ナイチサの治世は人類に対する戦線を押し上げる事もなく、大抵が現状維持という言葉に尽きる。そして魔人や悪魔等を浸透させ、内部から人類を崩壊させるという手段がナイチサのやり方だ。これによって人類が自滅して行く姿をナイチサは何もせずに収穫する。こんな悪辣なやり方をしている。だが逆に言えばナイチサの治世では魔軍による侵略が行われておらず、魔軍のテリトリーが変わっていないという少々奇妙な出来事が起きている。或いはナイチサは知っているのかもしれない。人類に余裕を与えれば、勝手に自分たち同士で争うのだという事を。
だから実は人類圏の広さはSS歴よりも広かったりする。ナイチサが領土侵略に積極的ではないというのも事実の一つなのだが。だがそれだけではなく、人類に土地を残せばそれだけで勝手に人類が苦しむのを知っていた、というのも事実の一つだった。故に人類圏は広く、戦争を行っているのは魔王城周辺地域ばかりになる。つまり向かっているゼス方面は現在、戦争の最前線からは大きく後退した地域だと表現できる。なら戦場から離れている事が国を豊かにするのか?
という問いはNOという言葉が正しいのである。
「ウル様目からビィィィィィ―――ッム!」
目の前から《ガンマ・レイ》を放っているだけである。そうやって目の前の空間をポーズを決めながら薙ぎ払い、そこに居た盗賊の姿を一瞬でミンチに変えて消し飛ばしてやった。跡形もなく消し飛んだ姿を確認してから、額の汗を拭う。
「いやぁ、このウル様が居る前で無辜の村を襲うとはいい度胸してんじゃん? 俺様の目が黒い内は悪い事はさせないぜべいべー」
「我輩、召喚されたと思ったら盾にされたのであるが」
「マッハ様役目でしょ」
「役目」
役目……そう呟きながらマッハが消えていく。やっぱ七級神シールドは強度が高いから信用できるな! と確信した瞬間だった。大体、ハーモニットの化身だからマッハが死んだ所で余り困らないし。たぶん滅茶苦茶嫌な顔をされるけど、マッハが死んだら夢の中でALICEちゃんにレベルアップを頼もう。あ、でも対価に技能レベル取られそう。まぁ、その時はその時である。それはともかく。
「盗賊、これで大丈夫か?」
「あぁ、はい、ありがとうございますカラー様」
「そんな大げさにする必要はねぇって。汝、隣人を愛せよってイエスのおっさんも言ってたからね。困ってたらお互い様って事よ。立川ブラザーズは実に良い事を言う」
「は、はぁ?」
まぁ、この世界にないネタを呟いた所で意味はないか、と呟き苦笑する。カラーの森を出てからゼス方面へと移動する時、一番近くに立ち寄ったゼス内の村だった。まだ、ゼスが存在する訳ではないのだが。ともあれ、ここで食った干し芋が美味しかったのだ。なのでちょっとした親切心を働かせただけだった。盗賊、山賊、強盗被害がナイチサ時代はどうやら多いらしい。ここでなくても近隣でちょくちょく見かけるとの事であった。親切心を軽く働かせたつもりだったが、ナイチサ時代が続く限りはちょっと難しいだろうか、これは?
「まぁ、芋が美味しかったからって思っておいてくれ……ちょっと待ってろ」
黒腕を生み出す。その動作にびくり、と驚かれる。だけどそのまま、両手を結んで軽く術を組む。なにもNC歴に入ってからの300年間、ずっとレベルダウンするのを待っていた訳ではない。ある種、技能というシステムのとっかかりを理解した分、その習熟の仕方が見えてきたのだ。それを利用して魔法開発や改良、研究をこの300年間は送ってきた。
ちょっとずるいかもしれないが《神魔法》の真似事も出来る。なのでちょちょいと腕を組んで魔法を発動させ、
「あー……丁度いい触媒……んー、こいつでいっか」
換金用に持ち歩いているダイヤモンドを一つ取り出して、触媒代わりに魔法を発動させる。浮かび上がる宝石の目の前で手を組んで魔法を発動させ、そこに魔力を注ぎ込んで固定化させる。まぁ、俺じゃあこんなもんか、と呟きながらダイヤモンドを見守っていた村長に投げ渡す。
「え、あの、これは……」
「あんまり強くないけど、悪意のある存在を通さない結界をそれで張る事が出来る。流石にレベル20を超えるとどうしようもないけど、盗賊とか山賊って10代の雑魚ばかりだろう? そういう連中相手だったら問答無用でシャットアウトできるから。俺の魔力じゃ100年が限界だからそれまで、頑張ってくれ。そっからは自分で頑張ってくれ。最後までケツ拭く程俺は優しくないから」
「い! いえ! ここまで良くされてしまってなんと言えば……!」
そんな事別に気にしなくていいのになぁ、と思いながらゴーグルを装着しつつ口を開く。
「俺は単純に翔竜山の麓で隠居してるだけだしな……だけど、まぁ、こんな時代だ」
別に、無条件で誰かに優しくするのもアリなんじゃないか? とは思ったりもする。ナイチサのやり方は陰湿で邪悪だ。ある視点で言えばそれこそジルよりも邪悪だと表現しても良い。人間の悪意と人間を利用した悪意。その大きさを比べるのは難しいからだ。とはいえ、
「こんな時代だからこそ隣人を愛して頑張るのも悪くないだろう? お前らも頑張れよ。辛くなって無理だと思ったら翔竜山に遊びに来な。ドラゴンに向かってウル様の助けを求められるほどの根性があるなら、助けてやってもいいぜ」
アディオス。サムズアップを向けながら斥力跳躍で飛び出し、村を出て行く。ナイチサの時代、人間の心が汚れている―――汚染されている人間を少しは見かける。それでも人間、実はそこまでは悪くないんだぜ? って俺は思いたい。そう思うから村を見かけると、少しだけ、手伝ってしまう。身勝手な行動なのかもしれないが、それでも見てしまった分には体が勝手に動いてしまう。
ちょっと自制しなきゃダメかもしれないなぁ、と思いつつもゼスを南下しながら現状を確認した。
やはり、カラーの王国が建国された事でカラーの地位と権威が高まり、通常の人間の地位が下がっている。辺境にある人間の村とかはあまり干渉されず、放置されている状況が強く、盗賊化した人間の恰好の的となっている。何せ、国家として形成されているのに守備すらないのだ。本当にカラーの事のみを考えた国を構築している様だった。
まぁ、悲願なのかもしれないが、それでも個人的には少々やり過ぎだ、と表現するしかなかった。これでは滅びる為に生み出されたようなものだ。いや、実際カラーはその強権故に国家が人類に滅ぼされるのだが。馬鹿じゃねーの? としか自分は言えない。とはいえ、それをそのまま見ないふりして放置するのも寝覚めが悪い。
何よりも、カラーのコミュニティはハンティがしばらくの間、世話になっていたそうだ。なのにそれをそのまま放置するというのもちょっと、自分には難しい問題だった。俺が根本的にどうこうするという事はないが、それでも救いの手ぐらいは伸ばしてみる気分だった。
まぁ、
冒険を始めて気分が良いというのもある。
「んー……今日はローポニーな気分だな」
リボンをほどいて跳躍しながら後ろ髪を一房にまとめ、ローポニーを蒼いセラクロラスのリボンを使って纏めてしまう。それが風の中に流れて行くのを感じながら、斥力跳躍を連続で使って、長距離移動を滑空して行う。色々と魔法に関しては改良と勉強が進んでいる。その影響で魔法の使用効率は前よりも格段に向上しているし、このペースなら2日程で目的地に到着できるか? という感じがあった。まぁ、ゆっくりとうし車をどこかで捕まえて移動するというのも悪くはないのかもしれない。
冒険という言葉は何時だって興奮と新鮮な未知を用意してくれるだけ、楽しめていた。
そうやって移動し続け、夜になったらキャンプをする。といってもテントなどの道具はないので、近くにある木を寝床にする。木に登って後は魔法で簡易に結界を構築する。
それが終わったら持ち歩いている保存食を使ってディナーを星空を眺めながら楽しむ。光源は夜空の星々と月がある。それで満足できなければ腰のランタンに光を入れて、蒼い光で灯せばいい。そうやって一人の旅を楽しむ。
冒険はそれだけで楽しい。
未知の場所、未知の出会い。新たな出来事。
それを目撃し、経験するという行いが果たしてそれだけ楽しいのか、それを想像するのは経験した事のない者では、少々難しいかもしれない。だが昔から―――つまり生前からこういう類の小旅行というのは趣味の一環だった。趣味、というか好きだった。だからこうやってちびちびとジャーキーを噛みながら木の上で星空を見上げながら夜を迎えるというのも初めての経験ではない。
割と、嫌いじゃない。
そうやって時を過ごして行く事に妙な快感を覚える。元々が放浪癖のあった人間だったので、ある意味こういうフリースタイルが性に合っているという部分もあるのかもしれない。どちらにしろ、平和になったルドラサウム大陸の時代が来れば、それを横断するような冒険に挑戦したくもある、と星空を眺めながら考えたりもする。
そして一夜が明ける。木の上で大きく背伸びし、太陽の光を全身で浴びて起きる。欠伸を漏らしてから顔面に水を魔法で落として、眠気や目やにを落とす。それで軽く口の中もゆすいでしまい、濡れた髪の毛を軽く絞って本日もローポニーな気分。それで髪を縛ったら出かける準備は完了する。強風に備えてゴーグルを装着する。両手のグローブを装着する。勇者王君ちゃんと背負えている? バランスブレイカーの忘れ物なし、
「うっし―――今日も元気に行くか」
ひゃっほぅ、と叫びながら足場を蹴って一気に跳躍し、空高く跳び上がりながら滑空する様に進んで行く。広い空を再び自由に飛べるようになる日はまた来るのだろうか? だがそれはそれとして、バランスブレイカーを使って空を流れて行く、というのも嫌いではなかった。
だから跳躍し、滑空を繰り返しながら将来的にはゼスと呼ばれる大地を通って行く。ここら辺は基本的に暑い。ショートのジャケットやホットパンツ、キャミ系のトップスという露出の多い恰好で出てきたのはこの地域特有の熱の地獄から逃れる為である。或いは、少しずつ、魂の方が女性に近づいているという影響もあるのかもしれない。
どちらにしろ、最近お気に入りの恰好でもあった。
スラルとお揃いの魔王ルックもかっこよくて気合が入っていたのだが、ちょっとダーク系は似合わないかなぁ、という感じもあった。というか貴族系がキャラじゃない。どうせ、派手に暴れるのだからもうちょっと動きやすい、楽な恰好が欲しいのだ。まぁ、人類の技術力と文明力も少しずつ、刻む様に向上しているだけあって、最近は色々と店頭で見る様になってきた。お忍びでどっかの街に行って買い物する時は色々と見れる様になってきた。
だもんで、カラーが築く文化というのも実は、それなりに楽しみにしているのも事実だった。一体どういう感じで文化を発展させているのだろうか? 料理は? そんな事を考えながら大地を駆け抜けて行く。
そして風に乗りながら進んで行く。今頃皆、何をしているのだろうか?なんてことを考えながら。魔王ナイチサも一回、メリークリスマスと叫びながら顔面を殴り飛ばしてみたいなぁ、なんてことを考えている。
まぁ、魔王の面談コンプは人生における一つの目標だったりする。後で自慢できる内容だからだ。何より、自分の目と心で感じ取った魔王という人物を記憶したいというのが、自分の素直な気持ちの一つだった。
「と―――見えてきたな」
カラーの国が。
知識で知っているゼスよりも、木々が多く見える。その中に木製の家などが存在し、城壁等のスタンダードとも言える都市の要素を備えていた。見ている分には普通の都市の様にも思える。高度を落として着地しながら大地を踏めば、弓で武装したカラー・ガードの姿が門の前に見える。いきなり上から落ちる様に着地して登場する姿にカラーが警戒するも、額のクリスタルを見て、そして此方の髪色を見て、驚愕するような表情を浮かべた。
「ま、まさか……」
「ハンティ様同様、前時代の……伝説のカラー―――今すぐ王宮に連絡を!」
「おぉぅ」
警戒はされないが、凄まじい素早さで対応する。名乗り上げたりする前に即座に対応されるもんだから、ちょっと驚く。というか今まであった歓迎よりも遥かに対応が早く、そして、
「ささ、此方へとどうぞ!」
「ご到着をお待ちしておりました!」
ここまで嬉しそうにされるのは初めてだった。俺、何かやったっけ? とカラー・ガードに引っ張り込まれる様に、
カラーの国へと到着した。
旅するカラー、ウルちゃん様。
という訳でカラー王国滞在記。未来でも十分酷いけどこの時代の糞みたいなカラーを眺めて楽しもう!
20年後にはJAPANが生まれるぞ!