予想してたよりも魔王の周辺環境はしっかりしてた。
というか未来で言うリーザスに既に魔王城があった。正確に言えば建設途中。魔物兵の姿が見え、それが魔王城を建設している最中だった。防衛を考慮して城壁やら堀やらを用意している。重力属性の魔法で作った《斥力跳躍》で軽々と障害物を飛び越えて移動する。
メガラスはそもそも空を飛べるし、道中で使徒化などの話を聞いたガルティアはムシの集合体を使徒化させて空を飛べるようにしたので、それに捕まって空を飛びながら移動している。やっぱり移動力増強系の何かは必要だよなぁ、と思って開発した魔法だったが、こうやって飛行可能な連中と一緒に移動していると切実にそう思える。これで《魔法Lv3》だったら《瞬間移動》がハンティの様に使えるのだが。
だが時空干渉系魔法はLv3の特権だ。《ドラゴンLv2》と《魔法Lv2》という組み合わせによる裏技でも重力属性の魔法を生み出す事が限界だ。それにしたって十分凶悪なのだが。それでもハンティが使える《瞬間移動》の事を考えると、もう一つ何か、移動用の手札が欲しい。
素の移動力だと距離が短いし、《高速飛翔》と《ゆらゆら影》を差し込んでも魔王や魔人級との戦いでは速度で劣るし。この先、《無敵結界》を獲得する魔人や魔王の事を考えれば、
まぁ、この100年間ちまちまレベル上げしているし、レベルダウンしない様に気を付けているから継続的に続けていれば将来的には三ケタを維持できると思うのだが。ともあれ、
《斥力跳躍》で大ジャンプしつつ、メガラスと一緒にガルティアを建設中の魔王城へと送り届けに来た。しかし旧魔王城はそういえばリーザスに建設されるんだっけ? と思い出す。魔王城と言えば魔物界のそれがイメージが強すぎるが……そういえばジルの復活がリーザスだったな、と連鎖的に思い出す。まぁ、遠い未来の話だ。
まぁ、それはともあれ、
「お、メガラス様お帰りなさい!」
「……」
「メガラス様、其方の方は?」
「新しい魔人とキチガイだ」
「あ、はい」
「メガラス君? ……メガラス君?」
「こっちだ」
「お前ほんと俺にだけ酷くない??」
「お前が女なのは見た目の都合上だけだと思っている」
「正しいけどさぁ! 正しいんだけどさぁ!!」
こう、釈然としないものがあるよ、メガラス・マイ・フレンド。勝手に友人認定したけど大丈夫だろうか? まぁ、口にしなければ問題はない。
軽やかな足運びで大地を抜けて行く。そしてそのまま、建設中である魔王城の入り口まで到着し、忙しそうに働いている魔物兵の様子を目撃しつつ、メガラスに案内され、中へと進んで行く。ガルティアもガルティアでへぇ、と声を零しながら周りを見て行く。
「総数が把握されてなかったけど、これが魔軍の総数って所か……」
明らかに前線に出ている魔物兵よりも多くの魔物兵が魔王城付近には固められていた。それを眺めながらガルティアがぼそり、と呟いた。
「……これだけいりゃあ数年で人類を滅ぼせるな。いや、前々からこうなら既に滅んでておかしくないのか?」
明らかに人類を滅ぼせるだけの戦力を前にガルティアが少しだけ考える仕草を見せ、その姿を見て背後で自分はにやにやと笑っている。つまり魔王スラルはある程度自力で人類を絶滅させてはならないという事実に到達しているのだろう。ナイチサはその事実に辿り着けず、勇者によって死にかけた。あぁ、そういえば勇者システムも、AL教も大体SS歴に生み出されたものだった、と思い出す。
「魔王はこっちだ。礼儀正しく―――礼儀、正しく、な」
「俺を見て言うのちょっと傷つくぞお前」
「……」
メガラスのジト目が突き刺さるも、メガラスは諦めて案内する。既に赤いカーペットの敷かれた魔王城内部へと侵入する。《魔法Lv2》技能によって、魔王城そのものに風化防止などの魔法が使われており、簡単には崩れないようになっている事が解る。中々高度な魔法だ。こういう便利系な魔法ではなく実用性ばかりを求めた戦闘、戦闘補助用の魔法ばかりを研究している身としてはこういう魔法はちょっと、興味がある。
とはいえ、メガラスとガルティアが奥へと進んで行くので足を止めている暇がない。 駆け足で二人に追いつきながら魔王城の奥へと進んで行き、複雑なその内部構造を進んで、奥へ、そして上へと進んで行く。
やがて、ここから人類を苦しめる為の指示をジルが出し続けると思うと恐怖しか感じないなぁ、と思いながらも、やがて入り組んだ城内の奥へ、凄まじい気配を感じる場所へと到達した。直感的にこれが魔王の気配であるのを察す。懐かしさすら覚える、ククルククルやアベルと同種の、怪物の気配だ。
ぶっちゃけ、アベルも魔王としてはすさまじく強かったのは間違いないのだ。
ただ、それ以上にマギーホアが怪物的だっただけで。
扉の向こう側から感じる気配はアベルには劣るものの、今の人類で倒す事の出来る存在ではないレベルの強さを持つ存在感を放っていた。その気配を前に、流石のガルティアもやや緊張する様子が見て取れた。そして自分も、
……うーん、選択間違えたかな?
と、思わなくもなかった。アベル時代であればドラゴンの肉体だから強引に逃げ出す事も出来たが、姿がヒューマン・カラーとなった今では、ドラゴン程の力を出す事は出来ない。もし本気で殺しに来られたら、逃げ切れるか割と怪しいラインであるのは事実だ。とはいえ、ルドラサウムが期待しているのであれば、俺も道化を演じなくてはならない。神の奴隷の立場は実に大変なのである。
「……魔王様、メガラス……帰還した」
故にメガラスが扉をノックした時、そこで覚悟を決めた。死ねばどうせルドラサウムへと還るだけなのだから、そこまで心配する必要もない。何時も通り、脳味噌を半分蕩けさせて対応すれば、まぁ、何とかなるんじゃないか? とは思わなくもない。そして同様にガルティアも覚悟を決め、
「あら、最速を名乗る割には遅かったわねメガラス。入って来ていいわよ」
扉の向こう側から聞こえて来る少女の声に、ガルティアが表情を僅かに変えた。あぁ、やはり驚くだろう、そこは。何せ、魔王スラルは少女なのだから。
そしてメガラスが扉を開けて、その向こう側に広がる玉座の間を見せた。
その奥、玉座には黒い胸元が僅かに開いた服装に身を包む、白髪紅眼の少女の姿が見えた。そう、少女だ。玉座に座っているのは少女であり、その前には魔物大将軍の姿が見える。それらが全て、緊張感をもって魔王スラルの前に平伏しており、魔人が室内に侵入すると頭を下げてから玉座の間から出て行き、
背後で、扉が閉じた。
片手に紙の束を握りつつ視線を入室者三人―――つまりガルティアとメガラス、そして自分へと向けた。その圧倒的生物として上位の気配に、ガルティアは黙り込み、しかし視線を外さない。
「で」
と、スラルが見慣れない二人の姿を見つけて声を零した。
「私、魔血魂を回収しろって命じたのに、見慣れない魔人が増えてるんだけど」
スラルの姿を見て、ガルティアの姿を見て、ガルティアの方を見ながらサムズアップを向けた。
「ぶっ殺してやったよ!」
「食っちまった」
「……」
その言葉にスラルが真実を求めてメガラスへと視線を向けるも、メガラスがものすごい残念そうな表情で頭を横に振った。残念ながらそれは真実であるとスラルへと告げると、スラルが盛大な溜息を吐きながらガルティアへと視線を向けて。
「私の下へと来たという事は私に従うって事でいいのかしら?」
「いいぜ。ただし俺の部族への手出しは止めて欲しい。それが無理ならしばらく攻撃しないでくれ」
ガルティアの姿を見て、スラルがしばらく悩む様な姿を見せてから、そうね、と声を零した。
「じゃ、契約成立ね。今日から貴方も私の部下ね、えーと」
「ガルティアだ、魔王様」
「スラルよ―――で」
そいつは何? という視線をメガラスが再び受ける。つまり俺に関する扱いだ。しかしガルティアの件、恐ろしいほどに円滑に軽く進んだなぁ、とちょっと、驚いていた。何より驚いたのはスラルの普通っぷりだ。魔王として、余りにもこれでは普通だ。さっきのガルティアからの交換条件、魔王の特権で命令して従わせるのではなく、損得で判断していた。そんな事しなくても魔王であれば操れるだろうに。
魔王スラルの最終的な評価は【思慮深く慎重、歴代最弱であり少女】という評価だった。だけど成程、そうか、と納得させられる。
確かにこりゃあ少女だ。
魔王の癖に欠片も怖くねぇわ。
未覚醒のリトルプリンセスに近いものを感じる……とでも表現すればいのだろうか? まぁ、まだリトルプリンセス誕生すらしていないのだが。それはともあれ、メガラスがスラルの言葉に対して、自信満々に頷いて答えた。
「キチガイだ」
「おい、メガラス君? フォローは?」
「俺は嘘がつけない」
「メガラス君! メガラス君!」
「私、別に芸人の相方を見つけろって命令を出した覚えはないんだけど」
俺もまさか土壇場でメガラスに裏切られるとは思わなかったが、しかし、メガラスは頭を横に振る。
「狂人ではある。だが同時に賢人だ。前魔王時代で最も竜王マギーホアに信用された道化師でもある。俺が名を口にする前に魔王様の名を口にしていた」
その言葉でスラルの警戒心がぐんっと上がった気がする。メガラス、フォローをしたつもりだったかもしれないが、それで逆に警戒心をガン上げしているという事実にどうか気付いて欲しい。ちょっと見えるメガラスのドヤ顔がムカつく。お前は早く数千年後の無愛想モードになってろと心の中でテレパシーを送ってみる。
駄目だ、着信拒否に設定されている。
仕方がないなぁ、と溜息を吐く。
片手を額に当て、盛大に、露骨に溜息を吐く。
「はぁー……ごめん……魔王相手に一応戦った事はあるんだけどアレ、53点だったしちょっとスラルちゃんに対するキャラどう通すべきか困ってるから数分だけ時間貰っていい?」
「53点……」
「スラルちゃん……」
「53点……」
片腕でタイムな! とやってスラルが困惑している間に必死に考える。必死にどう話せばいいか解らないので、考え直し、そして首を傾げた。
「待て、俺はスラルちゃんと仲良くなりに来たのだ。つまり特に関係なく素の狂気でお話をすればいいのではないかと気づいてしまった。特に遠慮する必要はないのではこれ?」
「そう……」
言葉と共にスラルが殺す為に魔力を集めるのを見た。あ、駄目だ。これ少女でも普通に殺しに来るタイプだ。遊ぶ範囲を間違えると真っ先に始末されるぞこれ。
「おぉっと、魔王になった程度じゃ無敵じゃないってのは解るけど。そうやって直ぐに手を出そうとすればアベルみたいに直ぐに死んじまうぜ? ははは、ほら、アイツの魔王としての任期60年もなかったしな」
スラルの腕が振るわれた。横の空間を斬撃が抜けて行き、床と壁を破壊しながら深い裂傷を刻んだ。うん、実にニアミス。スラルが逸らさなければ今ので即死していたな、と内心で爆笑しつつ言葉を続ける。
「へえ、詳しそうね」
「知ってる事に関してはね。こう見えてもククルククルもアベルも見て来たから、お前で3人目……歴代魔王コンプって感じなんだわ。スラルちゃんはどういう魔王を目指すんだ? ん? ククルククルみたいな偉大で最強の魔王を目指す? それともアベルみたいな暴れ過ぎて駆逐されるクソ雑魚魔王を目指す?」
ニヤリ、と笑みを浮かべてスラルを見る。本気出されたら死ぬよなぁ、間違いなく死んじゃうよなぁ、と思いながらも、この命を懸けたどうしようもないチャレンジが今、楽しかった。状況的には絶望的なのは事実なのに、それでも笑う事を止められなかった。間違いない、今の俺クソ野郎に違いない。100歳程度の少女相手に1000歳近いドラゴン・カラーが理詰めで脅迫し始めてる。
クソ楽しい事実をここに認めなければならない。
「それとも―――神様にでも泣きついてみるか? ん?」
その言葉にスラルが睨む様な表情を見せた。お、殺すのか? 殺しに来るのか? 殺しちゃう? ざっくりと殺しちゃう? それはそれで将来の心配をしなくていいから楽で助かりはする。それはそれで楽しいから別にいい。ルドラサウムに見つめられる日々も終わると思えばそれも救いの一つだ。
と、期待を込めてスラルを眺め続けるが、
スラルが魔力を霧散させた。そして呆れたような表情と声をメガラスへと送った。目を閉じ、心底疲れたような表情を浮かべ、
「成程、確かに狂人ね……これは。どうしようもない程の。だけど同時に賢人ね。しかも見せつけて聞かせる事に愉悦を覚える質の悪いタイプ。貴方、友人は選ぶべきよ」
「友ではない。知人だ」
「末代まで呪うぞホルス」
その発言を聞いてスラルとメガラスが此方へと視線を向け、同時に溜息を吐かれた。おかしいなぁ、一体どこで道を間違えたのかと思ったが、この世界に生まれてきた時点で人生を間違えたようなものだった。それじゃあ文句も言えないなぁ! と納得する。全ての責任はルドラサウムが背負おう。
良し。
「ま、王のそばには道化も必要……ってことかしら、ね」
スラルの言葉に玉座の間での謁見は一旦、お開きとなった。
年表を追いかけても欲しい情報が揃っていない時の絶望感。情報が……情報があまりにも足りない……!
とはいえ、それでもスラルが少女らしい魔王、或いは庇護欲を誘う相手であるのはケッセルリンクとガルティアを見れば解るかなぁ、って。どういう風に味付けするかは公式から情報が出ない以上、創作の中では自由でもある。とはいえ、基本的な情報は欲しい。
凄く欲しい。