愛し合った。
ただただ愛し続けた。
時間なんてものは気にしないし、日が昇って沈むのを数えるのは遠い昔に止めたから、時間の感覚なんてものは壊れている。だからひたすら意識が続く限り愛し合った。途中でなんで愛し合っているんだろうとふと考えてしまったが、孕むためだったっけ? と思ったりして正気に戻ってからまた愛し合って、セックスして、ひたすらセックスし続けた。何十年、何百年、何千年もパートナーが居なかった状況を上書きする様に、体中をマーキングする様に犯し、犯され、ひたすら愛し続けた。
膣を、尻を、口を、胸を犯し、此方から奉仕する様に犯し返し、理性を溶かし切ってひたすらセックスに励み続けた。ドラゴンという生き物はセックス程度で死ぬような軟弱な生き物じゃないし、疲れて来たら軽く生命力を分け与えれば良い。そうすれば飲まず食わず、ノンストップで互いを犯し続けられる。途中、余りの快楽に心臓が止まっても、強すぎる生命力が勝手に心臓を動かすからショックで死ぬ事も出来ない。
気絶している間もセックスを続行する。
口から言語にならないうめき声の様な喘ぎ声しか出なくなってもセックスする。体位を何度も切り替えては、同じ場所を何度も犯される。特に気に入られたのが後ろから抱えられ、抱きしめられて犯される姿勢だった。抱えられる事で全身を感じられつつ、好き勝手犯されつつも、全身を背後から貫かれつつ弄られる。全身が敏感になり、抜け出したくなっても絶頂から逃げられない。
そうやってセックスを繰り返して、繰り返して、繰り返し続ける。
脳味噌の中身を蒸発させて、匂いも様子も一切気にかけないほどに乱れに乱れ続けて、
―――そして、気づいた時には終わっていた。
ひたすらセックスし、ベッドも体も部屋も精液と愛液で汚れている。所々血が混じっている所もある。それを魔法で綺麗にして、軽く腹を押せばそこから精液が垂れ落ちて来る。そんな状態でベッドに、並ぶ様に裸のまま倒れ込む。
果たしてどれだけセックスを続けていたのか。それを一瞬だけ考えて、そして考えるのを止める。ベッドに倒れていると逞しい腕に、守られるように抱き込まれる。腕の中に抱かれ、体を軽く丸めるようにしながらベッドの中、魔法で少しだけ清潔にした空間を二人で過ごす。
しばらくは余韻に浸るように無言を貫いていた。
だがその無言も永遠に続かないもので、徐々にセックスの熱が引いてきた所で、少しだけ肌寒さを感じて身を寄せる。そうやってセックスのないふれあいをしばらく続けてから、
漸く、口を開く。
「……なぁ」
「なんだ」
「……ん、いや、なんでもない」
「そうか」
アベルが生きている、その鼓動を感じながら再び無言に戻る。そう、こいつは一度死んでいるんだ。そして蘇っている。その果てにこうなっているのだから、実に不思議なものだと思う。だけど、まぁ、何と言えばいいのだろうか。
不思議と幸せだった。
自分がこういう風になるなんて、思いもしなかっただけに割と今、冷静になってショックというよりは驚き……でもなく、なんというか……収まる所に納まった……という感じがあった。自分でも困惑するぐらいに安らいでいるし、安心している。或いはずっと、こういう風に静かに寄り添える相手を待っていたのかもしれない。
戦って戦って戦って、未来の事を考えては何か先の事を考える。
それから解放されることを、待っていたのかもしれない。
こうやって抱かれて、守られるように触れ合っていると心が落ち着く―――漸く、休めるように。
「もう、そろそろ引退かなぁ……」
「いきなり、どうした」
いやさ、とアベルの腕の中で呟く。
「長い間戦ってきた訳だけど……俺様もいよいよメインプレイヤーかどうか、怪しい所になってきた訳だ」
実際、半身程神域に突っ込んでいる。半分ぐらいなら二級神名乗れるんじゃね? と思うぐらいにはシステムから意図して逸脱する事が出来る。それでもまだマギーホアには勝てないのだからあのドラゴンバグよりもバグだよって思う事は多々あるのだが。まぁ、それでも自分は強い、メインプレイヤーが許される範囲を超えているかもしれない。それでも排除されないのは―――まぁ、色々とあるからだろう。そういうことを含めて考えると、
「まぁ、なんというか……俺が暴れたら全部簡単に終わっちまうだろうしな」
人間なんて、簡単に殺せる。
戦えたアベルが凄まじいのだ。普通はあの戦いの中で即死する。もはやルドラサウム大陸の中でも最上位の生物の一つに自分をカウントできるだろう。だからこそ、もう戦う意味がない。戦えば勝ててしまう。それこそ魔王にだってやり方さえ選べば、勝てるかもしれない。少なくとも情報をもとに専用対策を組めば勝率は良い所まで持ち込めるだろうとは思っている。だけどそうやって自分が勝利した所で、
あまり、この世界に対する意味はないだろう。
俺が出て倒して終わり。
そのワンパターン。歴史は変わりつつあるし、大きく変わっている部分もある。もはや同じ未来が訪れるとは言えない。だけどそれで良いとは思っている。ただ、そこで発生する物語をメインで楽しむのはもう、
俺じゃない。
自分勝手、好き勝手やるつもりではある。だけどここで敗北して、すっぱりとマギーホアに勝利する執着心を捨てた。その上で、何がしたい? 何を求める? どうなりたいのか。それをちょっと、考えてみた。マギーホアに勝つ程強くなるというのは一つの目標だった。だけどそれをスッパリ諦めたとすれば、
「……子育て?」
「子育て」
此方の言葉にやや困惑した様子でアベルが聞き返してくるのに、ちょっとだけ焦った。
「あぁ、いや、だってさ……ほら、負けたら素直に諦めるって話だろう? となったら何があるかな……って考えてさ。冒険を引退ってのも割と漠然としてた考えなんだよ。なんか、これ以上俺があっちこっち暴れても……なんというか、人類の為にはならない感じがしてさぁー」
それで今、何を一番楽しみにしているのかを考えてみたらさ。
「やっぱ、生まれて来る子が一番楽しみかな、って」
散々種を仕込まれた自分の腹に触れる。どれぐらい混じり合っていたかは解らないが、まず間違いなくそこに必要なものは注がれた。ハンティはどうやら卵生だったが、そこらへん自分は割と曖昧だ。ドラゴンだし、カラーだし、半神ぐらいあるし。となると普通に妊娠するかもしれないし、或いは卵を産むのかもしれないだろうし。どちらにしろ、散々アベルにこうやって種を注がれたのだ。
確実に子を孕んでいるだろう。
俺の、子供をだ。
どんな子が生まれて来るのだろうか。男の子か? 女の子か? ドラゴンになるんだろうか。それともカラーだろうか? 或いは普通の人間かもしれないし、ちょっとそこは予測がつかない。だけど出来たら健やかに育って欲しいから、元気に生まれてきて欲しい。あぁ、間違いない。男の子でも女の子でも、どちらであっても愛情をたっぷりと注いであげられる事はまず間違いがない。
うん―――たっぷり愛して育てられると思う。
生まれて来るのが凄い楽しみだ。
「えへへ……」
思わず小さく笑い声が零れてしまう。元気に、生まれてくると本当に嬉しい。そう思っているとぎゅっとアベルに抱きしめられた。視線を軽くずらし、アベルの方へと視線を向ければ、アベルが目を瞑りながら、その顔を此方の髪に埋めているのが見えた。
「……産んで、くれるのか」
「そりゃあ産むさ」
「俺の、子でもあるぞ」
「なにか、問題でもあるのかよ?」
「……俺は」
「元魔王とか、裏切り者とか言うなよ」
いいか、とアベルに抱かれたまま口にする。
「お前は、俺が惚れたんだ。だったら胸を張れば良いんだよ」
「そうか―――いや、そうだな」
両手を回して抱きしめて来るアベルが納得する様に、力強く言葉を返す。
「あぁ、そうだな。お前は俺を選んだ。なら俺はお前という女に恥じない雄であるべきだろう。お前に選ばれた俺自身を誇る……そういうことか」
「俺は、かっこいい雄に惚れたからな」
だから卑下するな。お前を選んだ俺が馬鹿になっちまうだろうが。道化にしないでくれないか。あの時の格好良い姿が偽物ではないと証明し続けてくれ。そんなお前に惚れてしまったのだから。だからアベル、お前の子供を産むよ俺は。多分そうやって子供を産んで、育てて、そしてこの世界がどれだけ楽しいのかを、伝えてあげたい。
「俺はこの世界に産まれてさ、絶望したんだよ」
なんて未来のない世界なのだろうか。そう思った。
「絶望して、狂おうと思ったんだ。狂えば何もかも忘れられるから。だけど狂えなくてさ、苦しくてさ。八つ当たりをして、悩んで……そしてずっと苦しんでたんだ」
それを乗り越えた所で、漸く気づけたんだ。
自分はこのルドラサウム大陸を愛している、という事実に。
「色々と辛い事があったしさ」
「あぁ」
「今もめんどくせー、って思っている事もあるよ」
「あぁ」
「だけどさ……それを全部ひっくるめてさ、それが
生きる。
ただ茫然と、漠然とではなく、生きるとはいったい? どういう事なのだろう。その答えを自分なりに、理解に至ったと思う。今、この時になるのだが。
俺は―――私達は、今を生きている。
辛い事も苦しい事も沢山ある。努力した所で私たちの頑張りが報われる訳でもないのだろう。時には大事な物を失う事だってあるんだ。だけど、それだけじゃないのだ。明日の空は蒼いし、食べてみた美味しい料理にどうしようもない幸福を感じる事だってある。日常はその積み重ねで、最終的に解ったのはそのすべてをひっくるめて、生きるという事だ。自分の行い、不運、そのすべてを受け入れて、
初めて自分の生という物を楽しめる。
それを知った。
そしてそれを知った上で、
「俺、本当に女になっちまったなぁ、って」
こうやって犯されて孕まされて、なのにそれがとても幸福に感じる。そうやって女としての充実を覚えると、もはやかつての自分だった存在とは完全に決別し、今のウル・カラーという個人に完全に落ち着けたんだな、と思える。だから自分の物語の終わりという物を感じている。そしてそれでいいんじゃないかなぁ、とも。
そう思っていると、アベルが口を開いた。
「お前は……そういう風にものが考えられるんだな」
俺には、難しい事だとアベルが続ける。
「お前と比べれば俺も愚かな男だろうな」
「いや、ここまで突き抜けて変われたんだ。お前は格好いいよ。他の誰でもない、俺にそう思わせたんだから。お前はそれで良いんだよ」
個人の主義主張なんて人それぞれだ。誰かにとっての答えが別の奴にとって正しいとは限らない。だったらそれでいいと思う。正しい、正しくないなんて個人で判断すればよい。
「それがアベルの出した答えなら、俺は笑って受け入れるよ。少なくともお前は……そう想えるぐらい、素敵だよ今は」
その言葉にアベルがしばし黙り込み、そして小さな声で、
「お前が……父親に似なくて良かった」
「えっ……アベル君、俺のお父さん知ってるの」
何気ない呟きから、まさか自分の父親が発覚するとは思わなかった。驚きと共に軽く首を回して視線を向ければ、アベルも少しだけ驚いたような様子を見せていた。
「てっきりマギーホアの事だから既に言っていると思ったが……?」
「えっ、マギーホア様、パパーホアなの」
「パパーホア……パパーホア……?」
「あ、子供が生まれたらジジーホアか」
「ジジーホア」
―――ルドラサウム大陸の暗き闇の奥底。
そこで蓄音機からクラシックを流しながら紅茶を嗜む肌色の悪い貴族風の男が座っている。その対面側には同じような、貴族の様な風格を持ち合わせる少女の姿が存在し、輪郭があやふやな影法師の様な悪魔が給仕をしている。場所を選ばなければ優雅とも表現できた空間はしかし、長い間無言が保たれていた。男は一切気にする様子はないが、少女の方は牽制する様に、威圧する様に常に睨みを利かせていた。
そんな空間の中で、
影法師の悪魔が沈黙を破った。
「あっ、孕んだ」
悪魔の権能によって監視を続けていた悪魔は、その確認を言葉にして、契約通り男へ―――元魔王ナイチサへと告げた。それをナイチサはどことなく楽し気に聞き、
そして相対する少女、元魔王にして悪魔スラルは不機嫌そうな表情で聞いた。
「で―――これも予想通りな訳?」
スラルの怒りの込められたような言葉を前に、ナイチサはしかし、受け流す様に明らかな機嫌のよさを見せて返答した。
「当初の計画とは僅かに逸れたが―――それでも結論から言えばそうだな。ウル・カラーがアベルの子を孕んだ。その点だけを上げるのなら私の思惑通り、となったな」
「アベルが予想外の方向に弾けた時はすこぉーしだけ、焦ってしまったけどねぇ?」
「ドラゴンの脳筋っぷりを舐めすぎよ」
「痛感した。だが結論から言えば計画通りだ」
持ち上げていた紅茶の入ったカップを降ろし、小さく笑みをナイチサを浮かべた。ナイチサという男の事を良く知る存在であれば、それがどれだけ不吉であり、そしてまた珍しいものであるかを知るだろう。根本的にナイチサが笑みを浮かべる様な事はない。それは彼の愉悦を感じる感性が一般的な感性からかけ離れている事にあるのが一つ、
もう一つ。
彼が喜びを感じる行い―――そのハードルが果てしなく、高い。
「そう……まぁ、悪魔として契約された以上、契約内容だけは順守させて貰うわ」
何よりも、自分にとってもそう都合は悪くはないし。そうスラルは言葉を続ける。ただし、ナイチサへと向ける警戒は一切怠らない。当然の備えであり、常にナイチサが何らかのアクションを起こそうと思考した瞬間自分の行動を割り込めるように彼女は備えていた。
だがそんな事はナイチサ自身にはどうでも良かった。
「あぁ、これで漸く念願が叶う」
上機嫌そうにナイチサが呟く。
「ハーモニットはウル・カラーに肩入れする。ローベン・パーンは中立を保ち、プランナーは
三超神。創造神ルドラサウムを抜けばこの世界において最も力を持つ神々。この大陸の根源的な部分を設定し、生み出した存在でもある。それらが一人の女に関する事を争っている。異常とも呼べる事態はしかし、ナイチサからすれば当然の事であった。
あの女は
そう言葉をナイチサは吐いた。
「だがそのおかげでここまでやって来れた。三超神は実質、意見が割れている所にある」
牽制し合っている状態の三超神、その意識が互いに向けられているのであれば、
「我が創造主は彼女を見ている。話を聞いた。そしてまだ見ぬ未来に魅了されている」
エール・モフスの大冒険。それをルドラサウムは求めている。他の誰でもない、自分だけの冒険を。
だがどうだろうか?
ルドラサウム大陸で生まれたバグ。その上で神光を操り、神位に近い存在。それに合わせるのは魔王になった事のある、魔王の血を持つ存在。どちらも生物としてルドラサウム最高峰。それから生まれて来るのはメインプレイヤーであり、素質と資質を見るのであればこの大陸で最高と言えるだろう。
それこそ、ルドラサウムが受肉する先として。
或いはエール・モフスよりも。
「そうだ。我が主神ルドラサウムを満たすのは三超神ではない―――私だ」
「ほんと、貴方。頭おかしいわよ……」
ルドラサウムを楽しませる。
ナイチサという男の全てはそこに集約していた。三超神よりも、初めてルドラサウムの欲求を満たせるかもしれない。その事実だけが、ナイチサの心を満たしていた。
「その為にククルの技術を人間に流したり、色々準備しているものねぇ、ナイチサ様は……ふふふ」
狂気、そうとしか表現できないレベルでナイチサは全てを掌握し、完全にルドラサウム大陸を盤上として支配していた。
その相手は絶対に勝利出来ないであろう相手、三超神。
だがそれに対してルドラサウムの心情、愉悦を利用する事で渡り合っていた。
「ほんと……どうしようもないわね」
その狂気を前に、どうしようもないとスラルは両手を投げ出していた。
誰も、この男を止められない。
仲人のナイチサでございます。この披露宴の二次会では美白討滅ゲームを準備しており……。