アベルとウルの戦い、その戦端は―――ウルが静かに始めた。
「極滅界、第一幕」
唸る様な声と共にウルを中心に環境を己の色に染め上げるように力が放たれる。一瞬で地を這いながら広がる力の波動は環境をウル・カラーが有利な戦場へと塗り替えて行く。即ち光と重力の戦場へと。己が最大限のスペックを発揮する為には、まず自分が有利を取る事の出来る環境を支配する必要がある。炎のドラゴンであれば燃え盛る環境を、氷のドラゴンである豪雪の中が、最も強い。だが超重力と光に満ちた環境なんてものはない。
故に、それをウルは生み出す。
第一幕。その言葉と共に広がったのは重力の波動だった。
一瞬で地平を舐めるように這いずりながら、超重力の束縛が空間を支配する。並の戦士であれば即座に倒れて指一つ動けなくなるような拘束力。そしてそれ以下であれば一瞬で体が潰れて挽肉と化す、そういう束縛が生み出される。最低限の実力がない存在は選別されるようにここで即死する。かつて、ジルが生み出したレベル以下の存在を選別して即死させる特性、《ラグナロクフィールド》をウル・カラーに取り込んで再現したものがアベルと戦う為に展開される。
「初撃を譲るか―――なら行くぞ」
ウル・カラーの初手は決して侮ったり、先手を譲った訳ではない。
環境を構築するというのは重要な手であり、戦闘を行う上では欠かせないアドバンテージを引き寄せる行いでもある。故に次の手から攻撃を放つという事の準備であり、
結論―――初撃は譲るという形になってしまう。
故にアベルはウルが領域を展開する瞬間に合わせるように左半身を前に、右半身を後ろへと引いた。その手の中に瞬間的に闇が集まり、それが空間に形を形成しながら―――物理的な形を生み出した。
それはドラゴンの素材で完成されている、槍だった。
美しいとも表現できる艶のある漆黒の鱗の槍。見覚えのある色と気配に、ウルがその目を見開いた。
「お前、それは―――!」
「一番手に馴染むのがこれだったから……なっ!」
言葉を終わらせる前にアベルが人の姿のまま、槍を投擲した。一瞬で人類が感知できる速度を超越した槍は手首の捻り、指のスナップ、体重の乗せ方、そのすべてが完璧とさえ表現できる精度によって放たれたものだった。肉体の使い方に、一切の無駄がない。その姿は人間の姿にドラゴンの要素を混ぜているという、どちらかと言えば人間に近い姿をしている。
だがその姿から放たれる一撃は人間が出せる限界を超えて更新し続けていた。
一瞬で到達すると正面からウルに衝突し、その体を僅かに大地から浮かべるように弾いた。初撃をアベルが奪った。剣の様に引きちぎられ、鍛え直された翼を広げながらアベルが新たに闇を凝縮させ、魔竜の槍を取り出す。そして同時に、逆の手に同じように魔竜の血肉から生み出された剣を手にした。それらの武器は全て、アベルの血肉を犠牲にして生み出され、名工の手によって鍛え上げられた名剣、名槍の類であった。だがアベルの血肉から生み出されたという事実が、そのすべてを魔剣、魔槍へと昇華させる。
生物として最強種のドラゴン、その中でも元魔王であるという身。その素材から装備が生み出される事は
だがそれをアベルは躊躇なく行った。
自分の身を裂き、そしてそれを打ち直す事を人間に任せた。
その結果、地上生まれの最強の
そして、完全なる技巧によってコントロールされた、ドラゴンの力が放たれた。あのウルでさえ数千年、鍛錬した所で所詮真似事レベルでしか修める事の出来なかった技術、技巧、武。
それが音速を超える速度でウルに衝突した。
投擲された魔槍はウルの黄金の鱗を即座に削り、抉りながら貫通しようとし―――しかし、その前に弾かれた状態でウルが体を捻った。その動きで攻撃を受け流しながら武器を弾く。だがその瞬間には空中を疾駆するアベルの姿が一瞬で目前まで接近する。
人の、姿のまま。
「は」
その姿にウルが笑みを浮かべた。
そしてアベルを光の斬撃が走る。
重力の束縛をまるで存在しない様に振る舞うその姿に、アベルの座標位置を起点に斬撃が発生し、その動きを緩めるのと同時に大量の光の剣が出現し、自動的に雨の様に降り注ぎながらアベルを迎撃する。
同じ時に、ウルに黒い左腕が出現し、両腕による次元を引き裂く爪が連続で振るわれる。
「はは―――」
防御を無視して引き裂く連続攻撃に降り注ぐ光の剣の雨、その合間をアベルが疾走して駆け抜けながら両手のリーチの違う武器でそれぞれ、切り払いながら接近し、衝突し合う。最初に見せた迎撃が偽りではない事を証明するように。
その身一つで、貫く様にアベルがウルの眼前へと迫る。
そしてその姿を前に、ウルが爆笑と歓喜の声を響かせる。
「はははははは―――!」
接近戦でアベルが一方的に制する。ウルの放つ攻撃を無視し、経験と修練に基づく戦闘理論、戦闘術で肉体を完全に制御しながら攻撃を放つ。それがウルをクロスレンジという領域で完全にねじ伏せる成果を見せる。そもそも、ドラゴンとして近接戦という部類において、アベルは元々ドラゴンの中ではマギーホアの次に強さを見せる存在であった。
それが、ドラゴンにはまずありえない要素を内包したのだ。
―――純粋な戦士とは言えないウルを相手に接近戦で押し切るのは難しくはない。
故に接近した瞬間からアベルが殺しに入る。剣で切り裂きながら投擲し、新しく槍を取り出しながら足元に斧を取り出して、それを蹴り飛ばしながら空中を疾駆して乱舞を叩き込みながらウルへと高速で飛翔する。いや、飛翔という概念は正しくはない。もはやその背中の翼は二度と飛ぶことができる様な姿を見せてはいない。故に、自分の力を放出する。
ジェット噴射の様に直進にのみ運用できる瞬間加速を使って一気に距離を詰めて攻撃を叩き込む。一つ一つが致命傷を引き起こし、肉体をバラバラに引き裂く魔竜だった男の連撃がウルへと襲い掛かる。
「く、は」
それを笑いながら翼で払いのけるように防御しつつ、弾いた。ドラゴンの素材で生み出された武具には同質のものをぶつける。即ちアベルの血肉から生み出されたものは、より高位のドラゴンであるウルの肉体そのものでうまく弾けば良い。それを覆すアベルの技量と武器の完成度を、純粋な異能力の差で埋めて弾く。
そしてそのまま、弾く姿勢から口を開いてブレスを吐いた。
横へと瞬間的に自分の身をアベルが弾く。同時にその横を重力球が吐き出され、駆け抜けた。背後で爆裂する重力の塊が周辺の地形を圧縮しながら巻き込んで穿ち、クレーターを生み出しながら圧縮した土砂を纏めて散弾の様にアベルの背後で破裂させ、襲来させる。
「はぁ―――!」
背後からの脅威に対処するようにアベルの翼が動いた。
もはや翼と呼べないそれは翼の膜がはぎ取られ、それを支えられる筈だった骨格が全て潰され、伸ばされ、鍛えられ、背中から刃の翼が生えるように鍛えられており、一本一本がまるで指先の様に変形して動く。それ故に背後から迫ってくる質量の散弾に対してアベルは振り返る事無く刃翼を振るい、両断しながらウルへと高速で接近する。
それを確認するまでもなくウル自身もアベルが倒せるなどとは思っておらず、そのドラゴンの巨体を翼を振るいながら全力で疾走する。重力による反動で加速しながらアベルと距離を開けるように体を動かし、それを上回る速度でアベルが追従する。その両手に血肉から生み出された武器を手に、
再び放つ為に構えた。
そしてその姿が一気に墜落する。
「がっ……!」
天から光の柱がアベルを潰した。
頭上から降りてきた光の柱がアベルを叩き潰し、その姿を大地にめり込ませる。だがそれでは終わらず、連続で光の柱が落ちて来る。文字通り光の塊、光の柱。故に光速。物質的に回避できる速度で生み出された攻撃ではない。それが衝撃を伴って出現し、連続でアベルを大地に叩き込んだ。
破壊を生み出す度に大地が抉れ、そして亀裂が広がる。
その隙間に重力の波動が編み込まれ、内側からルドラサウム大陸の表層が粉砕されて行く。
地形が変動する中で、一切の油断なくウルが光の柱を叩き落し、自動生成と射出を行い光の剣を殺到させる。明らかに殺すには過剰とも呼べる暴力を放ちながらもウルは動きを一切止める事無く加速し、
「この程度で、俺が殺せるとでも思ったか……!」
大地を割り砕きながらアベルがウルへと向かって直線に加速した。
落ちて来る光の柱を
「ははは、何時の間にそんなものを覚えたんだよお前!」
より深く、領域が広がるのに合わせて植物が死滅する。水の重量が増し、地表を侵食する様に削る。だがそれを一切気にする事無く、南の方へと大地を蹂躙しながら、哀れにも近づきすぎてしまったモンスター等を知覚させる前に殺害して戦闘を続行する。理解不能な領域で力を放出しながら破壊を撒き散らしながら死の行進を続行する。
「あぁ、これか? 昔からあったみたいだがな―――」
接近し、中空でウルと衝突する。爪と槍が衝突し、弾かれ合いながら光が炸裂する。それをアベルが放出されるブレス等に使われるエネルギーを全て、自己の防護に回す事で堪えながら無理やり突破してウルに食らいつく。
「まぁ、どうでも良い話だろう」
アベルが振るう武芸という概念はドラゴンには存在しないものだ。
そしてそれは
魔王は全て、就任と同時にLv3技能を得る。それはメインプレイヤーに簡単に倒されず、常にルドラサウム大陸を魔王が蹂躙し、楽しませる為のシステムアシストの一種である。ナイチサ、そしてアベルはバグとして蘇った後もその状態が継続している。スラルはメインプレイヤー移行後に魔王のテストケースとして生み出された為にLv3技能を保有し続けている。故にアベルは元々、これらの技巧を繰り出す事が出来た。
武芸、という概念さえ存在すれば。
だが、ドラゴンにそんなものはない。
剣も、槍も、斧も、弓も、そんなものはドラゴンには必要がない。ドラゴンにとっての武器は己の肉体のみだ。爪と牙、そしてブレスさえあれば事足りる。人間の様な細かい技巧を凝らす必要はないし、ドラゴンの怪物的な肉体は細かい技術を体現するにはあまりにも強大で、不器用すぎる。生物のスペックとして使用する事を前提としていないのだ。
だがアベルはそれを異能として得た。
そして使えればそれこそこのように、Lv3のドラゴンと戦う事さえ出来る。
だがそうはならなかった。アベルは一生気づく事はなかった。そして理解した所で、アベルはそれを拒否したであろう。何故ならそれは神々の愉悦の為の悪意だからだ。魔王のシステムアシストという部分に一切の変わりはない。
ドラゴンの誇りから、知った所でアベルは手を出せなかっただろう。知らず、そのまま蹂躙されればそれはそれで面白い。実際、そうなった。
つまり
それで終わる。
それで終わる―――筈だった。
だが蘇った。正史から物語が逸脱する過程でアベルは目覚め、そして自分が触れる事はなかった概念に、ドラゴンが知らない概念に触れた。それはそのまま、ドラゴンであるならば当然のように無視するか、怒りを覚える設定だろう。手を出すのは特に変わり者のウルぐらい。
だがその頃、アベルはもう覚悟していた。
「あぁ、実にどうでも良いな」
神々の愉悦? 設定? 知った事か。もはや姿かたちは問わない。俺は、勝ちたいのだ。その為にドラゴンの姿では勝てない? 人の姿を取る必要がある? ならそれで良いだろう。俺は戦う為に適応する事を選ぶ。
俺は勝ちたいのだ。
愉悦したいのなら勝手にしろ。
笑いたいのなら勝手にしろ。
利用するも見下すのも自由だ。
全て、どうでもいい。勝手に孤独に笑ってそれで満足していろ。空しい一人笑いで楽しく時を無駄に過ごせ。だが使えるというのなら使わせて貰おう。
アベルはもはや、その辺りを完全に吹っ切っていた。考え、考え、考え抜いて、
最終的に自身に残されたものが頂点へと挑み、勝利する事への渇望のみだと知った。
故にドラゴンの姿を捨てた。勝利の為に。それがアベルにとっての最大の勝機であるが故に。だが同時に、魂までは売りはしない。それこそ契約や対策用の武器を使えば更なる勝機を得られただろう。
だが相手はその身一つで戦っているのだ。
もはや狂気とさえ表現できる強さへの信仰。
故に、現状のアベルを表現する言葉は一つに縛られる。
―――脳筋。
アベルはごちゃごちゃ難しい事を考えるのを止めたドラゴンだった。
「第二幕」
高速機動での打ち合い、インレンジにおける戦闘は何をどうあがいてもアベルに軍配が上がる。純粋な戦士タイプではなく、身体能力の差で有利を取りながら魔法による近接戦闘を繰り広げるウルはどちらかと言えば魔法戦士タイプに入る。それも周りを破壊、消滅させながら戦うはた迷惑なタイプに。故に一番苦手とするタイプが極限まで極まったインレンジファイターであり、次元爪が通じないのであれば引きはがす必要が出て来る。
故に準備を伴う。
環境変動が更に激化する。重力が更に強くなり、強靭な戦士でさえその肉がつぶれる音が響く程になる。それと同時に光が熱量を伴うように漂う。
ウルを追い、接近し、武器を振り上げるアベルに触れる光が燃える。
「ぐぉっ、ぉぉおお―――!」
燃える光が空間に満ちる。呼吸するたびに肺が焼かれる。無理に動けば体力を消耗する。体力を消耗すればそのまま重力に押しつぶされる。何もせずに相手を殺す為の陣が展開される。マギーホアと同じ《ドラゴンLv3》を保有するウルはしかし、マギーホアとはその技能の方向性が違う。
マギーホアは完全にドラゴンとしての身体能力、生物としての強さに注ぎ込まれている。
だがウルはドラゴンとしての異能力、エネルギーやそれを扱う方へと方向性が伸びている。
マギーホアは物理的にシステムを超越し、ウルは魔導的な方向性でシステムを超越する。故に、マギーホアには出来なくともウルであれば環境の上書き、法則をある程度書き換える程度であれば、神光を用いて行う事が出来る。
そしてその戦術や魔法の想定は全て
故に大技、消滅技。広範囲を薙ぎ払い消滅させる事に特化されており、アベルの様な極限まで特化して突き抜けた小型の存在と戦う事を全く想定していない。
故に対応するように、更に自分の周辺の環境を喰らい、染め上げ、そして更に凶悪な攻撃を段階的に加速させながら消滅させるように放つ。少しずつギアを上げて行く様に威力を上昇させ、安定させて行く。光の斬撃がアベルを起点に発生しながら、重力の力を帯びて斬られるのと同時に内側へと向かって肉が圧壊される。それによって傷口が瞬時にねじれて壊死する。
それをアベルが即座に放出、纏うエネルギーの分量を増やす事で相殺して対応する。
「おぉぉぉ―――!」
次々と自分の血肉を切り出し、人間の―――勇者の血筋の鍛冶師に打たせた武器を使い捨てにする事で一切ペースを落とさない。全身を光に焼かれながらもその中を突き抜けてウルへと接近し、
今まで同様、致命打を武器を破壊しながら叩き込む。
一つ一つが致命傷に匹敵する一撃。それを連続で叩き込む事でウルの全身に傷跡が増えて行く。同様にアベルの全身も絶え間ない光に焼かれ、回避不能の斬撃が叩き込まれる事で傷痕が無数に増えて行く。生物を超越する生命力があって、漸く死なないというレベルの攻撃を双方、ノンストップ、ノーガードで叩き込み続ける。
そして受けた傷の分は生命力を燃焼させる事で補填する。
自分の生命力を燃やし、それで自分の傷を高速再生させる事で対応する。
ニトロを常に爆破させながら全力稼働させるエンジンの勢いで加速し続ける。アベルから少しでも有利を取るようにウルも全力で大地を疾走し、空へと上がりながら加速を繰り返して振り切り、魔法とブレスを放つだけの距離を生もうとする。だがそれを生み出した瞬間、アベルから勝機が消える。
それを察するアベルが全力でウルの姿へと食らいつく。
「ははははは―――!」
「ふ、くくくく……!」
ウルの首筋に槍が突き刺さる。翼に剣が突き刺さる。腹部に斧が突き刺さる。
同じようにアベルの首筋が抉れる。指が吹っ飛ぶ。腹部が切り裂かれる。
それらの傷を力と生命力を燃焼させて回復しつつ、一切戦闘行動を止めない。ウルが動きながら咆哮する事で光が空間に渦巻くような竜巻となってアベルを飲み込もうとする。それをアベルが大剣を取り出して粉砕しながら蹴り飛ばして放って来る。攻撃の一つ一つが周辺への被害を一切考慮しない、破壊の嵐。
だがその中で、二人は相対しながらも全力で楽しさを堪えきれずに笑っていた。
この相手は強い。
だが強いだけではない。
同格だ。どうしようもなく、同じレベルの相手だ。
全力で戦い、競い、喰らい合い、それでいてもまだ同格のままだ。自分の全力を出し切った所で勝率は五分。そういう相手との戦いは、ドラゴンの闘争本能を限界を超えて満たしてゆく。そしてそれが同時に、好敵手という状況が二人の力を引き出す。
まだだ、と。
まだ、こんなもんじゃない。
相手よりも強く。今の自分よりも更に。
あいつよりももっと―――。
その闘争心がウルとアベルの力を引き出す。
未来・ゼスと呼ばれる大地、魔物界との国境を横断する様に大陸の端へと向かって全力疾走する。放たれる攻撃はもはや一切の加減や、その後の事を考えたものはない。大剣の一振り、槍の投擲で大地が抉れて闇と雷が爆裂する。それに負けぬように咆哮するウルから連続で光線が放たれる。絶え間なく放たれる《ガンマ・レイ》が時折、人里があるであろう方向へと向けられては何かを、或いは誰かを破壊する。
もはや、
二人には殺し合うお互いの姿しか見えていない。
「最終幕」
大地が闇色に沈む。燃え盛る光が消えて、蛍の光の様な粒子が風に乗って揺れる。重力に吸い寄せられるように大地へと向かって落ちて行き、
アベルが突き抜けようとして触れ、
接触個所が消滅した。体が光に触れると虫食いの様に消滅して行く。それが即座に回避も防御も不可能な必殺の領域の攻撃であるのを悟る。
「は、ははは―――ははははは! 勝つのは俺だ!」
煽るように、しかしまだだ―――まだやれるだろう? そう語りかけるようにウルが叫んだ。
それを前に、アベルが口角を持ち上げながら吠えた。
「吠えろウル・カラー! 勝つのは俺だ……!」
アベルが武器を全て捨て去り、持てる力を全て吐き出すように一直線にウルへと向かって接近した。最高、最速の一撃が前傾姿勢の状態で飛んでくる。迎撃する様に後ろへと下がりながらウルが口を開く。
その口から究極の破局が放たれる。
出すまい。そう思って使わなかった破局の一撃。魔王でさえ倒す事を可能としたそれがアベルを飲み込もうと放たれた。直線状にある全てを抵抗関係なく消し去りながら進んで行き、
アベルがその中へと消え―――、
「おぉぉぉぉ―――!!」
―――ない。消えない。その攻撃を回避するように直前に大地を割ってその中へと潜り込んで、それを追うように薙ぎ払うウルの懐へと一気に飛び込んで。
そのまま、背中の刃翼が煌めいた。
全力、至高、最強の一撃。ドラゴンとしての、そしてアベルが神々の悪意によって植え付けられた《武芸Lv3》の技能、そして彼自身の矜持、覚悟、
刃翼から放たれる一閃がゼロ距離からウルの肉体を貫通する。問答無用で即死させる一撃を放つ。触れた生物は切り口から全身、体内を闇に食われながら侵食し、闇そのものとなって霧散するそれを受けて即死しないのは、ただたんにウル・カラーという生物のスペックがメインプレイヤーの領域からはみ出しているだけに過ぎない。
故に、ウル・カラーはそれを受け止めた。アベルの覚悟に、本気に応じるように。そしてそれを受けた瞬間こそが最も無防備になる瞬間であると超本能的に察知していた。故にアベルの最強の一撃を受けて全身を蹂躙されながら、
「■■■■―――!!」
体に満ちる興奮と熱望に身を焦がしながら言語にならぬ咆哮を轟かせて、アベルを大地へと叩きつけるように抑え込んだ。そのまま、全身に満ちる力の全てを、属性も破壊力も一切の遠慮なく大地に打ち込んだアベルへ、
自身諸共、巻き込む様に全てを吐き出すように叩きつけた。
―――破局が大地を穿ち、全てが閃光に染まった。
さよならゼス……。