※この作品はR-18です。

ルドラサウム転生異聞録   作:てんぞー

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210年 竜王の頂

「未来の知識と世界の仕組みを理解する、か……凄まじいものを知っていたのだな」

 

「うん……」

 

 場所は改めて翔竜山頂上、そこにマギーホアと挟む様にちゃぶ台を設置しつつ、対面するよう座っている。その周りには今、この翔竜山に集まっている残りのドラゴン達が集まっている。その数だけでも20を超え、咆哮を聞いた各地のドラゴン達がそれでもまだ集まっているという状況だった。生き残っているドラゴンは全部で100以下らしい。だがそれでも全てがエンジェルナイトとの戦いを生き残った猛者揃い。レベルもそうだが、経験そのものが違う。600年近く魔人級のエンジェルナイトと戦い続けてきた怪物と表現できる、ドラゴン軍団だった。

 

 それが集まりつつあった。自分を助けてくれる為に。その事が心強いし、恐ろしかった。自分が知らない歴史を今、進んでいる。その事実が怖いのだ。

 

「安心すると良い、ここにいるのは味方だ。誰も傷つけたりはしない」

 

「うん、解ってるんだ王様。だけど、それでも自分の知らない流れを作るのが怖くて……」

 

「おい、アレ誰だよ」

 

「見て解らないか? 俺にも同一人物か解らなくなってきたぜ……ふふふ、怖くなってきた」

 

「でも良くね? がつがつサバサバしたドラゴン系よりも、こう、守ってあげたくなる系とか……お前は良い! 巣で卵を守っていろ! 前には俺が出るぜ……! ……こういうの良くね? 良くね?」

 

 いえー、という言葉と共にドラゴンの間でハイタッチを決めている。あぁ、うん、なんというかお前ららしいノリだよな、とは思わなくもない。そんなバカなやり取りを聞いていると、少し気が楽になってくる。それで、と周りのドラゴンが一人声をかけて来た。

 

「一体、どうしたんだよ。お前が泣く所なんて想像すら出来なかったけげほおぉ!?」

 

「お前、雌に対してストレートにそんな聞き方をなぁ……」

 

 遠慮のない質問の仕方にノックアウトされている同胞を見て、ちょっとだけ苦笑を零しつつ、えーと、と声を零した。

 

「俺にはね、未来が解るんだ。生まれた時から大体歴史がどうなって、誰がどういう活躍をするのか。その大まかな流れを知っているんだ。それと同時に、この世界がどういう仕組みで動いていて、どういう風に思われて創造されたのか、それを産まれた時から知っていたんだ。俺はこれを【真理】と呼んでいる。そしてこの本来の流れを【正史】と呼んでいる」

 

「精子……! ワンモア!」

 

 馬鹿が一人ノックアウトされた。それを聞いていたマギーホアが成程、と腕を組みながら頷いた。

 

「つまり生まれた瞬間からドラゴンがエンジェルナイトによって滅亡するという事実を知ってしまったのか」

 

 その言葉に申し訳なさそうに頷くと、マギーホアが気にするな、と笑った。

 

「うん、生まれた時に絶望したよ。ドラゴンとして生まれた時点でエンジェルナイトに殺される未来が確定したんだ。魔王アベルが誕生すれば60年でドラゴンの天下は終わる。それだけじゃなくて死んでも救いもない。俺達の魂は元々創造神の一部だから、死んだ所で悪趣味なルールを構築した神様の一部に戻るだけだからね。だから死んでもまた生まれ直すだけ。新しく全部忘れて、神様の趣味で苦しむ為に」

 

「趣味悪いなぁ……」

 

「まぁ、俺達基本的に不老だし死ななきゃいいだけだろ」

 

「せやな」

 

 ノリがほんと、軽い。世界の真実に関する一部を公開したつもりだったのに、ドラゴン連中の大半はまぁ、どうにかなるじゃろ、なんて物凄い軽いノリだった。凄い連中だった。自分なんかとは違って。明るく、楽しそうで、そして絶望なんてしていない、本当に凄い連中だった。こういう連中の同胞として生まれる事が出来て本当に良かったと思う。

 

「だけど最終的には遠い未来で全部、どうにかなるんだ」

 

 そう、ランス君がどうにかしてくれる。

 

「愛を知らない創造神に愛を教えてくれる人が生まれるんだ」

 

 ランスとクルックー、こうなって本当にどれだけ偉大か解る二人である。あの二人がいたからこそ、ルドラサウムは愛という概念を理解するに至った。そしてそこからは絶望を楽しむという色が消えて行く。新しい遊びを知ったルドラサウムはそれに夢中になって、人の世界は存続していくのだ。全人類の救世主、その言葉に相応しいコンビだと思っている。クルックーもこの真実の苦しみを超えて、本当に、本当に良く頑張ったと思う。

 

「少なくとも俺が何もしなければ【正史】の通りに、進むと思ったんだ。俺が何もせず、結果を変えず、何の影響も与えずに、【正史】の主要な出来事をそのままにすればいつかは未来で……って思ってた。そう思えたから俺も、頑張れたんだけどなぁ……」

 

 あぁ、泣きそう。駄目だ、涙が流れてきた。涙腺が緩んでいる。ここ、1100年間頑張ってきたけど、限界に来ている。これだけ良く頑張った方かもしれない。心は確実にもう、堪えきれない程に限界だった。

 

「これを使うと良い」

 

「ありがとうございます王様」

 

 ハンカチをマギーホアから受け取って、それで涙を拭う。それを握ったまま、だけどさ、という声が周りから聞こえた。

 

「ウルちゃんがそうなった、って事は未来が変わったんだよな? というか泣き顔興奮するからこっち見てー」

 

 その言葉に頷いた。そして馬鹿が一人叩き潰された。

 

「聖女の子モンスターであるセラクロラスを通して、未来の俺自身からその未来に到達出来なかった、ってメッセージが来ちゃって……」

 

「未来からメッセージって送れるもんなんだな」

 

「だけど……そっか、それでウルちゃん、心の支えが決壊しちゃったのな」

 

 こくり、と頷いた。強がることが出来ない。狂気も、笑顔も、キャラを作る事が今は出来ないので、素面、と言うよりは本来の素の自分で受け答えしてしまう。だがそれがなぜか、ドラゴンの間では好評な様子で、解せない。まぁ、それはともかく、マギーホアが話を纏める。

 

「今までは未来が救われると信じていたから何とかなっていたが、その希望さえも失って残されたのはこの先の暗黒の歴史と、希望の存在しない未来、その答えを結果から教えられてしまったか。その上で死すらも救いとはならない……成程、絶望するには十分過ぎる理由になるな」

 

「虐めっすかこれ」

 

「生きる事そのものが拷問になってるな……」

 

「何この世界こっわ。誰だよこんなこの世界作ったの」

 

「キチガイだよ」

 

 ドラゴン達がハイタッチを決めて盛り上がっている。君たち、この数百年間でだいぶ楽しい性格に育っていない? 君たちだいぶ脳味噌の螺子緩んでない? 或いはメインプレイヤーの座から降りた影響で緩くなってしまった? まぁ、どちらにしろ、その軽口が今は救いだったので、ちょっとだけ、笑い声を零せた。

 

 それで、と声を零される。

 

「君は―――何をしたいんだ?」

 

 マギーホアの問いが来る。自分が何をしたいのか、その言葉に身を強張らせる。

 

「未来を変えたい……とは、今はちょっと言えません。その……まだ、自分で何かを変えるというのはちょっと……怖いです。あれだけ歴史通りに進めば何とかなるって思ってたのに。それがいきなり崩れて、駄目になって、救いなんてないって……」

 

 だけど、だけどね?

 

「友達……って呼んでくれた人が居るんです。でも彼女……あと300年ぐらいで死ぬんです」

 

「コメントに困る長さ」

 

「彼女、魔王なんですけどね」

 

「更にコメントに困る相手が出て来たぞ!」

 

「だが待て、友の友であるならばそれはもはや他人事ではないのではないか?」

 

「マギーホア様懐広すぎっしょ」

 

 うん、まぁ、コメントに困るよね、と苦笑してしまう。だが魔王のシステムとは本当に邪悪なのだ。そもそも魔王と言うシステムは人類が苦しむ為に構築されたシステムであり、人類と魔軍を強制的に戦わせる為のシステムだ。魔王の血に感染したものは破壊衝動を患い、それによって常に人類と戦う事を強要される。それを拒否すれば魔王に人格が飲まれ、元の人物とはかけ離れた完全なる魔王として止まる事も出来ずに殺戮に入る。スラルはそのぎりぎりのラインを見極めて人類の損耗を阻止しているだけ、英雄とも表現できる。

 

 だがそれは常に人格の消失と血に飲まれる恐怖、そして神に粛清されるかもしれないという恐怖との戦いだ。スラルは常にその恐怖と戦い続けている。彼女は本質的には少女だ。だから魔王という立場、その義務、強制されている虐殺にこの200年間、常に血反吐を吐きながら恐怖している。それを一切表情に見せようとしない辺りが尊敬できる子でもある。

 

「アベルは」

 

「ヒャッハーしてただけです」

 

「ほんとダメトカゲだったなアイツ……」

 

「あ、アベルも一応最強種の魔王だったんだけどね……うん……」

 

「まぁ、奴はどうでもいい」

 

 アベル、どうでもいい扱いをマギーホアからされる。あのトカゲ魔王、余りにもこれ可哀想ではないだろうか? だけどやってきたことを考えると割と当然の対応なのかもしれない。

 

「私は君を助けると決めた―――君が助けを求めるというのであれば、私は全総力を以て助けよう。それが私が君に向ける一方的な友情であり、そして同時に君をちゃんと見れなかった、元王として君の為に出来る事だと思っている」

 

「う、うん」

 

 猫顔の癖にだいぶかっこいいぞ、この王様、と思っていると、後ろからひそひそ話が聞こえて来る。

 

「やばい、卵産ませたい」

 

「解る」

 

「強気だったり元気な子のしおらしい姿良い……良くない? 良くない?」

 

「解る」

 

「《雷神雷光》」

 

 マギーホアがサクッと馬鹿を魔法で始末した。黒焦げドラゴンが完成してしまったな、と思いつつも、マギーホアがだが、と言葉を置いた。

 

「この前提は簡単だ―――ウル・カラー。君が助けたい。動きたい。そう思わなければ何も始まらない」

 

「俺が……」

 

 その言葉にマギーホアが頷く。

 

「君はその動きが未来を変えるかもしれない、と恐れている。だからそれを今は忘れてしまおう。そして心に問いかけるのだ。何をしたいのか。どういう結果が欲しいのか。自分の欲望に素直になるのだ。そしてそこで、心の声を聴くと良い」

 

 目を瞑り、残された腕を胸に当て、数秒ほど考えるが―――答えは驚く程簡単に出てきた。

 

「……スラルちゃんを、助けたいです」

 

 友達と、自分の様などうしようもない人を、狂人を呼んで信頼してくれた魔王の様な少女を……自分は助けたい。

 

 心の底から、そう思った。

 

 その言葉にマギーホアが頷いた。

 

「その言葉が口に出せるなら何も問題はない―――正義は己自身にある。信じよ、ウル。お前の正義はお前にあるのだと。そしてその天秤は誰かに揺らされるものではないと」

 

 マギーホアの言葉に頷く。少しだけ……本当に少しだけ、心が楽になった気分だった。いや、或いは少しだけ救われたのかもしれない。この、底知れない絶望の世界から。僅かに【X】へと至る道が見えたのかもしれない。まだ、無理だ。《無敵結界》を突破できないドラゴンでは虐殺されるだけだ。それでも、彼らの存在は、物凄く、心強かった。

 

「で、ウルちゃん。助けたいって事はなんか、助けるプランあるの?」

 

「……ぱっと思いつく分には幾つか……」

 

「幾つかあるんだ……」

 

「本当に国政に交えられなかった事が悔やまれるなぁ……」

 

 そう嘆かないでほしい。罪悪感を今、物凄い感じまくってるので。それはともかく、知識から魔王スラルを助ける方法を考える。幾つか思いつくものがある。

 

 そもそも、

 

「魔王スラルが死亡しないと次の世代の魔王へとバトンが渡されないので、そのまま世界が詰む可能性あるので、大前提としてスラルちゃんを一度死亡させてから蘇生する手段しか取れません」

 

「死亡前提の救済とかいきなり楽しくなってきたな」

 

 この世界は魔王の代替わりが前提でシナリオが進むのだ。こればかりはどうしようもない。魔王スラルには一度死亡して貰う必要がある。そうしなければ【血の記憶】がナイチサへと移動されないからだ。重要なのはこの後だ。【血の記憶】がナイチサへと移動されてから。恐らくはスラルの魂が解放されてからの話だ。

 

「死者を救う方法で最も簡単な方法は聖女の子モンスターであるウェンリーナーを利用する。彼女であれば1年に一度なら死者を蘇生可能となるよ。だけどこの場合、纏めて【魔王の血】まで蘇生しかねないので取れない手段なのでパス一」

 

「パス一……」

 

 次の手段はその可能性を排除できる。

 

「【法王特典】というAL教の教主のみが利用できる特典が存在する。これを利用すれば死者の蘇生も可能だけど、叶える管轄が神様なので根本的に悪意を混ぜた解釈をして叶える可能性がある他、魔王そのものを復活させて苦しめようとする可能性がある。なのでこれもパス二」

 

「パス二する程手段があるのか……」

 

 うん、実は手段だけは結構あるんだ。選べるかどうかは話が別で。

 

「そもそも対象が魔王であり、魔王と言うシステム自体が三超神によって創造された、創造神の娯楽の為のシステムなので、スラルちゃんを助けるとなると、そのシステムの権限を超えられる存在の助けが必要になってくるので、ただ死後に蘇生させるのではなく、死んだあとシステムの影響を受けない様に蘇生させるという訳なのだ……八級神のウェンリーナーだとちょっとここら辺、厳しいかなぁって」

 

 だから、まぁ、一番確実な手段を考えると、

 

 神々のシステムに対して介入できる存在を此方の味方に回し、その上で蘇生する。これが答えだ。

 

「なので、三超神に匹敵する奴を味方に引き入れます」

 

「ん……?」

 

 えーと、その、荒唐無稽かもしれないので、引かないでね? と前置きをする。この世界で、神々の思惑に乗らず、敵対していて多分()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。これ、自分一人では絶対には無理だった。だがもし、マギーホアが助けてくれるというのであれば、

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()何とかなる方法でもある。

 

「―――悪魔王ラサウムの力を借ります」

 

 これが、俺の考えついた答えだ。

 

「三超神の一部から生まれたラサウムは三超神に準ずる力を持ってるので、これを利用して、魔王の力を確実に次代魔王に移した状態を確認し、スラルの魂を確認した上で悪魔かウェンリーナーの力を借りて蘇生する作戦です」

 

 その言葉に一瞬、沈黙が生まれた。だが自分の知識の範囲で、【血の記憶】からスラルを切除しつつ助ける方法は、これぐらいしか思いつかなかった。悪魔王ラサウムが無理でも、三魔子でもいい。それぐらいの格があれば魔王というシステムから解放した上でどうにかなると思う。

 

 そんな滅茶苦茶な作戦を、ドラゴン達はうん、と頷いた。

 

「やっぱこの滅茶苦茶な作戦、ウル・カラー以外の何者でもねぇなこいつ……」

 

「さっき可愛いかと思ったけどやっぱそんな事ねぇわ。昔のままじゃん」

 

「だけどこれって悪魔に喧嘩売るって事か?」

 

「戦争か?」

 

「また戦争なのか?」

 

「数百年ぶりの戦争って事か!」

 

「戦争だぞ戦争!」

 

「また闘争する事が出来るのか!」

 

 戦いだ。戦えるぞ。怠惰の終わりだ。戦うぞ。戦えるのだ。声が広がり、ドラゴン達の興奮が、熱狂が声に伝わってくる。本当に、馬鹿ばかりだなぁ。こいつら。盛り上がりを見て、恐怖を感じる事もなく、楽しそうに悪魔との戦争を口にするドラゴン達には呆れるしかなかった。

 

「もしかして交渉でどうにか……」

 

「悪魔だぞ?」

 

「ないよね……」

 

 うん、まぁ、なんとなくだがそんな気はしていた。ほんと、馬鹿な奴しかいないなぁ。そう思うのに、なぜか涙が流れそうになる。それを見て、マギーホアが微笑んだ。

 

「見ろ、ウル。お前は孤独ではない。その苦しみはきっと、見えてしまう君にしか解らないかもしれない。だがその痛みを和らげる手伝いなら我々にも出来る。頼って良かっただろう?」

 

「こんなんでも最後の雌だしな!」

 

「良い雄アピールはしたい!」

 

「僕はカミーラちゃん派ですっ!」

 

「は? 何言ってんのこいつ?」

 

 乱闘が始まる。それでも馬鹿々々しく、どこかで見た事のある景色だけ、涙を流しながら、ちょっと、笑ってしまった。あぁ―――確かに、未来を変えるのは怖い。今でも何かを変えるのは怖い。だけど終わってしまった後でこっそりと救うだけなら、

 

 俺にも……出来るかもしれない。

 

 だから……最初の一歩。それを踏み出す。

 

 今回だけ。今だけ。ナイチサの時代になって、また踏み出せるかは解らない。だけど、俺を友達と呼んでしまった馬鹿な子を助けたいというのは本当だった。その為にはしばらく魔王城には戻れないだろうし、場合によってはケッセルリンクにも会えないだろうが、

 

 今は、それよりも大事にしたい事があった。

 

 だから―――頑張る。

 

 未来ではなく今を変える為に。

 

「力を、貸してください」

 

「うむ、任せろ」

 

 古き同胞達の熱狂と盛り上がりを見て、そこにまだ希望はある、というのを見出した。




 ウル&マギーホアWithドラゴン軍団vs悪魔の流れ始まるよ。

 未来を変えるのは怖くても、今ある結果を変える為に動きだすという事でウルにドラゴンが合流して遊びだす試み。1週目は究極的に魔軍勢力に対して味方が少なすぎた。なのでそれを改善させられるタイミングとなると……という訳で、

 正気のマギーホア様と、エンジェルナイト相手にガチって生き延びた頭のおかしいドラゴン軍団参戦。

 準備してから悪魔界でパーティ始めるよ。
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