※この作品はR-18です。

ルドラサウム転生異聞録   作:てんぞー

164 / 172
XXX年 リーザスの街

「おー……ココがリーザス!」

 

 初めて到着する外の世界の街に心は踊っている。街の中へと一歩踏み込んで見て見れば、もうそこは世界が違うとでも言うのだろうか? もう見えているものが全く違う。さっきまでは間違いなく荒野だらけの荒れ地を進んでいたのに、ここは比較的に緑が存在するように見える。また、街の外れ、一番奥ともいえる場所には大きなお城が残っているのが見える。遠目には封鎖されているようにも感じられるが……ちょっと、覗いてみたい気持ちもある。だがそれ以上に街の姿だ。

 

 まるで自分の家とは違う!

 

「凄い、使っている材料も道路もまるで違う!」

 

「この町の周辺は御覧の通り、荒れ地と荒野ばかりだ。この街から少し距離を開けないと木材が手に入らない関係上、自然と石材を利用した建築が発展したらしい。タイルを使った道路の舗装や、建築のデザインに関しては昔からここに存在していたあの城―――魔王城を参考にした、という話だ」

 

「……魔王城」

 

 ホーネットの父、そしてホーネットが将来次ぐであろう名。今の代ではなく過去の代の魔王のお城だったのだろうが、それでも魔王がここで人類と戦うために暮らしていたんだなぁ、なんてことを考えると不思議に思えてくる場所だ。かつては魔王が住んでいた場所も、こうやって人が根付いて暮らすと参考書代わりに扱われてしまうのだから。時の移ろいはいつか、過去にあった惨劇も生活の一部へと変えてしまうのだろう。その傷跡を時と共に風化させて。

 

 だけど自分達の様な、長命の者がそれをずっと覚えている。

 

 果たして、当時を生きてきた人たちはこの景色を、そして人々のバイタリティを見て何を思うのだろうか?

 

「少し調べたら詩にできそうかなぁ」

 

 自分の思った事をメモにする為に、ウェストポーチから手帳を取り出す、付属のペンで軽く書き込む。そのまま邪魔にならないように道の端へと移動すると、入口から見たリーザスの様子を軽くスケッチするように描き始める。と、スケッチしている直ぐ横で、覗き込むように此方の作業を眺めている。

 

「あれ……アルシエルさん、どこか行かないの?」

 

「俺か? いや、別にここに何か用事があるという訳じゃないからな……。それに何時も必死に同じことを繰り返していたら飽きるしな」

 

「ライフワークなのに?」

 

「ライフワークだからこそ、だ。何事も適度に休息と気分転換を入れるべきなんだよ。それが使命だから、好きだから、と同じことばかりしていると飽きるのが人って生き物さ。だったらいっそのこと、面白そうな事に首を突っ込んで忘れたほうが良いんだよ……それにしても絵が上手いな」

 

「ありがとう。やっぱり旅の思い出を一番解りやすく残せるのは絵だからね」

 

 と、答えながら簡単な街のスケッチを終わらせる。

 

 やっぱり、後から情景を思い出すうえで言葉よりも、絵が一番思い出しやすい。詩はそれはそれで中々素敵なものなのだが、後から見返す時は絵を見たほうが当時の事を思い出しやすいと思う。だからこうやって、手帳に少しずつ旅の軌跡を描こうと思っている。まずはこれが一歩目だ。次は……あの魔王城をスケッチしてみたいなぁ、なんて事を思っている。だけどその前に街中を歩き回ってみたいとも思っている。

 

 うーん、悩ましい……。

 

「あ、そうだアルシエルさん」

 

「何かな?」

 

「付き合ってくれてありがとう」

 

 手帳をしまいつつそう言うと、アルシエルは少しだけ驚いたような顔をしてから、小さく苦笑を零した。

 

「本当に、育ちが良いんだな」

 

「うーん?」

 

 その言葉が良く理解できずに首を傾げるが、気にするなと言わんばかりにアルシエルが手を振った。

 

「いいや……大したことじゃないから気にする必要はない。それよりもどこか行く予定の場所はあるのか?」

 

 そう言われてうーん、と首を傾げる。予定としてはパパとママにお土産を買って帰る予定なのだ。少なくとも何か、自分の予算内で購入できるものが良いと思う。少し足が出るなら演奏でおひねりでも稼ごうかなぁ、なんてことを考えている。だがやっぱり、何かあまり高くないお土産を買って、ここで昼食をとって、それで帰るって感じのコースだろう。

 

「ふむ、成程」

 

 アルシエルは腰のバインダーから本を取り出すと、それをぱらぱら、とめくって中を確認するように頷く。何を見ているのか気になって覗き込もうとするが、アルシエルが横にズレて中身を見せないように逃げる。それをちょっとだけ追いかけてみるが、体を軽く回して視線から逃れ、本を閉じる。

 

「なら道具屋で何か消費出来るものを購入するのが良いだろう」

 

「消費出来るもの?」

 

 あぁ、とアルシエルが頷いた。

 

「贈り物は基本的に消費出来る物の方が喜ばれる。形が残るものは一般的に”重い”ってされるからな。それにこういう贈り物をこれからも積み重ねて行くなら、古いものから少しずつ埃被って行く……お前がこの先も旅を続けて、行く場所行く場所でお土産を買うならそれが溜まって行くんだろう? だったら消費出来る物を用意した方が後々助かる」

 

「なーるほど」

 

 そう言われるとそうかも? となるところがある。元々はこう、何かトーテム的な物を買おうかと考えていたのだが、確かに言われてみるとこれからもっと買って帰ると積み重ねて場所に困りそうだ。だったらお菓子とか買えばいいのかな、と考える。それだったらお茶の時間にみんなで一緒に食べられるはずだ。

 

 うん、悪くない。なによりも、自分も一緒に食べられるところが一番いい。

 

「よっし、じゃあ道具屋さん? にいこっか!」

 

「場所を確認したら、な」

 

「ううん、確認はいらないよ―――その方が楽しいし!」

 

 だってせっかく来たのだから。自分の足で見て探したい。何もかも答えを教えられて探した所で意味はないのだ。だって、それでは何も覚えない。自分は、自分の力で、自分の足でもっとたくさんたくさん見て覚えて知って理解して―――そして、その意味を知る為に生きているのだから。それは漠然と感じる衝動。

 

 ()()()()()()()()()()()()()。そんな衝動。

 

 だがただの知識欲じゃない。自分の体を前へと突き動かすような衝動だ。知らない事を自分の足と目と心で見たいという気持ち。ずっと、ずっと昔からそんなことを感じていた。

 

 だから今、こうやって探すように歩き回ろうとする瞬間が本当に楽しい。

 

「道具屋さん、道具屋さん……どこだろう?」

 

 呟きながら歩き出すと、横に並んでついてくるアルシエルが肩を揺らす。

 

「看板を探すんだお嬢」

 

「……お嬢?」

 

 足を止めて、横のアルシエルへと視線を向ければ、肩を軽く揺らして手を広げていた。

 

「世間一般じゃ育ちと家の良い娘の事をお嬢って呼ぶのさ。ぴったりのあだ名だろう?」

 

 その説明に納得がいって頷く。

 

「確かに」

 

「ついでに言えば俺の事も別に”さん”付けする必要はない。アルでもなんでも好きに呼んでくれ」

 

 そこでアルシエルは笑みを浮かべた。

 

「―――なんだか、長い付き合いになりそうだからな」

 

 

 

 

 道具屋というのは意外と簡単に見つかった。

 

 アルシエルに言われた通り、道具屋というのは大きな看板を下げてアピールしていたので解りやすかった。ただ置いてあるものは結構面白いものが色々とあって、首を傾げさせられた。まず基本的な日常雑貨や道具、そのほかにも保存食、武器、防具みたいなものまで揃えてあった。面白いのは傷を治すための薬草や解毒薬までそろえており、節操がないとでも表現したくなるラインナップを狭い店内に色々と広げていた。

 

 その様子が珍しく、ついつい店内を歩き回って一つ一つ確認してしまう。

 

「武器はなんで置いてあるんですか?」

 

「ここら辺から大きな町に行くのは結構危険だからねぇ。必然的にモンスターと遭遇するし、自衛能力がない奴は遠出できないんだよ」

 

「これはなんですか?」

 

「それはゴッドハイパーマキシマム兵器の模型だねぇ」

 

「これ、見た事がない楽器!」

 

「サックスフォンだよぉ。行商人が鈍器だと思ってたものを引き取ったんだよ」

 

 本当に色々と置いてあった。この中からパパとママに送るプレゼントを探すとなると、相当難しい。第一、自分には予算の都合もある。正直物珍しさから欲しいものは結構ある。だがこの中で購入するのはまずはお土産と思い出の品だ。高くなく、そして運びやすく、仕舞いやすく、一目で旅の思い出とわかるようなアイテムが良い。

 

 リーザスの街に特産物と呼べるような工芸品があれば良いのだろうが、そういうものがあるような気配はなさそうだ。そもそもあるならパパが既にお土産として購入していると思う。だからここはパパとママが普段は見ないようなものを、珍しいものを何か買いたい。だがそういうものは基本的に値が張る。

 

「むむむむ……どうしよ……」

 

「お困りかな」

 

 後ろの方でアルシエルが手助けしようと声をかけてくるが、それに振り返りながら手を差し出す。

 

「ストップ! すとーっぷ! こういうのは悩んでるところも楽しいの! だから悩まさせて!」

 

「ではどうぞ、ご自由に」

 

 基本的に消費出来る物が良い、とアルシエルは言っていた。だけど本当にそれで良いのかなあ? なんてことを考えながら棚を見る。消費出来る物となるとやっぱり石鹸とかお菓子とかになってしまうだろう。後はお酒だろうか?

 

 だけど石鹸はこの村からパパがいつも買ってきているし、お菓子はママが作るものが美味しい。お酒だってパパが自作しているから態々買ってくる必要もないんだよねぇー、と呟く。こうやって外に出てみると意外とウチでの生活って結構豪華にやってたんだ、と値段を確認しながら驚いたりする。

 

 実はボクは、かなり恵まれているかもしれない。いや、実際恵まれているんだろうなぁ、と実感する。そしてこういう事は外に出て、もっとたくさん知って旅をすればする程実感するものなんじゃないかと思う。

 

 今までは当たり前の様にパパとママがくれたものを受け入れていただけだった。

 

 だけどこうやって外に出て、売られている物を見て、そして何がいいかを考える。

 

 値段を、品質を、手に入るかどうかを考えてそれを自分の生活に当てはめるのだ。そうすると、自分の生活がどれだけ満ち溢れていたものなのかが解ってくる。自分の人生が、生活が、家での日々がパパとママによってどれだけ用意されていたのか。自分の今持っているちっぽけなお金では到底生活できる程じゃない。だけど家で使っている数々の物はこんなお金では揃えられないものばかりだ。

 

 改めて、今までの生活と注いでもらった愛にありがとう、と感謝の気持ちを伝えたくなった。

 

「あっ」

 

 そんな事を考えていると、面白いものを商品棚に見つけた。自分の家では使わないし、見ないものだが話で聞いて知ったものだ。偶にママが書いているのを見ているから知っている物でもある。それを棚から手に取って、かかげて見る。

 

 手に取ったのは薄い、一枚の紙だ。窓から差し込む光にかかげて見ればわずかに透けてその向こう側が見える。まだ新鮮な木の香りがする紙は薄く絵も描かれており、観賞用としても悪くはない。これに描かれているのは荘厳な古城の姿だった。

 

 これを眺めていると、背後から声がしてくる。

 

「ふーむ、便箋か。観光地にはよくあるものだな」

 

 そう、便箋だ。家にもいくつかあるが、こういう風に絵が描いてある奴は初めて見た。

 

「観光地にはよくある……ものなの?」

 

「まぁな。民芸品を取り扱ってないような所でもなぜか置いてあるぞ。流石に小さな村となるとないが、この規模の街なら職業での職人がいるからな。この手のもんを作ってたりするもんだ。理由は俺に聞くな。そういうもんらしい」

 

「そうなんだ」

 

 不思議な世界だよなぁ、と首を傾げるアルシエルの反応を見つつ、自分の心はこれに釘付けになっていた。お土産に何を選ぶかを悩んでいたのもこれを見た瞬間に吹っ飛んでしまった。これだ、これが一番いいお土産になるという事を確信した。

 

「どうやらお嬢の中では何を購入するか決まったみたいだな?」

 

「うん! アドバイスを無視しちゃって申し訳なさがあるけど……」

 

「いや、良いさ。何が良いなんて明確は答えがないんだ。だとすれば後は個人的なフィーリングの問題だろう。それより便箋を選ぶという事は……」

 

 うん、と頷いて答える。

 

「ボク、パパとママに手紙を書くよ。この便箋で」

 

 普段は恥ずかしくて口に言えないような気持ちを手紙にして二人に渡す。

 

 それがボクの、最初の旅のお土産だ。これから一生忘れられない初めての試みになる。




 これ本当にランス世界かぁ? って言いたくなる平和さ。なおこの時大陸のいたる所では聖魔教団狩りが発生していてNOUMIN達が日々、落ち武者狩りにヒャッハーしていたりします。そしてそれに反逆する残党たちが襲撃を繰り返していたりも。

 ルドラサウム大陸は今日も地獄に変わりはない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。