「ウルあた―――っく!」
だから怪獣の顔面を殴り飛ばし、逆の黒腕で新しい斧を生み出して掴み、
「ウルアタック二連!」
殴った。逆の腕で新しく作る。
「三連!」
殴った。
「四連」
まだ作って殴る、殴る。
「五連! 六連ジャイ!」
がっはっはっはと、怪獣の顔面を連続で殴り続ける。斧が壊れても新しく同じ重量、質量、凶悪さで生み出す。そしてそれを粉砕する様に必殺技を放ちながら連打する。そうやって殴り飛ばしている間に連続で殴り飛ばし、ノンストップで怪獣ガガの顔面を抉り続ける。
「ウルあたたたたたたたた―――っく!」
口も目もない鼻だけの怪獣の顔面が抉れた。動こうとするが知らん。そのまま殴り飛ばした姿に接近し、《ウルアタック》によって抉れた顔面に黒腕を傷口の中に突っ込む。にちゃり、という感触を感じるも、遠慮なく、そこに最上級の重力属性の魔法を放つ。
「《ガンマ・レイ》」
光と重力の破壊光線がガガを貫通する。肉体を貫通した反転した極光が触れる肉体を光の中心点へと吸い寄せる様に圧縮しながら磨り潰し、物質的な強度を無視して貫通しながら反対側へと、大穴を抜けて貫通した。リソースとして消費された左腕が消えるも、それを即座に魔力で纏い直す。
「さぁ、死ぬか! 今死ぬか! 少し頑張ってから死ぬか! 選べ! 選べ! 死ぬ事を選べ! がーっはっはっはっは!」
闘争本能だけで脳味噌が蕩けて行く。素早く怪獣から離れる。跳躍すれば巨体の傷口が塞がっていく。そして存在しない両目で此方を捉え、怒りの気配を見せて来る。その力が膨れ上がり、何かをしてくるのを感じる。だが遅い、遅すぎる。離れたところで新しく斧を生み出し、ついでに左腕を2本に増やした。これで持てる斧の数も3本に増える。実にお得である。
「ファミナルス―――」
床を踏んだ。亀裂が走りながら光が溢れ出す、超重力の結界が周囲を飲み込みながら全てを圧壊する。その中を潰れながら小山程の質量の怪獣ガガの姿が
魔王の四重に張られた《魔法バリア》が阻んだ。
「あぁ、本気出したがらないのはこういう理由なのね。楽しそうなのに」
「は、はははは、は―――っはっはっは!」
《魔法バリア》で無傷のまま怪獣ガガの攻撃を受け止め、その姿を浮遊している状態から大地に引きずり下ろし、3本に増えた斧を握ったまま。一歩一歩、怪獣へと近づいて行く。無論、《ファミナルス・レイ》は維持されたままであり、一歩一歩に足元の亀裂の光が揺らぎ、そして重力の圧縮と圧壊、光の絶え間ない斬撃が怪獣の体を刻んでいく。
そして左腕の一本目の斧を突き刺してアンカーする。二本目を地面に差し込んで二重にアンカーする。
「いいぜ、たっぷりぶち込んでやる。逝く程味わえ……!」
右腕を限界まで引き絞り、げらげらと笑い声を零しながら全力を込める。そしてそのまま、怪獣の足掻く姿を見つめる。跳ね、体当たりし、浮かぼうとする。その全てをスラルの支援と《魔法バリア》と《ファミナルス・レイ》で封殺しつつ。
「ウル、アタックッッ!!」
渾身の一撃を怪獣の顔面に叩き込む。刃を広げ、叩き込んで粉砕するのと同時にそれを爆裂させ、体内から体を割って、怪獣ガガの姿を真っ二つに変えた。その死体を片足で踏み、肉と汁を散らせる。
「ふふふ、ははは―――がーっはっはっはっは! は! は! は!」
自由になった手で髪の毛を後ろへと流しながら塵の様に散った怪獣の姿を前に爆笑する。あぁ、弱い。なんて、弱いのだろうか。あのアベルよりも、マギーホアよりも全然弱い。これで本当に神に対する番人のつもりなのだろうか? だとすれば余りにも弱すぎる。
「ふぅー、ふぅー、ふぅー……!」
そこまでヒートアップした所で深呼吸をして、ドラゴンの活性化によって覚醒し、滾る血の沸き上がりを自分に鎮静用の魔法を叩き込んで無理矢理冷やして行く。頭に冷水をぶち込んだような感覚と共に、ヒートアップしていた脳味噌がだいぶ落ち着いて来たのを感じる。
「ふぅ、ふぅ、ふぅー……はぁー……」
脳味噌が完全に冷えるまでポーズを変えないまま深呼吸をして、ばくばくという心臓を無理やり抑え込み、脳を冷却する。額の第三の目が閉ざされ、それが元のクリスタルの形へと戻った所で、完全にクールダウンを完了させる。
終わった所で、
ガガから数歩離れて、体育座りをする。
両手で足を抱え、
そのまま横に転がる。
「違うの……これ、俺のキャラじゃないの……ここまで普段の俺イケイケじゃないの。もっと、こう、スマートに本来は戦えるの。ちゃうんやスラルちゃん……」
「何が違うのよ。完全に本能全開だったじゃない。というかアレ、私抜きでも勝てたんじゃないの?」
たぶん。だけどその場合はもうちょっとクレバーに動き回る必要があるだろう。今の俺にそれはちょい難しい。ドラゴンとしての力を覚醒させると、先ほどみたいに興奮し過ぎてしまうのだ。血が滾って滾ってしょうがなく、何もかもぶち殺したくなってしょうがないのだ。だって解るだろう? こんな世の中で真面目に生きていける訳ないじゃん。
殺して殺して殺して、たくさん殺してスカっとしたい。
そういう普段から抑え込んでいるストレス、抑圧がドラゴン化すると割と抑える気になれないのだ。おかげで無駄に自信過剰、そして残虐性が出てきてしまう。人間になってからは変にそういう欲望を抑え込めるようになった反面、表情やら演技をする事が得意になった気がする。人間は実に賢しいという言葉に相応しい。細かい事が人間になって出来る様になった。
「まぁ、出来るなら制御できるまであんな戦い方はしたくないので次回からスラルちゃんも戦いに参加する方向でお願いします。ついでに割と燃料不足感酷い。燃費悪い」
「ん……解ったわ。じゃ、進む前に補給ね。何か持って来た?」
「持って来たぞー」
体育座りで転がっていると適度にスラルが蹴りを入れて来る。うん、まぁ、これぐらいは気安く接する事の出来るぐらいの仲にはこの100年間で発展した。ナイチサやジル、アベルでは無理な関係だ。俺でもちょっと驚いているかもしれない。まぁ、どうでもいい事か。そう結論し、転がるのを止めて起き上がりつつ、ポーチの中に手を突っ込み、そこに持ち込んだ菓子を取り出す事にした。
既にそれを期待しているスラルがピクニックマットを敷いていた。早いなぁ、と苦笑しつつスラルの対面側に座り、そして取り出すのはちょっと大きな包みに、魔法で冷却してあるお菓子だった。結構カロリーが高いのでこれでも結構エネルギーを補充できる。だって体は女の子だもの。悔しい、びくびく。甘味に調教されてしまう。
まぁ、それはそれとして、ケーキ1ホールサイズの菓子を出した。
「じゃじゃーん、出る前に《桃りんご》を使って作ってきた《うはぁん》です」
「でかしたわ。1000年無給を許すわ」
「給料出せよこいつ」
まぁ、魔王城にある物を勝手に使う許可が出ているので、それが給料だと言えば給料なのだが。ともあれ、《うはぁん》である。なにこの名前? と思う人たちも鯨も神も多いだろう。実際、俺も首を傾げた。
だけどこれ、コラボカフェでメニューがあるのだ。良くランス君がへんでろぱの後はうはぁんだな! と言うぐらいにはお気に入りのデザートである。なのでこのウルちゃん様も《うはぁん》という一つの食文化を生み出す上で非常に苦労した。
一番上にスライスして、分厚い層の桃りんごがある。これはそこまで特別な事はしないのが一番おいしい。超高級果物と呼ばれるだけはある。代替物は桃と林檎をそれぞれスライスし、ジュレにしたりする事で何とか真似る事が出来るのだが、今回はそのまま、肉厚の桃りんごを用意してきた。その下の層はシンプルなバニラアイス、ここは甘すぎないようにやや砂糖控えめにするのがポイント。なんと言っても、桃りんごの果物としての美味しさがやばいからだ。これを食べる為に人を殺せるってレベルで。で、その下がかなり悩みどころではあったが、クッキー層になっている。そしてこれを囲む様なクッキー生地になっており、見た目はタルトに近い仕上がりになっている。
コラボカフェではそれをブロックの様な形状にして出していたが、此方で作成した《うはぁん》はかなりアレンジと創作の入ったものだ《ウル式うはぁん》とでも呼んで良い。ただ、ファンとしてはこれを作れた事実に感無量であった。
「まさかこんな場所でうはぁんが食べられるなんて思いもしなかったわ。あ、切っちゃうわよ?」
「どうぞどうぞ。ここじゃ他に見ている奴もいないし、そのまま手掴みで食べちまおうぜ」
「あ、それも悪くはないわね」
うはぁんと四等分に切って、2:2で分ける。それを手づかみで掴み、そのまま口へと運ぶ。分厚い桃りんごの甘く、そして噛んで溢れ出す果汁、それが口の中で溶けだすバニラアイスと溶け出し、言葉にも出来ない甘さと美味さを満たす。その上でやってくるのがクッキーのサクサク感だ。ただ柔らかく、甘いだけではない。そこにクッキーのサクサク感で違う味わいの楽しみがやってくるのだ。
「あー……幸せ」
「うまうま。今度はパイ生地をクッキーの代わりに使ってみようかなぁ?」
「あ、私も手伝うわ。というか教えて」
「料理技能持ってねぇ奴は引っ込んでろ」
「えー」
この世界の人間、大抵
Lv0ですら保有しない技能がある。
これがつまり致命的に向かないという奴である。
スラルは料理技能をLv0ですら持っていないのだ。つまり壊滅的に向いていない。何故か料理をすれば工程を間違えていないのに、大失敗したりするのだ。ありえない感じで。いや、本当に驚く、ちゃんと監視しているのにまともに成功しないのだ。見てるだけで本当に面白いけど被害が酷いので厨房からは俺から出禁にした。
その時のスラルは出禁の1号ガルティアに肩を叩かれてた。スラルよりお前の被害のが大きいの忘れてないからなガルティア。許さんぞガルティア。定期的に使徒を囮に突撃しようとするのはマジで許さんからなガルティア。ケッセルリンクが来たら絶対防衛隊に参加して貰うからな。
あぁ、しかし口の中で桃りんごが蕩けていく。これを創造した神は100点満点くれてやりたい。
「しっかしなんで私には料理技能がないのかしら……大体私が持ってる技能は洗い出せたのにねぇ……?」
「寧ろその年齢で何で真理の一部に片指かけてるんだよおめーってのが俺の感想だけどな。技能レベルとかの概念、目に見えるもんじゃないから普通、理解できる事じゃないぞお前……」
「私のそれはいいのよ。魔王になって益々見えてきたし。それよりも個人的には貴女がどうやってそれだけの知識を得ているかが知りたいわ。んーと、貴女はそれ、【真理】って呼んでいるんだっけ? 時折全知でもあるかのような言動を見せるよね」
「別に全知って訳じゃないさ。基本的な世界に関する真実を知っているだけだよ。仕組みとか、歴史とか、流れとか。スラルちゃんみたいに探したんじゃなくて生まれた時から知ってただけだよ。そう凄い事じゃないさ」
そう、スラルの方が万倍凄いと評価できる。自力で神の存在にたどり着けるのは彼女だけだ。あの魔王ジルでさえ、スラルの遺した文献を必要とした。スラルと言う魔王がいなければそもそも、後世に黄金像による神への謁見なんて事は残されないのだ。だからそれを考えればスラルの方が遥かに凄い。
「所詮、俺は既に生み出されたもの、生み出されるもの。それを先取りして利用しているだけよ。本当の意味で生み出しているものは一つもないさ」
「それでもこの時代にうはぁんを持ち込んだ事に関しては私が絶対に1000年語り継ぐわ。ありがとう、うはぁん、ありがとうスイーツ。これで後2000年生きていけるわ」
「ははは、確かに美味しさに罪はないもんなぁ」
そういう、さばさばと割り切れる所、嫌いじゃない。まぁ、それでも何時かはしなくてはならない別れなのだから。彼女の死を覚悟し、迎え入れなきゃならない。
死ぬと解っている人と仲良くなるのは―――辛いな。
だけど苦しめば、苦しむほど、鯨が喜ぶのだ。
なら今は苦しまなければならない。その未来をランスとクルックーが救うと信じて。そう、あの二人が何とかしてくれる筈だ。だから今は苦しまなくてはならない。苦しんで、苦しみ続けることでしか、自分は―――。
「ウル?」
「ん? あぁ、いつの間にか食べ終わっちゃったな……」
「美味しいからサクサク食べちゃうのよね。今度は紅茶と一緒に食べたいわね。さて、燃料補給は十分かしら?」
んー、と声を零しながら腹の調子を確かめて、首を傾げながらマットから降りて立ち上がる。
「まぁ……六分、って所かなぁ。本気を出したら直ぐにガス欠かな。ちょっと初手から調子に乗り過ぎたかもしれん」
「じゃ、回復しつつ奥に進みましょうか。今の強さで最後とは思えないし。どうせ魔王や人類との闘争を考えた神々の事なんだから、めんどくさい相手が最後に待っているんだろうし、それまでに全力で戦えるように回復しておいて……なんかある?」
「回復用のまんが肉少々。あとは干し肉とかチーズバーとかスコーンとか色々」
「意外とバリエーション豊富ね」
「魔軍用の保存食に考案してた新しいのを厨房から持って来たしな」
まぁ、うはぁん食べた直後に他に何かを食べたいとは思えない。しばらくは省エネで活動しつつ回復に努め、全力戦闘の準備か、と呟く。鬼畜王時代と一緒であればこの先は怪獣ゼゼ、怪獣ダダ、そして怪獣ボボと言う流れだった筈だ。特に最後のは強かった記憶がある。
「ま、魔王と最強種が手を組んでるんだから負ける事はないだろうけど―――」
「けど……?」
「進む前にレベルアップしとくか」
「あー……そう言えば貴女、レベル神ついてたのよね。見た事はないけど」
「うむ。割と真面目にレベルアップし続けていたからね。ふつーにレベル神ついたわ、いつの間にか」
このルドラサウム世界、レベルアップは常にレベル神という神―――というか等級的には天使のが正しいが、それに頼む必要がある。そしてレベル神でダメならレベル屋でレベルアップの儀式を受ける必要がある。だが、有望だと思われたメインプレイヤーにはレベル神が付く。呼び出せばどこでも自由にレベルアップして貰えるというサービスである。
しかもレベルアップに回復サービスをしてくれたり、異性である場合は合計レベルに合わせて服を脱いでくれたりする! 凄い! サービスたっぷり!
もうこの時点で何言ってんだこれ? という感じのアレである。設定の時点で凄い勢いを感じる。君たち若干方向性見失ってない? って言いたくなるレベル神事情。だけど神だからセーフなのだ。なんだお前ら。
ともあれ、今の怪獣ガガは中々の大物。経験値としては中々良いソースであるのに違いはない。これならレベルアップの遅いドラゴン・カラーであれ、魔王であれ、1レベルぐらいは上がったのでは? という考えである。という訳で。
「でろでろー……レベル神様ー出番ですよー。出勤の時間ですよー」
「めっちゃくちゃ適当に呼ぶわね……」
雑に呼んでも職務熱心、その為ちゃんとレベル神はやってきてくれる。
光と共に上からゆっくりとその姿は降りてきた。それは赤い、道化師の様な恰好をしている男の姿だった。ピエロメイク、ジェスターハット完備の
「我、呼びかけに応え参上―――」
マッハ―――第七級神マッハ。それが担当レベル神の名前。道化師の様な恰好をした
最初から、股間を露出して登場した、生粋の裸族である。
「変質者ッ……!」
「スラルちゃんそれ神―――」
言葉が終わるよりも早く、音速で変態的露出に反応してしまったスラルが凄まじい速度で必殺技である《ソリッドブラッド》をマッハの股間に叩き込んだ。あぁ、三超神のアバターがぁ! と叫ぶ前にマッハの表情がみるみる青くなっていき、
「ふふ、刺激的なレディだ……!」
そのまま空から落ちて倒れた。終わった後でスラルも正気に戻ったらしく、はっとした表情で倒れたマッハを見た。そして此方へと視線を外し、目を伏せた。ハイパー兵器で我慢してたものがたぶん、堪えきれなかったのだろう。
「だから俺は言ったんだ。就業規定を変えろって……」
一定レベルに到達したら服を脱ぐって就業規定、変えないからこんな悲劇に繋がるのだ。
最強種と魔王の組み合わせ。そしてマッハーモニット様。まさか三超神の化身が出オチなんて……。
でも、エールちゃんが鯨の化身であんなに楽しそうにやってるんだから、三超神の化身もたぶん、物凄く世界を楽しんでるんだろうなぁ、とは思う。ただし、それを絶対に鯨に伝えない。
忠誠心が余りにも高すぎて、余計な情報を全て完全ブロックしちゃってるのが鯨の成長性の無さの原因でもあるんだよね。叱ってくれる人物がいなかったというか。