「報告します! 西国家から威力偵察部隊が入り込んできました!」
「ハンティを向かわせろ。殺さないようにして国境で全裸に剥いて置いておけ。そうすれば勝手にビビってしばらくは時間が稼げる」
「女王陛下、再び赤字をマークしました!」
「使ってないバランスブレイカーをAL教に売りつけるルートをエマ・カラーに用意させたから、宝物庫から使ってないもんを売り捌け。後10年維持できればそれでいいから。それよりも逃亡先の準備はどうなってる?」
「各地の秘境、森の中に隠れ里を構築中です。現在の作業進行度は8割です。恐らく来年からは少しずつ移動を開始させる事が出来ます」
「良くやった、100万年無税だ」
馬鹿野郎、どれだけさぼってたんだこのクソジャリ。滅茶苦茶忙しいじゃねぇか、と玉座を奪ってから軽く後悔している。簡単に国を取るなんてことを言わなければよかったと心底思っている。やはり俺に国家運営とか無理だな、と思う。国を運営している時間があるなら自分の足で走り回ってそのまま冒険やら悪い奴を殴り飛ばしたいのが事実だ。とはいえ、今の状況でそんな事が出来る人材はいない。ここにいるカラーに《政治》技能持ちが存在しない事が発覚してしまったのだ。
つまり技能システムがないゆえに、技能が存在しなくてもある程度何でも出来る地球出身の自分が政治を担う必要がある。お前らLv0ですら保有していないのってちょっとどうかと思う。でもこの状況で政治の使える奴を外から持ってくる事とかできないし、やれることと言えばやっぱり、カラーを大陸の彼方此方へと避難させる事ぐらいだろう。その為の時間稼ぎをする必要がある。
「ウル様!」
焦りながら飛び込んでくる女官の姿が見える。資料を浮かべて眺めつつ、視線を向けずに応える。
「なんだー」
「ま、魔人! 魔人が目撃されました!」
「……どれ?」
「魔人ガルティアです!」
「あー……」
アレ、ほとんど身内の様な存在だから頼めば帰ってくれるのだが、それじゃあつまらないし癒着を疑われるし、ナイチサも良い顔をしないだろう。となると別の手段を取る必要がある。ガルティアなぁ、と考え、あぁ、そうか、と思いつく。
「アイアン・シェフやるか」
「……はい?」
えーと、と資料から視線を零さずに言葉を続ける。
「料理大会を開け。優勝者にはそうだな、俺が翔竜山で栽培してる《ヒラミレモン》と《桃りんご》を一箱分プレゼントって事で。幻の食材なら餌としては十分過ぎるだろし。それで国内の料理人で自信のある奴を集めて、誰が一番おいしい飯を作れるのか、そのコンテストを開催しろ。見物料を取る代わりに観客はおかわり自由で完成品をジャッジの次に食べられるって事で。これを1日じゃなくて数日規模で繰り広げる様に開催しろ」
「えーと……」
「いいから言うとおりにやれ。それでガルティアが数日美食堪能したら帰ってくれるから。あいつは美味しい飯を求めて放浪しているだけだから、戦う必要はないんだよ。適度に楽しませておけばそれで帰ってくれる」
「あ、はい、了解しました」
「次、なんか別の案件はあるか?」
「いえ、特には」
「よし」
溜息を吐きながら今抱えている案件をサクサクと処理してしまう。国家運営の仕方はスラルを見て覚えている。そして臣民の率い方に関してはマギーホアを見れば大体伝わってくる。見上げた先に居る、絶対的な存在を演出すればいい、それだけだ。その上である程度、個人として部下に当たれる事も証明しなくてはならない。困った様子の部下を見たらそれとなく問題を聞き出して手伝ったり、或いは公と私を分ける部分を見せればいい。
つまり王であり、人間であるというスイッチを切り替えるのだ。これを完璧にこなしていたのがスラルだ。だから立場を超えてガルティアやケッセルリンクという魔人が今でも従っているのだ。あざとい、スラルちゃんマジであざとい。まぁ、そんな笑っている余裕はないのだが。
魔人ザビエル、魔人パイアール、魔人レッドアイ、そして俺の知らない悪魔の魔人。それがナイチサによって追加されている。その上で魔人ガルティア、魔人ケッセルリンク、魔人メガラス、魔人カミーラ、魔人ケイブリス。忘れているのがいなければ、これが今の魔軍の最強戦力になる筈だ。
ガルティア、ケッセルリンク、カミーラ、ケーちゃんはまだいい。パイアールも機械群に関しては機械そのものに関する知識がメタ経由で存在するので俺には通じない。なのでこれもいい。問題は洗脳の出来るレッドアイ、そして純粋に化け物染みた力を持つザビエルだ。レベル90を超えていた藤原石丸でさえザビエルを前には死亡したのだ、その事を考えると戦いたい相手ではない。出てきた場合は焦土戦術で俺とハンティが足止めしつつ今すぐ逃げ出すぐらいしか対策がない。
特にレッドアイがヤバい。洗脳して俺の肉体が乗っ取られでもしたらそれだけで人類が終わる音がする。
あぁ、人類消滅の音―……とかネタで言ってられないヤバさだ。正直、こいつと魔人アイゼルの洗脳行動が行えるコンビは絶対に会いたくない相手だ。アレは割と真面目に対策してても怖い。特にレッドアイに関しては対策が通じるか怪しい、アイツ自身が《魔法Lv3》保有している事実が余りにも恐ろしいのだ。
と、
「余計な事を考えている場合じゃないな」
折角なので玉座で足を組みながら王としての仕事をしている。こうやって王国の運営というものに手を出してみると、そのあまりのめんどくささが良く伝わってくる。こりゃランス君が放り投げるのも当然だな、と思える面倒だった。とはいえ、手を出した手前、手を引っ込める事も出来ない。
頭を掻いてから再び集中する。
国の軟着陸のさせ方―――キャラじゃないのでどーしようもないという事実があるが。それでも引き受けた以上、それを放り投げるような無責任な事は出来ない。どうしてだ、どうしてこうなってしまったのか。大体俺をやる気にさせてしまったスラルちゃんが悪い。全部スラルとかいう奴が悪いんだ。
「普通に座ってるのも飽きたな……」
「ちょっ、女王様!」
「うるせぇ、俺が法だ」
玉座に横になる様に座りながらジャケットを脱いで、ティアラを軽く口に咥える様に噛みつきながら口元の寂しさを拭い、そうやって何かを食べる事を我慢する。最近、食べ過ぎの傾向があるからちょっくらダイエットをするべきかもしれない。どうせこんな王冠、後で破壊するんだから今壊しても問題はない。口から放り投げて足でキャッチし、それを軽く遊んでいると滅茶苦茶下の方から視線を向けられる。
「まぁ、安住の地は確かに悲願かもしれないけどやり方がなぁ……」
資料を確認し、資材や財政をチェック。俺に政治なんか無理だっぺ、と呟きつつもどう動かすべきかを考える。結果から何をどうして、それをタスクとして分割するのが簡単な運営の仕方だっけ? もうちょっとマネージメントの勉強を大学ですりゃあ良かった、とは思わなくもない。でも大学じゃ歴史と社会専攻だったからなぁ、と懐かしさを覚える。
「ま、政治なんざ出来なくても何をやればいいのか、冷静に判断して動かせばいいだけだしな」
面倒ではあるが、難しい話ではない。自分が片付けなくてはいけない面倒事をそれぞれタスクとして出して、その解決策を用意、一緒に処理出来る事は一緒に処理してしまえばいいのだ。ハンティというマップ兵器が此方に居るのだから、戦争というジャンルにおいてまず負ける理由はないのだから、彼女をある程度防衛戦力として使えばしばらくは持つ。問題はナイチサが此方に目を向けてきた場合だ。
ナイチサが動き出したらどうしようもない。
「女王陛下、東国の使者が来てますが」
「降伏か宣戦布告、属国の誘いだったら蹴り返せ。それ以外だったら通す。同盟も必要ねぇ。どうせ利用されるだけだからな。相手が従属するとか言っても蹴り飛ばせ。根本的に今は他国に関わる余裕はない」
「解りました、追い返してきます」
「女王陛下、暴徒を捕らえましたが」
「なんでその判断を俺に聞きに来るんだ……そういう判断はガードのエルメラに一任してる! 何のために作業分割してると思ってんだ! それぞれ専門の奴に割り振って処理しろ! ただし後遺症が残ったりする処罰は禁止な! 憎しみにしかならねぇ! 後人材殺してる余裕もねぇ!」
「し、失礼しました」
カラー連中は根本的に国家運営という経験がない。そりゃそうだ、今まで里単位での経験しかないのに、国家運営経験のないカラーで上層部を固めているのだから、こんな規模の土地を動かすノウハウがないのだ。無論俺もないけど、そこら辺は知恵と知識を総動員してどうにかなっている。これで《政治》技能があれば最適解も解ってくるのだろうが、生憎とそれに引っかかる様な感覚はない。
とはいえ、国家の解体ぐらいなら歴史のクラッシャーウル様として何とかしてみせよう。
「ウル女王陛下!」
「次はなんだよ!!」
「東国が使者が死亡した事を理由に攻め込んできました!」
「追い返す前に死亡してるってなんだよ!! 糞が! そこまで戦争したいってのか! 嘘だろお前! え、そこまで馬鹿なの!? マジで!?」
「マジでございます女王陛下」
「嘘やん……」
両手で顔を覆い、溜息を吐く。
「ちなみに大義名分は選民思想、差別主義を擁する悪の国家を解体する為である……らしいですよ」
「正論過ぎて反論できねぇわ」
「辛いですね」
「真顔で言うんじゃねぇよ」
だが困った。ハンティを出しているからカラーの中で一番強いのが出払っている。いや、所謂【モブユニット】からネームドを探せばよいという判断でもある。実際、レベル限界が60~80のカラーは何人かいる。その内、レベルが58/87のに今はガードの隊長をやらせている。だけど根本的に大規模戦闘経験のある様な連中じゃない。困った事に連中だけでは恐らく、対応しきれないだろう。
ティアラを蹴り上げて、それを掴み、ベルトに通してから立ち上がる。
「仕方がねぇ。俺が動くか」
「陛下、お仕事から逃げてはなりませんぞ」
「いんや、この場合他に任せられる連中が居ないってだけだ。ステラ・カラーに料理大会の事は任せる。俺が居ない間、経済の事に関してネビルって奴がいただろう? あいつに任せろ。見た感じ商才はあったから俺よりも上手く金勘定してくれるはずだ。引き続き警備安全関連はエルメラに。ハンティが予定よりも早く帰ってきたら休ませとけ。あぁ、もぉ、めんどくせぇ。どうにかしようなんて思わなければよかったな……精鋭から50人程度でいいからこっち回せ! 馬鹿を迎え撃って誰に喧嘩を売ったのかを教えてやる」
最近ケツをずっと玉座に下ろしていて体が鈍りそうだったのだ。リハビリついでに国軍とぶつかるのも悪くない。流れ的にカラーの虐殺を回避してしまう分、その分多くの人間をぶち殺しておかないと魂の採算が合わないだろう。
「ただちに精鋭50名を武装させて編成します」
「魔法よりも乱戦に入って生き残れるのに自信のある奴だけ集めろ。周りに囲まれても俺の背中についてきて戦えるって奴だけで良い。俺が一番多く殺せるんだ! って言う馬鹿は出すな。生存力が高く、俺にある程度追いついて行動できる奴だけでいい。いるだろう? 少しぐらいは」
「えぇ、少々お待ちを」
ふぅ、と息を吐きながら玉座から立ち上がり、軽く肩を回しつつ勇者王ハンマーを手にした。まぁ、ここを乗り切ったとしても、反省しない限りはまたなんか悲劇の種が増えるんじゃないかなぁ、と思っているが、今やっているカラーの里を複数に分割してリスクを分散させる事に成功すれば、カラー狩りが始まったとしても、それで地獄を見るのは全体ではなくなる。
一応、過激派は一纏めにしたから、勝手に暴発してカラークリスタルの有用性を世間に証明してくれるだろう、と思っている。というかしてくれなきゃ困る。それである程度カラーが追い込まれないと更に困る。まぁ、そこら辺は時の流れに期待、という所だろう。俺が手伝うのはあくまでもここ、国家を解体するという所までだ。それ以降はマジで、手伝わない。
「女王陛下、出陣の準備が終わりました」
「うーっし! 相手の数はいくつだ?」
「5000程です」
「その程度なら皆殺しだな。偵察は許す。だけど侵略ならぶっ殺しておかないと人類学習しねぇしなぁ……」
まぁ、ここら辺は仕方がない。出血して覚えて貰おうという話だ。歴史に史上最大の愚王として名前が残ってしまいそうだが、まぁ、しゃーない。
「履歴書に元女王って書いてバイトする日が来るかもしれない事を考えるとワクワクしてきたなぁ!」
という訳で、ルドちゃん。
ちょっと国家間戦争してきますね。
鬼畜女王ウル、ただし鬼畜なのは自分の国の状態。
100年間はこれで忙しそうだなぁ、ってアレな感じ。