「そしてそれを全部振るい、操り切れる俺が最後のバランスブレイカーって奴だ、ALICEちゃんよ……!」
斧―――否、それは旧設定における表記。真の表記は《槌戦闘》で正しい。《ユグドラシル》を肩に乗せ、バランスブレイカー全種解放を完了した。メインウェポンとなるバランスブレイカーの他にも、使い捨て型バランスブレイカー各種を体のあちらこちらに大量に装着し、隠している。そうやってフルウェポン、或いはフルアーマー、見る者が見れば絶叫しそうな超高級品、使い切りのアイテムを大量に抱えてそれで【三魔子】の一角、レガシオと相対する。
体を鱗が覆い、第三の目が開く。竜の闘気が全身を漲るも、前の様な高揚感はない。静かな力が闘争心と共に沸き上がり、それを理性で御していた。黒腕を左腕に生やしつつ、重力斧を握り、その二斧流でレガシオの巨体を見上げた。
「待たせたな」
「なに、余興だ―――楽しめる方が良いだろう―――!」
そしてレガシオの10の腕には一瞬で、10の神器とも呼べるクラスの武器が揃えられた。《グラム》、《レーヴァテイン》、《エクスカリバー》、まだこの世界で創造されたばかりのバランスブレイカー、或いは創世記から存在している宝物を何個もレガシオは引き抜き、それを一瞬で音速を超過して切りかかってくる。それは回避できる速度を超越しているものの、
「《アクセラレイト》! 《ハイパーモード》!」
セラクロラスの権能、或いは権限。時を司る八級神としての力で時間流を歪めて速度の順序を前後させる。攻撃と回避の順番を入れ替えて、此方の回避がレガシオの攻撃よりも早かったという結果に入れ替えて横に飛び移りながら、《力》を象徴するベゼルアイのバランスブレイカーを発動させる。《ハイパーモード》。未来で発生する《決戦》では一度も使用されなかったベゼルアイの権能。それは、
そして、
「《呪術ブースター》1号、2号、解放! 《物品封印》!」
迷う事無く《呪術ブースター》を2個破壊し、それによってLv3に並ぶ魔力を獲得する。そしてそれでまず間違いなくレガシオに対して一番突き刺さる魔法を放つ。それが突き刺さり、レガシオが新たな財宝を抜き出せない事実に一瞬だけ硬直した瞬間、背後のドラゴン軍団からのブレス総攻撃が地表を薙ぎ払った。凄まじい爆音と破壊はあらゆる生物を蒸発させるも、その中から無傷のレガシオが飛び出してくる。
「はははは! 俺の事を良く調べでもしたか!」
「ただのファンだよ。この世界全ての」
10の腕を振るうレガシオの神速の連続攻撃が振るわれてくる。だがセラクロラスとベゼルアイのバランスブレイカーの同時使用によって、今だけは三魔子クラスに匹敵するだけの力を発揮する事が出来る。それ故に攻撃が見える。迫り来る斬撃の閃を両目で追い、
「戯け、目で追うな。数千を超える戦の経験と血の猛りを感じろ―――生の方へ」
背後からノスの声が聞こえ、目で追うのを止めて、指示通りに動いた。変幻自在に動く10の斬撃、その僅かな合間をこれまた足場関係のない自由な軌道で無を歩いて回避する。そしてそのまま、レガシオの体に蹴りを叩き込む。だが鋼を赤子が殴ったような硬質な感触が足に返ってくる。硬い。余りにも硬過ぎる。普通の攻撃ではどうにかなるような相手でもないらしい。ダメージさえ発生させれば《蒼炎のランタン》でそこから致死性の攻撃を叩き込む事も出来る。
「どうした、通じないぞ?」
「今攻略法を考えてるからお静か―――にっ!」
《ウルアタック》を避けながら両手で連続で放つ。二連偏差超重斬打連撃が放たれる。回避し受け止めた後に放つように狙われる斬撃は受け止めればそれを貫通した10倍の質量へとその存在感を増した《ユグドラシル》の一撃が通る。
それをレガシオが笑いながら、楽しそうに回避した。受け止める、という選択肢を取らなかった。それはちゃんとした剣士という経験からフィードバックされた、才能ではない戦士の動きであった。必殺技を放った此方の硬直を狙って10の斬撃が逃げ場を潰す様に放たれ、
「サードアイ」
ぎろり、と第三の目で睨んだ。そして同時に呪った。呪術。ケッセルリンクから盗んできた術式を無理やり第三の目を核に、それを魔法にコンバートした物を放った。《呪術ブースター》3号が砕け散る。だがそれでレガシオの動きが停止する。
「む―――」
「ウル、あたたたたたたた―――っく!」
バイ・ラ・ウェイよりも早く、更に早く、もっと早く、連続で二連式必殺斬撃を叩き込みながら加速する。それにドラゴンが答える。
「支援はいりまーす」
「がおー」
「二人だけの世界作るの卑怯じゃね?」
二大斧で
流石、本来の物語で描かれる事のない三魔子―――絶対に普通の物語では倒す事の出来ない、超越の一角だった。
「それでも、勝つ」
「良い啖呵だ。良い覇気だ。見せてみろ。まだ盛り上がってきたばかりだ」
神速の二大斧が到達する。正面から轟音と衝撃波を連続させながらレガシオへと向かって飛び込んで行く。それに笑いながらレガシオは迎え討ちながら後ろへと一歩、また一歩下がりながら完全に斬撃を受けて行く。右、左、上、右右左左上下―――至る所から斬撃が襲ってくる。《槌Lv3》という技能は武器を扱い、システム的に必殺を繰り出す為の補助をし、武器の習熟度を上げる為の手伝いをしてくれる。
だがこうやって武器を振るう上で、一番必要なのは―――経験だった。
レガシオが笑い、受け入れる。その絶閃を掻い潜る為に余計な動きを削ぎ落とす必要がある、《槌Lv3》でそれが削ぎ落とされるよりも早く、自分の経験と判断から不要な動きや余計なブレを削減して行く。ドラゴンと言う時代の間に積み上げてきた戦闘手段、そのバランスをここに来て、初めて破壊し、人間の体に最適な動きを構築しつつあった。
それはまるで、師に導かれる様な戦いだった。
だが《アクセラレイト》と《ハイパーモード》で体は動かせば動かせばぼろぼろになっていく。神の権能は神のモノ。元々メインプレイヤーで振るえる様には出来てはいない。故に早く、もっと早く、全神経を尖らせながら加速していく。動きに斥力による反発などを取り込んでいく。瞬間加速。瞬間減速、角度補正。それらを全て、精神力によってコントロールする。
舐めんな。
舐めるなよ。
舐めんじゃねぇぞ。
「こちとら、Lv概念のねぇ努力の世界出身なんだよ……!」
「はははは! 面白い! 肉体、魂、その不一致、だがそれだけじゃないな? 何が混ざっている。何が入っている。何を想っているのか、それを吐き出せウル・カラー」
ざけんな。叫びながら体をズラす。いらねぇ、技能Lv概念がない存在相手だと技能で戦っても判断と補正が遅れるだけだ。そういう概念を捨て去る。斧を自分の筋力、直感、経験、そして戦ってきたコツで握る。そこに最低限、システムとしての補正を加入する事で能力的な後押しとする。そう―――これだ。使われるのではない、使うのだ。この感覚だ。
斬撃が掠める。頬に斬撃が走り、血が舞う。《呪術ブースター》4号、5号、6号、7号破壊。レガシオに近距離から《五重奏ガンマ・レイ》を放つ。五つの最上級魔法が一つに束ねられ、それがレガシオをついに、穿った。その強度設定を間違えているとでも表現出来る肉体を漸く、僅かに焼いた。
それに笑った。
そして剣が輝いた。
《グラム》が闇を纏って荒野を薙ぎ払う。《レーヴァテイン》が炎を纏って荒野を薙ぎ払う。《エクスカリバー》が光を纏って荒野を薙ぎ払う。《七死星剣》が天から星を叩き落してくる。避けられない絶対的な絶望と死がレガシオの宝剣、財宝、握られている10の神器によって一斉に放たれる。文字通り、逃げ場のない必殺技と呼べる領域を超過した攻撃の、連撃に重ねる連撃。神々との戦いに対する攻撃手段。
「一手だけ手を出そう」
横からマギーホアの斬撃が地表を薙ぎ払った。そのステッキにどれだけの力があるんだ? と言いたくなるような斬撃が一瞬で振るわれる神器の軌跡を横から吹き飛ばした。もはやマギーホアの様な領域に立っている存在であれば、レベルや技能、そういうシステム的な概念は数字上のものでしかないのかもしれない。二級神、そういうクラスと戦ってくると数字は飾りと言えるのかもしれない。レベルリセットや時間逆行、自由改変を行うALICE等の一級神の活躍を見れば、それも当然と言えるだろう。
そしてその片鱗をレガシオは得ている。でもそれを使わない。
「頼んだ」
「任せよ。だが勝て」
マギーホアの一撃だけでは潰し切れない攻撃を後ろから飛び込んだグランドドラゴン・ノスが受けた。俺であれば一瞬でミンチになる様な攻撃であっても、ノスは防御力に秀でたドラゴン。その攻撃を受け、攻撃を受けたという事実で更に防御力を甲殻を生やす事で促進させ、強化した。故にそのまま、一撃目ではなく二撃目もその肉体で受け、
「ドラゴンを舐めるな悪魔……!」
二撃目を食いしばって耐えた。
そして三撃目、《グラム》の広範囲斬撃に吹き飛ばされて排除された。マギーホアによって排除された四の撃と合わせて排除されたのは七つ。
「あぁ、お爺ちゃんが!」
「だが奴は俺達の中では最硬」
「そして次に耐えられるのは俺だぜ……?」
カオスドラゴンが後ろから投げ込まれてきた。空から落ちてきた光と地表を薙ぎ払う光をサムズアップで受け止めながら吹き飛ばされてくれた。お前の犠牲は忘れないよ、と笑いながら最後、10個目の斬撃を、正面から経験と技量で支配した、本当のLv3技能の使い方で正面から粉砕し、
左の重力斧を槍へと変えてレガシオへと投げ刺した。
貫通する―――そして《蒼炎のランタン》が不気味に呻いた。
傷口が蒼い炎に燃える。《蒼炎のランタン》、異世界出身の勇者が持ち込んだ遺品の一つ。これを装着して与えたダメージは永遠に消えず、広がらない、傷が塞がる事を防ぐ蒼い炎に燃やされ続ける。異世界出身、存在そのものがバランスブレイカー。この世界を理解してしまい、そして神に消された名も存在も記録にも残らない、Kuku歴の異邦勇者の遺品・バランスブレイカー。
だが、
「まだだ、まだ足りんぞ!」
「化け物め」
新しく腕と斧を作る瞬間を狙ってレガシオが踏み込む。それを最小限の動作で回避する為に横に体をズラし、斬撃が体を掠める。消費されるエネルギーと速度、反動に肉体がぼろぼろになる。背後から放たれるブレスが追撃の斬撃を押し潰し、僅かな時間を作る。
その間に振るわれる斬撃に
「いただきます」
斬撃、それが生み出す剣圧を足場にした。そういうバランスブレイカーがあったから出来たに過ぎない。それを足場に袋に突っ込んでいた《戦桃》を口に咥えた。言葉遊びのバランスブレイカー、つまりは戦闘用の仙桃、だから《戦桃》。戦闘に必要な能力を、最適な状態へと即座に回復させる
そのまま、飲み込んだ。
一瞬で失ったエネルギーと受けた傷が癒えた。だから動いた。1秒1秒に自分の全てを仕上げる様に、鍛える様に、磨き上げる様に、自分の人生でかつてない、全てを注ぎ込んで1対1という状況に、魂を燃やしてでも向き合う。体を熱狂が包む。だが同時に、静かな覚悟が冷静さを掴んでいた。
だから、
宇宙色の空に咆哮を放ちながら動いた。
「お、お、お、ぉ―――ぉぉ……!」
「そう―――それを待っていた……!」
ドラゴンの支援ブレスが放たれる。レガシオの斬撃を相殺するブレスが放たれる。その両方が残され、漸くレガシオと斬撃を振るい合わせる事が出来る。一合一合衝突する度に勝機が削れていく。だがそれでも攻め込んでいく。引けば死ぬ。臆せば死ぬ。故に前に―――前へ。
友達を助けたいという気持ちは本物だから。一歩ずつ、魂そのものを燃やし尽くす様に咆哮しながら踏み込んでいく。無限に軌道を変更する10という異形の腕から生み出される究極の剣術を前に一本の腕と一本の疑似腕、それを神経をスパークさせる程に意識を集中させ、余計な情報をシャットアウトする。
「《フル・アクセラレイト》、《オーバー・ハイパーモード》」
八級神の権限をバランスブレイカーから更に引き出す。限界突破の力を更に引きずり出し、優秀な肉体であっても耐えられないほどの反動が襲い、それを気合と根性で抑え込み、第三の目でレガシオを捉えた。
「良い―――実に良い輝きだ、ウル・カラー。良い目をしている。素晴らしい目だ。己の意思を絶対に通す鋼の如き意思を感じる瞳だ」
レガシオが嬉しそうに、楽しそうに、斬撃を振るい―――徐々にその体に打撃と共に斬撃を発生させ、蒼い炎を刻んでいく。それと同時に受けきれない斬撃が掠め、血に体が濡れていく。《呪術ブースター》の最後を全て解放し、それを支援魔法に全部回した。それで肉体の限界を超えて更に酷使する。
それでも動く。
「斬撃一つ一つを通して魂の鼓動を感じる。攻撃を重ねるたびにその中にある迷いが消え、研磨されて行くのを感じる。長らく誰かと契約をする様な事はなかった」
「うるせぇ―――」
血の混じった唾を吐き出しながらレガシオに接近した。《ユグドラシル》を両手で握り、経験と戦闘で得た技量、言われた事、魂の熱量、覚悟、冷静さ、知識、今までの積み重ねで《槌戦闘Lv3》を完全にコントロールする。必殺技と言う概念を自分の制御に置き、
両手で必殺技を飛び込みながら叩き込む。
「―――俺は、友達の運命を変えに来たんだ」
「ふは」
レガシオが
Lv3という領域はただ、Lv3であれば意味がある訳ではない。
アニスの様に暴走しているだけの者が居る。
逆にミラクルの様に完全に制御する者も居る。
だが伝説だ。その本質は伝説。それを飼いならした男が全歴史上、人間では唯一フレッチャー・モーデルなだけであり、それ以外であれば―――やはり、マギーホアなのだろう。
その片鱗が今、小指の端で掴めた。
「黙って、俺と契約して友達を救うのを手伝えレガシオ」
―――放った。
名前もない、完成されても居ない必殺技―――或いはLv3の奥義が。あらゆる物質の強度、概念、その意味を無視して単純に破壊だけという結果を与える、槌技能とドラゴン技能と魔法技能の合わせ技が。
それと共に《グラム》を除いた9の武器が破壊され、反動で《ユグドラシル》が粉砕された。武器を貫通したダメージがレガシオに突き刺さり、その体を蒼炎で包んだ。それに吹き飛ばされるも、膝をつく事無く両足でレガシオは立ち続け、悪魔の肉体から血を流しながら笑い、宙を見上げた。
「強欲な女だ! だが俺の様な悪魔の中の悪魔に契約を求めるのだ、この程度の強欲さがなくては困る。はははははは―――はははは!」
レガシオが腕を下ろし、ぼろぼろの状態で笑っていた。その姿を見て、柄だけになったバランスブレイカーを投げ捨てた。口から血を吐き出し、血涙を拭った。もはや内臓がぼろぼろだった。それだけじゃなくて、手も足も神経もぼろぼろだ。しばらくは普通に生活する事さえ出来ないだろうなぁ、と思える怪我、激痛の中で、
「俺を助ける事を許すぜ、レガシオ。一緒に三超神が生んだクソみたいなシステムから初の生還者を生み出すのを手伝え」
その言葉に、レガシオは吠える様に笑い声を上げ、
―――承諾した。
悪魔の犠牲者合計459名。
突然のドラゴンによる悪魔界への侵略はただ一つの目的の為に悪魔から譲歩を引き出す為に生み出された、たった一人の同胞の為に捧げられた戦いだった。たった一人を救うために何頭という同胞が倒れ、それでも作戦を続けた。それはある種、狂気と呼べるのかもしれない。
だがドラゴンはただ、昔から変わっていないだけであった。
闘争本能が強く、陽気で、そして馬鹿―――ただひたすらに、自分の人生に馬鹿なだけである。それ故に誰も忘れていなかった。王様がずっと後悔をしていた事を。ずっとどことなく怯えていたドラゴン・カラーの事を。馬鹿だから、忘れられず、ずっと覚えていた。
もはや数は少なくなった同胞。
王が狂ったのであれば、こんな乱痴気騒ぎもなかったであろう。
だが王は国が消えても王であった。故にドラゴンはまだ、臣民だった。そして残された僅かな同胞は、家族の様な者であった。
それだけ―――それだけがドラゴンにとって戦うのに十分すぎる理由であった。
これによりドラゴ・デモニックウォー終結。
最速最短で終結した戦争であり、悪魔に消えないドラゴンに対する恐怖を刻んだ戦争であり、
また、未来に繋がる一つの勢力が、形として形成し始める為の戦争でもあった。
マギーホア様なら横で完勝してるよ。だってマギーホア様だもん。
レガシオはダークランス君にグラムを渡してくれた人。恐らく連中の中で一番話が通じる支配者悪魔。まぁ、メインプレイヤーでバランスブレイカー込みでもこの段階だとまだ勝つのは難しいよなぁ、ってアレ。
とは思いつつ、SS歴ももう終わりですね。
……次回からはNCかな。