最初にJAPANの死国を改造した。地獄は本来の【ランス】シナリオとは全く関係のない世界だ。間接的にかかわってくる部分はあるものの、それが大っぴらに関わる事はない。この影響でもはや【戦国ランス】において、そのまま帝レースが繰り広げられることはないだろう。恐らく二級神アマテラスが何らかの修復や修繕を働かせようとするだろうが、
そして新しい魔血魂によって生み出された魔人。魔王も知らず、私がこっそりと生んだ新しい枠は半分、魔人というカテゴリーから踏み出しているかもしれない。或いは、ルーシェの妹だと呼べるかもしれない存在だ。魔人は存在するだけで混沌と災厄を呼び寄せる。魔人ますぞゑの件は本当にしょうがないが……あのやる気なしを始末出来なかったのは本当に残念だが、ハニーキングが庇うのならしょうがない。どうせ、あの場で話をナイチサも聞いていたのだ、あの男であれば此方の意図を察して勝手に動いてくれるだろう。あの男が魂をささげて信仰しているのはルドラサウム、つまりは私の娘ルーシェだ。ルーシェの成長と喜びの為であれば全てを駒として動かし地獄を形成しようとするだろう。性格はクソの一言に尽きるが、シナリオメイカー、GMとしての優秀さはおそらくこの大陸随一だ。
これでルドラサウム大陸に大きな変化を生み出せた。将来的にこれで大陸が本来の歴史をトレースするような未来を辿る事はないだろう。もうちょっと早い段階でこういう事をやれるぐらい突き抜ければ良かったのになあ、と思う部分はある。だけどそれこそが人生というものの常だ。
過去は変えられない。変えた時点で分岐し、それはパラレルの未来だ。それはもう……どうしようもない事だ。その未来はなくなるしかないのだ。だから過去は変えられないという事実を受け入れて、前に進んで行くしかない。過去に後悔するのではなく、それを背負って未来をより良くする為に生きて行くのだ。
ウル・カラーの人生はこれから完結する。
長い、長い時を過ごしてきた。
そして或いは―――ずっと、この瞬間を待っていたのかもしれない。
転生者というどこかの誰かの残滓なんかじゃなくて。この世界、大地、歴史に両足をつけてウル・カラーという人物として生きた人生を全うするその瞬間を。
そう、私はウル・カラーだ。カラーの女王だ。ここに来て漸くその人生を歩んでいるという実感が体を満たしていた。だから、それを全うする為に、
自分の娘の為に未来の全てをささげる覚悟で動く。
後向かうべき場所は一か所だけだ。
JAPANは変わる。リーザスは手を入れなくても別に問題はないだろう。あそこには自分の家がある関係で未来が微妙に変わるだろう。ヘルマンはシナリオフックとして優秀だしそのまま放置するので問題はない、それにあっち方面には将来的にハンティが向かうだろうし。ゼス……ゼスは魔軍と聖魔教団の主戦場となった地域だ。今では大量のジャンクの破棄場所になっていて、一足進んだテクノロジーが存在するアンバランスな地域になっている。ある程度抑制されるとはいえ、どこぞのSFで見る様なスラムな景色が繰り広げられている。アレはもう、魔法至上主義のゼスになるとは思えないだろう。地形変えちゃったし。
自由都市国家は―――うん、アレは自分の国がベースにある。将来的にあそこがベースになって発展するだろう。後数百年もすればあそこを侵食する元も大人しくなるだろうし。そうすれば元々あった土台をベースに再び国家か、都市が建設されるだろう。そこから育って正史には存在しないものが出来上がるだろう。
となると、干渉する先はもう一つしか残されていない。ただひたすらに未来の形を砕いて新しく作り直して、唯一残されている形を目指して踏み出す。
視界は切り替わる。神魔の力は便利だ。便利過ぎて慣れると溺れてしまうだろう。明らかにプレイヤーと隔絶したこの力は使えば使うほど自分が特別だと思い込まされてしまう。実際、運営する側としてこれぐらいの力がないとやっていられないのは当たり前の話だ。だけどこの特別感は心を歪ませる。だから神魔は当然の様にプレイヤーを見下し、そして愚かなプレイヤーは当然の様に受け入れて地獄を生み出す。
何も救われないこの大陸の未来は、果たして変わるのだろうか?
それが解るのは未来の子たちだけだ。
そこに、自分はいないけど。
それでもそんな未来を目指す為の布石、フラグ、伏線は残してゆく。
だから踏み出して景色を変える。どこぞの森から景色は切り替わり、出てくるのが先ほどとは違う人工物だ。ここに暗さはなく、陽の光によって明るく照らされた大広間へと出た。AL教の秘密の部屋とは違って外から新鮮な空気が入り込んでくる空間は装飾が施され、そして綺麗に整えられた主の為の広間だ。登場と同時に自動的に動きだす存在が侵入者を認識する前に動き出し、その手の剣を使って斬撃を放つ。広間の主が認識し、声を送る前に放たれる斬撃はまさにプレイヤーとして天元に届く一撃。
だがそれを二本の指で掴んだ。触れるのと同時に発生する強制的な《付与》を無効化しつつ、追加で放たれた斬撃を白羽取りする手を強引に横へと引っ張り、直ぐ横の指と指の間の隙間に落として掴む。
その様子を少し驚いたような様子で主―――魔王ガイが見ていた。
だが魔人永劫の剣が一瞬で無力化されたのを見て、安堵の息を吐いた。
「驚いたぞ……何時からそんな風に現れられるようになった」
「うーん、正確には百年以上前かなぁ。もう既にその時には色々と終えていたし。ただ、使う必要もなかったからやらなかっただけだけど。まぁ、そんな事はどうでも良いんだよ―――久しぶり、ガイ君」
「あぁ、久しぶりだなウル」
ガイに久しぶりの挨拶をしながら指で刃を弾いて、拳を作る。それをそのまま一気に永劫の剣に叩き込んで―――沈み込ませる。砕き、貫通はしない。文字通り沈む様に拳が永劫の剣の中へと潜り込んだ。そのまま、その体の中を弄り回すように手を動かして探り、感じられた手ごたえに掴んで一気に手を引きずりだす。
永劫の剣から腕を引っこ抜けば、手は永劫の剣の中に《付与》される形で取り込まれていた二つの姿を引きずり出す。青い髪のカラーと、緑髪の青年の姿の二つだ。どちらも永劫の剣に付与されていた影響で身を覆う物はなく、全裸になっている。まぁ、そこはしょうがないかー。と思いながら放り捨てる様に指をスナップする。
永劫の剣の内部からサルベージされた二人の姿が消え去る。片目を閉じて軽く確認し、二人の姿がペンシルカウに到達したのを確認して目を開く。永劫の剣は引っこ抜かれた衝撃でその場に倒れている。まぁ、護衛としては優秀だしこいつ、殺すのは勘弁してやろう。
「うっし、これで良し……っと」
その様子を魔王ガイはずっと、玉座に座ったまま無言で見ていた。ただ此方がそうやって永劫の剣から重要人物を引き抜いて保護したのを見て、息を吐いた。
「もう、終わりが近いのか」
「終わりが近いのか、と言うよりは今日が終わりの日だよガイ。私はこれ以上無理だ。最後の仕事を終わらせに来ているだけだよ」
「……ホーネットに顔を見せられないか?」
ガイの親としての表情に、苦笑してしまう。この男も正史とはかけ離れた運命をたどる事になった者の一人だ。正史において彼が娘、ホーネットに対して親としての側面をまともに見せる様な事はなかった。そしてその結果、罪悪感から死を迎える。だがその未来はほぼ存在しないようなものだろう。ガイがホーネットを置いて死を選ぶような未来を見るとは思えない。そういう意味ではこの男に対する干渉は実の所、一つもない。
ただ、
「ごめんね。私も割と今ぎりぎりだから寄り道してる暇はないんだ。あの子はもうここを目指して旅に出た……ガイ君も覚悟しておいてね」
「400年足らずの玉座か……いや、中継ぎとしては良くやった方か」
歴代魔王で最も大人しく、最も平和で、最も親・人類だった魔王ガイ。彼が自分から魔軍を引き連れて人類の領域に踏み込み、襲ったことはない。ガイに人類を脅かす様な意図は一切ないのだ。その覚悟と決意を背負って彼は魔王になったのだから。こっちが世代交代を果たすように、彼も世代交代を果たすだろう。
それも近いうちに。その事実を口に出さなくても元戦友として、その考えを共有できる。このことに関して心配する事は何もない。ガイもガイで、すでに覚悟は出来上がっていたようだった。正史に存在したホーネットの魔王適性問題、これも既にクリアされている。
……何も問題なく、魔王の世代交代は果たされるだろう。本当に珍しく。
思えば歴代魔王は全てが戦乱と混沌の中での継承だったのだ。親から子へと、何のトラブルもなく継承が発生するのはこれが初めてなのかもしれない。そう考えると魔軍から見ても、ガイの行う安定した魔王継承は偉業と考えられるかもしれないが……その結末を見る事はない。
「じゃあな、ガイ。元気にやれよ」
「あぁ……本当に良いのか?」
「私の心配している場合じゃないだろ、お前は」
まったく、と苦笑しながらガイに背を向け、手をひらひらと振ってから去る。また一歩踏み出して場所を変える。
風の当たる場所―――魔王城の屋根の上へと移動した。ここからは魔物界の姿が良く見える。魔王の存在によって荒廃する大地は地形が、植生が、環境が狂う。それによってまともな生物は住み着く事が出来ない。だが魔物達はこの環境の中で、逞しくも生きている。ガイの主導か、或いは魔人の主導なのか、魔王城を中心とした城下町は昔見た時よりも遥かに発展している。また定期的にトッポスが発生しているんだろうなぁ、と思うとくすりと笑いが零れてしまう。
この魔物界もだいぶ変わってきている。まるで文明的な生活は無理だったはずの軍団が、人類に負けないぐらいの文明を構築している。農業や牧畜を始めている辺り、略奪一辺倒だった彼らの文化は変わってくるだろう。奪う事だけではなく生み出せることが解れば、それだけで生活や考えが変わってくる。
「まぁ、それでも本質が愚かなのはしょうがないんだけど」
それでも魔物は、モンスターは人を襲うだろうなぁ、と考える。その対立構造だけはどうしようもないし、変えてはならない部分だ。ここを修正してしまうとこの世界が平和になりすぎてしまう。まだまだ、人類と魔軍には対立して貰わないと困るし、その為には魔人に暴れて貰わないとならない。穏健派と過激派で良い感じに割れていてくれると個人的には助かるのだが―――さて、正史において存在していた魔人とはもはやラインナップが違う。今更同じ様に対立してくれる事を祈るだけでは無駄だろう。
「ま、それでも間違いなく火種は燻ぶってるし。良い感じに盛り上がってくれるだろう」
そこらへん、手足としてAL教が動くだろうし、必要ならナイチサも炎上させるだろう。少なくとも退屈になるという事はない。これからの時代は人類の発展の時代で、国家の形成から群雄割拠の時代になるだろう。
その中央をルーシェが今から突っ切るように旅をすると考える……ちょっと大変そうだが、良い経験になるだろうと思う。
まぁ、アベルがいるし。多分こっそり遠くから護衛してるだろうアイツ。私に負けないレベルで子煩悩だし。
「お父さんがなぁ。はしゃぎ過ぎないと良いんだけどなぁ」
まぁ、そこはアベルに任せるとして。
だいぶ、存在が薄くなってきた。ふと力を抜いて手を掲げてみれば、指先から一気に肩口まで姿が透けて、消えそうになる。なので再び気合を入れて存在を復活させる。もはや気合と根性だけで姿を維持しているのに近い。だがそれも限界がある。残されたタイムリミットは後1時間ぐらいかなぁ、という所だ。
この残された1時間をどうしたもんか。
そう思って魔物界を眺めていた所で―――見つけた。
魔王城裏手、体を動かす為に確保された、何もないスペース。
そこに一人で立ち、武器を振るい続ける魔人の姿に。古代から少しずつ姿を変え、成長し、未だに成長し続ける魔人筆頭の姿を。
その姿を見つけて小さく笑い声を零し、城の上から会いに行くために飛び降りた。
「最初に冒険を初めた奴と冒険を終わらせるのも一興か」
最後の時を過ごす相手が、決まった。
次回、最終話