「……どうにか無事に落着させる方法はない?」
ハンティの言葉にんー、と唸る。政治家でもなんでもないからなぁ、と呟く。自分に《政治》技能は存在しないからあまり、何かを言えるわけではないのだ。ただ経験からして、カラーが建国している時点で既に手遅れだと思っている。特にアレ、奴隷というのが駄目だ。このゼスの地は呪われていたりするのだろうか? 君ら差別主義を生み出しては滅んで、一旦思想が途切れた筈なのにまた選民思想を生やしてるから土地そのものが壊れている可能性すら出てきた。或いはルドちゃんの仕込みかもしれない。もう、ルドちゃんったら本当にしょうがないなぁ。ここからどうかする……というのに、俺に知識はない。
「ちょっと考えられる援軍呼ぶから数秒待って」
「援軍?」
うん、とハンティの言葉に頷きながら、
「スラルちゃーん、出ておいでー」
「はいはい、呼んだ?」
虚空からにゅるり、と元魔王の悪魔が出現した。肌の色の悪さと角からそれをハンティが即座に悪魔だと見抜くも、どこか、聞き覚えのある名前に首を傾げている。とはいえ、公的には既に死亡扱いではあるし、魔王スラルの姿そのものはほとんど人に見られていない分、ハンティが真実に辿り着く事はないだろう。辿り着かないでください、ほんとお願いします。まぁ、それはそれとして、
「姉さん……悪魔と契約してるの?」
「私が個人的に手を貸してるだけだから心配しなくてもいいわよ、別に。これが噂の妹さん? あんたと違って物凄くまともそうね」
「今俺が物凄くまともじゃないって言わなかった?」
その言葉にスラルとハンティが頷いた。お前まで頷くのは止めてくれよ、と地味にショックを受けつつ、事情をスラルの方へと話してみる。元魔王という魔軍をまとめ上げていた立場から、果たして今のカラーの王国に未来はあるのかどうか、軟着陸させる手段があるのかどうか、それをスラルに質問してみる。それを受けてスラルは腕を組み、そうねぇ、と呟く。
「私が女王だったら軟着陸させる自信あるけど、話に聞く女王じゃ無理じゃないかしら」
「マジか」
「マジよ」
スラルがどこからともなくチョークボードを取り出し、そこに解説を書き込んでいく。いい? と前置きをしながら此方に解る様に話の説明をしていく。
「そもそも第一にカラーって種族が統治や政治に向いていないの。国家を運営するならまず第一に引き継ぎと維持の事を考えないといけない。民あっての国家だからね。だから王族がランダムに消える可能性がある状況で国家運営とかやってられる訳ないじゃないの。だから常に情報の引継ぎの準備と、後継者の用意をしておかなきゃダメ。カラーという種族が天使か悪魔に転生する時に記憶を失う事を考えたら女王だけで何かを抱え込むとか絶対にアウトね」
ワンアウトである。
「その上でまずはナイチサが魔王やってるから他の国に敵対的な態度を取るべきじゃないわね。後武力よりも諜報、防諜に力を入れるべきね。悪魔によって国が乱される可能性があるし、私だったら高い金を払ってそこら辺の対策が出来る人材を……んー……今ならAL教がそこそこいい値段で雇えるかしら? 司祭か司教クラスの人間を雇って侵入対策と洗脳対策をしたいわね。少なくとも何の問題もなく私が出現出来ている時点でアウトだと思うわ」
これでツーアウト。さぁ、カラーの国、いよいよ後がなくなってきました。
「まぁ、その上で差別はダメでしょ。差別と選民による統治は一時的な力になりえるけど、最終的にはアウトプットとして憎しみと反発の方が大きくなるわ。どんなに待遇は良いから、と言い訳しても格差を法律で認めた時点でそれはもうどうしようもない憎しみと怒りに変わるんだから、女性優遇カラー優遇人間差別ってやってる時点でもうダメよ。これさえなければ対策で何とか出来たでしょうけど、国家樹立して既に何年経過してる? その分の怨嗟と憎しみは国を消すまで留まり続けるわよ。私だったら逃げ出して隣国に話を流して、それを言い訳に侵略の材料に使うわね」
「スリーアウト、国家チェンジの時間でございます」
「……まぁ、そうなっちゃうかぁ……」
ハンティは最初から解っていたように、諦めの溜息を吐いた。森の中で大人しく引きこもっていれば良かったのになぁ、としか感想が出てこない。ドライかもしれないが、それでもこれは純粋な自業自得だ。自分で滅びに行くとかあまりにもダイナミックすぎる。解っていた事だろうに、何故誰も止められなかったのだろうか。
「あぁ……何とかするなら滅ぼされる前に自分から国家解体するぐらいしかないと思うわよ。じゃ、私は帰るわね。なんか伝言ある?」
「じゃあケッセルリンクにお前の魔法まだ許してないからな、って」
「ケッセルリンクも未だに恨まれてて大変ね……」
それだけ言葉を残してスラルが消えた。悪魔界経由でまたどっかでのんびりやっているのだろう。あの女、無駄に有能だからノルマだけ達成して後はゆっくり休暇でも取ってそうだ。まぁ、これによっていよいよカラーの王国がマジでどうにもならないという事実が判明し、ハンティが片手を頭に当てて、困った様子をしていた。
「いや、お前がついていてどうしてこんな大ごとになったんだ。お前なら殴り倒して止める事も出来ただろう?」
「いや……生まれた時から知ってると可愛く見えちゃって中々止め時が解らなくなっちゃって。悪ノリする子も結構多くてね……あと何だかんだで能力があるから、実行出来ちゃうんだよ」
「それで失敗する所まで突き進むからダメなんだよ。駄目な奴じゃん」
「うん……」
はぁ、と溜息を吐く。カラーという種族はこれから、調子に乗った結果他国に滅ぼされた上で額のクリスタルの有用性を証明されてしまう。それが原因でカラー狩りが発生し、それでLP歴においてもカラーの大量虐殺なんていうイベントが発生してしまうのだ。根本的に不幸で希少で、そしてハンターに狩られるような種族になってしまった。それで絶滅寸前まで追い込まれてしまったのが闘神都市シリーズの設定だったか? と頭を掻きながら思い出してみる。まぁ、どちらにしろ、
「この国も後100年は保たないな。その場合は悲劇で終わるだろうけど」
だいぶ見えている未来だ。これをどうにかするにはもはや国を解体するぐらいしかない、とスラルは言っていた。何かをされる前に自分から滅ぶぐらいの選択肢だろう。あの幼い女王にその選択肢はちょっと無理かなぁ、とは思わなくもない。
「……駄目そう?」
「……」
ハンティのお願い、という感じの表情にんー、と声を零しつつ、天井を見上げ、ソファに沈み、そして溜息を吐く。
「……しゃーない。今回はお姉ちゃんがどうにかしてやらぁ」
「ありがとう姉さん!」
「あぁ、もう……」
ハンティがテーブルを越えて抱き着いてくる。こいつ、こんなに甘えん坊だっけ? とは思うが、俺が甘やかした原因なのかもしれない。それでも可愛く思えてしまうのは、やっぱり妹というポジションに対して俺がどうも、心を許してしまうからかもしれない。もうちょっと突き放したほうがいいんだろうなぁ、とは思うのだが。それでも優しくしてしまう。罪深い可愛さなのだ、妹というポジションは。
おねーちゃんとして、少し頑張るか、と溜息を吐く。
第一、―――伝説的に考えて大体何をやってもあぁ、うん、ウル様なら納得だ……って納得させられる様なキャラを持っているのは俺ぐらいだ。だからしゃーない、と呟く。
「カラーの王国、今日で滅ぼすか」
「えっ」
「はい! という事で玉座の間にお集まりの皆様! よーく見てろよ!!」
「にゃああ!? 《痛風モルルン》! 《欠食モルルン》! 《墳血モルルン》! 《従属モルルン》! 通じん! 何故通じんのじゃぁ―――!」
「見ての通り、女王は無力だ。呪い対策なんて事前に来るって解ってりゃあ適切な手段を用意しておけばどうにでもなるからな! という訳でこの! ウル様には! 呪いは! 効かないのだぁ! がーっはっはっはっは!」
笑いながら片腕に女王の姿を抱える。その姿を玉座の間に集まった全ての存在が眺めている。そして事情を分かっている連中はいいぞぉ、とガッツポーズを送って止める気が皆無なのを見せ、女王と一緒に調子に乗っていたカラーは止めようと入るが、それを睨んで止める。レベル限界が50以下の連中に負ける理由は今のところはない。第三の目だけを開き、それで睨んで動きを停止させる。
これ以降の歴史、どんな馬鹿なカラーが現れても大丈夫なように、徹底してお仕置きしておく必要があるかもしれないが。
まぁ、やれることだけはやっておこう。
「妾は女王じゃぞ! カラー女王じゃぞ!?」
「女王かもしれない!」
女王を落として、頭の上からティアラを回収、そしてそのまま玉座の前に女王を片足で押さえつけつつ、ティアラを自分の頭に乗せ、そして玉座に座る。
「だが! 今から! 俺が女王だ!!」
「にゃ、にゃにゃ!? にゃあ!?」
「はは、小娘め……俺を国内に入れるとは人生最大の間違いを犯したな……? 前々から好き勝手動かせる国が欲しかったんだよなぁ。そしてワクワクウル様ランド建設したい。目玉はドラゴン世界一周。なんとルドラサウム大陸をドラゴンの背に乗って大陸の端をぐるっと1周するアトラクションだぞ!」
「地味に乗りたいのじゃそれ……」
ドラゴン時代にケーちゃんと一回やったが、滅茶苦茶楽しかった事をここに記録しておく。まぁ、それはそれとして、玉座に足を組んで座りつつ、片肘を肘掛けに乗せて、ふーむ、と呟く。まぁ、悪い気はしない。
それでも玉座フェラ太郎は少々やりすぎじゃないかなぁ、と思う。パットン君、お前ハンティ泣かせたら俺マジでキレるから覚悟しとけよ。マジでな。過去から未来に向けて脅迫しておく。まぁ、それはさておき。
「へーい、文官いるかー」
「はい、此方に女王陛下」
「おー、女王陛下とは良い響きだ」
思わず笑ってしまう。まぁ、王とはどういう存在か、というのはマギーホアを見てよく学んでいる。だからとりあえずは、この国を解体してしまうか、と判断する。
「とりあえずカラー優遇政策はそのままにして人間を奴隷扱いする政策を消せ。その上でカラーの方からも肉体労働する奴を引っ張り出せ、働かせる時は人間と混ぜて。一緒に労働してりゃあその内仲間意識が芽生える。最初は衝突するかもしれないからそこら辺、どうクッションするかは任せる」
「了解しました」
「次。あー……まずは隣国の動きを調べる、忍者はいないのか? 《忍者》技能持ちの奴とか? これだけ派手にやってるんだから恨まれてるだろうし、攻め込まれるタイミングが知りたいから諜報部隊を編成して直ぐに調べてこい。金に関しては好きなだけ使って構わん。この国が消えるまで金が持てばいい」
「命令拝承しました女王陛下」
「次。どさくさに紛れてナイチサの手の者が入り込んでいたり入り込むかもしれないからな。対策取る為にAL教に連絡を入れろ。俺の名前を使えば悪い顔はされないだろうと思うし。そっから《神魔法》技能の高めの奴を連れてこい。こっちも金に関しては渋るな。なるべく解呪や結界とかそういう魔法を得意にしてるやつを引っ張って来い」
「即座に行動に移ります」
「へい、次。首都の物理的な防備はそこまで厚くしなくてもいい。それよか辺境が盗賊被害で苦しめられているから部隊を幾つか編成して討伐に回せ回せー。あー……ハンティ、そこは任せてもいいか?」
「ん、それじゃあ私で使えそうな子を選んで連れて行くね」
「うっし、まずはこんなところか。へーい、誰か資料とか持ってないのー? この国を綺麗に消してどっか、安全な場所へと逃げる為の準備始めるぞ。このままだと周りの国家に囲まれてボコられてカラーが地獄を見るだけだしな」
「そんなの殺せば良かろう!」
「それでナイチサに対する防衛線が崩壊したらどうするんだこの小娘め。このこの」
「にゅわぁ―――!」
玉座の前で元女王の姿を足で軽く転がしつつ、マジでこういうテンプレ的な愚かな王様っていたんだなぁ、というちょっとした感動を抱いていた。まぁ、カラーは同胞に対する同族意識が滅茶苦茶強くて甘い種族だし、そこら辺はしょうがないのかもしれない。まぁ、時折フル・カラーの様な問題児が生まれてきてもどうにも出来ていない以上、根本的にカラーという種族がそういう感じなのかもしれない。
ま、それはさておき、
カラー狩りの被害を減らす為にも、ちょっとした歴史介入のお時間である。ナイチサが予想外に強化されている感じがあるし、未来に備えてペンシルカウの戦力を増強させておくのも悪くはないだろう。なるべく穏便にこの国家を解体、カラー狩りの被害を減らし、同胞を逃がしたりする必要がある。その為の場所も準備しなければならないだろう。駄目だ、全部は俺の頭では回らない。助けてスラルちゃん。
「ま―――鬼畜女王ウル、始めますか」
なんだかんだで今まで愚かな王、君主という存在にエンカウントしてこなかったウル様。漸く無能という存在を正面から見る機会が来た。
忘れがちだけどこの世界、有能な奴よりも無能な奴の方が遥かに多いのだ。完全に総覧と悲劇の火種の為にそういう風に設定されていると思っているけど。
そういう訳で鬼畜女王ウル始まるよ。