翼を広げて大地を蹴り、そして風に乗って飛翔する。
実はこれ、《ドラゴンLv1》という技能を必要とする動きであるらしい。つまり種族としてドラゴンである事を定義する技能である。
このランスワールド、或いはルドラサウム大陸では【技能】という概念が存在する。これは個人個人が一体どういう事が出来るのか、というのを定義する為の公式からのキャラクター付けであり、ルドラサウムの住人にとっては
その上、Lv2技能になってくると天才と呼べる領域。この世界特有の【必殺技】とでも呼べる奥義を使えるようになってくるのがこれで、天才、匠とも呼ばれる領域になってきていて、各種技能を持っている存在は非常に重宝される。その上、Lv3が伝説級と表現される領域であり、歴史の中でも数える事の出来る程度にしか出現しない生きたバランスブレイカーとでも表現すべき技能だ。ぶっちゃけ余りの凄さに神様が直々に始末するレベルのもある。
これらの技能は普通、レベルは上がらないらしいのだが、それは才能として開花した後の話だったりする。まだ未熟だったり、技能を正しく使えていないと本来よりも低くなっていたりする物らしい。とはいえ、これを正確に鑑定する事が出来るのは《神魔法Lv3》を持つ存在だけなので、知るには自分の直感に頼って色々と手を出して調べるしかない。
そういう事で生まれてからドラゴンのミンチ肉がデイリー的にククルククルによって降り注ぐ日常、同胞のミンチ肉食うのってこれ、共食いなのでは? と思ったりするも究極的にはドラゴンが完璧すぎる存在なので何も問題なく食べてしまえた1年間の間に、とりあえず出来る事をして、それで調べた結果が出た。
まずは基本的なドラゴンらしい行動が出来る《ドラゴンLv1》っぽい事が発覚。ブレスを吐いたり、翼を広げて空を飛べたりする。たぶんLv1である。1と2の差なんてまるで解らないから暫定、1なのである。ちなみに《ドラゴンLv0》だと飛べなかったりブレスを吐けなかったりする。
次に《魔法Lv2》。まだ知識も足りず、魔法はロクに使えないのだが、先輩カラーたちによればLv2相当の魔力があるらしいので、将来的には破壊光線を撃てるようになるだろうと言っていた。ところでブレスを吐いた方が早くないっすか? と煽ったら目を逸らされて黙られた。
後は妙に料理が出来た、というか手際が良かったのでたぶん《料理Lv1》ぐらいはあるんじゃないかと思えた。それ以上の技能に関しては把握のしようがない。武器戦闘系の技能もあるかもしれないが、そもそもドラゴンには剣を通さない鱗と、そして鋼を紙の様に裂く爪があるのだから、武器を持つ必要が欠片もない。というかドラゴンの時代にはそんな武器が存在しない。恐らく鍛冶技能持ちが居ても一生、それが開花する事はないだろう。
まぁ、深く考えたらだめだ。
ルドラサウム世界は割とガバい部分が多いのだから。プランナーもハーモニットもローベン・パーンの三超神も頭の中に脳味噌の代わりにクソを詰め込んでいる様な連中なのでまともなバランスやシステムを期待するだけ間違っているのだ。ほんとアイツら死なないかと思い出す度に思う。
まぁ、そんな事はともあれ、空を飛んで移動する事が出来るので、このルドラサウム大陸がよく見える。将来的にはもっと狭くなっているのだが、今ははっきりと超巨大な魔王が現在のメインプレイヤーを虐殺防衛している姿が見える。近づくと即死間違いなしなので、軽くククルククルと死んで行く同胞たちにばいばいのあいさつに手を振ってから旅に出る。
「さぁ、ハイパー兵器を求めて旅に出たぞ」
口にすればするほど何やってんの俺? ってなるが、そこはしょうがない。正気に戻ると恐らく発狂する。ここは世界の空気に合わせて半分脳味噌を蕩けさせていた方が乗り切れる。深く考えればそれだけで未来に絶望してしまう。だから考えない。考えない。必要な事だけを考える。
「さーて……どうしよっかなぁ」
自由に大空に翼を広げながらゆっくりと飛翔しつつ、ノープランでカラーの森を飛び出してきてしまった事を今更ながら、ちょっとだけ後悔する。もうちょっと考えて行動すれば良かったのかもしれない。とはいえ、あのままカラーの森に引っ込んでいればその内、繁殖する為に翔竜山の乱交パーティーに巻き込まれそうだ。童貞を捨てる前に処女を捨てるなんてとんでもない。処女膜にクモの巣張ってるぞ! と言われても捨てるつもりは一生ない。というかさっさと男になりたい。
ともあれ、
「どーしたもんか。魔法に頼るか。道具に頼るか。どっちかだなー」
ハイパー兵器を求めて空を飛んでいるが、実は特にアテはない。だけど性転換には幾つか手段があるのがこの世界だ。それを思い出し、自分も実行すればいいだけだ。一番わかりやすいのは魔人ケッセルリンクが行った性転換の魔法だろう。AV歴の次―――つまりSS歴、魔王スラルの時代に魔人となったカラーであるケッセルリンクは性転換して男となったのだ。つまり性転換の魔法は《魔法Lv2》もあれば可能であるという事の証明である。
とはいえ、魔法の行使やバリエーションを増やすには時間と勉強が必要になってくる。なのでこれは後回しで一切問題ない。きっと賢いドラゴンの誰かが性転換魔法ぐらい覚えていてくれるだろうと祈っておく。
だから先に第二の選択を選ぶ。
つまりは神に謁見する。
神の扉と呼ばれるものがあり、それを通る事で神に謁見する事が出来る。特に超神プランナーは謁見した存在に対してなんでも願いを叶える事で有名な神様だ。そして同時に願いを曲解して叶える事によって全ての到達者を犠牲者に変えてきた真正のサイコパスでもある。だが三超神の中で愉悦を楽しんでいるハーモニット、バランス概念を肥溜めに落としてきたローベン・パーンと比べると一番マシなのでほんとルドラサウム大陸は酷い。
ただこの扉、普通に抜けられる訳じゃない。黄金像を四つ並べる必要があったりするのだが……この時代でまだ、それが作成されているかどうかは解ったもんじゃない。というか神の扉自体、設置されているかどうか不明だ。
なにせ、神の扉が存在しているのが遺跡―――つまり文明と文化のあった場所だ。まだ翔竜山に住み着いたばかりのドラゴンが他の領域に手を広げているとは思えないし、丸いものに高度な建築技術はなかったと思う。
まぁ、ドラゴンなんて飲まず食わずでもしばらく余裕の生物だ。寿命だって実質的にはない。ククルククルが今日も元気にドラゴンバッティングセンターでドラゴンを連続ホームランしているのだ、アレが消えるまではまだKuku歴が続いていると解るので、焦る必要もない。
まずは簡単に、神の扉を探す為の旅を始める事にした。
雄大な空に翼を広げ、阻む事の出来る生物はいない。今の時代、メインプレイヤーであるドラゴンが完全なる覇者として降臨している―――そしてやがて、ククルククルも、その次の魔王であるアベルにも勝利し、ドラゴンの理想国家、完全平和を成し遂げるだろう。
その時が滅亡の時だ。
それまでは自由に生きて行けるのだ―――楽しく、そして自由に生きて行く。
ハイパー兵器を求めて。
それから北へと向かう。移動に時間がかかるかなぁ? と思ったが、ドラゴンがルドフラッシュによって粛清された、完璧な生物としてデザインされた能力は伊達じゃない。一々下に降りて休む必要もなく長時間飛行する事が出来、そして空を飛んで、腹が減ったら適当にちゃそばかちゃつみでも急降下してから食いつけば一切問題がない。人間だった時の感性がちゃんと料理しろ、と言ってくるが、
ドラゴンとなった今、細かい作業や考えは面倒なだけだった。ブレスで焼けば大体なんでも食えるので細かい事は気にしない。その上でドラゴンという生物がそもそも長寿らしく、時間間隔が物凄く薄く、夜空に出たと思ったらまた夜になっていた、という事がざらにある。そんな訳でおぼろげに記憶の中にある設定を追いかけてドラゴンパワーで適度にルドラサウム観光―――といっても文明なんて翔竜山の周りにしか存在しないのだが、地球では見られない景色や自然を堪能しながら北上していた。
そうすると北部に近づくので、段々と気温が下がって行き、吐息に白いものが混じり始める。遠い未来、数千年先では【ヘルマン帝国】と呼ばれる地域へと近づいた事の証でもあった。更に北上して行けば常に雪と氷に覆われた豪雪地帯に突入する事も出来るが、元東京暮らしとしては全く見慣れないヘルマン特有の積もる雪の姿はちょっと興奮できる内容だった。
ただやはり、見える範囲に生命の反応は全くない。
第一世代メインプレイヤーである丸いものの中でこの環境に適応した種ばかりがころころふわふわと雪原の上を漂っているのが見える。全く道路や建築物がないのを見ると、ルドラサウムが連中に飽きてしまってもしょうがないよなぁ、と思えるものがあった。
と、
「お」
空を飛びながら雪原と雑木林の境目辺りに、雪原を往く姿を見つける。それは陶器で構築された肉体を持つ、はにわの様な形をした集団だった。色もバリエーション豊富で、普通の茶色のが居れば青、緑というのが存在しているのが見える。残念ながら金色のはにわは存在しない。【ゴールデンハニー】が居れば経験値的に美味しいんだけどなぁ、と少しだけ嘆きつつ、まぁ、経験値にしちまうか、と判断する。
連中は神によって創造された【第二世代モンスター】である。
三超神のプランナーが創造した、メインプレイヤーと対抗し、そして敵対する為の存在、それがモンスターである。根本的に苦しみや絶望という感情を好むルドラサウムが楽しめる様に創造された敵対種でもある。
第二世代に生み出されたのはちゃつみ、ちゃそば、そしてハニー。
どれもドラゴンと比べれば雑魚の一言に尽きる。
そう、メインプレイヤー創造係のローベン・パーンが一人だけ俺の創造物TUEEEをしてしまったが為に、バランスが大崩壊してしまったのだ。ドラゴン一頭でこれらの大軍を簡単に薙ぎ払える程度の実力差が生物的に生み出されてしまったのだ。
ほんと、どうしようもない。
とはいえ、ドラゴン・カラーとして生まれた以上、ローベン・パーンのクソバランス感覚に関しては感謝しても良い。一種の最強種族に生まれる事が出来たからだ。それが原因でドラゴンは滅びてしまうのだが、そこは深く考えない。どうせ死ぬなら楽しくやりたい。
「じゃ、経験値ごちになりまーす」
空から雪原のハニーの集団目がけて急降下ダイブを行う。ドラゴンの巨体で急降下を行えば、それだけで凶器になりうる。雪を津波の様に吹き飛ばしながらハニーを押し潰し、その衝撃で陶器で出来たハニーの体をぱりーん、と割った。
「あぁん」
「は、ハニ子さーん!」
「うわーん! ドラゴンだー」
「逃げろ逃げろー」
「がおー」
ブレスを吐く為に口の中に光を集め、それを吐き出そうとしてそういえば、ハニーには《絶対魔力抵抗》なるものが存在する事を思い出した。ハニーという種族には魔力ベースの攻撃が通じないのだ。つまり、自分が利用する高熱と光のブレスはハニーには通じない。なのでブレスを吐くのを止めて、雪原を大きくジャンプして逃げ出そうとしたハニーを先回りする様に押し潰して割った。
ぱりーん、といい音を響かせながら割れてくれる。
「おいおいおい、こんなイケメンを前に逃げ出すなんて酷い事をするじゃないか」
「お前雌じゃんかー」
「えい」
なんか生まれをコントロールする強制交代できそうなアタック。ハニーは吹き飛びながら空中で塵になりながら消し飛んだ。今のオイラはアルティメットな気分。
「え? 何か言った?」
「イケメンさんだー!」
「かっこいいー!」
「つよーい!」
「がっはっはっは! 褒めろ! 称えろ! 崇めろ!」
わーいわーい騒ぐハニー共を眺め、集まってぴょんぴょん跳ねながら称える姿を見て、翼を広げ、
「そして死ねぇ―――!」
「あぁん」
逃げられない様に広げた翼でハニーを纏めて薙ぎ払った。連続でぱりんぱりん、と音を響かせてハニー共が全滅する。メインプレイヤーの身でどれだけ経験値が入ったかを調べる手段はないので、ハニーを殲滅した後で腕を組んで首を傾げる。基本的にそれが出来るのはレベル神等の神や天使だ。なので経験値が溜まったらレベルアップの儀式か、レベル神を召喚しないとレベルアップする事が出来ない。
まぁ、それにドラゴンはレベルが上がり辛く、下がり辛い種族だ。長期間さぼっててもレベルが中々下がらないものの、レベルを上げるのに必要な経験値もかなり多い。まぁ、ハニーを多数倒した程度ではレベルアップもしないか、と判断する。同族をぶち殺せばそれでもレベル上がりそうだが、ドラゴンと戦うなんて余りにも恐ろしすぎて自分には出来ない。
「ハニー100匹でレベル上がるかなぁ……」
才能上限、ドラゴンはドン引きするレベルで高いので、かなりレベルを上げて行く事も出来る。とはいえ、その上限に到達するのは恐らくはないだろう。ともあれ、ハニーなどのモンスターは見つけ次第ドラゴンダイブ的なノリで踏みつぶせばいいだろう。
「さーて、迷宮はどっちだったかなー」
神の扉を探しに冒険を続けるぞぉ、と翼を広げ、それを羽ばたかせた所で、ドラゴンの嗅覚が雪原に混じる普通とは違う、獣臭さを察知した。ハニーの臭いはどちらかといえば焦げたコロッケの様なものだ。
「くんくん、くんくん……匂うぞぉ、獣の匂いがするぞぉ……!」
雑木林の方からびくり、と草が震える気配がした。素早く其方へと視線を向け、そして唇をニタリ、と歪めた。これは新鮮な肉が食えるかもしれない。そう思った直後、
一つの丸い影が雑木林の方から飛び出してきた。
食い千切る為に口を開き、いただきまーす、と言葉を口にしようとして、
「超偉大なるドラゴン様―――!」
空中に飛び上がった丸いものはふさふさとした肉体を持っており、短い角と手足を持ち、それを空中で懸命に動かしながら体勢を整え、空中で顔面が下に来るように向き直り、そのまま垂直にポーズを決めながら落下した。
短い手足で華麗に決めたそれは、
―――なんとも美しい、垂直落下土下座だった……!
「どうかお命だけはご勘弁をぉ―――!」
そう言って全力で土下座しながら飛び出してきた丸いものの最終形の一つ、リスは頭を下げながら命乞いをしてきた。
それが長い、とても長い付き合いの始まりになるとも知らずに。
皆大好きリス。
第二世代メインプレイヤーであるドラゴンは丸いものの反省から強く、そして完璧な種族を目指してデザインされた。その結果、集団としての戦闘力が魔王を凌駕、最終的にラストウォーにて魔王を捕縛、監禁してしまう上に世界平和を成し遂げてしまう。
それに飽きたルドラサウムによってドラゴンは滅びる。
現代に残ったハンティ、ノス、カミーラ見てるとドラゴン出身はバグしかいないよなぁ。