片腕を組む様な胸を持ち上げる体勢でガルティアの体を前にメガラスと挟む様に立っていた。戦場からは外れ、やや魔軍陣地寄りになってしまったが、それでもある程度人からも魔軍からも外れた場所で、魔血魂を食べてしまったガルティアを転がした状態で、困った状態で固まっていた。
「……」
「……」
メガラスとしてもこんな風に魔人が生まれる事は予想外だし、俺としてもまさかこんなところで魔人ガルティアが誕生するなんて考えてもいなかった事だった。なので完全に予想外。どうしようもない状態だった、双方にとって。だからこそ一時停戦し、こうやって魔人化してしまったガルティアを前に完全に動きを停止していた。
「どうしよっか彼……」
「……困る……」
「うん……」
敵の体から出てきたものだぞ? 誰がそれを迷う事無く食べると思うのだ。まずありえないだろう、としか言葉が出てこない。だけどそんな冗談の様な出来事でガルティアは魔人になってしまったのだ。しかも良く知る、腹に穴の空いたビジュアルで。つまり魔人ガルティアとして精神的な勝利を取ってしまったのだ。目覚めたら完全に魔人となっているだろう。
腕を組み、首を傾げ、メガラスを見る。
「メガラス君、これどうするよ」
「……魔王に連れ帰るのが……多分、最善」
とはいえ、とメガラスは頭を横に振る。
「俺の受けた命は魔血魂を取り戻せと言われたのみ―――なりたくてなった魔人でなければ、逃げられたという事にしても良いだろう」
「メガラス君……」
やだ、イケメン。そういえばメガラスの魔人化の理由は、ホルスの宇宙船に手を出さないでいて貰う為、だったか? 魔王アベルの中でも割と妙手と呼べるのはこれぐらいだったよなぁ、と思う。なにせ、メガラスと言えば最強の魔人の一人にも挙げられる存在なのだから。今も魔王に従っているのはホルスの仲間たちの安全を確保する為だろうか? 最初から最後まで格好良い奴だよなぁ、と思う。
だって死んだ理由が一番最初に駆け付けたせいで孤軍奮闘だもん。笑えちゃうね。
「まぁ、ガルティア君の意思を聞かなきゃダメな案件だけどね、これ。俺、さっきの戦場が初対面だけど」
「初対面」
イエス、とサムズアップを向ければ、メガラスから呆れの気配を感じる。なんと言うか……結構、気さくな性格をしている様な気がする。そう思いながらうし車から強奪した小型鍋を取り出し、その下に乾いた枝を乗せ、《火の矢》で燃やしつつ鍋の中に油を注ぐ。食用油だよな? と一応チェックしておく。
うし車から強奪した時は気付かなかったが、食材とか服とかの質がどうやらこれでもいい方なので、結構いいとこの商人だったらしい。まぁ、ウル様と出会ってしまった事が運命だったので許して欲しい。
それはそれとして、
「ウルちゃんのスーパークッキングタイム」
「クッキングタイム」
「この暇な間にクッキング本能で用意したパン粉があります」
「本能?」
「そこは深く考えてはいけません。ウルちゃん時空に呑まれて発狂します」
「そうか」
メガラスは気にしない事にしたらしい。賢明な判断だと思う。巻き込まれたマギーホアは今じゃ立派な猫だぜ。
「たーまごたーまごー、さっくさっくにする為に油の温度を確かめてー。小麦粉と片栗粉を用意してー。というか軽く存在している事実にびっくりしてるんだけどね……酒? イカマン? 正しい和食ってもんを教えてやるよルドラサウムさんよぉ……」
別枠のボウルでちゃかちゃかと用意しつつ、こかとりすを食べやすいサイズに千切って、素手でスライスして、《氷の矢》で作った氷を砕いてそれで水洗いをしてみたりして、ちゃかちゃかと下ごしらえを完了させて、
衣を付けたら油の中に投入。温度? 油が跳ねる? ヒューマン・カラーに姿は変わっても、レベルが高い、中身ドラゴン・ヒューマンなのだ。油を素手で触る事ぐらい全く平気なのである。何せ、台湾人でも出来るのだからウル様に出来ない理由がない。つまりウル様と同格なのだ。凄い。
「そ、そ、そっしてー、此方は来る途中のうし車から強奪したお塩」
「アグレッシブ」
「SS歴のモードは強気のウル様で」
ばちばちと音を立てる鍋の中身をメガラスと挟んでしゃがんでしばらく無言のまま眺める。下手に弄って加速させたりするよりは、ちゃんと手間暇かけて作った物の方が美味しいのだ。美味しくなあれ、美味しくなあれ、と心を込めながらちゃんと作る。だって、美味しいものには罪がないもの。姿がヒューマン・カラーになって、感謝している事の一つであった、
この料理技能は。
「そんな感じで天ぷら完成! 味付けはシンプルに塩のみ。ほーれ、ガルティア君ー。ごはんだぞーぱたぱたー」
という訳で、さっくりサクサクと色んな意味で作成させて貰った天ぷらがここに完成。もうちょっとまともな材料とかキッチンがあればマシなのが作れたのだろうが、ここではこれが限界だ。洗う事の手間を考えたら鍋とかはここで捨てて行った方がいいな、とは思わなくもない。そんなこんなで揚げたての天ぷらの匂いをガルティアの方へと飛ばしてみれば、
ガルティアの両目が勢いよく開いた。そしてその視線が一瞬で天ぷらを捉えた。
「起きるのか……」
「ムシ使いだからねー。食欲は人の数十倍以上あるよ。あ、どうぞどうぞ」
「悪いな! んむ、んぐっ、うめぇ。お代わりねぇか?」
「残念、作った分で材料が切れちゃうんだよねぇ」
「そうか……」
そう言うとガルティアは残念そうに天ぷらを一つずつ、ゆっくりと味わう様に食べていく。正直、そこまで美味しそうに食べて貰えると嬉しさを感じる。とはいえ、それ以上にクソみたいな展開で魔人にしてしまった申し訳なさが先立つのだが。なのでガルティアが最後の天ぷらを食べ終わるのを待ってから、話をする事にした。
ガルティアの方も食べ終わってからで、と言葉を置く。
「なんか目覚めてみれば体に穴が空いてたり腹が異様に減ってしょうがないんだがこれはいったい何事なんだ」
「魔人化だよ、魔人化。ガルティア君。君が殺したレッドドラゴンから出てきた宝玉。アレ、魔血魂と言って魔王の血そのものなんだよ。飲み込むと前の魔人の人格と精神的な勝負を行うんだけど……それに勝利すると……ね?」
「魔人になっちまう、という訳か」
メガラスがその言葉に頷いた。
「魔人は魔王の命令には逆らえない。命じられればそれに従うしかない……が」
と、言葉を付け加え、
「魔王の言葉を耳にしなければ問題はない。お前が魔人となったのは偶然だ。その気がないのであれば逃げられたと俺の方で魔王に伝えておく」
「ほーん……」
それを聞かされ、ガルティアは考える様な仕草を見せる。片目を閉じ、そして小さな声でムシたちと語り合う様な姿を見せる。だが悩む時間はそこまでは長くなかった様子で、次第に声が聞こえてくる。
「まぁ、未練がないってのは嘘になるが……選民主義の連中の嫌がらせにも、同族に化け物の様な目で見られるのにもめんどくさくなってきたし」
「英雄ってのも大変だなぁ」
「この時代の者たちは根本的に腐っているのが多い。特にこの地域は魔法を使えぬ者への迫害が強い」
メガラスが此方に聞こえる声でそれを伝えて来る。何と比べて腐っているか、と言えばやっぱりドラゴンの事だろう。なんだかんだでメガラスも貴重な、第二世代型メインプレイヤーの存在を知る証人である。
というより驚きなのはゼスに根付く魔法至上主義が既にこの時代から根幹を見せている事だ。もしかして神側での仕込みでもあるんじゃないだろうか? まぁ、でも人間って選民思想とか優勢種とか大好きだから当然の流れかもしれない。
そこらへん、ナイチサかジルがしっかりぶち殺して回ってくれる事に祈ろう。
それはともかく、ガルティアの視線が此方へと向けられていた。
「あんたはどうすんだ?」
「ん? 俺?」
まぁ、元々スラルの顔を拝んでおこうとは思っていたのだ。
「スラルちゃんとお友達になりに行くぞ俺は」
「……お前は本当に昔から……」
メガラスが溜息を吐く。そこには絶対に擁護しないぞ? という言葉と気配が隠れていた。そうやって言ってくれるだけメガラスは優しい部類だと思う。ケーちゃんとか頭の中では絶対にずっと俺より強いから早く死んでくれとかしか思ってなさそうだし。まぁ、でもこれでククルククル、アベルと続いてスラルに会えれば魔王コンプの道を進める。将来的にナイチサやジルともエンカウントできればマジで魔王コンプの道が見れる。
これ、俺将来的に生きてるの? 生きて魔王コンプできる?
ジル辺り、割と真面目に無理ゲーの気配が強いが、それでも面白い事に挑戦してしまうのがウル・カラーという存在の宿命なのだ。ルドラサウムが娯楽を求めているのだから、しょうがないよね。
ちゃんと、チャンネル繋いでる?
まぁ、それはともかく、んじゃ、とガルティアが起き上がる。
「行くか、魔王に会いに。面白い奴ならいいんだけどな」
「……酔狂な奴だ」
まるで未練を見せないガルティアの表情にメガラスは再び、溜息を見せた。恐らく人生で最も溜息を吐いている瞬間でもあるだろう。しかし、メガラスじゃなければ殺し合った直後に普通に会話するなんて事も出来なかっただろう。最速で回収させる為にメガラスを前線に送り出したというスラルの判断には天晴と言いたい。魔軍の中で一番話が通じるのは、やはりメガラスなんだよなぁ、と思う。
ケーちゃんは当然問題外。遊ぶ分には面白いのだが、ガチる場合は一番危険なので事前に殺す必要があるのだ。ただケーちゃんを殺してしまうとやはり、未来に不都合が生じてしまう。流石にそこにまで手を出す勇気が自分にはないので、現状の絶望感だけで満足しておく。このどうしようもない絶望感も慣れてくるとそれなりに快感を感じられるし。
「じゃ、魔王スラルちゃんにこんにちはしに行くか……!」
言葉と共にメガラスの背に乗ろうとして、メガラスが横にズレた。
「……」
「……」
もう一度メガラスの背に乗ろうとして、メガラスが残像だけ残して横にズレた。
「おい、《ハイスピード》まで使うか普通」
「男とお前は乗せない」
「ざけんな。俺が男らしいって言いたいのか。ありがとう」
「すげぇな、こいつ。何時もこんな感じに錯乱してるのか?」
ガルティアの言葉にメガラスが頷きながら先導する様に浮かぶとすいーっと、進んで行く。明らかに動き方が俺から逃げる様な動き方だった。《高速飛翔》を使って軽くブーストしつつメガラスへと追いつく。
「待てよっ」
「……」
だがそれに合わせてメガラスが横に《ハイスピード》で回避した。
「そんなに俺の事嫌い!?」
「いや……どちらかと言うと関わりたくない類なだけだ」
「もっと酷い」
「なんだ、魔軍ってのは俺が思ってたよりももっと明るい場所なんだな」
「俺、魔軍所属じゃないよ!!」
「あぁ。こんな奴が味方だったら困る」
「おい、メガラス……メガラス!!」
メガラス、返答もせずに僅かに浮かんだまますいー、っと魔軍の奥の方へ、魔王のいる場所へと向かって進んで行く。お前、LP歴になる前に魔血魂に一回戻してやろうか、とその背中めがけて《火の矢》を連続で叩き込んでいくが、それをメガラスが見てから回避して行く。本当に腹立つなこいつ!
あぁ、でも、たぶんこれが本来のメガラスというホルスの素顔なのかもしれない。本来はムードメイカーだなんて言われていた覚えもあるし。寡黙で無愛想なのは4000年という時が彼を変えてしまったのだろう。
まぁ、その頃は死期なのだが。
「なぁ、それで魔軍って食事とかどうしてるんだ? やっぱ……こう、飯、美味いのが出るのか?」
「なんでそんな発想に至ったんだガルティア君……?」
「え、嫌だってあんなに元気に襲い掛かってくるんだったら腹いっぱい食ってんだろ? つーことはそれが料理出来る奴もいるに決まってんだろ」
「ガルティア君の世界独特過ぎではこれ」
魔人―――魔軍に所属する存在の中でも中核を担う、魔王の側近。その存在は将来的には《無敵結界》と合わさる事によって人類に対してただひたすら、恐怖と絶望を撒き散らす存在になる。実際、それで人間が追い込まれる事態はこの先の未来で何度もある。
それ故に魔人という存在、その個人に対してあまり、深く関わる事もその人柄を知る様な事もなかった。特にメガラスやガルティアを始めとする、出番が少なかったり短かったり、直ぐに死んでしまった魔人等は特別情報が少ない。
魔王スラルもそういう存在の一つだ。
自分がこの、ルドラサウム大陸の歴史を追いかける中で、何時か届く未来までを生き続ける事が出来るのであれば、ゲームとしては書かれなかった、描かれなかった彼らや彼女たちの姿を、この目で捉えて知る事もまた一つの役割なのかもしれない。
馬鹿を口にするガルティアと、未来よりもまだ明るいメガラスと三人で魔王の下へと向かいながらそんな事を考えつつ、思い出す。
―――しまった、脱出に関してノープランだ……!
メガラス、本来は明るいむーふぉメイカー。ただしLP歴ではすっかりその影もなく、ホルス女王テラには嘆かれていた。
ガルティア、本質的には戦士。所属とかをあまり気にはせず、都合によって所属を変える事を良しとする。唯一入れ込んだのがスラルであったという話。
魔人も魔人側で情報足りてないけど、面白い連中多いよね。