「ふはははは―――!」
笑いながら疾走する。正面からフラッシュが連続で飛来して来る。通常であれば回避不能の攻撃ではあるものの、光という性質である以上、《UL体質》には通じる事がない。故にハニーの集団が密集した状態で放つ超連続自爆ハニーフラッシュがこの体に届くような事はない。そのすべてを無効化しながら振り上げたルドぐるみの姿を全力で振り降ろして叩きつける。それで発生した衝撃波を前の方へと叩き出し、正面の集団を一気に粉砕する。
「ウルあたたたた―――っく!」
一切の躊躇なく放たれた攻撃が当然のように陶器のモンスター、ハニーを破壊し、粉砕して行く。連続でぱりんぱりん音を鳴らしながらも、大量に出現しているハニーの姿は未だに衰えない。埋め尽くすとさえも表現できる100をも超えるハニーの大軍団は、それこそハニーフラッシュを連射しながら行進するだけで容易く生活圏を粉砕出来るレベルで凶悪な組み合わせだ。それが狭いダンジョンの中を埋め尽くしながら襲い掛かってくるのだから、当然のように普通の冒険者の類であれば即死するレベルの案件ではある。そしてそんな殺意の高さを本来、ハニーは見せたりはしない。
それこそハニーキングの命令でもなければ。
その姿を全力で正面から蹂躙し粉砕して行く。並の冒険者であれば、或いは戦士であれば。ハニーの物量のハニーフラッシュを前にあっけなく散るだろう。だがこの身はドラゴン。人間なんて軽く超越している。それだけではなく光と重力の力を全て無効化する体質も得ている。ハニーが体当たりしてきたり、武器を突き刺そうとしたところでこの体の鱗を通す事はない。
即ち、ただただ、当然のように蹂躙できる。
「オラ、オラオラオラオラオラァ! 邪魔なんだよ雑魚共がァ!」
そしてそこに、同じように魔人という生物の肉体、そのスペックの全てを完全に使いこなして暴力のままにあばれる姿がある。正史よりもどことなくスマートなフォルムを得ている、魔人ケイブリス。それが両腕に握った大剣ウスパーとサスパーを乱舞させて、ハニーを複数同時に一撃で薙ぎ払いながら、ハニーフラッシュの瞬間に此方のカバーリング範囲内に入って退避する。そうやって瞬間的に破壊しながら同じようにハニーの軍団を蹂躙突破して行く。
蹂躙、粉砕、虐殺、圧殺。
数の暴力という物を、圧倒的な生物としての格の違いで押し通す。片や最強最古と呼ばれる魔人。そして己はドラゴンとカラーという生物を掛け合わせた中でも最強クラスの生物。共に、このルドラサウム大陸に於いては10本指に入るレベルのプレイヤーになってくる。それが一切遊ぶ事無くスペックを駆使して戦えば、たとえそれが極悪戦術であろうと、
純粋な暴力のみで破壊しつくすことが出来る。
「弱い! 弱いぞ! この程度か! この俺様を! 少しは満足させてみろよ! なぁ!」
魔法で薙ぎ払うことが出来ないことがハニーという生き物を相手する上では実に面倒な事ではあるものの、それが出来ないのであれば単純に衝撃波を攻撃に乗せて乱舞すればいい。物理現象であればハニーは無効化することが出来ない。だから単純な暴力のみでハニーを片っ端から粉砕し、ダンジョンを埋め尽くす姿を全ての動きで知覚すらさせずに粉砕して行く。
ただただそれを作業の様に突進して行い、皆殺しにする。
「かぁ―――ぺっ」
完全粉砕が終わって残されたのはハニーの残骸のみ。だがその異様としか表現できない数は明らかに異常である。異常ではあるが―――経験値としては非常に美味しい。それ故に少しだけ面倒そうだが、それでも完全には悪態を吐かないケイブリスの姿が見られる。まぁ、それでもレベルアップまでに必要な経験値を考えれば微々たる量だが。それでもいつの時代も軍団戦を経験するのはいいことだ。特にハニーの軍団戦なんて珍しいにも程がある。
「ハニーの癖にこいつら、クソみてぇにめんどくせぇ戦い方してたな」
「合理的って言えば合理的なんだろうなぁ。俺様でも一度も見た事ねぇけどこんなの」
「俺もねぇよ。だがそうか……こいつ等は魔法が効かねぇから盾にするんじゃなくて被害を受けずに自爆させる事も出来たか……」
ハニーの残骸を踏みつぶしながらも、ケイブリスはどことなく今まで見る事がなかったハニーというモンスターの凶悪な面をしっかりと記憶しようとしていた。そのあくなき求道精神はやはり、惚れるという言葉を向けられるレベルで尊敬できる。とはいえ、
このダンジョンはこれで終わりではない。
ハニー坑道を突破すれば、まだ下へと繋がる階段を発見する。ついでに、フロア突破報酬なのか宝箱まで置いてある。それを蹴りで開きながら中身を確認しつつ、軽く息を吐く。
「割と軽いノリで裏ダン攻略に乗り出してみたけど、思ってたよりガチだったなー」
「お前な。マジさ。マジよぉ、少し考えて動いたらどうなんだ? あぁ? 本当に脳味噌詰まってんのかその中にはよ? おぉ? なぁ、答えてみろよ馬鹿女」
「ごめん、昔よりも理性蒸発してるから俺」
「クソが」
ケイブリスが苛立つように放った言葉を笑い飛ばす。わっはっはっは、と腰に手を当てながらルドべぇの背に腰掛けながら緩く浮かばせ、ゆっくりと階段へと向けて進ませる。それにケイブリスもついてくる。
「だってほら、ここまで深いダンジョンだって思わなかったし。そこは俺は悪くないでしょ」
「いや、考えなしに突入したお前が悪い。というかなんで俺を引きずって来たんだよ!!」
「ケーちゃんで遊びたかったから」
笑顔でそう答えるとケイブリスが物凄い嫌そうな表情を浮かべる。
「お前ほんと何時かぶっ殺してやるからな……」
だけどついてきてくれる。
そこが好き。
今―――魔人ケイブリスと二人で、
こうなっていた。
このハニー軍団以外にも狂ったような強さのモンスターや邪悪極まりないハメの様な組み合わせのモンスター。女殺しの様に特定の属性を絶対に殺すことが出来る様なモンスター。
そういうのが待ち構えているダンジョンだった。正直、女殺しで半分死にかけた。ケイブリスが居なければそのまま死んでいたかもしれない。死ぬ事自体はそこまで恐れていないが、こういう所で事故死したら流石に未練が残りまくる。
ともあれ、
グナガンが寄生していたダンジョンにこうやって侵入したものの、予想外の手ごたえに興味を刺激され、こうやってケイブリスとタッグでガンガンダンジョンの攻略を行っていた。
本来の主であるグナガンはもう既に魔物界で人生をエンジョイし始めてしまっている為、このダンジョンのボスは不在となっている。だから一番下まで進んだ所で何かが待ち受けているという訳でもないのだろうが、
手ごわい戦闘の経験というのは割と貴重なもので、ケイブリスも文句を言いながら割とノリノリでモンスターを虐殺していた。なんだかんだでケイブリスの付き合いの良さをそうやって感じ取っていた。いや、或いはもういっそ自分と関わる部分では諦めているだけなのかもしれないのだが。それでもこうやってケイブリスを連れまわせる懐かしさが自分は嫌いじゃなかった。
ただ、このダンジョンはやはり、どことなく歪な気配がする。そもそも今まで攻略されていなかった上に、入り口らしき場所がぽんこつが開けた穴以外に存在していない。つまり完全に密封されたダンジョンだった。酸素とかどうしてるん? と言いたくなる事実とは別に、何で今までこんな場所が解禁されていなかったのか、という疑問もある。
本当に裏ダンジョンの類だったのかもしれない。
そういう場所がこの大陸にはちょくちょく存在しているのも事実だし。割と神の悪戯でこんな所に放り込まれているという可能性は考えられる。まぁ、詳細な答えなんてものは求めてない。それよりも奥へ、奥へと進んで行こうとし、
ダンジョンの奥に、陽の光が見えた。
「あー」
「こっちも行き止まりか」
そう言ってケイブリスと共に到着したのはダンジョンの中央大穴。
つまりぽんこつが開けた穴である。
空から叩き込まれるように生み出されている大穴は地層を貫通して深く、深く穿った痕跡を見せている。その為、ダンジョンのフロアがぶち抜かれて地上から層が見えるようになっている。降りようと思えば地上から飛び降りて深部まで恐らく降りる事も出来るのだろうが、それではダンジョン攻略の情緒がない、という事で一番浅い層からダンジョン内を探索し、階段で地道に降りてきていた。
……のだが、
「ここも消し飛んでたかー」
「あのラ・バスワルドってぽんこつ。つくづく相手したくねぇな」
「アイツは俺なら封殺できるし。美味い飯さえ食わせておけば黙っていてくれるからそこまで扱いは面倒じゃないんだよな」
ラ・バスワルド。扱いが面倒なだけで本人自体は割と善性でも悪性でもない、中庸の存在だ。だから適当に満足さえさせておけば完全に無害だ。問題として満足させてやることが非常に面倒なのだが。だから皆で押し付け合っている。アイツ一人でそれなりに被害額増えるし。
それはともあれ、
ダンジョンを抜けて大穴へと戻って来てしまったので、今使用したルートでは下へと行けないことが発覚してしまった。割と残念な話でもある。また違う入り口を探して潜る必要がある。
「うーん、どのルートでなら一番奥にまでいけるんだろうか……」
「もう直接中央から降りちまえよ」
「だからそれは面白くないってば」
「ダンジョン攻略に面白さもクソもねぇだろ」
呆れながら言うケイブリスの言葉は正しいのだが、それはそれとしてあまり楽しくはない。もっと、こう、苦戦とか遊べる環境が欲しいのだ。どうせこれからペンシルカウに戻れば聖魔教団が暴れ出すまではペンシルカウに引きこもっている予定なのだし。
だから、ペンシルカウに戻るまではなるべく派手に遊びたいんだよなぁ、という気分だった。
「ケーちゃんとかさ」
「おう」
「俺を殺しに来てくれないの?」
「俺が死ぬわクソが」
「いやいや、ケーちゃんならいけるいける」
「今相手した所じゃ俺に勝ち目がねぇだろ。やらねぇよ」
今、とそこで言う辺り、将来的には殺しに来る予定なのだろうか……? あぁ、でもあと3000年もあれば俺を確実に殺せるだけの強さは持ちそうだよなぁ、とは思わなくもない。
やっぱり、俺を殺す奴がいるとすれば、それはケイブリスになるんだろう。
なんだろう―――やっぱり、その時のことが実に楽しみだ。
「うーし、それじゃあそろそろ別のルートを探すか」
「まだやるのかよ……」
「そう言ってもケーちゃんも楽しんでる癖にー! 神々の傾向からして、クソみたいな報酬が用意されていると思うんだよなー。良い物ほど雑に変なダンジョンに配置して来るし」
「ほんと世の中クソだな」
きっと、どっかのダンジョンを探せば自分対策にドラゴンキラー、みたいな武器もあるんじゃないだろうか? 一度でいいからそういう武器を持った英雄相手にガチンコを仕掛けてみたくもあるのだが。
そんな事を考えながら次はどのルートから奥へと向かおうかなぁ、と大穴につながる坑道の端から次の道を物色していると、上の方から気配を感じる。
視線を大穴の外へと向ければ、
どこかで見た事のある黒いローブ姿を目撃する。アレは確か、と気配と匂いから誰かを思い出す。だが瞬きした瞬間にはその姿が消え去った。
「おい、どうしたんだよ」
「んー……」
別にこのまま放置でも良いんだけどなぁ、と思いながら大穴の外へと視線を向けたまま数秒程考えて無言を保ち、
どっちのが面白そうか結論を付けた。
ウル・カラーは、常に面白そうな方へと己の道を進める。
そういう風に生きる事を、決めているのだ。
ケーちゃんといっしょっ!
ケーちゃんはもう、ほとんど反射的にウル様見つかった場合、自分の行動の全てを諦めるモードに入る所がある。
それはそれとして、ここからは完結までルド転のみを更新し続けるわよー。