緑光の剣が降り注ぐ。
それは分かりやすい破壊と破滅。触れた瞬間消滅が確定する破壊神の剣。本来であれば拡散されるように放たれる緑光はしかし、それを振るう者の意思によって完全なコントロールを得られていた。すなわちさらに密度を、質を上昇させることによって物質化を果たしていた。それは女神が振るうにふさわしい剣という形を取り、十の剣となって射出され、振るわれる。そして今、それが剣弾となって頭上から降り注ぐように落ちてくる。必滅の剣が描くのは即死という結末にほかならない。
破壊の女神ラ・バスワルドに睨まれた存在には、死という結末のみが残される。
故に降り注ぐ先で、死は確定する。
一瞬で光に到達する光剣は防ぐ手段がなく―――、
「―――おいおい、そんな物騒な事はやめてくれよっ!」
男の放つ言葉と共に、完全に遮断された。
それはあり得ない光景だった。男が左手で広げる本、そこから引き抜かれた頁が浮かび上がりながら盾になるように動き、男に届くはずであった攻撃に衝突し、傷つく事もなく遮断して無効化した。腕を振るう動きに合わせて展開された頁が障壁となって防ぎながら、不可視の領域から放たれた必殺の重力砲撃を弾く。ほぼ連続、防御から攻撃へと移る瞬間を狙うように放たれた一撃を男は
その魔法と権能による波状攻撃が収まった瞬間を狙うように、
髑髏顔の機構が周囲に浮かべたビット型機構を通し、砲撃を放った。
三段重ねの遅延攻撃に男の反応は遅れる―――事もなく、射線をギリギリかすめる程度の距離だけ体を滑らせ、回避している。その左手が本を広げている状態に変わりはなく、その身から禍々しい汚染の証である穢れを隠す事もなく、
完全汚染人間の男は、ハンティ・カラー達の前に立ちはだかっていた。
構えていた方の手を下げた状態で正面、ハンティ・カラー、ラ・バスワルド、そして闘神Ωに騎乗しているフリーク・パラフィンが相対し、僅かな沈黙が流れる。それこそフリーのプレイヤーであれば、必殺とも呼べる人材と布陣であった。この組み合わせと戦う事の出来るメインプレイヤーなんて、大陸で片手で数える程度しか見つからないだろう。だが男はその戦力を相手に、
生き延びていた。
連続攻撃が終わった瞬間に男の姿が一瞬だけ喪失し、次の瞬間には力の塊を片手に、闘神Ωへと接近していた。その合間にラ・バスワルドが割込み、緑光の鎧を纏いながら男の一撃を受けた。
当然のように、男の攻撃はその腕もろとも光に触れた個所から消えてゆく。そのまま勢いがあれば体が衝突するようにラ・バスワルドの光の鎧に飲まれて消えるが―――それよりも早く、男の姿が喪失し、闘神Ωの背面に出現する。その腕は肘から先が失われており、完全に消滅している。これでラ・バスワルドの権能が機能していれば男の再生は始まらない。
始まらないはずが―――闇が凝固し、男の腕を形作るように再生してゆく。
「《ガンマレイ》!」
「おっと」
頭上から魔法が落ちてくるのを男が見る事もなく転がって回避し、続けて振るわれる剣による攻撃を片手で地面をたたき、体を飛ばしてさらに回避する。起き上がった瞬間を狙いすますように緑光の剣が周囲を囲むように出現し、男を狙うと一気に飛翔して襲い掛かってくる。その攻撃のみ、男は迷うことなく頁を周囲に展開するように腕を伸ばし、闇が完全に人肉と破けた衣類を修復再生するのと同時に弾いた。
「《ディメンション・バースト》」
「やれやれ、本当に容赦がない」
軽い口調で苦笑を零しながらも、男は何かを見るような視線を止めずに動き続ける。それが常にラ・バスワルドの攻撃を先読みし、そしてハンティとΩの動きをギリギリの範囲で避けるか、直ぐに再生できる範囲で受けるかに留められている。一瞬で出現しては消え、奇襲染みた攻撃をΩ、そしてハンティに男は繰り返し行おうとする。だが完全なる緑光の制御を行うラ・バスワルド相手に中級程度の魔法では当てた所で大したダメージにすらならない。
その程度のダメージしか出せないのに、
こと、防衛戦という領域でだけは、男は異常な実力を発揮していた。
その動きはまるで最初から何が来るのかが見えているかのようであり、破壊神の権能である消滅を部分的に受けてもその全身が消えないというのは、
―――解りやすい、異常性だった。
それでありながら、戦場を一切動かす事なく、三人を前へと進ませていなかった。男は自分がそうである、と指定した防衛線を一切下げることなく攻防をこなしていたのだ。そして今も、
まるでそうなるのが当然のように立った場所は戦いが始まる時、男が立ちはだかった場所である。
魔と人の境界線の戦場。
遠くが見通せるその場で、男は一人で英雄を前に、ひたすら戦場の停滞を行っていた。だがその異様さ、異質さにラ・バスワルドの声が漏れた。
「あんた……ナニ……?」
男の存在を理解できないラ・バスワルドが声に疑問を出した。ラ・バスワルドのセンサーには、男が汚染が完了した、完全汚染人間であることを認識していた。だとすればそれはラ・バスワルドの権能が破壊する対象である。彼女の権能が最も有効な存在であるハズ。であるのに、彼女の権能は中途半端な成果しか生み出す事はなく、更に攻撃力に特化するように磨き上げさせられてしまった。それは破壊者としての自負があるラ・バスワルドの自尊心を傷つけるものでもあった。
そんな女神の言葉に、
「俺か?」
本は構えたまま、何時でも頁を滑らせられるようにしながらも男は答えた。
「哲学者だよ。なんてことはない。自分以外にとっては全く無意味で、無価値で……そして自分にとっても特に意味もない。そんなことを続ける無駄な生き物さ」
「無駄に生きてるなら別に、私たちの邪魔をする必要もないよね?」
「おっと、これは一本取られたな」
ハンティの言葉に対して哲学者は笑いながら答えつつ、指をスナップさせる。背後から出現した剣を頁でガードし、弾く。それには視線すら向けない。だがそれを目撃したからこそ、見えたものがあった。
その動作から、即死を簡単に狙うのは難しいという事を理解し、攻撃の手が止まる。そして男と三人の間で膠着状態が始まる。そもそもからして、男の使う術は時空属性、《魔法Lv3》を要求される上に、それ自体の相性が要求される超高等技能だ。なのに、ハンティは男からはLv2相当の魔力しか感知できていなかった。その汚染人間としての性質、扱っている魔術、先読みの原理を含め、不明点が多すぎる。
謎すぎる敵の存在に戦力などを図り切れていなかった。
そこに、男の笑みが差す。
「あぁ、そうだ。そのままおとなしくしていてくれると助かる。時には待つ事も答えであるとは言ったものだろう? 別に永遠に通るなって話じゃないんだ。半日ぐらいゆっくりとここでティータイムでも過ごしたらどうだ?」
「冗談を言わんでおくれ。儂らはルーンを止めねばならんのだ。彼がこの先にいるのは解っておる。邪魔をせんでくれんか?」
闘神Ωの言葉に哲学者は即答した。
「無理な相談だ。いや、半日後であれば通してやれるんだが……そうだな、所謂最悪のタイミングというやつだ。本当になんでこうもギリギリで来てくれるんだ。俺としても出来たら高みの見物としゃれこみたい所だったのにな。ともあれ……答えはノーだ。残念、もうしばらくここを通してはやれないな」
Ωからの言葉を切り捨てながらも、哲学者は大胆不敵ともとれる態度を貫いていた。戦力差は歴然であり、長期戦に持ち込めば疲弊する分、最終的に男が負けるだろうというのは、見えている。それが見えている中で、一切崩れない余裕に対する違和感が三人を前へと踏み出すことを躊躇させ、
それが男の狙い通りに、状況を膠着へと持ち込んでいる。
その中で、ハンティが今にも全力の緑光でこの周辺全てを更地にしそうなラ・バスワルドを視線で抑えながら口を開く。
「なぁ、アンタさ。なら何が目的なんだよ。別段、ルーンの味方……って風には見えないし」
「俺か? 俺の目的か……まぁ、そうだな」
そう質問されたことに対して、小さくだが喜びの感情を男は表した。あるいはそういう風に誰かに接されたことがないのかもしれない。どことなく相手の反応を引き出す振る舞いは、相手と語り合うため、という意思表示にもとれる。
そこで男は、応える。
「真なる神の名を知る事」
「……はぁ?」
そんな、頓珍漢な答えが男から出た。その言葉に当然のようにハンティとΩが首を傾げる事となり、ラ・バスワルドが反応した。
「ルドラサウム様の事?」
創造神、ルドラサウム。その名が出た。このルドラサウム大陸には数多くの神々が存在する。だが真、という符号をつけて語れる神は一柱しか存在しない。それこそ創造神ルドラサウム。大陸の名となった神。この次元におけるすべてを自らの身で生み出した存在。その名を口にできるのは、真実に近いもの、或いは上位の神々。魔人となって零落したともとれるラ・バスワルドではあるものの、それでもその元の格は二級神。遥か天上の存在になる。ルドラサウムの存在は当然として、知っている。
その名に対して男は笑みを浮かべた。
「
「は?」
今度はラ・バスワルドが開口する番であった。真なる神、と呼べるのはルドラサウムしかない。だが男はそれを否定したし、ルドラサウムを的確に表現する言葉を使った以上その存在を理解している筈だ。いや、そもそもからしてルドラサウムの存在を理解し、そして表現できる事がおかしい。それほどの賢人であるならば
なのに、その態度からして好き勝手動いているようにしか見えない。
大陸の法としてはまずありえないものだ。
創造神の名前にたどり着ける程有能ならば、必ず破滅している。
その上で無名であるのがおかしい。
それは神々サイドの視点から理解できる事であった。
だが男は頭を横に振った。
「いや、俺の言っている事が解らないのであれば別に良い。期待していない事だしな。やはり、その足跡を追うしかないか……」
期待外れであると言外に語りつつ、男は自分にしか意味の解らない言葉を口にする。それを聞いてハンティ達はあぁ、なるほどこの自己完結するやり口はまさに求道者、学者、哲学者と言われて違和感のない性質だった。
とはいえ、それで何らかの結論が出るわけでもない。
結局のところ、
「通さない、か」
「然り。まぁ、あきらめてくれると嬉しい。今は……な」
どうする? という視線をハンティがΩへと送る。戦意をたぎらせるラ・バスワルドに関しては聞かなくても解るとして、ここにきているのは闘神Ω―――フリーク・パラフィンの意向が大きい。フリークが半日待てると言うのであればこの気味の悪い男もやり過ごせるというのがハンティの考えではあったが、
「残念じゃがそれは難しい……ルーンがもはや己の身を顧みずに前線を押し上げる事に決めて最前線に来ている。恐らくルーンだけと儂らが会える、戦える時は今だけじゃろう。時間が経てばほかの闘神や魔軍とぶつかるじゃろう」
ルーンを討つチャンスは今しかない。ハンティの伝手を使い、最強の闘神である闘神M・M・ルーンを問答無用で消滅させられるラ・バスワルドを引き連れたのだ。通常の戦力であれば通じないルーンも、ラ・バスワルドという鬼札であれば余裕で対応できる。闘神の再生能力も、その全身を一瞬で破壊の緑光で包み込んでしまえば意味はない。学習も、改良も行えずに消滅する結末しか残されない。
故に、ここしかない。ラ・バスワルドの消滅光が万が一にでも解析されれば―――それこそ、完全なる闘神が誕生してしまう。
そうなっては遅い。
それに、またこの女神を連れ出せるとも限らない。
その為、フリークにとっては今、この時だけがルーンを倒せる時であった。それゆえフリークはこの場を引く事が出来ない。前に進み、ルーンと相対しなくてはならない。己の教え子が生み出した不始末を、これまでずっと目をそらし続けていた事実に直視する時が来たのだ。
もはや、逃げる事は出来ない。
「退いては、くれんかな」
「交渉決裂とは実に残念だ。俺もこんな無益で辛い争いを続けたくはないのだが、こうなってしまえば仕方あるまい」
とことんやりあおうか、という言葉を構えなおしながら示す男に対して、ハンティ達もこの男を突破する為に魔力を高まらせる。
衝突は必須。回避のできない結末に、それぞれが動きを始めようとした瞬間、
「っ!?」
―――激震が大地を揺らした。
それと共に空が赤く染まるほどの炎柱が発生し、戦場の一角が変質したのをその場にいる誰もが感じ取った。その反応と共に即座に男は三人から視線を外し、振り返った―――戦場、その争乱の中心点へと。その場かあらまるで見えているかのように、喜悦の表情を浮かべた。
「あぁ……ついに始まった。これでまた歴史が変わる」
本を覗き込み、確認するように視線を巡らせてから男は正面、もはや元には戻らない流れを見た。正史、と呼ばれるはずの流れからはもうすでに逸脱している。完全にそれがもとに戻る事が出来ない流れが、ここに男の妨害によって完成されてしまった。ハンティ達がたどり着けば、或いはまだ本来の流れに沿う事は出来たのかもしれない。
だが、もう遅い。
男がその流れを完全にここで断ち切った、パラレル、或いはIFと呼ばれる流れを新しい歴史として、本来の歴史の上書きに成功した瞬間でもある。
「これにより真なる神の存在は完全なるものとなる。新たな維持神としての地位は確固となり、もはや何者にも止められず、染められない至高の存在となった。あぁ、真なる神よ。願わくばお前の名を知りたいところだが―――」
男は成し遂げたことに酔うように言葉を放ち、腕を広げて動きを止め、そしておっと、と声を零す。振り返りながら三人を見渡し、
「あぁ、すまない。俺の用事はもう済んだか―――」
と、言葉の途中を緑光が薙ぎ払った。
完全に上半身を飲み込んだ緑光は問答無用で男の上下を分断しながら消し飛ばし、足と本だけを残して綺麗に消滅させた。
「バスワルド!!」
「え、今の私が悪いの? いや、だって明らかに隙だらけだったし……」
「いや、うん。悪くはないんじゃと思うんだけど……うん、やっぱり今のはちょっとひどいと思うわい……」
「えぇー……」
男の残骸を三人が眺めながら軽く息を抜けば、即座に大気が震えるのを感じ取れる。濃密な魔力と殺気が常に殺意と闘争心渦巻く戦場の中で突き抜けるように感じ取られる。ここに来て、三人は男が一体何を待ち望み、そして時間を稼ごうとしていたのかを理解する。
その魔力の質を知り、読む事の出来るハンティはその主の名前を口に出す。
「―――ガイか!」
「《ラグナロク》」
魔剣カオスを手に握り、生命と魔力を燃焼させる事で超越的な力を手にする禁呪を斬撃と魔法、織り交ぜて放つ。その融合と昇華、同時にコントロールする技術はもはや、ガイにしか行えないものであり、その破壊力は溜めや詠唱を必要とする大魔法に匹敵するものの、その性質から
剣を振るい落とす。
それだけで大地が砕けて割れ、黒い衝撃波が戦場を拓く。それに合わせて振り上げる剣が大地から黒い爪を生み出し、対象を大地から串刺しにしながら粉砕する。
たったそれだけの攻撃で闘神が数体、再生不可能な状態にまで粉砕された。漆黒の魔力を纏う半人半魔の男―――魔王ガイの前に、その程度の障害は、敵として立つ資格さえなかった。
ガイが闘神を滅し、歩き出すのと同時にその前方をかすめるように闘神の残骸が吹き飛んだ。瓦礫の山となった闘神達を吹き飛ばしながら、巨大なリスの魔人、ケイブリスが出現する。ギリギリ闘神がガイを掠めたのを見て、
「ちっ」
聞こえるように舌打ちを放った。それを見てガイがケイブリスへと視線を向ける。
「今、当たりそうだったのだが」
「当たれば良かったな。そうすりゃあ俺様が魔王だ」
ガイが転がっている闘神の残骸へと視線を向けてから、ケイブリスへと視線を戻す。
「あの程度では無理だ」
そこでいったん言葉を止め、両手でカオスを握ったガイがそれを振り下ろした。出没する鉄の即席兵士、マジックポーンを大地から生み出した無数の漆黒の剣で串刺しにし、真っ二つに粉砕しながらその破片を魔力で溶かしつくした。
それから、視線がケイブリスへと戻る。
「最低限これぐらいして貰わねば無理だ」
「そういう意味じゃねぇよ……」
「それに魔王はホーネットに継がせる。貴様には無理だ」
「解った、てめぇ俺様を煽ってるな?」
ケイブリスのその言葉にガイが首を傾げ、ケイブリスの額に青筋が浮かぶ。その様子に殺せと喚くカオスの声は―――しない。魔剣カオスに映されているその顔の姿は目を閉じて眠っているように見える。
ケイブリスにそんなリアクションを向けてからさて、とガイは声を零し、
その視線を正面へと戻した。
その先にある、巨大な機構を見据えるように、カオスを正面の大地に突き刺しながら両手を乗せた。
「さて……待たせてしまったか?」
「いや、気にする必要はない」
巨大さでいえば、それは最大級の闘神に匹敵するだけの大きさはない。全長8m程、しかしケイブリスやガイからすれば十分なほどに大きい機構である。だが重要なのはその大きさではなく、
―――気迫だ。
魔王が放つ瘴気、ケイブリスが纏う瘴気。それを意思のみで超越するほどの気迫をこの闘神―――M・M・ルーンは纏っていた。
「今日終わる、という事を考えれば多少待っても問題はない、何もない」
己の実力を一切疑わず、自分がたどるであろう結末にも疑いはない。そんな闘神となったルーンが魔王と、そして最強の魔人と相対している。間違いなく現在の人類最強と呼べる存在を前にガイも成程、と声を零す。その様子をケイブリスは全く興味なさげに大剣を二刀、腰から引き抜いて大地に叩きつけるように落とした。
「人界の覇者に聞こう」
「答えよう」
「矛を、収めるつもりはないか」
「愚問。私は亡ぼす。魔の全てを。そして人類の黄金時代を取り戻す」
ルーンのメカアイがガイをとらえる。
「この大陸に―――貴様らは不要だ。特に
「成程」
ルーンの言葉に対し、ガイは一瞬だけ何のことかを悩んだ。だが裏切り、という言葉に覚えはあった。自分が人類を裏切った時は一度。それが大陸の存続のために必要だった……とは、絶対に人に言える事ではない。もし、その時の事をルーンはどうにかして知ってしまっているのであれば―――或いは、ルーンから発せられる怒りというものは、そこから来ているのかもしれなく、
だとすれば、ルーンの怒りと言動には、そう、正当性があるのだろう。
だからと言って、ガイは負ける事が出来なかった。
「ならば戦うしかないか」
その言葉に大気が震えだす。ガイが戦う意思を見せたことに呼応し、魔力が高まる。戦闘態勢に入るようにガイがカオスを大地から抜き、それを騎士がするように、正面に構えた。そのガイを見て、横に唾を吐き捨てたケイブリスが大剣ウスパー、そしてサスパーを肩に担ぐ。
「で、茶番は終わったのか? ごちゃごちゃうるせぇ事言ってねぇで始めるならとっとと始めるぞ」
ガイと協調する気が皆無のケイブリスは眠そうにそう言葉を放ち、二人が言葉を放ち終わるのを待っていた。結局のところ、最も魔物らしいケイブリスに個人の主義や主張なんて関係はない。
強者である以上、殺して糧にする。
その事しか考えていない。
「これより審判を下す。我ら聖魔教団が、この地より魔軍の全てを亡ぼし人類の明日を取り戻すために―――!」
吠えた。
M・M・ルーンがその鋼の肉体の全身で吠える。大気を震わすガイの魔力に対抗するように機甲が振動と
「は?」
「……日光か」
その正体をガイは見抜き、かつての戦友がどういう風に利用されているのかを理解し、
―――迷うことなくカオスを振りぬいた。
漆黒の斬撃が大地を薙ぎ払いながらルーンへと到達し、その姿に衝突するも、ルーン側はまるでダメージを受けていないような様子を見せ、その鋼の機構を動かす。
前へ、前へと向かって。怨敵であるガイを亡ぼす為に一歩一歩で大地を粉砕しながら、
動き出したその姿は鋼の拳を、矛を、盾を生み出し、
「死ねオラ!」
一切の事情を考慮しない、ただ単に殺しに来たケイブリスと衝突した。正面から振り下ろされるケイブリスの大剣がルーンの盾と衝突し、盾を砕きながらその身に刃を食い込ませ、双方の前進する動きが止まる。
「そっちばっか見てねぇで俺様の相手しろよなぁ? よそ見ばっかで簡単に死んだら経験値になりゃしねぇからなァ!」
「邪魔、だ……!」
ケイブリスとルーンが拮抗するように見え―――ルーンの背面が開く。そこからミサイルが発射され、空へと穿たれてからゆっくりと、落下を開始する。その合間に接近してくるガイに対抗するようにルーンが腕を増やし、武器を増やし、ケイブリスと同時に相手する準備を開始し、
暴力と、魔力と破壊が衝突する。
ミサイルと魔力の爆破地点から三者が飛び出し、距離を開ける。
「無間連続の闇よ……落ちろ」
一番早く反応を示したのはガイだった。戦闘をしながら
故に放たれた牽制の一撃がルーンを飲み込み、その内側から閃光が見える。ルーンの全身から圧縮された光が―――即ち、レーザーが全方位へと向かってあらゆる物質を貫通しながら放たれる。視界を覆う光がそのまま熱量となってあたりを炎で満たし、その中をケイブリスが突き抜ける。
自身の体を覆う狂瘴気、それを圧縮させた瘴気の鎧と呼べるものでレーザーによる影響力をカットしながら、魔法を完全に捨て去り、その怪物的な身体能力で剣を振るい、
叩きつける。
致命傷へと繋がるダメージだけを見切り、自身の生命力を計算し、
そのあまりにも怪物的な戦い方は、考えてないように見えて―――違う。
それは怪物として最適化されたケイブリスという魔人の戦い方であった。ガイが魔法と剣に秀でる結果、それを融合させた魔剣術を振るうように、ルーンが超越された化学と魔法の力で闘神を生み出したように、ケイブリスも自身の強さを求めた。
それは圧倒的なフィジカルと経験から来る強み。
「行くぞオラっ! 行くぞオラっ! 行くぞオラッッ!」
制圧、蹂躙、粉砕。
結局のところで、ケイブリスの武器はその圧倒的なフィジカルの高さにある。武芸? 高度な魔法? 策謀? それは魔物の戦い方ではない。
ケイブリスにある戦い方は一つ―――正面から粉砕する事のみ。
最低限の動作で、最大限己の力を叩き込み続ける。
そのために武芸を見た。学んだ。覚えた。体で知って、覚えた。
なら後はそれを察知してよけながら叩き込み続けるのみ。
おそらくは、この大陸で神を抜きにすれば、最も古代から最も多くの戦いを目にしてきた者。それゆえに何が危険か、どう対処すればいいのか、そういう経験則の塊がケイブリスという存在である。
その為、どんな奇抜で、新しい攻撃手段であれ、その大半がケイブリスからすれば、既知の範疇に入る。
未知であれ、過去の経験則からどう対処すればいいのかというのが即座に出現する。
ゆえにケイブリスは迷わない。あらゆる攻撃を経験から最適な対処法を導き―――ルーンの体に正面から攻撃を叩き込む。巨体がケイブリスの膂力によって持ち上がり、吹き飛ばされながら瓦礫の山に粉砕するように衝突し、その向こう側へと姿が消える。
「《ラグナロク》」
瓦礫の雨の中へと向かってガイの必殺技が叩き込まれる。漆黒の破壊と爪が同時に空間を襲い、あらゆる物質を粉砕する。連携ではなく、個人の動きを適当に組み合わせて行動する二人は、特別仲が良いわけではない。息が合う訳でもない。
だが、単純に強い。
恐ろしいぐらいに強い。
一定のレベルを超越した怪物であるケイブリスとガイにとって、他人との連携は
ならば個人の動きを突き抜けさせ、その結果最適な行動に繋がるように動けば良い。
長らく戦っているものであれば、その場の空気である程度最善を取る事ができる。
ケイブリスとガイの組み合わせとはそういうものであり―――普通に考えれば、これに対応できるような存在はない。
そう、普通であれば。
瓦礫を蒸発させるような破壊の中、ルーンの姿が出現する。その肉体は
「自己進化―――改造―――改良―――プログラム修正―――補正、情報取得完了」
自己改造を完了させたルーンの姿は、ガイとケイブリスと戦う為に改良するように凶悪化していく。そしてそれを魔軍最強の二柱は気にせず武器を構え、相談する事もなく、
突貫する。
ここに、聖魔教団が築いた人類の時代を終わらせる戦いが始まった。
日光さんは刀身を折られたら再生させられて、また折られてを繰り返して無敵結界を貫通できる素材を提供(隠語)させられてたらしいね? なんてエコなんだ聖魔教団……!