も変わってねぇくせにまた強くなってやがるなてめぇ!?」
「はっはっはっは。このウル様はこの数千年間、一切の成長を止めてないのだ。俺は強くなる。更に、もっと、そして強くなり続ける。人類共と同じだと思うなよ!」
とはいえ、限界は見えてしまったが。ジルと戦った時にレベル上限が。そしてドラゴンとして自分は完成されてしまった。これ以上、劇的に成長する事はもうないだろうと思う。今の自分が、ドラゴンという生物として、カラーという生物としての完成された状態だ。これ以上強くなるにはレベルを上げるか、魔法の手札を増やすかぐらいだろう。それでも劇的な変化ではない。まぁ、既に生物としては最上位の領域に入っているのだから、満足しとけって話ではある。
或いは、
もっと魂を喰らえば強くなれるだろうか?
まぁ、そこまで必死にやって何を成すか、という事もあるのだが。
それはともあれ、
「ケーちゃんがまだ強くなろうとする事に感動を覚えるよ」
「勝手に覚えてろ。上から見下すてめぇもいつかはぶち殺してやるからな」
「あぁ、期待しているよケーちゃん。きっとケーちゃんなら出来るよ。いや、本当に」
「けっ」
ケイブリスの瞳に恐怖はある。その本質は変わっていない。だが少なくとも、それを抱きながらも自分に自信を持てる程度には力を付けているのだろう。あぁ、ケイブリスも大きく変化してきた。彼がこれからどういう風に歴史を変えていくのかが、実に楽しみだ。
「で、テメェはこんな所に何をしに来たんだよ。いや、お前の事だから顔を見に来たついでに脅かしに来たって言ってもおかしくはないけどよ」
「ん? あぁ、ちょっと戦力確認とかガイ君の確認とか、未来に向けた各種確認かなぁ」
そろそろ座りたいなぁ、と思い始めると音速で飛行してきたルドべぇが後ろへとスライディングして椅子代わりになってくれる。その様子をケイブリスがもう、気にするのを止めたような表情で視線を逸らしている。その間にルドべぇの背中に座って、軽く浮かんでおく。やはりこの上に座っているのが一番落ち着く。
「ほら、
「……昔言ってた神の事とかか」
「そうそう。それだけじゃないんだけどな」
ケイブリスにはだいぶ話してあるよなぁ、と今更に思い出しながら笑う。こいつとの付き合いも相当長いもんだ。昔、錯乱していた時代からの付き合いだと考えると本当に長い付き合いだ。
それが正史の流れではあるとは言え、
「お前なんで生きてるんだ?」
「相変わらず唐突に喧嘩を売るの止めねぇな」
そらそうよ。それがウル・スタイルだ。もう、自重する事も我慢する事もやめた。
「そもそも他人の都合に合わせて自分を抑圧するのが馬鹿々々しいと思うんだよ。なんで有象無象の為に俺が苦心しなければならんのだ」
自分が大切にする一部の為であれば、カラーの民の為であれば多少は無茶をしてやれる。だけど人類全体の為とか考えるのはもう、面倒になった。まぁ、適度に大陸を盛り上げておけば神々サイドからも不満が出ないだろうし、それ以外では好き勝手やりゃあ良いだろうと思う。
「そして聞けよケーちゃん。GI300ぐらいからはまた人類が大暴れする時代が始まるんだぜ? もうこれは楽しみでしょうがないだろう。絶対悪逆非道の女王が存在するカラーの森に攻め込んでくるよあいつ等! 超楽しみでしょうがねぇ……!」
ケイブリスが明らかにドン引きした様子で此方を見ている。なんて顔をしやがる、失礼な。
「ちょっとMっ気があるだけだよ!」
「誰も聞いてねぇよ」
身振り手振り、別におかしなことは何もないぞ、とケイブリスへとアピールするが、当のケイブリスは此方を無視して素振りを始めようとしていた。こいつ、こんなにも美女が必死にアピールしているというのに、いっそ食ってやろうか。そんな邪な考えを抱きながら片腕で腕を組むポーズをしながら首を捻る。
ケイブリスと再会できたこの喜びを全身で表現したいのだが―――どうすればいいのだろうか。
「あ、そうだ。うむ、そうだ。そうしよう」
言葉をそうやって口にした瞬間、ケイブリスがダッシュで魔王城の方へと向かって逃げ出した。それに此方も一気に加速する事で追いつきつつ、後方からダイブして首の後ろから抱き着いてみる。
「ガハハハハ! どうしたんだケーちゃん! ん? いきなり逃げるなんてひどいじゃないか―――俺の乙女心が泣くぜ?」
「そんなもんねぇだろお前!! こっち! 来るんじゃねぇ! 冗談じゃねぇからな! こっちに来るな!!」
「こうやって俺様に見つかったのが運の尽きだケーちゃん!! 諦めろ!! そして俺様に構え! もっと構え! そして俺と遊べ!」
どうせ数百年は暇なのだ―――楽しいことを思いついたらその内に実行してしまった方が良い。
これからケイブリスと遊ぶ事を脳内で確定させ、嫌がるリスを引きずりながら遠い昔の様に遊びに行くことを決定した。
ウル様自身はケーちゃんをマブダチだと思ってるよ。ケイブリスは絶対越えなきゃ相手だって認識しているけど。
たぶん、このルド大陸上で現在生存している存在で、一番ウル様の好感度が稼いでる生物ってケーちゃんだよ。