「そんじゃ、黄金像を回収するか」
「確か黄金像が四種必要なのよね? 神の扉を開くのに」
スラルの言葉に立ち上がり、ベルトポーチをセットしつつ答える。ベルトポーチにはスラルが開発した特殊な空間魔法がセットされており、見た目以上に中身が入る様になっているので投げナイフ、ザイル、と冒険に必要な道具をセットしていく。つまり《冒険セット》である。《冒険Lv1》ぐらいはあるかなぁ、と思っている。こう見ると俺、色々と技能レベルを持っていて優秀ではないか。まぁ、大体ルドラサウムのサービスなんだろうとは思うが。
ともあれ、裸足だったので靴下を履いて、コンバットブーツに足を通す。
「神の扉は創世記から神々が戯れに設置したもので糞三超神プランナー、ローベン・パーン、そしてハーモニットに謁見する為の場所だ。連中は根本的に生物の苦しむ姿を見るのが趣味だからね。黄金像も元々は取得するのにそれなりに苦労する場所にあったりしたんだけどね……ま、当時は俺がドラゴンだったからケーちゃんの危機感知センサーと併用してごり押しで全部取得したんだよ」
ケーちゃん、強くないからと注目されていないが、そこら辺の危機感知能力は本当に凄いのだ。罠があったら踏む前に感知して、一番安全なルートを見つけ出す事が出来るのだ。アイツ、そう言う能力は本当に高い。伊達や酔狂で俺よりも年上でずっと強さを求めて鍛えてきたという訳ではないのだ。いずれ、本当に最強の魔人に至るから、それまで是非初心を忘れずに頑張ってほしい。
そうなったらサービスの一つぐらい、許すかもしれない。
「ほんとよく知ってるわよね、そう言う事」
「俺も一応おばあちゃんって呼ばれるぐらいには長生きしているからね。もう既に1000年も経ってるし。カミーラちゃんよりも歳をとってるぜ俺は」
ケーちゃんを抜けば最年長だ。現在生きている存在で俺よりも歳をとっているのは、神々を抜きにすればケーちゃんとマギーホアぐらいだろう。他の連中は大体死んでいる以上、俺もこの世界における最年長生物レースに出ている。まぁ、それだけが理由になる訳じゃないが。
「とりあえずスラルちゃんが出る準備を整えたのなら俺は何時でも行くぞ? まずは黄金像回収の為に大陸中央部に行かなきゃならんけど」
「準備、いいのね」
中指を突き立てて準備を整え終わり、答える。
「心底クソだと思っている連中相手に遠慮する必要ある?」
その様子にスラルは呆れた溜息を吐き出しつつ、しかしどこか、安堵するような気配も持っていた。まぁ、言う事を聞かなければ無理矢理魔人化させて、魔王の絶対命令権で吐かせるつもりだったのだろうと思う。俺も、魔人化に興味がないわけではないが、魔人になった場合のデメリットが強過ぎるので出来るだけ清い体のままでいたいのだ。それはそれとして。
「まぁ……ルドちゃんは憐れに思うけどな」
「ルドちゃん?」
首をかしげて聞き返してくるスラルに言葉を返す。
「愛を知らぬクソガキだよ。母親がいないから本当は何が楽しいのか、というモノが解ってないだけさ」
全能盲目。それがあの子供に対して相応しい言葉だろうと自分は思う。全てを振るえるが故に盲目である鯨。そう考えるとあの創造神の存在がどうしようもなく憐れに思える。あの子に愛を教える事さえ出来れば、それが改善出来てしまう事は解っているのだ。アレには母親が必要だ。そしてそれは、数千年後の未来に、クルックーが成し遂げてくれるだろう。
……だから、まぁ、
俺はその時まで、適度に鯨を寝かし続けるだけでいい。その時まで適度に世界に飽きない様に苦しみ続けてれば、それでいいのだ。
「ま、私の方も《収納鞄》を持てばいいだけだし、そこまで準備はいらないわ。問題なく謁見できるなら素早く謁見してしまいましょ」
ベルトポーチの積載量を増やした鞄タイプのそれをスラルが持ってくるという。なお、ベルトポーチに関してはかつて、ケーちゃんに作らせた奴を再利用したのが素材として使われていたりする。スラルと待ち合わせる場所を指定する。別段、一緒じゃなきゃ行動できないという訳でもないので、一旦別行動をとって目的地で合流する事にする。
流石と言うべきか、神の扉の場所自体は既に分かっている様だった。ケーちゃん、まともに場所を覚えていないであろうにちゃんと場所が解るとは。
スラルが部屋から出て行く姿を見てから呟く。
「久しぶりの里帰りか……」
なんだかなぁ、としか感想が出てこない。頭の裏を掻き、マギーホアに続いて次代を象徴する人物―――スラルを破滅に導くのも俺がやるのか、と思わなくもない。まぁ、出番が回ってきたのならしょうがない。
面白く見える様に動くしかないだろう。
「んじゃ、行くか……」
先に厨房と菜園に連絡を入れてしばらく空ける事を連絡しなきゃならない。それが終わったら黄金像を隠した故郷へと一時的に帰還、か。翔竜山に近づくのは個人的に憂鬱な部分がある為、
少しだけ、面倒だった。
魔王城を飛び出し《斥力跳躍》の魔法で長距離を軽々と移動。《重力半減》で落下速度を落とせば長距離をストライドして移動する事が出来る。これが中々体力を温存出来て長距離の移動の際は楽なのだ。魔法に関してはスラルもLv2あるだけあって同じレベルから物事が見れるので、開発には大いに役立ってくれた。コツコツ、この1000年間地道に魔法研究も進んでいる。まだまだLP歴レベルの完成度はないが、自分一人で魔法体系を一つ作っていると思うとそれなりに楽しかったりする。
「しかし、俺も人類側から見れば裏切り者にジャンルされるのかなぁ」
魔軍でそれなりに愉しく生活しているし、絶対に戦闘支援とかには手を出さないが、それでも魔軍側で日常を過ごしている以上、人類側からすれば裏切り者かもしれない。まぁ、覚えられてすらいない可能性もあるが。自分が根本的にどっちつかずであるのも事実だ。とはいえ、ここら辺の出来事は後世にほとんど残らないし、別段人類を裏切って苦しめても問題ないと言えば問題ないのだが。
現状、目標はなんとか楽に死ぬか、或いは未来に到達するか、それしかないのだから。
そんな事を考えつつ古代・リーザス領からルドラサウム大陸中央部、まだ砂漠化していない大陸部分を突き抜けて、そのままカラーの森へと向かって一直線に里帰りする。翼を出したければ出す事も出来るが、流石に目立ち過ぎるので大跳躍程度で済ませる。これでもある程度の地形は無視出来るが、それでも飛行程ではない。
カラーの森に移動するまで、流石に数日という時間をかけてしまった。
そうやって翔竜山の麓、カラーの森へと久しぶりに戻ってくる事が出来た。懐かしさすら覚える緑の森に囲まれた環境は、ドラゴンとしての自然回帰の本能が刺激される場所でもある。やはり生まれ育ったという影響もあるのだろう。ここに居ると心が安らぐ。
そしてケツにハイパー兵器をぶち込まれて性癖開花するドラゴンの姿も思い出す。
アレはいい時代だった。またやりたいもんだ、性癖開花テロ。
「さーって、っと。隠し場所は……っと」
昔、魔法の研究や勉強に使っていた区画が森の中にある。そこの地面の中に埋めて全部隠したのだ。それも魔法でロックして、普通の人間には引き抜けない様に。自分の様に魔法に対する高い能力と理解が無ければ引きずり出せない様に。そうする事で俺の知らない所で黄金像が勝手に使われるのを回避していると言っても良い。
だって、俺が面会拒否されたのに他人に利用されるの腹が立つし。
今回は面会拒否させねぇからな。
「えーと、100年程度じゃ全く景色も変わらないなぁ……」
こっちだこっち、と独り言を呟きながらこの100年でだいぶ未整備が進んでしまったカラーの森の奥へと進んで行けば、かつて、魔法を勉強し、研究した森の広場へとやってくる。
そしてその中心に立つ、黒髪短髪の背中姿を見つけた。服装は簡単なローブ姿ではあるが、その気配と匂いで一体だれなのか、一瞬で理解できた。
「お、ハンティじゃん。生きてるみたいで良かったわ」
「えっ、え……姉さん……?」
振り返ったハンティ・カラーの表情はやはり、人の形をしており、額には赤いクリスタルが見える。ローブで体を隠しているが、恐らくその下もヒューマン・カラーと同じ見た目をしているだろう。驚きの様子を見せながら此方へと視線を向け、震わせながら手を出してくる。
「本当に、姉さん」
「せやで。今でも虎視眈々とケッセルリンクちゃんの性転換魔法狙ってるウル様だぞ」
「あ、やっぱり姉さんだ安心した」
「今の発言で安心するの止めない?」
地味に傷つく。嘘だけど。はぁ、と溜息を吐いてから腕を大きく広げれば、ハンティがどうするか一瞬迷ってから走って近づき、腕を背中に回してきた。
「あー、ハグハグ、あー、ハグだ。安心する?」
「……うん。皆、目の前で溶けて消えたから姉さんも溶けたのかと思っちゃって」
「俺もぶっちゃけ溶けた方が楽だったんだけどルドちゃんに愛され過ぎて夜しか眠れないおかげでね? 適度に優秀な程度で生きていられるのさ」
「やっぱりこの意味不明さは姉さんだ……」
「このやろー」
ハンティが抱擁からゆっくりと離れる。どこか、安心した様な、少しだけ泣きそうな表情を堪え、深呼吸してから向き直った。
「で、姉さんは今までどうしてたの? 服装がアレだから結構良い所に居るってのは解ってるけど……」
「あぁ、ちょっと魔軍で遊んでる」
その言葉にハンティがジト目になる。
「……大丈夫なの?」
「今の魔軍ならね。魔王がスラルの間は人類と小競り合いしかするつもりはないよ、アイツは。人類を苦しめる事自体に苦しみを感じる様な少女だからな、アレは。人類絶滅なんて間違っても出来ないさ。だから懐に潜り込んだ方が安全だね、ああいうのは」
まぁ、俺の心配する必要はないよ、とハンティの頭を軽く撫でる。それをハンティが恥ずかしそうに外す。
「止めてよ、もう子竜じゃないんだからさぁ」
「はっはっは、そういうのは俺よりも歳をとってからな!」
ひとしきり笑い、そしてハンティがちゃんと生きている事を確認して、安心した。
―――安心した?
その事に一瞬、違和感を抱いた。いや、なんでハンティが生きているんだ、と。
「……姉さん?」
「あぁ、うん、いや、何でもない―――なんでも、ない」
考えない。考えちゃ、駄目な事だ。考えるな。ワスレロ。
大地に蹴りを入れて魔力を大地の下に叩き込む。それで封印のロックが解除され、地面から勢いよく四つの黄金像が射出されてくる。それを魔法で素早く回収しつつ、なんとかベルトポーチの中に叩き込んで行く―――うむ、ぎりぎり入ったな。それを確認してからハンティに視線を向けた。
「ハンティは今どうしてる?」
「私? ヒューマン・カラーのコミュニティに世話になってるけど」
「じゃあ、そのままでいい。そのまま、今は平和にやってろ」
少しだけ考える。言ってもいいかなぁ、と。でも、まぁ、ハンティなら別にいいか、誰にもばらさないしと判断する。いいか、と指先をハンティに突きつける。それにハンティがちょっとだけ驚いた。
「いいか、ハンティ。魔王ナイチサ時代にカラーが調子に乗り出すが、絶対に便乗するなよ。地獄を見るだけだからな」
「……今の魔王はスラルじゃないっけ?」
「次の魔王の話だよ。ナイチサは残忍で狡猾、生物を大量虐殺するから。それが原因でカラーが調子に乗り出すけど、絶対に手伝うなよ? ……手伝わないと思うけど」
「うん、まぁ、そう言うならそうするけど……相変わらず……いや、うん。まぁ、いっか」
そう言ってハンティは質問する事を止めた。それは納得したからなのか、それとも信頼してくれているのか、自分には解らなかった。人の心なんてまるで自分には解らないのだから。だけど、聞かないでいてくれるのは本当に助かる事だった。本当に、助かる事だった。君の未来が幸福で満ちている事は決まっているのだから、安心してシナリオ通りに進んでほしい。それが何よりも、君の為になる。
「そんじゃ、俺は魔王を待たせるVIPと化したからちょっとおちょくりに行ってくるな」
「……大丈夫なの?」
「大丈夫、大丈夫」
俺が死ぬときはきっと、これ以上なく絶望的で、どうしようもなく、そして悲惨であると思っている。それこそジルの様に信じられた奴全員に裏切られて四肢を千切られた後に人生を全否定、その上で肉便器として使い込まれたうえで汚染人間とか……大体、それぐらいのコースは辿るんじゃないか? と思っている。
だから、まぁ、ここではまだ死なないだろう。
無敵を気取っている訳じゃないが、それでもルドラサウムなら一番酷い所で殺してくれるという確信があった。だからまだだ、まだ死なない。死のうとしても死なない。
だからこんなに多く、優秀な技能があるのだろう。
だから全部、茶番だ。俺がはしゃぐのも、適度に何か生み出すのも、神によって監視された茶番だ。そこそこ優秀な道化師として本番まで場を盛り上げておくための道化師でしかない。
だから、まぁ、笑う事だけは忘れずに生きたい。
「じゃ、元気でやれよハンティ。俺は俺で楽しくやってるから」
「うん……じゃあ、またね」
ハンティに軽く手を振り、振り切る様にその姿と別れる。考えない―――なるべく、身近な、大事な身内の事は考えない。考えるだけ苦しむだけだから、直ぐに忘れて行動する。今の自分にはやる事がある。
だから北へ、
古・ヘルマンへと向かう。
それから逃げる様に北へと向かって跳躍とストライトを繰り返し、記憶しているマルグリッド遺跡へと到着する。マルグリッド遺跡はドラゴンの代で一度、俺によって破壊されているが、第三世代へと突入した事で完全に修復されていた。便利に世界が弄られている事を自覚しつつ黄金像を脇に抱え、マルグリッド遺跡を降りて行き、地下1階へと降りる。そこに体育座りしているスラルの姿が見えたので、その視線の先を捉え、横に並び、一緒になって体育座りをした。
「ねぇ、なにあれ」
「ゴッド級ハイパー兵器……かな……?」
視線の先ではこれは卑猥な形をしたモンスター、或いは魔物、イモムシが大量に集まっては汗を垂らしながら祭壇を中心に踊っては囲んでいる、異様な儀式の様な光景を繰り広げていた。
「ねぇ、扉は」
「チンコの後ろに隠した」
「そう……アレ、退けなきゃいけないの……」
「うん」
「そう……」
スラルの目から光が消えた瞬間でもあった。
次回、神の扉へ。
さぁ、ついに面会の許可は出るのか否か。
次回、ハイパー兵器不法投棄。