※この作品はR-18です。

ルドラサウム転生異聞録   作:てんぞー

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XXX年 リーザス観光

「ん―――、美味しかった!」

 

「それは結構な事だ。うちの飯は当時、魔軍の厨房を扱ってた連中が魔王に献上する時に料理していたもんのレシピを引き継いで使ってるからな! まぁ、高級食材が多すぎて作りやすいように色々とアレンジさせて貰っちゃいるが。それでもお嬢さんの口に合ったのならうれしい話だ」

 

 そう言って頭にバンダナを撒いた、酒場の中年店主は腕を組み、満足げに頷いた。雑貨屋でお土産を購入した後で来たのがここだった。なんでもこの街唯一の酒場らしい。街規模なら他にも酒場や食べる所があるんじゃないかな、と思ったりもしたのだがそうでもないらしい。このリーザスの街というのは今の所発展途中の街であり、漸く村という規模から抜け出せたばかり。これから更に発展させるにはもっと外から人を呼び寄せなきゃいけないらしい。そしてその為には旧魔王城を観光資源として扱う必要がある、

 

 ……と、アルシエルが言っていた。

 

 まだ村という規模を抜け出したばかり、それも主流から外れた辺境とも言える地の街ではそう多くの物は期待できないらしい。まぁ、でも、それぐらいが自分にとっては丁度良い最初の旅の目的地なのかもしれない。いきなり大きな街に行ってきても、正直色々と迷ってしまう様な気がしてしまう。だからこれぐらいで良い。今は。これが終わって次の旅は、もうちょっと遠くを目指す。そう、これが終わったら本格的な旅立ちが自分を待っているのだから。

 

 しかし、

 

「うーん、こういう街が大きくなるのってどれぐらいかかるんだろう……」

 

「うん? 街の発展か? そうだな……大体はマンパワーと金で解決できる話だな。住人のやる気があればそれこそ十数年以内に一気に大規模な開拓もできるだろう。ここは立地も悪くはない。後は先導するリーダーが出現さえすればとんとん拍子で進むだろうが―――」

 

「だろうけど?」

 

「……ま、最低で百数年は”首都”という形になるまでは時間がかかるだろうな」

 

「そっか、そんなに時間がかかるんだ」

 

「あぁ。金、人、モチベーションが必要だからな。まずは音頭を取るリーダーが必要不可欠だ。その上で自分の世代だけではなく、次の世代に目を向ける事の出来る先見性が必要だ。残念ながら今、人類全体が今の自分がどうやって生き抜くのか考えるのに必死だろうからな。それだけの事に意識を回す余裕はないだろう」

 

 食事にまで付き合ってくれたアルシエルはそうやって色々と説明してくれていた。店主の作ってくれたピザを片手に、足を組みながら摘まんで教えてくれている。ここまで親身になって教えてくれるのはちょっとだけ、申し訳ないなんて事を思う。だけど足がなくて困っていたのを助けたし、そんなもんかなー? と思っていたりする。

 

 それにアルシエル自身が全く気にしてない様子で、楽しんでいるように見える。

 

 元から自分の知識をひけらかすのが好きなタイプなのかもしれない。

 

「少し前まで戦争してたんだっけ? だからだよね。ボクは今まで外に出た事がないからまったく実感がないけど……」

 

「ほー、嬢ちゃんは箱入り娘か。まぁ、アベルの旦那は家族を大事にしてそうだしそうもなるか……」

 

 店主の言葉に視線を向けて、首を傾げる。その視線に店主は笑った。

 

「旦那はよ、むかーしからここと付き合いがあるんだよ。うちの爺さんの代からかなぁ……? 自警団に戦い方を教えてくれたり、近辺の野盗の類を掃討してくれたりな。もう長い付き合いなんだけど、早く家に帰りたいって理由で毎回飲みに誘ってもうちに来ないんだよなぁ」

 

「お嬢愛されてるな」

 

「でしょ?」

 

 胸を張ると店主とアルシエルが視線を合わせてやれやれ、と呟いた。

 

「親が親なら子も子、か」

 

「悪い事ではないだろう。寧ろ今の時代では珍しいぐらい良い事だ」

 

「違いない」

 

 アルシエルと店主の言っている事はちょっと解んないが、バカにされている感じはしないのでそれはそれでよしとする。果実水を両手で抱えてちびちびと飲みながら、話は発展と戦争に戻る。アルシエルは本を片手に、得意そうに話を続ける。

 

「えーと、そうだそうだ、戦争の話だったな……。簡単に言ってしまえば聖魔教団の敗北と解体でそこに集っていた魔法使いや技術、兵器の類がルドラサウム中に散ったのが問題だな。連中、元々は魔軍と戦う為に兵器開発をしていたから。闘神もその為の兵器だ。それらが今、無秩序となって世に放たれてるんだ。しかも所属していた魔法使いの大半は魔軍のみならず、自分たちの支配を拒む非魔法使いの人類に恨みを抱いている。結果、暴徒となって街や村を襲ってるって訳だ」

 

「ここら辺は旦那の睨みが効いてるし、うちの自警団は対魔法使い向けの戦術ってのもあるからな。そこらの魔法使い相手にはまぁ、負けないぜ。だからこのご時世、ちょっとずつ大きくなってんだが。それでもやっぱ、怖いもんは怖いからな」

 

「聖魔教団の残党をどうにかしない限りは世の中が落ち着く事はないだろう。ただ、まぁ、AL教も本腰を入れて動き出したみたいだしその内収まるだろう」

 

「うーん、世の中結構複雑なんだなぁ」

 

 思ってたよりも世の中は混沌としていた。だけどそういう風になったり、どうなっているからこうなる、みたいな事は一度も考えた事がなくて、その事がちょっとだけ恥ずかしくなってきた。だけどそれを否定するようにアルシエルは頭を横に振る。

 

「生きていく上では別に知る必要もない事だからな、そこまで気にする事じゃない。ただ知っているほうが人生が豊かになるという話だ」

 

「人生が?」

 

「そうだ。人生とは未知を既知に変える旅路でもある。未知を既知に作り替える作業でもある。故に知れば知るほど人生は豊かに、そして肥えるのさ」

 

 哲学的な物言いにうーん、と考えるが、深く考えない方が理解できるかもしれない、と考える事を放棄する。だけど世の中はまだ混沌としているんだなぁ、と思うとパパやママが外に送り出す事に渋っていた理由も分かる。確かに今の状況で外に出るのはちょっと危ないかもしれない。ただそれ込みでも、自分はもっと、世界を見たいと思ってしまう。危険であっても未知がそこに待っている。自分が踏破できる世界が待っているのだ。そう思うと、わくわくとドキドキが止まらなくなるのを感じる。

 

「ふぅ―――ご馳走様でした。美味しかったです」

 

「お粗末様。嬢ちゃんはこの後どうするんだい?」

 

「ボク? うーん……そろそろ帰ろうかなぁ、って」

 

 日帰り旅行みたいなスケジュール予定だったし。そろそろ帰り始めればゆっくり歩きながら暗くなる前に帰れるかなぁ、という計算だった。遅くなると間違いなくパパとママが心配するし、約束を破るような事はしたくない。そろそろ帰り始めるかなぁ、と考えていた。

 

 そこにアルシエルが声を挟んできた。

 

「なら最後にせめて旧魔王城でも見てきたらどうだ? 外から軽く眺めるだけなら時間があるだろう?」

 

「あー……うん、どうしようかな」

 

 旧魔王城。昔、魔王が住んでいた場所。ホーネットのお父さんの前の代の魔王とかが拠点にしていた場所だ。今では誰も住んでいなくて、危険もない場所だというのは既に聞いていた。それでいて何かに使えるかもしれない、と放置されているのも。さっきの話を聞く限りは観光資源にしちゃうのかなぁ、という感じではあるが。

 

 だけど少しぐらいなら……寄り道しても大丈夫な程度には余裕がある。正直、気にならないと言えばウソになるし。そうと決まれば行動は早い。お代を支払いながら立ち上がり、拳を握る。

 

「良し、見に行く!」

 

「そうか、なら俺は別の用事があるからここでお別れだな」

 

「え? そうなの? 今まで大変お世話になりました」

 

「いや、此方こそ大変楽しい時間を過ごさせて貰った。縁があるならまた会おう。……どうせ、互いに悠久を生きる身だしな」

 

 アルシエルと両手を握って握手をしたらさようならを告げて、酒場を出て別れる。本来の予定にはなかったが……少し位寄り道したところでも、余裕はあるし、もし長居してしまったとしても全力ダッシュで帰れば十分間に合う。

 

 そう、何らかの理由で全力で見学してしまったとしても、間に合うのだ!

 

 自分にそう言い訳しながら、街の奥、そのちょっと離れた場所にある旧魔王城へと足を向けた。

 

 

 

 

 旧魔王城は、想っているよりも遥かに作りが良いというか―――センスの良さを感じる建造物だ。

 

 魔王、という言葉には負のイメージがどうしても付きまとう。パパが言うには魔王という存在は世界の犠牲者で、システムという枠の被害者らしい。何をどうあがいても暴れる事しかできない存在。その例外がホーネットのお父さんだとか。そんな魔王が人類と戦う為に住んでいた場所がここで、今では誰もここには住んでいない。昔はこの周りに畑とかもっと細かい施設もあったらしいけど、それは取り壊されたり今のリーザスに組み込む形で再利用されている。ここで暮らしている人々はどうやら、かなり逞しいようだ。

 

「だけど結構細かいお花とか草とか生えてきてるよね」

 

 辺りを見渡しながらそんな事をぽろ、っと呟く。

 

 魔王が存在する場所では草木が生えなくなり、異形の植物が生えてくる。少なくともホーネットが言うには魔物界はそういう場所になっているらしい。だけど今見た感じ、そういう植物が育っているようには見えない。除去されたのか、それとも魔王が去ったから正常化されたのだろうか……? でも街の周りは割と荒野でいっぱいだった。となるとこのお城だけが特別なのだろうか? どっちにしろ、今は綺麗なお城になっていた。城自体が今も丁寧に維持されているのだろうか? 壊れていたり、崩れていたりする場所が見当たらない。

 

 ……いや、違うかな。

 

「保存の魔法がかかってるのかな、これ? 凄く強いの」

 

 旧魔王城の壁まで近寄り、軽く拳でこんこん、と叩く。硬質な感触は物理的なものだけではなく、魔法的なものも感じる。恐らく魔法によって保存されている。それもかなり昔から。相当強い魔法によって行われているから、多分は魔王が使った魔法なのだろうと思う……何時の時代のものかは解らないが。

 

 ただこうやって間近で旧魔王城を見てしまうと、その内部まで気になってしまう。この城は相当大きい。当時利用されていた頃は相当な人数が内部にはいただろうし、この周りでは人のものではない、魔軍特有の生活が繰り広げられていたのだろう。

 

 そこに好奇心を刺激される。こうやって外を眺めてしまうと、中の方がどうなっているのかが気になってしまう。新しいインスピレーションをもしかして、中を覗けば得られるかもしれない。そう思うと疼いた好奇心が止められなくなる。

 

「……帰りは走って帰れば良いよね」

 

 言い訳完了。女は度胸。早速、中の方も見学させて貰おうと正面の扉に手をかけ、

 

「―――そこの乙女よ、待ちなさい。その扉はみだりに開けるべきものではありません」

 

「え?」

 

 呼び止められ振り返れば、背中から翼を生やした女性が立っていた。長い蒼髪を持つ女性の姿は美しく、白い服装と蒼い軽鎧の組み合わせを装着した姿は天使、というよりは戦乙女とでも表現すべき凛として気配の持ち主だった。気配のない登場に驚いてしまったが、その声と視線は真面目なものだったので、扉にかけていた手を取る。

 

「えーと……ごめんなさい?」

 

「いえ、謝る程のものではありません。ただその扉の向こう側は未だに魔王の穢れで満ちています。中に入れば汚染される程ではありませんが、それでも多少体調を悪くする事もあるでしょう。特に貴女の様な一片の穢れを持たぬ者であればなおさらです」

 

 その言葉でこの女性が自分の事を案じて現れたのに気づいたので、直ぐに頭を下げる。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 危ないので扉から数歩離れ、蒼髪の女性に振り返る。

 

「えーと、エンジェルナイトさん?」

 

「ご存じでしたか」

 

 女性―――神の使いであるエンジェルナイトはこくり、と頷いた。

 

「粛清局所属のミストです」

 

 粛清局、聞き覚えのないものだった。恐らくは神界に関わる事の一つなのだろうが、そっち方面はあまり知識が豊かではないので、首を傾げるしかない。だが目の前のエンジェルナイト・ミストは此方の意を汲んで説明してくれる。

 

「粛清局はぽんこ―――こほんっ、ラ・バスワルド様が職務ほう―――任務で地上に降りてからというものの、一切の仕事を放棄して行わなくなった為に編成された部署です」

 

「言い直しきれてない」

 

 ラ・バスワルドなら良く知っている名前だ。パパやママが昔の事を話す時に良く出てくる名前だ。なんかいつも失敗したり、迷惑をかけたり、泣きわめいてばっかりの話をよく聞く。後はなんか、物凄いものぐさな人物だとか。

 

「バスワルド様には元々地上の穢れを祓うという役割があったのですが、全く進んでいない現状その代役が必要でして―――その為に我々の様な穢れを祓う事に特化した、力の強いエンジェルナイトが代わりにバスワルド様のしりぬぐいをしています」

 

「言っちゃった」

 

「ですので乙女よ、それには触れぬように。我々の仕事を増やさないでください」

 

 神様の世界も大変なんだなぁ、というのを今、心の底から良く理解した。特に求めていた理解でもないのだが。ただそう言われるとこの旧魔王城は、未だに呪われた場所なんだな、というのが解った。どれだけ時間が経っても、消えない傷跡というものもあるのかもしれない。

 

「失礼、拘束してしまいましたね。その身が穢される前に早くこの地を去った方が宜しいでしょう。なぜかは解りませんが、恐ろしいほどに煮詰まった穢れの気配が付近から感じられますからね……」

 

 その言葉で真っ先に頭に浮かぶのはアルシエルの存在だった。夜空を見上げれば笑顔でサムズアップしている様子さえ思い浮かぶ。ただ、まぁ、アルシエルが善良な事はなんとなくだが感じ取っていた。なんというか、()()()()()()()()()()()()とでも言うのだろうか。少なくとも悪い人ではないと思うので、手を挙げる。

 

「はーい。じゃあボク帰ります」

 

 心の中で小さくごめんなさい、と謝っておきつつ、帰る事にした。それを聞いてミストは頷き、笑みを浮かべた。

 

「えぇ、それが良いでしょう。それでは良い一日を」

 

 手を振ると振り返してくるエンジェルナイトに、思ってたよりも天使さんって優しいんだなぁ、と思いながら帰路についた。

 

 今日は家に帰ったら、いっぱいいっぱい伝えなくちゃいけない事がある。

 

 今夜中に全て語り終える事が出来るか、ちょっとだけ不安。だけどそれ以上に楽しかった一日にひたすら胸は高鳴る。

 

 きっと、こんな日がこれからは続くのだろう―――いつまでも。




 ほらぁ! バスワルドちゃんサボってるから部下が大変そうにしてるじゃない!!
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