※この作品はR-18です。

ルドラサウム転生異聞録   作:てんぞー

168 / 172
4XX年 主役は私だ!

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう、私の転化は既に終わっている。或いは転生。二度目の転生だ。

 

 一度目は人からドラゴン・カラーへ。次がドラゴン・カラーから■■■■■■へ。二度の死を迎えている。

 

 そう、カラーにとって転化とは死だ。転化を迎えるという事はカラーとして死に、その代わりに神か、或いは悪魔としての新たな生を得る事になる。それまでの記憶は全て消え去り、新たな存在として世界を運営する為に歩き出す。そういう風にシステムに組み込まれているのがカラーと言う種族。その中でも自分は、所謂神の失敗作という側面を持っていた。遠い昔に自覚していた事、しかし今となってはそれも長い長い伏線だったのかもしれない。だが結論から言ってしまえば簡単だ。ウル・カラーは失敗作ではあった、だが長い旅路の果てにその役割は完結を得た。

 

 つまり、転化を迎えて神として完成されたという事だ。忘れ、失い、抜け去り―――そしてその果てに混ざり合い、新たな神となる。そうやって完成された神が今、天上にいる。ここにいる私は、その時に分かたれた一部でしかない。もはや天上にいる、新たな神が本体だと言っていい。ここにあるのはそれに細く繋がった末端。三超神との契約により、消えなかった記憶。ルーシェ・カラーを育てる為だけに残された本体の触覚だ。いや、本体が見る夢だと言っても良い。だがその夢ももう終わりに来ている。

 

 目が覚めればその瞬間に消えてしまうだけの存在。

 

 そして夢は今から終わる。

 

 だがこの刹那だけは、逃せない。

 

 ウル・カラーとしての最後の瞬間。最も存在が希薄で、しかしルール無用の滅茶苦茶の状態。神としての存在が許されているのは今のこの瞬間だけ。過ぎ去ってしまえば二度とこの意識も、記憶も戻ってこない。それを最後に、ルーシェに告げずにいたのは本当に、心が痛む。だけど私は信じている。いつか、きっと。私の可愛い可愛い愛娘が成長し、自分が何であるのかを自覚して、そしてその果てに完全無欠のハッピーエンドを選んで、生み出してくれることを。それを信じているからこそ、今は滅茶苦茶が出来る。

 

 エンディングは目前だ。

 

 だからと言ってお行儀よく終わりを迎えろ、と言う事にはならない。

 

「さぁて、世界にいっちょ私様がいたって事を忘れられないほどに刻んでから―――」

 

 そう言葉を口に出し、扉が開いたのを見た。そこから飛び出してきたのは白いクジラの人形―――ルドべぇの存在だった。

 

 ぺちんぺちんと音を立てながら扉を抜けるとそのまま、森の外へと向けて、ルーシェを追いかける様にルドべぇは進み、いったん姿を止めると尾っぽを振ってから再びルーシェを追いかける様に跳ねていった。

 

 神魔にのみ許された転移の術、最高位の魔法使いにのみ許されたそれではなく本物の転移の準備をしながら、ルドべぇの去った方向を見つめる。

 

「……結局、ルドべぇってなんだったんだろうなぁ」

 

 謎。

 

 

 

 

 まず最初に跳んだ先はJAPANだった。普通に飛行したり、跳躍して移動すれば真っ先にルーシェにバレてしまう。そうすると今まで積み上げてきた母親としてのイメージが完全に崩れてしまう為、それを防ぐためにも神魔式の転移で一気に跳んだ。神魔式の転移というのは実に便利なもので、指のスナップを終えた次の瞬間には目的地に到達する。

 

 足元は草地から一変し、草の生えぬ岩場と荒れ地へと変貌する。視界が続く限り広がる岩場には穢れの気配もあり、穢れを嫌う天の種族達は近寄ろうとする事はないだろう。穢れの濃度がそんなでもないのは間違いなくここが定期的に浄化の対象となっているからであろう。ラ・バスワルドが近年完全に仕事を放棄していることを考えれば、後任の誰かが汚れ仕事を請け負っているのだろう。ラ・バスワルド以下の神であれば穢れの影響も受けてしまう辺り、本当に貧乏くじを引かされている感じが哀れだ。

 

「しっかしここも全く変わらないなぁ」

 

 目の前に広がるのは大穴。穢れが満ちる空間の周辺に存在するのは頭から角を生やした人の姿。人、と表現するが肌の色は人のそれではなく、その体に満ちている力と穢れも普通の人が持つものではない。それらは鬼と呼ばれる存在であり、またそう振舞う存在であった。ここしばらくは全く見ていなかったが、どうやらこの地―――死国から全く離れる事なく存在していたらしい。地獄とこの死国は地続きになっているものの、定期的な穢れの浄化と大穴そのものにかかっている神による封印によって多くの鬼が出てこれないようになっている。それでもあふれ出ている辺りが神の管理能力の杜撰さ、とでも言うのだろうか。

 

「お、別嬪―――」

 

「おっと、私は人妻だからおさわりは厳禁だぞ、と」

 

 拳を後ろに叩き込めば、視界の外で鬼の上半身が消し飛んで即死する。脆い―――のではなく、単純に自分が強すぎるだけだ。そしてそれを察して周りにいる鬼たちが近寄ろうとせずにある程度距離を保っている―――いや、穢れで頭をおかしくした鬼が何体かいる。それは真っすぐ性欲のままに襲い掛かろうとしてくる。だがその姿が到達する前に指のスナップで光の斬撃を放ち真っ二つにする。

 

「懐かしいなぁ、ぽんこつとはここで初めて会ったんだよなぁ」

 

 笑いながら手を腰に当て、あの頃を思い出す。初めて出会った頃はその強さと、問答の無用さにビビりもしたものだ。だが今となってはそれも良い思い出だろう。気づけばジルによって人格を植え付けられ、定着させられていたラ・バスワルドはポンコツの極みに至っていた。それにここで鬼たちに凌辱されていたエンジェルナイトたちが今では自分の従者となり、手足として働いてくれている。

 

 そんな彼女たちは今、ペンシルカウでルーシェの到着を心待ちにしている。自分の後は彼女に仕える様に言い含めてある。だから大人しく到着を待ってくれているだろう。

 

「んじゃ、さっそく大事業を始めちゃうかぁ~」

 

 よっし、と懐古の気持ちを振り払いながら残されている唯一の腕を大きく回し、肩を解す。武器は―――ルドべぇがルーシェの後を追ってしまったのでない。ここは適当に借りる……と言ってももう既に自分の一部となっている物を使おう。そう思い掌を上に向ける様に差し出せば、次の瞬間には武器が現れる。

 

 目が眩むほどの美しさを持った直剣。黄金の鍔に革製の握り。僅かに光を纏った剣はその材質が先から端まで全て謎、地上にある物質で生み出されているのかさえ怪しい。それこそが最上位の神造製というものであり、地上に敵うもののない武器。それが握られることもなく掌に浮かび、手の動きに合わせて指揮者のタクトの様に揺れ動く。その輝きに根源的な恐怖を刺激された鬼たちが距離を更に開けて離れる。

 

「うーん、今度は天使の子も人もいないかぁ。遠慮なくやれるな」

 

 手を大きく振るい、剣が舞う。そこに魔法を重ね、剣そのものが発光するように光に包まれる。光量は物質を伴い剣の姿を覆い隠し、破壊をその存在そのものに束ねる。空間に一度、二度、三度と薙ぐ様に振るえば剣が分身するように増え、その姿が四本にまで増える。

 

「刮目せよ! これぞまさに世界を侵す非常の一撃―――」

 

 必殺技を即興で作って振るうなんて数百年ぶりの行いだ。できるかなぁ? なんて事を考えてしまうが、大事なのは気合とイメージだ。やれると思えば大体のことはできる。なのでそのまま振るいあげた四つの剣を拳を握るように力を籠め、四方へと向かって一気に振り下ろした。

 

「《境界砕き》! は―――っはっはっは! 砕け散れぇ!」

 

 四つの剣がふるい落とされた。付近にいた鬼が一瞬で蒸発し、消滅する。叩き落される剣の刀身が一瞬で大地に食い込み、そして亀裂を大地に生み出す。注ぎ込まれた光は大地から吹き上げる様に荒れ狂いながら浸食し、空間そのものに噛みつく様に破壊を生み出す。だが破壊されるのは大地ではない。あくまで大地に発生する破壊は()()()()()()()()()()()()()()()()()()だけである。

 

 ここは最も彼岸に近い場所。故に空間が最も不安定な地域の一つ。そこに神光を込めた一撃が叩き込まれれば当然の様に空間の―――その境界線が悲鳴を上げる。咆哮の様な音が死国の大穴から響き、次の瞬間には砕け散る。大穴を封じていた力が崩壊し、その姿が拡張される。大穴と死国、JAPANと地獄を防いでいた境界線が崩れる事によって()()()J()A()P()A()N()()()()()()()()()()()()()()

 

 大穴から爆発するように水飛沫が上がる。だが水の色は無色透明でもなければ、青くもなく、どこまでも血色を思わせる様な赤色をしている。それが間欠泉の様に大穴から流れ出しながら大穴の周辺を赤い色に染め上げる。先ほどの破壊によって大きく砕け、そして陥没したこの大地に何時かは血の湖と賽の河原を生み出すだろう。だがそれは始まりでしかない。数百と言う時間をかけている間に境界の崩れた地獄とJAPANは融合し、この死国は地獄という土地へと変わるだろう。

 

「ごめんねぇ、アマテラスちゃん。管理の面倒増えるけどきっと将来的にこうした方が面白くなるから。まぁ、鬼王はこっちのほうが楽しめるでしょ? お父さん(マギーホア)に挑みたくなったらこれで挑めるわね……?」

 

 がっはっは、と笑いながら文字通り地獄へと変貌し始めた死国に背を向ける。まだ行くべき場所があるし、やりたい事がある。大穴から這い上がってくる鬼達を横目に歩き出す。

 

「JAPANの皆も、いつまでも内乱していると地獄の極卒達に攻め滅ぼされちゃうかもしれないし、早く統一か連合しないと危ないわよ? ま、どうなってもルーシェちゃんが冒険する舞台は変わってくるでしょ」

 

 なぞるだけの物語に意味はない。

 

 同じ軌跡を歩くことに価値はない。

 

 冒険をするなら、未知に挑むのであれば―――それこそ、何もかも違う方が楽しめる。もはや思想による拘束も、物理的な拘束も自分には存在しない。将来のことは何も解らなくても、信じていることがある。ならそれを信じて、未来を完全に変革させるために動き出すだけだ。とりあえずこれで一手だ。JAPAN方面は変化が正史とまるでなかった。だからこの際、それを完全に変える為の行動を実行した。これで将来的にJAPANでの冒険も、物語も、まったく違うものになるだろう。

 

「さーて、次はどっちに行こうかしら? ヘルマンもリーザスも今は影も形もないのよねぇ。となると回るのはゼスと自由都市国家と魔物界? うーん……あ、そうだ。あの魔血魂が腐ってるし、何もしないのなら再利用しちゃおうかしら」

 

 思い立ったら即日実行。アマテラスの悲鳴が聞こえ始めるのを無視して次の転移を実行する。

 

 一瞬で視界は血の雨の降る死国から切り替わり―――そして深い闇の底へと切り替わる。

 

 深い、深い闇の底。光すら届かず、人の知恵が届かず、あらゆる声が深淵にかき消される深淵の領域。

 

 奈落、その場所に到達する。

 

 所在すら不明だと言われるこの領域、神魔であればそのような制約は関係なく侵入できる。そしてその他の生物から身を隠し続けるにはちょうど良い場所でもあるこの領域に、知っている姿が二つある。一つは肌が色白の男であり、もう一人は人よりも大きな人型のハニーの姿。そこにもう一つ、見慣れない男とも女とも取れない、どっちにも見えてどっちにも見えない人型の姿がある。共通しているのはどれもが魔人に属しながら魔王ガイに従わない存在。

 

 そしてその姿は此方を見かけた瞬間に停止する。だが即座に動き出すのが色白―――ナイチサであり、その口が開く。

 

「これは―――」

 

「まずはグーパンな」

 

 元魔王、魔人ナイチサが喋り続ける前にその顔面に拳を叩き込んで殴り飛ばす。抵抗もできずに殴り飛ばされたナイチサの姿を背面に転移で回り込み、掴んでそのまま奈落の岩壁に叩き込み、陥没させる。《無敵結界》なんてものは、もうこの身には意味はない。故にその抵抗を無視して一瞬で積年の恨みを晴らす。頭を岩に埋めた状態のまま、一発だけ股間に蹴りを叩き込んでから解放する。

 

「良し、お前はここで許してやろう。ただしルーシェちゃんに定期的にイベントとシナリオをちゃんと用意しておけよ」

 

 聞こえてるかは解らないが。いや、こいつの事だし言わなくても勝手にやるだろうから心配はしてないのだが。そして次は悪魔の魔人へと視線を向け、

 

「お座り」

 

「きゃんっ!」

 

 子犬に変身し、お行儀よくお座りをした。そういうプライドを一瞬で捨てられる子、嫌いじゃないよ。そんな事を考えながら視線は最後に残された魔人、ハニーの魔人であるますぞゑへと向けられる。視線を受けたますぞゑは静かにドリルのついたような杖、トグロットを手に、抵抗するように構えた。

 

「へぇ、自分が怠惰である自覚はあるのか」

 

「……」

 

 言葉はない。だが明確に、やられるだけではないというのを意思表示するように魔人ますぞゑの戦意が一瞬で練り上げられ、高められた。その姿に完全に腐っている訳ではないと、笑みを浮かべた。

 

「いいぜ、抵抗しても―――抵抗できるならなぁ!」

 

 笑いながら拳を握ってやや前傾姿勢に、獲物へと食らいつこうとする竜の様に構える。

 

 さあ―――新たな世界の誕生に散る贄となるが良い。何もせず、毒にも薬にもならない魔人等これからの物語には不要なのだから。

 

 その魔血魂(いのち)を差し出せ。




 ルドべぇ……いったいなんだったんだ……。

 主役の座を一瞬で奪い返した母親、何もかも無視して一切合切滅茶苦茶にし始める。いやぁ、戻ってきましたねあの頃のキレ……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。