※この作品はR-18です。

ルドラサウム転生異聞録   作:てんぞー

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3XX年 鉄と魔

 ウルが塞ぎこんでから時間が経過する。

 

 とはいえ、自分の日常は変わり映えしない。ウルの面倒を見て、食料を調達し、家のメンテナンスを行い、そして鍛錬を行う。将来的に、マギーホアへと挑む予定ではある。今の調子では千年先の話かもしれないが。それでも鍛錬を続ける意味はあった。より強くなる事を目指しつつ、嘆く妻の面倒を見て日々を過ごす。

 

 何が正解だなんて解る筈もなく。ただ、努力する事しか己には出来ない。

 

 出来る事と言えば現状維持と未来に備え、体を鍛える事。そもそもそれ以外、特に能のない者でもある。とはいえ、自分が現状に対して、何もできないという事実はそれなりに辛い部分がある。だが自分よりも辛いのは産んで、そして産まれさせることのできない子供を持つウルの方である。そう思うと自然と意識が引き締まる。

 

 ……だがそれでもどかしさが消える訳ではない。

 

 何をするべきか。何ができるのか。それを考えていると思考がぐるぐるとめぐり続けるのが解る。

 

 だが―――待てる。

 

 待ち続けられる。

 

 飽きるほどの時間を、生きていけるのがドラゴンという生き物。今は回復の兆しが見えないが、それでも長く生きていれば忘れられる―――その時を待てば良い。

 

 待ち続ければ良い。

 

 

 

 

「大人しく、放っておいてはくれないか……」

 

 自分とウルが住まう森の周辺も、大分にぎやかになってきた。時を数えることはしてないものの、森の外では集落が村に、村が街に発展していたのを知っている。人間の逞しさは世代を超えながらも受け継がれ、時代を作って行く。だがその精神性が、いずれこの大陸を征服するという野望へと変わる事は、歴史が証明している。根本的な部分でメインプレイヤーが領土を求め、そして支配する事を求めるという気質は、ドラゴンの時代から変わりはない。これでもそれなりに上手く森の外とは付き合えていた気はするのだが、

 

「ここが平和だった時代ももう終わりか」

 

 呟きながら風に混じる鉄の匂いを感じ取る。人間が生み出す武器、兵器、その気配が森の外周から近づいてくるのを感じ取っていた。人間はある程度復興すれば、再び集まって国家へと形式を発展させる。そしてそれは土地の占領、確保、そして蹂躙へと繋がる。そしてやがて、それは人間同士の争いへと発展するだろう。魔軍という明確な脅威が去っている今、

 

 人間は自分達で争う時代へと入るのだろう。

 

「……」

 

 振り返り、家を見る。中にはウルが残っている。少なくとも彼女の精神状態は今、即座に自殺する程のレベルではない。とはいえ、自分が長期的に姿を消せばまた荒れるのは目に見えている。

 

「ならさっさと片付けて戻るのが良いか」

 

 そう結論し、もう一度だけ振り返ってから大きく跳躍する。素早く終わらせて帰れば問題ない。跳躍から空へと飛びあがり、空気を蹴って一気に落下する。空気に混じる鉄の―――血の匂いを嗅ぎ分けながら落下する。そして両足で大地に立ち、森の外延部に広がる景色を見た。

 

 まず最初に見たのは炎であった。

 

 時を経て育っていた街が燃やされ、崩される景色だった。そこから炎が広がり、血の匂いが広がり、そして風に乗って森へと運ばれていた。それ自体は人間の世ではありふれた景色ではある。森へと向かって人々が走り、逃げようとしている姿もまぁ、良い。

 

 問題は人間を殺している姿だ。

魔物ではない。人でもない。

 

 ()だ。

 

 鉄と鋼の塊が人の形をして動いている。それが拳を使って人を一撃で粉砕、殺している。抵抗する様に剣や斧、槍を握った者達が応戦しているがその鋼鉄の体の前に武器は意味をなしていない。弾かれ、砕かれ、そして接近されて殺されている。その景色、その姿はまさしく虐殺という言葉に相応しい。魔軍ではない存在によって人類が蹂躙されている。

 

 そしてその景色の中で、最後の人の気配が鉄の兵士の拳によって粉砕された。

 

 濃密な血と死の匂いが風に乗って運ばれて来る。森の中から動物たちの怯える気配を感じ取り、そして街の住人を殺戮した鋼鉄の兵士たちが此方へとその瞳のない顔を向けるのが見えた。

 

「森へと踏み込むのであれば破壊する。己の身を惜しむのであれば去れ」

 

 忠告だけを送り、虚空から己の骨から作った槍を引き抜く。己の闇―――心から常に絶えず沸き上がる憎悪と怒り。それを源泉として竜の力を合わせて生み出した暗黒を薄く武器に纏って腕を降ろし、鋼の敵―――鉄兵の姿を見る。

 

 語る言葉を持たない兵士たちの視線が此方へと向けられ、その存在しない殺意が此方へと向けられるのを感じ取った。

 

「所詮はガラクタ……意思を持たないか」

 

 言葉を吐き出すのと同時に街をたった4機で滅ぼした鉄兵が大地を蹴るように走り出し、加速して来る。目を持たない故、どうやって探知しているのかは解らぬが、その反応と迷いのなさから或いは、生命力を探知しているのかもしれない。

 

 そう考えた所で跳躍する。

 

 次の瞬間には足元を鉄兵が駆け抜け、拳を振るっている。その拳は背後にあった木々へと衝突し、それを根っこから抉り出す様に粉砕、引き抜いて破壊している。人間の身であればそこそこのレベルがあろうとも、関係なく即死させられるだけの破壊力を持っている。成程、これであれば人間程度容易く蹂躙できるのも道理だ。

 

 考えるのと同時に連携する様に鉄兵が飛び掛かってくる。それに軽く滞空する体めがけて跳躍した鉄兵が拳だけではなく、腕から刃を伸ばす。拳と同時に振るってくる斬撃を空中で体を捻って回避し、そこで回避するのを待っていた3機目と4機目の鉄兵が挟み込むように殺しに来る。

 

「ふん」

 

 両側から来る挟み撃ちを槍と蹴りを繰り出す事で迎撃する。刃と顔面を蹴り飛ばしながら足場にすることで空中で更に回転し、そして方向転換する。そのまま持っていた槍を地上に居る鉄兵めがけて迷う事無く投擲した。

 

 一瞬で加速した槍が鉄兵の対応可能な速度を超えて頭上から突き刺さり、貫通して大地へと串刺しにする。

 

 その勢いのまま体を回転させながら落下する。落ちて来る姿を先に着地した鉄兵が体から引き抜いて回転するノコギリの様な刃で迎撃して来る。その姿めがけて踵落としを落下の威力を乗せながら放つ。鱗を纏った足とノコギリの刃が衝突、

 

 刃が砕けながら足が鉄兵に食い込む。

 

 それを力任せにそのまま下へと引きずり落とし、鋼の肉体を両断する。

 

 そのまま、暗黒を拳に纏って握る。接近して来る鉄兵の顔面に此方から踏み込んで拳を叩きつける。一撃で頭部を粉々に粉砕しながら続けて膝を叩き込んで胴体に穴を開け、そのまま足を伸ばして鉄兵を蹴り飛ばす。地平の彼方へとその姿を転がしながら最後に残された鉄兵が背後から飛び掛かる。

 

 刃翼を生やし、それを振るう。

 

 一瞬で刃翼に五等分に解体された鉄兵がバラバラの部品となって肩を越え、正面に転がる。

 

 破壊し終えた残骸へと視線を向け、軽く呟く。

 

「これで―――」

 

 終わりか、と、言葉を口にしようとしたところで高速で飛来して来る気配を察知した。

 

 素早く視線を南へと向ければ、其方から飛んでくるものが見えた。否、それは先ほど破壊したばかりの鉄兵であった。それが一体、二体、三体、と数を成して流星となって落ちて来る景色だった。破壊したばかりの鉄兵が、破壊された所を補充する様に十数と降り注ぐように落ちて来る。そしてそれが隊列を組みながら手に筒の様な武装を―――ラ・バスワルドが握っていた魔銃を不格好にしたような、そんな武装を手にして歩いてくる。今の人類ではとてもだが対抗する事の出来ない戦力を前に、

 

「森へと踏み込むのであれば破壊する。去れ……俺と彼女を放っておいてくれ」

 

 少しだけ頼む様に言葉を口にする。だがそれを聞き入れない鋼の行進が近づいてくる。銃口が此方へと向けられる。或いはこの一帯の人を、その生命を根絶させることを目的としているのかもしれない。明らかに技術的な発展からはあり得ないレベルの高さが見れるその姿に、Lv3の技能保有者が歴史を動かし始めたという事実を理解し、

 

 また、新たな歴史の節目が来たのだという事を理解させられる。

 

 とはいえ、

 

「俺とウルにはそんな事に興味はない。放っておいてくれ」

 

 ただ、穏やかに暮らしたいだけなんだ。

 

 その言葉を口にする前に、

 

 銃声が響く。

 

 見えてくる弾丸の暴風を前に新たに武器を引き出しながら刃翼を振るって弾丸を弾き飛ばす。弾丸というよりは砲弾に近いその質量を粉砕しつつ、加速した肉体を一気に前へと向かって飛ばしてゆく。一気に増えた鋼の列の姿を前にしかし、脚を止める事も恐れる事もない。

 

 砲弾を嵐のように叩き込んでくる戦列の先頭に両手を槍と斧で塞ぎながら振り上げ、脚から蹴り込むように突進して吹き飛ばす。鋼を紙の様に引きちぎりながら武器を振り回して粉砕し、鉄兵を蹂躙する。

 

 今はただ、ウルと二人で子供を迎えて……家族だけで穏やかに暮らしたいのに。たったそれだけの小さな願いを叶えたいのに。それすらこの大陸では許されないのだろうか? あぁ、きっと許されないのだろう。神々の誰もがそんなものを望んでいない。彼らが求める者はもっと刺激的で、暴力的で、そして絶望的な宴だ。

 

「俺を殺せるのは……ウル・カラーだけだ……!」

 

 粉砕し、滅砕する。正面から鋼の形を滅ぼして消し飛ばす。

 

 自分が彼女の為に出来ることはきっと―――これぐらいしか、ないのだろうから。

 

 

 

 

「お帰り、アベル。大丈夫?」

 

「あぁ、何も問題はない」

 

 全ての鉄兵を粉々に砕いて殲滅した所で、家に戻ればウルが出迎えてくれた。未だに家の外に出られないままだが、それでも卵から少しだけ、離れられる様になった。少なくとも、壁一枚を隔てられる程度には。改善という言葉からは程遠いかもしれないが、未だにちらりと卵の方へと視線を向けている事には変わらないが。それでも迎えてくれるようになったことは嬉しい。

 

 彼女を不安にさせないように、心配させないように傷の類は作らない様にしている。今回も攻撃の類は全て体に傷がつかない様に処理した。面倒な数だったが、所詮は心血の通わない鉄くず―――自分の敵ではない。

 

 だから帰ってきた所でウルの頭を撫でて、自分の無事を伝えた。それを見てウルは安心したようだったが、

 

「何が、あったの? 血の匂いを感じたけど」

 

「……鉄の兵士が街の人達を皆殺しにしていた」

 

 ウルに出来事を誤魔化すかどうかを考えて、素直に話す事にする。そもそもこの手の知識、記憶に関してはウルの方が強い。そもそもこの世の真理に手を触れている女なのだから。そしてその通り、それを聞いてウルは少しだけ考えるように目を伏せ、

 

「……鉄兵、聖魔教団……だな」

 

 自分の遭遇したもの、その答えを出した。

 

「聖魔教団?」

 

 どっかで聞いたことのある気がする名前だった。

 

「んとな……聖魔教団ってのは人類をレイシズムで統一しようとした連中だよ」

 

「レイシズム?」

 

「人種差別だよ。聖魔教団が出て来る前の時代は魔法使いに対する迫害があって、それをなんだっけ……誰かが魔法によって魔法を使えない者を管理、支配する時代に変えたんだよね。このときはまだ聖魔教団って呼ばれてなかったような……」

 

 ウルは思い出そうとして首を捻って、細かい所までは忘れた、と呟いた。

 

「だけどこいつら、闘神や闘将、鉄兵とか言う疲れを知らない兵士を生み出して人類圏を統一したって事は覚えているよ」

 

「そうか、助かった」

 

「いいよ、俺もこれぐらいでしか役に立たないし……アベルに負担ばかり押し付けててごめん」

 

「気にするな……俺はお前の存在に救われている」

 

 項垂れるウルの頭を抱き寄せて、撫でる。そうやって彼女を抱きしめながらも、ここでの生活はそろそろ限界にあるのかもしれないというのを察する。あの大軍は間違いなく、鉄兵を迎撃した自分を察知して送り込まれたものだろう。

 

 となると、再びあの大軍が来るかもしれない。

 

 あの鉄くずがいくら集まろうとも自分たちの鱗を砕ける訳ではない。1000体集まろうとも全て破壊しつくすだけの力が自分にはある。

 

 だがそうなると、ウルと―――その卵が、危ない。もし卵が戦闘に巻き込まれて砕かれるようであれば今度こそ完全に彼女は壊れてしまうだろう。

 

 それを回避するためにはもはやここにはいられない。

 

 ……この大陸で、恐らく一番安全な場所へと彼女を送る必要があるだろう。或いは、そこでなら原因が見つかるのかもしれない。

 

「……送るしか、ないか」

 

「アベル?」

 

「……なんでもない」

 

 彼女をそこに送れば……自分はもう、彼女と一緒に居られないだろう。少なくとも、マギーホアはそれを認めないし、俺自身もそれを認めることは出来ないだろう。少なくとも、あの場所へと自分が踏み込んで居られる様になるにはあの竜王を倒す必要がある。そしてそれが出来ない今、

 

 ペンシルカウに、翔竜山に向かう事はウルとの別れを意味する。

 

 だがそれでも―――それでも、

 

 彼女を、ペンシルカウに送らなければならないだろう。




 ドラゴンは細かい年代を記録しない。

 さぁ、時代が盛り上がってまいりましたね。ウル様が元気であれば聖魔教団相手に遊べたかもしれないけど、今の状態だと到底無理でしょう。その上で歴史そのものが変わっているので、聖魔教団の技術関連も……。

 という訳で、ペンシルカウへれっつらー。
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