※この作品はR-18です。

ルドラサウム転生異聞録   作:てんぞー

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XXX年 扉の間

 マッハの姿を見て、それで頷いた。

 

「就業規定変わったんだ……」

 

「うむ。サービスのつもりでやっている露出サービスの一環であったが、調べてみればなんと、女性相手には中々不評だったことが発覚したのだ……!」

 

「でしょうね」

 

「男性ユーザーは喜ぶのに何故女性は、と思ったがただ単に雌雄の違いという以上のものがあるのであろうと、レベル大会議で話し合った結果理解するのに至ったのである……」

 

「大会議」

 

 結構、神様界隈ってモダナイズされていない? 先進的というか。いや、まぁ、神様だから未来とか運命を見ちゃえばいいって話なのだが。それにしても軽く神様事情もそれはそれで面白そうだよなぁ、とポケットからジャーキーを引っ張りだしてもっちゃもっちゃと噛む。まんが肉食ってる方が回復力高いのだが、それはそれとしてジャーキーのが味わい深くて好きだという事情がある。

 

「ところでマッハ様、今の俺、レベルどんなもんで?」

 

「む……先ほどの戦いで2レベル上がったな。おめでとう、これでついにレベル90になったぞ。就業規定的にプレゼントとして―――脱ぐか!」

 

「脱がないでください」

 

「む? そうか? では代わりに桃りんごを進呈しよう」

 

「最初からそっち出してください」

 

 神様相手だと下手に出てしまうのは日本人としての本能なのかもしれない、とマッハから桃りんごを受け取りつつ思う。こいつは新しいレシピに挑戦する為に取っておこう。しかし、レベル90にまでついに上がった。コツコツとレベルを上げているのは別に良いのだが、流石にここまで来るとレベルが全く上がらなくなってくる。流石に同レベルの相手を探すのが大変なだけはある。

 

 まぁ、まだ魔王や魔人と戦えばレベルを上げれる分、マシなのだろうが。倒せなくても、戦うだけでも経験値が入るし。最終的に―――レベル250、これが自分の狙う最低限のラインだ。本気の魔王の攻撃に反応し、戦えるレベル。それがレベル250だからだ。ソロで勝つにはその倍必要になってくるが、一人で魔王に勝つ必要なんてどこにもない為、そこは考えない。まだ目標レベルの半分にも到達していない事実にちょっとだけ疲れを感じるが、まだ数千年時間が残されている。

数千年時間が残されている。

 

 ケーちゃんの様に、諦めずにコツコツと力を積み上げて行く事を忘れなければいいのだ。

 

 まぁ、それはそれとして、

 

「マッハ様、マッハ様」

 

「なにかな、脱ぐのかね!?」

 

「いや、脱ぎたいだけでしょマッハ様」

 

 いや、そうじゃなくてね? なんというかね? 俺がここから動かないのにはとても簡単な理由があるのだ。プランナーの扉へとスラルは入っていった。それはいいのだ。たぶん()()()()()()()()()()()()()()()()だろうし。今回、そういう阻む様な意思を一切感じないのだ。だから俺も願おうと思えば願いを叶えて貰える気がする。だけど、なんというか、それよりも、

 

「―――ハーモニット、ルドちゃんが俺ちゃんを呼んでる気がするんだ。どうしよう」

 

 その言葉にハーモニットの扉に寄り掛かるマッハ様はさて、と首を傾げる。

 

「我輩はただの第七級神マッハである。ハーモニット様ではない。会いたいのであれば扉を潜れば良かろう?」

 

「はは、こやつめ」

 

 ハーモニットとして話したいのであれば扉を潜って会いに来い、という話らしい。ここら辺、本当にルールに対して誠実だな、と思う。或いは三超神でそういうルールがあるのかもしれない。扉を潜らない限りは、三超神としての姿では現れない事を。だとすればマッハもあくまでマッハとして来ているのだろうか? それとも化身という抜け穴を利用して監視しているのだろうか?

 

 どちらにしろ、

 

「なんで俺を殺さないんだろう。プランナー辺りはバランス崩壊の元として殺そうとするだろうと思ったのに。割と真面目に」

 

 ハーモニットとして相対してくれないので、マッハに対して言葉を放てば、ふむむ、とマッハが顎に指をやった。

 

「何やらプランナーにも思惑があるのではないかな? 我輩にはとてもだがプランナーの思惑が解らぬが、それでも中立を常に保つ事を良しとしているのが奴である。奴はその中立性を絶対に破らぬことで三超神の中では一番信頼できる」

 

「つまり俺がルドちゃんの遊びを提供する上で絶妙なバランスを提供しているって事か」

 

「創造主のその呼び方止めぬか? 我輩の心臓に超悪い」

 

 マッハが胸を押さえているが、えー、と声を零す。

 

「ハーモニットパパに言われたのなら止めても良いけどマッハーモニットならダメかな!」

 

「パパ」

 

「ほら、ハーモニットってカラーを創造した存在じゃん? となると実質的にパパ。パパー、お小遣い頂戴」

 

 自分がヒューマン・カラーにコンバートされている事実を込みでも、再創造されているのだからそう言う意味ではパパだ。もしくはママだ。ハーモニットは俺のママでありパパである。つまりあしゅら男爵なのではないのだろうか……?

 

 マッハの姿を見て、道化師の恰好に納得する。

 

「あしゅら男爵……!」

 

「お前は何を言っているのだ」

 

 はぁ、と息を吐く。やっぱり面白い。マッハは最高神の一角、その化身として出てきている。おそらくはメインプレイヤーを一番よく知る為に、知れる場所に来ている。だからこそプランナーに神々が強過ぎないか? と意見を出す事の出来た唯一の神である。プランナーはそれをガン無視したけど。こいつが、あの糞神サークルの中で唯一まともとも言える神様なのだ。根本でルドラサウムを信仰している狂信者である事実に一切の代わりはないが。

 

「ところでマッハ様」

 

「なんであるかな」

 

 これを口にするか、聞くのか、物凄い、物凄い悩んだ。だけど―――だけど、それを俺は、口にするだけの勇気がなかった。恐らくは合っている。自分頑張っての考えが恐らくは的中している事が、解っている。だけどそれを真実にする事が恐ろしかった。考えたくなかった。あそこまでやって、そしてこうやってここまでやって来てしまって、知っている人を地獄にまで送り届けて、それで考えている事が的中しているなんて考えたくなかった。

 

 だから、あぁ、と呟く。

 

「憎い……ルドちゃんが心の底から憎い。なんで、なんで俺はこんなに苦しまなければならないんだ。俺が何をしたんだ。いや、理由なんていらないか。でも楽になりたい。楽になりたいのに……」

 

 息を吐いて、どうしようもなく、表情を緩めてしまった。

 

「憎いぐらいに―――ルドちゃんを愛してもいる」

 

 はぁ、と溜息を吐いた。マッハが無言で扉に寄り掛かったまま、話を聞いてくれる。丁度良い話相手だった。誰も俺の事は理解出来ない。少なくともメインプレイヤーでは。自分の愚痴を、狂気の言葉の意味を本当に理解できるのは賢者か、或いは神々しかいないのだ。だから黙って聞いてくれるマッハの存在には感謝している。中身がハーモニットだから、俺という存在を全て知った上で聞いてくれている。

 

「ルドちゃん自体に善や悪って概念はないんだと俺は思うんだよ。あの子はね、たぶん幼いだけなんだ。創造神として生まれたのは良いんだ。だけど誰もルドちゃんを導かなかったんだ。誰も、もっと面白いものがあるって教えてあげなかったんだ。誰も、それを教えられなかったんだ……クルックー・モフス以外には」

 

 大いなる偉業だと思う。

 

 誰もがそれを認めよう。

 

「そう、ルドちゃんは愛を知らないだけなんだ」

 

 ルドラサウムは愛を知らない鯨である。故に成長を知らない。母を知らない。父も知らない。ルドラサウムという神は、一番最初に生まれて来てしまった。それが故に、導かれる事がない。知らないのだ、善と悪という概念を。或いはルドラサウムが正しいと決めれば、それが正義なのかもしれない。だけどすでにメインプレイヤーの中で苦しい事、楽しい事、嬉しい事が理解されている。

 

 それを眺める事しかルドラサウムは知らない。

 

「あの子はね、たぶん積み木を崩す事しか知らないんだ」

 

 勿体ないと思う。

 

「積み上げて、積み上げて、そして崩す。時間をかけて積み上げた物が壊れる瞬間には一種の美しさがある。それは俺も認めるよ。だけどね、それを更に広げたり、それを舞台に演じて遊んだり、出来る事はもっとたくさんある筈なんだ。誰も、それを教えてあげない。誰も、それを知らせてあげない……誰も、それを気付かせてあげない」

 

「ならそれをやればいいのでは?」

 

 マッハの言葉に頭を横に振りながら苦笑した。

 

「あぁ、それを俺が出来たらどれだけ素敵だったんだろうなぁ。うん、母親か。まぁ、悪くはないのかもしれない」

 

 何時かはそんな時が来るのかもしれない。だけど、

 

「今は無理だな」

 

「何故?」

 

「俺の魂が男のままだからだよ」

 

 どんなに興奮しても発情しないのは、自分の魂が男のものだからだ。根本的な部分で男だから、女の体でしか興奮する事が出来ないのだ。だから無理だと思う。俺にルドラサウムに愛を教える事は出来ない。俺は女ですらない。男の魂の入った、女の肉だ。

 

「もし、ルドちゃんにちゃんと愛を教えられる人物がいるとすれば……それは愛を知らず、或いは裏切られ、それでも正しい愛の素晴らしさを知る、身も心も女性で……そして、何があっても、我が子を愛せる強さを持った人物だけかな」

 

 あぁ、俺にはどう足掻いても無理だ。そんな強さが逆立ちしても出てこない。現実逃避に現実逃避を重ね、その上で道化を演じる事でなんとか自分の頭を繋いでいるのだ。偉業というのは、誰かが成し遂げられるが、誰もが成し遂げられる訳じゃない。だからこそ偉業と呼ばれるのだ。

 

 クルックー・モフスの愛は本物だったのだ。

 

 彼女はエールだけではなく、ルドラサウムの前で我が子と言えたのだ。

 

 彼女は本気でランスを、その子エールを、そしてそれを通してルドラサウムを愛する事が出来たのだ。

 

 ……凄い、としか言葉が出てこない。男である俺には解らない感覚だ。或いは俺も女になるかもしれない。だけどまだ、俺の魂は男だ。女の快楽を知らなければ、女の感覚も解らない。解りやすい様にそういうアクションを取っているだけの、見た目だけの女だ。肉体と魂で不協和音を奏でている。

 

 だから俺にはやり方が解っていても、絶対に真似する事は出来ない。攻略法を知っているからと言って出来る様な事じゃない。それは、この無駄な才能の塊である自分が保証する。そして、それは恐らくファンの誰もが保証してくれると思う。

 

 この世界は全て、か細い糸の上で成り立っているのだ。

 

 ランスが生まれる未来まで何とか繋がり、そこからも僅かな可能性を辿って魔人討伐隊でケイブリスに勝利し―――そしてエールの産まれる未来に繋がるのだ。

 

 その全ての流れを、知っているからこそ変えられない。邪魔する事も出来ない。尊敬し、尊重し、そしてだからこそ解る。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事実を。

 

 俺さえ死ねば全てがシナリオ通りに回る。

 

 か細い糸ではある―――だがそれを彼らは駆け抜ける。そして到達するのだ、ルドラサウムが悲鳴と苦痛だけではない、もっと楽しい事があるというのを知る未来に。

 

 頬を撫でる風。

 

 湖に浸かる足に感じる冷たさ。

 

 口の中で広がる果汁の甘さ。

 

 誰かと手を繋いだ時の手の暖かさ。

 

 少し前まで一緒に笑っていたのに、一人になった時の寂しさ。

 

 誰かと一緒に闇の中を歩く心強さ。

 

 先行き不明な明日へと向かって足を進める楽しさ。

 

「ルドちゃんはさぁ、それを知らないんだよなぁ……」

 

 勿体ないよなぁ、と思う。前世の俺はただの社会人だった。だがふと、狂気から素面に戻った時、ドラゴンだった時―――翼を広げ、世界の風を感じたのだ。

 

 とても美しい、そして雄大な景色だった。社会の、法からの束縛から解放され、自由に……ただ、自由に空を飛んだ。それが言葉では表現できない程に楽しく、そして心が躍った。ルドラサウムはそれを知らないのだ。

 

「お前ら三超神は化身になってちょくちょく楽しんでる癖になぁ」

 

「異議ありである」

 

「ウル様時空なので神より強いので却下です」

 

「むぅ……!」

 

 ほら、そういう所だよ。それをルドラサウムに伝えない辺りがクソだって言っているのだ。ルドラサウムの為を想って、根本的に一切何も本当に為になる事が出来ていない。だからこそ三超神でありながらクソ無能だって話になるのだ。

 

「だから、まぁ―――俺は死にたい」

 

 死にたい―――凄く、死にたい。

 

 綺麗に死にたい。

 

 後を残さずに死にたい。

 

 綺麗に。悲しまれるかもしれないだろう。だがそれは一時の悲しみだ。禍根は残さない。そういう風に私は……死にたい。死にたい、ただひたすらに死にたい。死ねたらいいのに死ねない。死のうとは出来ない。それは恥になるだろう、心配してくれる人の。だから狂人を装って死地に飛び込むぐらいしか出来ない。なのに死ねない。

 

 苦しんでいるのに、死ねない。

 

 この世が地獄だった。

 

「あー……ここまで来れば消えろイレギュラー! って消してくれるもんだと思ったのになぁ」

 

「本当にそれでいいのか?」

 

 その言葉を前に、マッハが放ってきていた。

 

()()()()()()()()()()?」

 

「……」

 

「お前の、心が求める願いは、本当に、それでいいのか―――?」

 

「―――」

 

 マッハの言葉に―――否、ハーモニットの言葉に、答えられずに。言葉を失った。本当はどうしたいのか? そんなの決まっている。だけどそれをステージに乗る覚悟のない俺が口に出す事は出来ない。何かをすればいいのに、それに手出しすらできない臆病者に、死にたがりにその願いを口に出す事は出来なかった。

 

 死にたくない……助けたい、楽しく生きたい。

 

 そんな願い、口には絶対、出来なかった。出来る筈もなかった。

 

「偽る必要はないぞ、プレイヤー。誰もが愉しみを抱えている。願いを抱えている」

 

 叶えたいのであれば、とマッハの口が開く。

 

「いつでも、会いに来ると良い。私はプランナーと違って()()()()()()()ぞ」

 

 唇を歪めて、マッハの姿を借りて喋るハーモニットの姿を見て、味のしなくなったビーフジャーキーを飲み込みながら中指を突き立てた。

 

「お前らほんと全員死ね」

 

 Fuck you、お前らの方が遥かに悪魔だと教えてやれば、その言葉にマッハが爆笑した。あぁ、こいつら、ほんと全員死なないかなぁ……。




 第七級神マッハ。三超神の中で一番位階の低い化身であり、それ故に唯一生身でメインプレイヤーと継続的に接触出来ている化身。またハーモニット自身がカラーの創造主である。

 神々の中での一番の楽天家らしい……マッハ見てればせやな! って感じである。

 何をしなくても世界が救われるという絶望。そして何かをすれば世界が救われなくなってしまうという絶望。未来を知るという事は一つ、どうしようもない事実を突きつける。
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