爪を立てながら勢いよく腕を振るう。神光を乗せた爪が魔術と合わさり、そのまま空間を引き裂く爪撃となって空間を引き裂いた。そのまま次元を引き裂いて穴を開けながら、あらゆる防御を貫き、強度を関係なく引き裂く一撃が空間に数秒間だけ残留し、静かに消えて行く。《次元爪》、《次元斬》や《ゲート》を自分の形で再現した簡単に繰り出せる防御無視の攻撃である。それを連続で繰り出す様に右腕を振るう。
連続で放たれる爪が空間を引き裂きながら別世界への壁を引き裂き、そして通じる。だがそこに飛び込むわけでもなく、自分の調子を確かめるように、鋭さを更に引き上げるように自分の爪を調整して腕を振るう。そうやって戦闘する為の準備を重ねて行く。自分の一撃をどこまで繰り出せるか、どこまで鋭く放てるか。どれだけ狙って放てるか。それを繰り返し、繰り返してゆく事で肉体に馴染ませて行く。
そもそもドラゴンに
実際、自分とマギーホアにとって、人と猫の姿とはつまり、燃費を押さえる為の姿になっている。自分は一度メインプレイヤーで姿をヒューマン・カラーにされているという事実もあるのだが、そこから更にドラゴンの頂点の素質を得た為、そこからドラゴンが本当の姿である事に、事実が回帰している。つまり人間の姿で戦う事には全く意味がない。戦うのであれば―――本気で殺し合うのであれば、ドラゴンの姿に戻る必要がある。
とはいえ、ドラゴンの姿に戻ったら燃費が相当酷い事になる。そして体の使い方、使い込みに関しては人間の姿でやっていてもあまりドラゴンの姿でやっているのと変わらない。肉体の形が違うのだから違う……と思うだろうが、自分たちにとって肉体は肉体でしかないのだ。結局、どっちに姿であっても出来る事は出来るし、体の完全な使い方をマスターすればどっちでも同じだ。
つまり、根本的なスペックが違う事以外は特に大きな変化はないのかもしれない―――あぁ、いや、才能的な補正もある。その事を考えるとやはりドラゴンの姿で動く方がはるかに楽だろう。ただ、鍛えるのなら人間の姿でも全く問題がないのは事実だ。だからこうやって、何度も何度も同じ技を繰り返してひたすらなじませる。その上で振るい続けて使い方を脳ではなく体で記憶する。
ドラゴンの鍛錬とはそんなもんだ。
武術とか、武芸とか、理論とか。そんなものは存在しない。ただひたすら、ドラゴンという生物のスペックを全力で扱えるようになるため、それを引き出して使い続ける。そうする事で唯一、ドラゴンは強くなって行けるのだ。それがドラゴンという生物の鍛錬になる。だから自分も、そうやって爪を振るっている。最もシンプルで簡単な攻撃になる。これが自分の基本攻撃でもあると言える。
打撃、衝撃、粉砕等を肉体で繰り出す事でも出来るだろう。だが神光と、ドラゴン技能と、そしてジルと融合して継承した魂と血肉の全てを得た今、爪を雑に振るって切り裂くのが一番殺傷力が高い。とはいえ、
「こればかりじゃ勝てねぇな」
そう呟きながら爪を見る。神光を纏った一撃は《無敵結界》さえも貫通出来る裏技だ。神々の特権として、この地上のシステムには干渉されず、それを逆に利用するだけの力がある。自分もこのシステムという枠組みを半歩、外側に立っている。長年その外側を歩いていたからだろうか、
とはいえ、全方向完全消滅攻撃なんて明らかな反則技を使えるのはラ・バスワルドぐらいだけだ。あの破壊力と無差別な範囲に関しては一生勝てる気がしない。今は魔人化で弱体化しているから良いものの、再び完全なる神として復帰した場合を考えると頭が痛くなるレベルの相手だ。だからこそ餌付けが必要なのだが。
……ともあれ。
「これだけでアベルは殺せないな」
防御力を、抵抗を無視した爪撃。当たりさえすれば必殺だろうが、アベルなら確実に回避して来るだけの自信があった。そもそもアイツは単純なスペックだけなら自分を超える化け物だ。今は魔王時のスペックを引き継いでいるかどうかは解らないが、それでも純粋な身体的な能力はマギーホアに次ぐ存在だ。
単調な攻撃は見切られる。
身体能力の差でごり押して潰す事も出来ない。となるとアベルとの戦いは、相手を追い込み、攻撃をどうやって叩き込むか、という所に集約される。そうなってくると自分の体を使わずに放てる必殺技をどれだけ持っているかという部分が重要になってくる。
魔法、大魔法、神光による破壊、ブレス。これらが現実的なラインだろう。アベルにも通じるレベルとなってくるともはや大魔法、そして神光を交えた攻撃だけだろう。反則的ではあるものの、そもそも個人で勝てるように設定されているような存在じゃないのだからこれぐらいは良いだろう。
「いや……そんな考えじゃ駄目だな」
これぐらいは良いだろう、じゃない。
全霊で殺す。
殺しに行く。
確実に、絶対に、自分の持つ力と可能性の全てで殺しに行く。
義務や義理ではなく、
溢れ出す神光をその場で剣の形に形成し、射出して大地に突き刺す。大地に突き刺さった神光の剣は消え去りながら、ノータイムで同じものが無数に浮かび上がり、継続的に射出される。
その数を増やしながら、アベルを想定し、その動きの先読みを考えようとして―――止めた。
良く知りもしない相手を想定するだけ無駄だ。そういう想定を行うと後々想定外の事で失敗するし。ただこれは牽制にはそこそこ使えるだろう。後は数を数十倍にして、常時射出弾幕状態を維持すればいい。後は、追い込みの大ワザとかも必要だが、
《究極の破局》はアレ、間違えるとそのまま地上を薙ぎ払って都市を何個か消し飛ばしかねないから、使えない。
となるやはり、大魔法だろう。
GL大魔法《ラグナロク》、GL大魔法《カオスフレア》、
後は重力制御でどこまで周りの環境を弄りながら破壊して回れるか、という所だろうか。
改めて自分が持つ全ての戦闘用の判断材料を投入し、アベルとの勝率をざっと計算する。完全な魔王スペックのアベルと全てを吐き出し切って戦ったとして勝率は四割から五割ぐらい、と考えている。自分と今のアベルにはそこまで差が無い様に思えた。
つまり戦闘用の材料を全て出した後は、気合と根性と闘争心が全てだ。
滾る。
血が滾る。
近づいてくる十数年という時が待ち遠しいほどに血を熱くさせる。今にも暴発しそうな勢いで興奮する。戦いたい。滅ぼし合いたい。その果てで満足して死にたい。
ある意味、究極の生物と呼べるドラゴン、その実質的な寿命は存在しない。だがその代わり、激しいまでの戦闘本能が存在している。それこそククルククルの様な、強大な存在に対して勝算もないのに戦いを挑む様な。そこまで突き抜けた戦闘本能を兼ね備えている。
個人的には自分はそれを自殺衝動だと思っている。
強く、そして寿命のないドラゴン。それが大陸の上で放置されず、何時かはルドラサウムへと回帰し、還元される為の衝動。戦闘欲求。それが自殺に通じるように、ドラゴンは出来ているのじゃないかと思う。
だからアベルへと戦いを挑むこの本能は、自殺なのかもしれない。
だがソレでもいい。満足して死ねるだろう。それぐらい期待している。きっとアイツもそうだ。今までのアベルではない。それを感じさせる。
「まだだ、まだ我慢―――」
後十年。それだけ我慢すれば良いのだ。それだけ我慢すればアベルと本気で殺し合える。この大陸で、こういう風に自分が変わってから。全てを振り絞るように戦うのはこれが初めてになる。その時が待ち遠しくてしょうがない。
自分の全てを燃やし尽くす様な戦いに興じたい。
そう思い、再び爪を振るおうとした所で動きを止め、
「ハンティか」
「姉さん、殺気を放ちすぎ。子供たちが怯えてるよ」
「んぐっ……」
唐突に表れたハンティを魂の気配で感知して発言する前にその姿を捉えたのは、自分の感覚が普段以上に鋭くなっている事に起因するが、無用に殺気を放ちすぎている事をハンティに指摘されて少しだけ、熱を引かせる。片手で頬を掻きながらあー、と声を零す。
「悪い」
「私は別にいいけどさー、慣れてるから。だけど今の時代の子、平和な時代に生きているから姉さんが本気で戦ってる姿見た事ない連中なんだから。GLの時の連中とは違うんだからね?」
「悪かったってば」
ハンティに軽く弄られて自分が作っていた空気を崩し、何時もの軽く気が抜けた感じに戻る。まぁ、必要以上に気分が高揚していたのも事実だ。このままだったらそのどっかに突撃しかねない状態だったし。
軽く気を抜く為の、丁度良いタイミングだったのかもしれない。そう思いながらちょっとだけ意識して、クールダウンする。
「というかお前はちょくちょく見かけなくなるけどどこに消えてるんだ」
冒険者姿で出現したハンティの姿を見て、全くペンシルカウで見かけないその姿に軽く呆れる。
「私? まぁ、ちょっと冒険に。引きこもっていられるタイプじゃないから、結局ルドラサウム中を歩き回っちゃうんだよな。見知った土地が年月の経過で少しずつ変わって行くのを眺めたり、昔の知り合いの子孫を訪ねてみたり。昔見た秘境の景色を歩いて確かめに行ったり。それだけでも結構楽しいもんだよ?」
「本当に一か所にとどまるって事が出来ない娘だなぁ、お前は」
「姉さん程破天荒じゃないから許してくれよ」
「ひっでぇ」
空を見上げれば、いつの間にか暗くなり始めていた。それに気づく事無く今までずっと、自宅の庭で修練を続けていたらしい。自分も、熱中すると周りが全く見えなくなる癖があるのは直さなければならないというのは解っていても、どうしようもない。
根本的な部分なのかもしれない。うっかり癖。
そう思いながら軽く頭を掻いて、溜息を吐く。
「汗かいたし風呂でも入るか……ハンティもどうだ?」
「おー、折角だし背中でも流してもらおうかな」
「生意気言うようになりやがって、こいつ……」
拳でこつん、と軽くハンティを押す様に殴ると、ハンティの方から殴り返されてきた。昔は可愛かったのに、本当に生意気に育ったなぁ、と思う。昔は俺の方が人間らしく、ハンティがドラゴンらしかったのだが。その立場が今では逆転している。不思議なものだ。
「姉さん」
「うん?」
「……ほんとうにやるの?」
「おう。俺が死んだら女王の座は譲るから、頑張って」
「真面目に、要らないから絶対に死なないでくれよ」
この妹め……、と笑いながらまたかるくパンチを肩に叩き込みながら屋敷へと戻って行く。
なんだかんだでハンティも不安になったから帰って来てくれたのだろうか? いや、優しい子だしきっとそうなのだろうと思う。だとしたら心配させてしまったかもしれない。ついでにペンシルカウの連中も、明日は思いっきり遊んでやろうと決める。
命は有限であり、
不老でもあっても時は無限に有限だ。
だからこそ、その使い方を俺達は良く考えなきゃならない。
―――アベルとの戦いの日が近い。
という訳で次回、アベル戦。やっぱBGM流しながら書くべきか……! というかんじでわりと気合入っている。
ウル様ドラゴンLv3になってから初の超全力戦闘ですよ。