※この作品はR-18です。

ルドラサウム転生異聞録   作:てんぞー

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4XX年 主役は私だ! Ⅱ

 迷う事無く前へと向かって突き進む。魔人が相手であれば絶対に取れない行動だ。《無敵結界》を保有する魔人は通常の方法で傷つける事は出来ない。故に正面から戦う前に、その身を守る《無敵結界》をどうにかせねば、魔人に傷をつける事等できない。それは三超神から魔人、魔王に与えられた呪いでもあり、祝福でもある。メインプレイヤーという縛りが存在する以上は絶対に守られるそのルールも、この身が神魔のカテゴリーに到達したことでまったくの無意味となる。

 

 つまり突っ込んで、魔人ますぞゑの体に触れて、

 

「えいっ」

 

 そのまま纏っている《無敵結界》だけをビニールを引きはがすように掴んで投げ捨てた。

 

「……!?」

 

 戦闘開始直後、投げ捨てられた《無敵結界》を、破壊された訳でもなく、掴んで投げ捨てられたそれを見た。二度、確認するように地面に転がっている《無敵結界》の存在を見て、ますぞゑがトグロットを構えた。当然ながらその動きは遅い。いや、魔人なのだから早いと言えば早いだろう。だが今の自分のスペックと比べてしまうと遅すぎると言えるほどに遅い。ますぞゑが動く前に此方の行動を挟み込むことができるからだ。だから当然の様に《無敵結界》を剥がした後でますぞゑを掴んで、

 

 その姿を岩盤に叩きつけた。

 

「お、流石にこれじゃ砕けないか。魔人は頑丈だよなー」

 

 笑いながら岩盤に叩きつけた反動で、ますぞゑの体から無限に生み出されるプチハニーが誘爆する。爆発を連続で発生させながら叩きつけられるますぞゑの体が跳ねた。純粋に叩きつけられた反動を岩盤に叩きつけるだけでは消費しきれず、それが反響し、反射して跳ねているだけだ。当然、それを手放して吹き飛ぶのを眺める。プチハニーを撒き散らしながら吹き飛ぶ魔人の姿を見て笑って、手を差し出す。

 

「《ガンマ・レイ》……ってあぁ、魔法は通じないんだったな」

 

 だが発射してしまう。奈落を光が満たす。光の砲撃が一瞬でますぞゑを飲み込むも、その体質によってダメージはかき消されてしまう。失敗したなぁ、と思いながら吹き飛んだますぞゑの方へと掌を向け、そのまま掴む様に虚空に拳を作った。当然の様に吹き飛んでいたますぞゑの体は中空で停止し、それを引き寄せる様に後ろへと向かって拳を振るった。

 

 その方角へとますぞゑが発射された。背後でますぞゑの姿が叩きつけられるのを岩盤の砕ける音で認識しつつ、腕を乱雑に振るう。連続でますぞゑの姿が岩盤に、床に、天蓋に叩きつけられて爆発する。体から生み出されるプチハニーが散乱し、その爆炎で姿を隠そうと、掴みを外そうと足掻くが―――無駄。その程度で外れる程神の掌握というものは安くはない。

 

「いやぁ、ほんと。力の差って怖いよね。昔ならこの立場逆だったぜ? まぁ、今の私様は制限解除のチート状態だからしょうがないんだけどなっ!」

 

 まぁ、常にこの状態だったらすぐに人生に飽きると思うから、風前の灯が一瞬だけ燃え上がるライクな、そんな状況での刹那の輝きだからこそ許せるものなのだが。だから、まぁ、さっさと砕けてしまえという話だ。

 

「別にさぁ……人類ぶち殺したりして暴れたり、魔王に反旗翻して人類守るとかさぁ。どっちでもいいからそういう行動取ってりゃあ問題ない訳よ。どっち側でも人類からすれば面倒だけど。シナリオフックとしては十分だろう?」

 

 ますぞゑを叩き、叩き、叩きつける。何度も何度も、その陶器の体を砕く為に爆発させながら叩きつける。

 

「だけどさ、何もしないってのは存在する意味ねぇよな」

 

 ますぞゑに対するこの攻撃と答えは全てそれに尽きる。こいつは生きていても、まったく変わらない。基本的に奈落に引きこもって時を過ごすだけ。人類を脅かすのも富ませるのも道化になるのも良いだろう。だけどますぞゑはここにいるだけだ。それ以外何もせず、変化もない。たとえ外から呼び出しを受けたとしても、それに答えるのに時間をかける。ますぞゑは一言で評価を与えるなら怠惰、に尽きる。これではまるで面白味もない。魔王に命令されない限りは動かないだろうし、ガイもホーネットも、そういう魔王ではないだろう。

 

 つまりこいつを能動的に動かす奴がいない。こいつも動く気はない。だったら生きている意味もない。

 

「という訳で死んじゃおう、な!」

 

 叩きつけて跳ね返った姿を片手で掴み、それを大地に叩きつけてから顔面を踏む。流石の魔人と言えども、頭を砕いてしまえば余程特殊な存在でもなければ即死する。それを理解しているからこそますぞゑも抵抗する。最初に握っていたトグロットは既に折れて使い物にならない。だからプチハニーによる自爆、そして両腕で抵抗しようとしてくる。だがその腕が届く前に片手を振るえば神剣が出現し、片腕を斬り飛ばす。プチハニーの自爆なぞ痛くもなければ、痒くもない。無意味な抵抗だ。かつては自分がこの手の暴力を受けていた時もあったなぁ、と思い出しながら逆の手も斬り飛ばす。逃げられないように両足も切断し、ダルマになった状態のますぞゑを殺す為に力を籠める。

 

「じゃあな。安心しろよ。魔血魂はしっかりリセットしておくから」

 

 足に力を込めようとして、空間に増えた神の気配に、力を籠めるのを停止した。視線を横へと向ければ、白いハニワの姿―――ハニーキングの姿がそこに見えた。姿が確認できたのはジル戦以来の出来事だ。欠けていない姿を見るに、姿を完全に取り戻すことに成功しているらしい。

 

「はにほー! やあ、久しぶりだね女王ちゃん!」

 

「いやぁ、お久しぶりですハニーキング様。じゃっ」

 

「うわああああ!?」

 

 足に力を込めようとしてハニーキングがスライディングで飛び込んでくる。

 

「いや、待ってよ! 待ってね? 少しは待ってくれても良いんじゃないかな! うん! ほら! ますぞゑ君も決して悪い子じゃないからね?」

 

「だから始末するんじゃないですかやだなぁ~」

 

「うっわ、当然の様に言ってる……うわっ、待って! 本当に待って! ね! 少し待とう!」

 

 踏んでいた足から力を抜いて―――と見せかけと力を籠めるとハニーキングが再びうわぁああ、と叫ぶ。それを見て足を停止し、再び力を籠めると悲鳴がハニーキングの方から出てくる。

 

「え、ナニコレ面白い……」

 

「遊ぶのやめないかね!? ほら、こっちからますぞゑ君には言うからさ……彼が行動を改めてくれれば考え直してくれるだろう?」

 

「うーん」

 

 ハニーキングと魔人ますぞゑは確か交友関係があって、定期的に交流していた筈だ、と知識から引っ張り出す。まぁ、ハニーの王であるハニーキングがますぞゑに言い含めればどうにかなる範囲ではあるか、と考える。それにハニーキングにはジル戦の時に手伝ってもらった恩もある。それを思い出すとハニーキングの願いを蹴り飛ばすのは躊躇する。そういう考えから足をますぞゑの上から外す。

 

「まぁ、んじゃ良いか。ハニーキング様はしっかりそこんとこ宜しく頼むぜ」

 

「うんうん、解ってる解ってる。まーかせなさい!」

 

「叩き割ってやろうかこの陶器共……」

 

 まぁ、ハニーなんぞに真面目に対応する方がおかしいか。そう小さく溜息を呟いて奈落に背を向けた。ここでやるべきことは終わらせた―――次の現場へと向かう事にする。ナイチサは放置していても勝手に役割を果たすだろうし、残す言葉もない。

 

 もうここに用はない。

 

 時間が残されている内に次に行く。

 

 再び踏み出し、神魔の転移術で世界を渡る。暗き奈落の底から一瞬で視界は切り替わる。奈落ではだいぶ無駄な時間を過ごしてしまった。残されている時間は段々と削られている。残された時間で、この世界の未来を変えて行く。

 

 その為に次に跳んだ先は奈落よりは明るいが、それでもまだ薄暗さの残る空間であった。ただし、奈落とは違い美しく装飾されており、まるで宇宙に浮かんでいるような、そんな事を思わせる異質すぎる空間でもある。この場所はある意味で奈落とは同等、もしくはそれ以上の狂った場所であった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()到達するその部屋には、一人の男の姿がある。

 

 白い、最も高い地位にある事を証明する法衣を纏った、男の姿だ。髭を生やし、髪色が白く染まる男の目には狂気が渦巻いており、その年齢は既に初老を過ぎてながらも人ならぬ活力に満ちていた。

 

「オ! ハ! ヨ! ウ! ございます!!

 

 室内に反響するような爆音を口から放った男はまさしく狂っているように見えて―――正気だった。或いは狂気を超越しすぎて正気に至ったのか。ともあれ、男は狂気にありながら正気にある異常な者だった。此方の登場と同時に大声で朝の挨拶を放った男は笑いながら両手を広げる。

 

「あぁ!! それともこんばんわでしたか! 或いはこんにちわ! グーテンターク! ここにいると朝も夜も昼も解りませんからなぁ! もはや時間なんてものはそう! 私にとっては些細な事! 最も大事なのはそう―――愛! Love! ジュテーム! それこそ我らが最も捧げなくてはならない大事なもの! 所でバナナはおやつのカテゴリーに入るのか? そう! 入るのである! 故に私は愛で満ちている! おぉ、世界よ、本日もこの大地を我らが神々の愛で満たしたまえ……!」

 

「……」

 

 数秒、無言で男を眺めていると、男はやがてゆっくりと腕を下ろし、満面の笑みを浮かべた。

 

「おぉ、我らが大いなる神―――()()A()L()I()C()E()よ。信託もなく、託宣もなく、今宵は我ら迷える子羊に一体どのような要件であろうか? 新たな苦痛がご所望か? 新たな悲劇をご所望か? 或いはその逆であろうか? この法王マティス・グレッグ我が神の要望にこの命、この魂の全霊を以ってお応えしよう! それこそ我らがAL教の存在意義、存在理由なのだから!」

 

「ここ、魔血魂保管してたっけ?」

 

「はい、此方に」

 

 シンプルな質問に普通のテンションに戻った法王マティスは袖の下から魔血魂を取り出した。それを受け取り、色艶、輝きを見て本物であるのを確認しながら神光をその中に叩き込んでリセットする。何が記録しているかは忘れたが、これでこの前は何だったのかなんて関係ない。とりあえずこれでフリーになった魔血魂が一個出来上がった。これで魔王も知らない完全フリーな魔人を一体生み出せる。

 

 ……いや、そうじゃないだろ。

 

「マティス君なんでコレ持ち歩いてたの?」

 

「ふふふふ……はーっはっはっは! 当然ですとも女神ALICEよ! 我が愛に区別はありませんとも! たとえそれが魔血魂となった元魔人であろうと封印しているだけでは寂しいであろうからこの私が! 懐に入れて! 温めていたのです!」

 

「そう……」

 

「そう、この世界に存在するありとあらゆる命、生物、存在、その全てが我らの神による愛で満ちている! 我らはその愛によって作られ、愛によって維持されている! あぁ、所詮は愛玩の存在! されど愛玩されることで我らは生き抜いている! であらばこの愛を広めなくてどうするというのであろうかぁ! ふは、ふはは、ふははははは―――あ、所で女神よ。次の法王はどういたしましょう?」

 

「んー、お前ぐらい面白い奴が良いかな」

 

「成程成程成程……うーむ、試験内容に困りますな。ですがぁ! ご安心を! お任せあれ女神よぉぉぉおおお―――!!」

 

「人生楽しそうだなぁ、マティス君は」

 

 その言葉に無論ですとも、マティスは答えた。

 

「我らは生きているのですから。であればこの奇跡を楽しまずしてどうしようというのだろうか。次の瞬間には癇癪で消されるかも解らぬ命―――だがだがだがだが! だぁーがぁー? 我らは生きている!」

 

 涙を流しながらマティスは笑う。

 

「このような愚かな男が法王となる事を許され、愚かな民衆で世界が支えられることを許し、そして天は我らをこんなにもいじらしくも助けてくださる! なんという、なんという愚昧さ! なんという滑稽さ! あぁ、こんな世の中楽しまない等とは、あまりにも勿体ない。故、私はこうやって息を吸って感謝を吐き出しているのですよ女神」

 

 今代の法王は歴代の中でもトップをぶっちぎって頭がおかしいが、これはこれで有能なので悪くはない。魔血魂を懐で温めているという日常には正直ドン引きする部分もあるのだが、それはそれ、これはこれ。役に立ったので適当に褒めてこの場を去る。

 

 再び踏み出し、今度は適当な森の中へ。最終目的地へと赴く前に、胸の合間に手を突っ込んで、

 

「よっと」

 

 鱗を一枚、引きはがした。

 

 心臓に最も近い一枚の鱗―――逆鱗。

 

 引きはがしたそれを魔血魂の中に差し込めば、与えられた素材を起点に魔血魂が新たな魔人を生み出そうと変形を始める。そうやって脈動する魔血魂を放棄するように投げ捨てる。何がどう転ぼうが、絶対に面白いことになるのを確信しつつ、

 

 再び、世界を渡るように歩き出す。

 

 次の―――最後の目的地へと向かって。




 法王マティス君はあの部屋で大半の時間を過ごし、風呂とトイレと仕事の時だけ出ているという生活を送っている。生粋のキチガイ。
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