―――もう傷は塞がっているものの、顔面は血濡れだった。
「です、とらく、しょぉぉぉ―――ん!!」
右腕で踏み込んでから斧を投擲し、更に一歩踏み出しながら体を捻り、回転する様に更に踏み出し、続けて左の黒腕で斧を投擲した。ドラゴンモードで投擲した全力の斧は一瞬で音速を超過して生物をミンチにするだけの殺意を孕んでいるものの、その直線状に居る八首の黒い大蛇の姿を弾く程度で全力の投擲攻撃は終了した。そしてそれに合わせ、一気に大蛇が、
怪獣・オロチが襲い掛かってきた。
二つの頭が同時に襲い掛かるのを、両手で掴んで止め、三つ首めを足で踏み潰して止め、
そこから入る五連撃を四重の《魔法バリア》と肉体で受け止める。
「がふっ」
四発までバリアで耐えるものの、八頭目の頭突きに体が殴り飛ばされ、そのまま食い殺す為に口を開けて迫ってくる。吹っ飛ばされたことで解放された両腕に新しく斧を生み出し、それを全力で振るう。
「ウル、あたたたたたーっく!」
斧で殴る全力の一撃と怪獣オロチの顔面が衝突し、オロチの顔面が一気に吹っ飛ばされる。その間に回転しながら着地し、ドラゴンクライを放つ。咆哮を放って戦意高揚を促し、萎えそうな戦意を復活させながら活力を全身にみなぎらせ、自分を半バーサーク状態に追い込む。3本目の腕を生やす。それにも斧を持たせ八つ首のオロチ、
聖獣オロチのコピー、レプリカ、或いは怪獣バージョン、第5層の守護者であるそれに対して息を整えながら睨む。半バーサークしつつ、冷静に判断できるのは、単純に相手がそうしなければ勝てない相手だと闘争本能で判断しているだけに過ぎない。ふぅ、ふぅ、と荒く息を吐きつつ傷口が塞がって行く。
「お待たせ、準備いいわよ」
「あいよ」
スラルが魔王としての力を放つ準備が完了した。口からブレスを息と共に僅かに吐き出しつつ、オロチへと向かって一気に加速して接近する。魔王の支援魔法によって軽くリミッターが外れている肉体はそれこそ、ドラゴン時代に匹敵するだけの力を見せている。だが直線的な動きはオロチが八つの首で即座に見抜き、カウンターを用意する。それ故に無色透明、魔力で生み出された足場をスラルが用意した。
それを魔術的暗号で、此方にだけ伝わる様にスラルが教えてくれる。
故に床を蹴り、跳躍し、無数に配置されている空中の透明な足場、それを連続で蹴る様に移動する。首を振るって空間を薙ぎ払うオロチ、そのサイズがサイズであるが故に一つ一つの攻撃がもはや高速道路が鞭のように振るわれてくる、と現代人であれば表現として通じるかもしれない。そういう巨大な姿を相手にしているのだ。
「まだ、まだぁ!」
それを斥力と引力、双方向の力を利用した瞬間的な加速、まだ未完成の瞬間加速用魔法で体がビキビキと音を鳴らすのを無視して加速しつつ、連続で首の連撃を回避する。その合間に飛んでくる《ゼットン》等の最上位魔法をバリアで防ぎつつ、オロチの懐へと飛び込んで行く。
逃げられない攻撃が来ると解っていても接近し、肉体のスペックに任せた脳筋戦術で強く踏み込み、
「ウル、アタ―――ック!」
必殺技を叩き込む。ピンポイントで重力攻撃耐性というものを取得した怪獣オロチは斧も、ハンマーも、《ガンマ・レイ》も《ファミナルス・レイ》による拘束も装甲破壊も一切が通じないものの、純粋な物理的衝撃だけならきっちりと通じてくれる。故に防御を捨てた。全てを筋力へと回し、
「ず、ぁぁぁああ―――!」
怪獣オロチをかち上げた。腕が変な方向へと反動で螺子曲がり、カウンターで血反吐を吐きながら吹き飛ばされるも、オロチを持ち上げて回避不能な空中へと打ち上げるという偉業を成し遂げた。殴り飛ばされながら中指を突き立てて送り出せば、スラルが魔法を一瞬で放った。
「《ソリッドブラッド》」
魔王の魔力をつぎ込み、最速、そして効率的に物質を破壊する為の魔王スラルの必殺技。全力、そして確実に殺す為の殺意が込められた攻撃は《葬り攻撃》とも呼べる―――遠い未来、【血の記憶】となって再現されたその一撃は
それが全盛期の状態で、外す理由もなく放たれた。
そして空中でオロチの首が五つ、消し飛んだ。
「っ、流石神の門番なだけはあるわね……殺しきれなかったわ」
「カバーする」
ポケットからまんが肉を千切り取って飲み込みつつ間に合わない回復を其方に任せ、左腕に回すエネルギーを全て右腕で握る斧へと回し、武器そのものを巨大化させる。
「さっさと! 死ね! クソヘビ! そして早くJAPANとモロッコ作れ!!」
落ちて来るオロチに合わせ極大戦斧を振り回す。残された三つの首の内、二つをそれで斬り飛ばす。残された首が回避し、そして此方を食おうと伸ばしてくる。回避するだけの距離が足りない。武器を消しながら上顎を片腕で、両足で下顎を抑えて、飲み込まれそうなのを抑え込む。
「スラァァァルッ!」
「解ってる、わよ!」
再び《ソリッドブラッド》が放たれた。音速の衝撃がオロチの最後の首を切断し、胴体と切り離す。それで漸く解放された所でオロチの口の中から歩いて、出て来る。
「はぁー……流石に死ぬかと思ったわ……」
溜息を吐きながら怪獣オロチの死体へと背を向け、スラルの方へと回復をかけて貰う為に歩き進みつつ、直感的に飛び上がり、振り返りながら蹴りを叩き込む。それと同じタイミングで首だけになったオロチの頭、その最後のが悪あがきに飛びついてきていた。それを蹴り飛ばし、追撃に《ゼットン》を放ち焼き滅ぼしつつ着地する。
「俺、もう頼まれても絶対に神の扉に挑戦しないからな。絶対だかんな。誰だよこのクソゲー考えたの。神かよ。やっぱ頭おかしいだろアイツら……」
「今回ばかりは賛成ね……回復とバリアを切らさないように維持しつつ解除される支援を解除直後に乗せて、その上で攻撃の準備とか並大抵の苦労じゃないわよ」
スラルの所まで到着した所で疲れから座り込む。そしてそのまま、横に倒れ込む。ドラゴン化を解除しつつ、今度こそ完全にガス欠だと、口の中に千切ったまんが肉を放り込んでむしゃむしゃ食べながら体力の回復に努める。今回はヤバい。マジやばかった。魔王スラルなしではマジで負けてた。重力耐性とかいう超ピンポイント耐性を用意するとか反則にもほどがある。
「ふぅ……流石に一息入れる必要あるかしら?」
「いや、俺が回復したら進もう。もう終わりだし」
傷を治し、それからポーチからうしジャーキー、つまりはビーフジャーキーを取り出して口の中に放り込み、噛み千切って飲み込む。それだけで動ける程度のエネルギーは補給できた。倒れていた状態から立ち上がり、拳を握る。戦うのはちょっと無理だが、それでも歩くだけなら問題ない。その様子を見てスラルがいいの? と聞いてくる。
「もう目と鼻の先なんだからさっさと終わらせようぜ。折角仕立てて貰った一張羅なのに、見てくれよこのぼろぼろ具合。もう捨てなきゃダメだわこれ……」
「あぁ、本当にお疲れ様。今度はぼろぼろにしても良いガルティア辺りを連れてくるわ」
「そうしてくれ、是非是非。もう二度と頼まれても来たくねぇわ」
前衛ソロで怪獣連戦は流石にハードだった。流石にウル様であっても、魔王スラルとタッグ組んで超ぎりぎりのラインだった。特に最後、全く情報になかったオロチの存在が余りにも辛すぎた。まぁ、でも神の番人の怪獣たちは聖獣をモデルにした失敗作、だなんて噂話もあるし、黒オロチの姿を見ればそれも、まぁ、ありえなくもないだろう。それにしても重力耐性だけは絶対に許さないが。
絶対に許さないが。ピンメタはほんと止めろって何度も言ったのに。
ビーフジャーキーを新しく取り出して、それをもっちゃもっちゃ口の中で噛みつつ、立ち上がった状態でほら、と首をくいっと動かした。先ほどまでオロチがいた場所、その背後には巨大な扉が存在していた。最終層へと向かう為の扉だ。これ以上戦闘があるようであるならば、無理ゲーだから死ね、運営。つまりプランナーは死ねとしか言えない。
プランナー君ほんとその脳味噌取り換えた方がいいと思う。
それはさておき、
「……いよいよね」
「叶えて貰う願いは決めたか? まだならちゃんと考えて叶えて貰うと良いぞ。たぶん1度しか叶えて貰えないからな、ケチな連中め」
「寧ろ神が1度は叶えてくれるというのが凄いんじゃないかしら」
どうせバランスなんて最初から崩壊しているんだし。プランナーの無駄に破滅させようとバランスを取る方向性、アレ、完全に趣味が入っていると思う。それを指摘した所でアレが治るとは欠片も思ってはいないが。
満身創痍、スラルはやや魔力不足と知恵熱。そんな状態を引きずりながら二人で巨大扉へと近づく。守護者を討伐した事で扉は自動的に開き、そのまま、内側へと通す事を許してくれる。その先は光に包まれており、何も見えない。故にスラルと互いの顔を一度確認してから頷き、
そして扉を抜けた。
一瞬の光と転移の浮遊感。それを感じてから目を開けば、景色は一変していた。
これまでは余りにも広大な空間を彷徨っていた。今回のそれはその逆で、今までと比べれば小さいとも、狭いとも表現できる空間になっている。
背景は流星が時折流れて行くのが見える宇宙の星々の世界。そこに浮かぶ、少し大きめの岩の足場。その上に入ってきた扉以外に、4つの扉が並べられていた。
試練は終わった。
これによって神の扉へと、本当の意味で到達した。
「扉が……4つ?」
「ハーモニット、プランナー、ローベン・パーン……とあの子の扉か」
何故だか、全ての扉の区別がつく。どれがどれか、どれがどの神に繋がっているのか。なんとなくではあるものの、見ればそれが解った。あぁ、いや、これは違うな。囁かれているのだ。聞こえるのだ、話し声が。ここにいるってのがそれで解ってしまう。だから入り口の扉、その端を背中に当てて、ゆっくりと大地に座り込んだ。
疲れた……凄く、疲れた。
「……ウル? 大丈夫なの?」
「ちょっと疲れただけだからそこまで心配しなくても大丈夫だよ」
スラルの不安そうな表情を安心させるように呟きつつも、息を吐いた。4つ存在する扉の内の一つ、それを見つめ、指さす。
「アレだ。アレを潜れ。三超神・プランナー。アレだけがお前の願いを叶えてくれる」
「……大丈夫なの?」
「プランナーは―――」
「いや、そっちじゃなくて、貴女の方よ」
スラルが此方を見ながら両手を腰に当て、溜息を吐く。
「友達が原因不明の病で再起不能とか、私嫌よ?」
「―――」
スラルが何気なく放った言葉が、物凄く、心に突き刺さった。あぁ、成程、確かにこういう関係はそう言うのか。あー……考えてはいなかった。だけどそうなってしまうのか。これは困った。
ちょっと、辛い。
嘘だ。
かなり辛い。
物凄く、物凄く辛い。半端なく辛い。あぁ、駄目だ、心が痛い。泣きそう。そんな軽率に友達だなんて呼ばないでくれよ、お願いだから。喜ぶのは俺じゃなくて鯨の方なのだから。あぁ、困った、本当に困った。死ねたら楽だと思うぐらいに苦しい。
「あー……貧血で眠くてちょっと頭がぐわんぐわんするだけだよ」
「それ、軽く重症じゃない」
「元はドラゴンだからこれぐらいは平気だよ。ただファッキンゴッズのオーラに、流石にこの状態で耐えられそうにねぇわ。スラルちゃんだけ、願いを叶えて貰うと良いよ」
果たして、俺は笑えているのだろうか? ちゃんと、スラルを送り出す事を出来ているのだろうか? 彼女を、恐怖の中で自滅するという地獄へとちゃんと送り出せているのだろうか……。
「そ……ま、貴女がそう言うのなら私はそれでいいわ。えーと、プランナーだったわよね?」
「あぁ、そうそう。その扉だ。頑張れ、スラル。頑張って」
「ん、それじゃあまた後でね」
じゃあ、一時的にばいばい。手を振って、スラルを見送り、彼女がプランナーの声と気配のする扉へと進むのを眺めていると―――スラルが、足を止めた。そして此方へと振り返った。
「あぁ、そうそう。私、何時でも秘密を共有してくれるのを待ってるわよ?」
「うるせぇ、さっさと願いを叶えて来い。じゃないと俺が先に入ってお前にチンコ生やすぞ」
「うわぁ、怖い。じゃ、先に願いを叶えて貰っちゃおう」
くすくす、げらげら。笑って―――なんとか笑ってスラルが扉を抜けるのを見送った。これにより物語は歴史通りに進んだ。シナリオ通りに。《決戦》へと至る為のシナリオ、その進みがまた一つ刻まれた。魔王スラルはその力のなさ、死への恐怖から無敵にしてほしいと願った。
それに与えられたのが《無敵結界》。
後世において魔王、そして魔人にデフォルトで搭載される、メインプレイヤーと魔物からの攻撃を無効化する、文字通りの無敵の結界になる。
だが魔王スラルに与えられたそれは試作段階の不良品。
故にSS歴500年目。
魔王スラルが試作段階だった《無敵結界》の副作用に飲まれて死んだ。つまり、自分の願いに飲まれて死ぬのだ。死への恐怖故に最大の盾を魔王と魔人に残し、魔王スラルは散る。
そしてその最悪のバトンを拾い上げるのが魔王ナイチサである。
「あー……駄目だ、泣きそう」
友達とか不意打ちで言ってくるの、ほんとずるいと思う。だから、こう、それを吹き飛ばす為に色々と酷い気持ちになりたい。だから、こう、
「暇潰しにお話しでもしません? マッハ様」
ハーモニットの扉に寄り掛かる、道化師服姿の七級神の姿を見た。
しかし、
「今回はちゃんと着てるんですね」
「就業規定を早速改革してきた。女性の前で脱ぐのはインモラルだと上司に直訴したのである……!」
「自分にかよ」
お前の上司お前自身じゃねーか。
こうして、後世で人類を苦しめまくる最悪の防具が魔王と魔人の手に渡ってしまった。
まぁ、神様に願って即終わり! という訳にもならないのじゃ。という訳で謁見の裏ターン。