「ガ! ン! マ! レイッ!」
右腕を突き出した上で薙ぎ払う。放たれた重力属性の破壊光線が地表を薙ぎ払い、その射線上の存在全てを捻じ曲げながら粉砕して殺害する。それによって地表で暴れていた鬼が一掃される。ふぅ、と息を吐きながら地表の穴から這い出てこない鬼の姿を確認する。《ガンマ・レイ》もこの数百年間でだいぶ改良出来た。詠唱に掛かる時間も今では2秒以下にまで短縮できた。その代わりにもう、ほとんど専用レベルにまでカスタマイズされてしまったが。まぁ、自分以外にこんなゲテモノ魔法を使おうとする存在は居ないし、別にいいのだ。
「《火炎流石弾》……ここまで混沌としていたんだね、JAPANってのは」
二級神アマテラスが天満橋をかけてからまだ10年、天満橋の上では交流が始まったばかりの少数の商人などの姿が目撃出来る。だがそれよりもJAPANの方から突撃して来る鬼が問題だった。JAPANから大陸の方へと飛び出してくる姿を思わずハンティと共に薙ぎ払ってしまった。JAPANといえば温泉もあるから適当に掘って楽しもうと思っていたのに、見た感じ、それどころじゃない、という感じがあった。
「地獄と直通したって話は知っていたけど、ここまで鬼が溢れているってのはちょっと初耳だったな……。天満橋周辺のモロッコは温泉地帯だから温泉宿でゆっくりしようと思ってたんだけどなぁ」
ちょっとこれ、滞在するの難しくないか? と天満橋に攻め込んできた鬼を一掃し終わってから呟く。数は少なく40程度の小規模な集団だったが、それでも鬼の体格と能力が集団で襲ってきた場合の事を考えると、確かに普通の人間には脅威になるだろう、と片手で頭を押さえながら呟く。そうやってどうしたもんか、と考えていると此方へと走ってくる袴姿に腰に刀を差した、侍の姿が見える。
「これは大陸の方々、お手を煩わせまことに申し訳ないで御座る! 天満橋は我ら護衛団の受け持ちで御座ったのに……」
「気にしなくていいよ。私らだって目の前で困ってる人が居たら見過ごせるわけじゃないし」
「そーそー。ま、困ったらお互い様って奴だ。これで感謝してるならここで一番いい温泉宿がどこか教えてくれればいいよ。それで許す」
こういう恩は、早めに此方から何らかの要求をしておくと早めに解消できる。要求しない方がこじれるので、ここは軽めの要求をして恩に報いた、と思わせるのが知らない人との関係はスムーズにいく、というのは長い年月での経験だった。それに侍は素早く了承をくれて、温泉宿まで案内される事となった。ちょっとだけ不安だったが、この時代にもちゃんと温泉宿は存在していたらしい。その道中に、ハンティが口を開く。
「鬼の被害ってのは酷いものなのかい?」
「そうで御座るなぁ……拙者は他の地域に行かぬ故、噂話しか聞かぬで御座るが、それで良いのであれば……」
「あぁ、どうぞ」
「うむ。拙者が聞いた話、どうやらJAPAN各地に大穴が発生しているようで、それが原因で鬼がわんさか這い出ているようで御座る。これが物理的に封じてもしばらくすると中級の鬼とかが出現してそれが物理的に封鎖した穴を破壊して出て来るとかで、困っているようで御座る。此方はまだ、大陸の戦士や護衛団があるからマシで御座るが、死国は大穴がある他、大鬼がいるとかで被害が酷いと聞いているで御座るな……」
「結構酷いもんなんだね」
「とはいえ、穴を物理的に塞ぐ事以外に今は特に対策もないで御座る。最近は【天志教】と呼ばれる宗派がなにやら鬼の穴を僅かではあるが一時的に封じる事を可能とした、という話もあるで御座る。これが真実ならJAPANの未来は明るいで御座るなぁ」
「……【天志教】か」
頭の裏をぼりぼりと掻く。
……正史よりも早く出て来たのは俺がレガシオに事前にJAPANの事を伝えてたからか。
おかげで悪魔の初動が早い。AL教を真似て、宗教という形を取る事で信仰を集め、知らない内に魂を搾取するシステムを構築している。となると既に月餅が居るのだろうか? いや、アイツは恐らく藤原石丸が契約する悪魔だから、それまで登場する事はないだろう。となると別の悪魔が今は天志教の指揮を執っているのかもしれない。どちらにしろ、JAPANはこれ、手を出さなくてもどうにかなりそうだ。何でもかんでも手を出そうとしてしまう、暇潰しのネタを探す自分の性格、どうにかしなくてはならないのかもしれない。
まぁ、それはともあれ、侍の案内で温泉宿までやってくる事が出来た。天満橋を超えた向こう側、JAPANでは【モロッコ】と呼ばれる場所である。この地域には多大な期待をしているから、本当に頼んだぞお前。信頼しているからな。マジで。最近、自分の意識が徐々に女に寄りつつあるの自覚しているんだから本当に頼んだぞ。お前がラストホープだからな……?
そうじゃなきゃ本気で神の扉を攻略するハメになる。なお2週目。
そんな事で温泉宿―――というより旅館に滞在する事になった。鬼を片付けたので多少のサービスは入るものの、やはり値段はそれなりのものがあった。とはいえ、カラーの王国を解体する時に余った金は両手で掴み取れる分だけ持ってきたので、それなりの懐の余裕がある。数十年程度の滞在であれば何も問題なく暮らせるだけの余裕があるのは確かだった。数百年は流石に無理だが、というか藤原石丸の活躍が始まる頃にはどっかで大人しくしている予定だった。
ともあれ、折角JAPANに来たのだ、モロッコの件もそうだが、それとは別になるべく楽しみたいのだ。
久しぶりの、何も考えずに遊べる時間である。
「いやっほぉぅ! 温泉であーるぅ!」
体をしっかりと洗ってから手ぬぐいを頭の上に乗せてから足の先からゆっくりと波紋を立てないように温泉の中に入る。水滴が跳ねない様に気を付けつつ、全身を包む温泉のその熱! 自分では普段調整しない様な風呂の温度、この一般的ではない感じがあぁ、温泉に来たよなぁ……って感じが実にする。やはり風呂は良い文明、もっと盛り上がれ。自分の家にも風呂は入っているのだが、魔法とかを使って作った風呂もどきなので、やはり温泉の天然の心地よさには負ける。
「あー……やっぱこれだよ、これ。これが良いんだよ……」
「うーん、そんなに良いものなのかなぁ……」
ハンティが同じように体を洗ってから入ってくる。温泉の中に入り、身を休ませるが、首を軽く捻っている。うーん、やっぱり風呂文化って西洋系にはウケが悪いのだろうか……? 個人的には風呂とか物凄い好き、というか1日1回は風呂に入らないと気が済まないレベルなのだが。なお、風呂がなかった時代は水浴びで済ませていた。
「うーん、確かに温かいのは温まるし、気持ちいいけど体を洗うなら水浴びでも別にいいんじゃない?」
「解ってねぇなぁ……魂が求めてるんだよ……」
「魂が」
解らないかなぁ、と肩までつかり、足を延ばし、額に乗せた手ぬぐいが落ちない様に調整する。湯の中に自分の胸が浮かんでいるのが解る。巨乳ってマジで浮かぶもんなんだなぁ、っとこう見ていると思わされる。感動もあるけど、こうやって女の体というモノを見てると、自分の体にある変化を自覚させられる。
そこに嫌悪感がない辺り、女という生物に少しずつ、感覚が追いついてきているのだろうと思う。昔の様にはしゃがなくなったのは、単純に体に慣れて、そこまでして否定するもんでもないなぁ、と思い始めている部分も実際にはある。段々と男としての自分が削れて行くのを年々感じている。
……いや、或いはそれこそが本当は正しいのだろうと思う。
そもそも男としてではなく雌―――今では女としての命を受けているのだから、だからその本能に従うのが天命なのであろう、とは思っている。
風呂場の縁に背中を当て、そこに片腕を乗せて足を延ばし、体を伸ばしてくつろぐ。仕切りの向こう側にはJAPANに咲く桜の花がその姿を芽吹かせているのが見える。あぁ、もうそんな季節なのか、と思いながらサクラの花びらが風に乗って運ばれてくる。それが水面の上に漂うのを眺めながら、ふと、無言になって湯の暖かさを感じていた。
「姉さん?」
「……ん? ん? どうした?」
「ううん……なんでもないよ」
「そうか? まぁ、なら、いっか」
息を吐きながら静かに湯船に浸かる。生まれがKuku1800年ぐらいだっけ? そっからAVまで200年。そっからAVが700年近く。更にSSが500年。そしてついにNCで400年は経過している。つまり現時点で既に1800歳という訳だ。なんか、頭の悪い小説のキャラクターになったような気分だ、こうやって自分の実年齢を確認すると。良くこの長い間に完全に狂わず、忘れずに世界を歩き続けられるもんだと思う。この世界、意外と思ったよりも狭いのに。
湯の中で浮かぶ自分の胸と肢体を見る。自分の体だ。大体900年間世話になった体だ。もう既にドラゴンであった時代と、人間である時代とも拮抗したころだった。だいぶ、色々と慣れてきたよなぁ、と思う。
髪の手入れとかカミーラに教わった。全くケアとかしていないのを知ったカミーラが軽くキレて、魔王城でトリートの仕方を教えてくれたのが始まりだったような気がする。SSの頃は割りとのんびりとしてたよなぁ、と思う。それ以外にも女の体との付き合い方とか、大体教えてくれたのがカミーラだったりする。
100年間は自分であーだこーだと色々やっていたが、ヒューマン姿のドラゴンであるカミーラがやはり、そういう肉体的な部分では先輩だった。思えばアイツ、そこまでは悪くないんだよなぁ、と思っている。仲良くさえなれれば別段、問題はないのだ。問題があったのは彼女に対する扱いなだけで。
まぁ、そこだけはマギーホアを肯定できない。国家としては必要だったけど。
「女、か」
「どうしたの?」
「いや……こうやって自分の体を見ているとな、それを嫌って程認識されるって話だよ」
「心は男……なんだっけ?」
「そ、心と魂は男だ……男の筈なんだけどな」
揺らいできている。女の裸を見た所で思う様な事はないし、心で勃起するような感じもなくなってきたし。それよりもなんと言うか、愛しさの様なものを感じる。母性かなぁ、とそれを思っていたり。誰もがそのままではいられない、という話でもあるのだろう。最後の希望にモロッコに来たという事もあるのだが、
これでダメなら……今ならすっぱりと元に戻る事を諦められるかもしれない。
とはいえ、依然、不感症というか、発情できない体で今まで一度も性的な興奮を感じた事がないのは事実なのだが。今でもまだ、体で興奮する事が出来ない。魂と肉体の不一致が未だに続いているという話なのだろう。それが一致した時には……やっぱり、女として自分を認められるのだろうか?
恋は……ちょっと難しいかもしれない。そこら辺の異性感覚は抜けない。
だけど愛ならちょっと出来るかなぁ、と思う。そもそもからして、自分より若い世代の連中は皆可愛いし、愛している様なもんだ。
「はぁ……悩まされるけど楽しい日々だ」
呟き、ぶくぶくと口元を沈めて息を吐く。楽しい、本当に楽しい日々だ。苦労している事だって結局は楽しんでいるのだから問題はない。いや、確かに虐殺された時とか、ザビエルダークの時は本気でキレたのも事実だが。それでも国家解体事業、未経験の事で本当に楽しかったと思える。国家を存続させようとした連中は全員パンツ引きずり落としてお尻ぺんぺんしてやったが。
「ふぅー……この先も見た事の無い景色で溢れてればいいんだけどなぁ」
「あー……そっか、未来の事が解るんだっけ?」
「あぁ。おかげで歴史から外れる様に動かなきゃ大体既知だよ」
そこだけがある意味、辛い所だとも言える。とはいえ、経験する事の楽しさもある。見て、感じる事は初めての事ばかりだ。そういう意味では楽しいだろう。
「―――ん?」
え、いや、ちょっと、待て。少し待て。
片手を顔面に抑えて呟く。
「……今、何を考えた?」
言葉にしなかった言葉を繰り返す。思考の中に埋没した言葉を引き上げる。何か、今、何か天意の何かに触れた気がする。俺だけが気付けるこの世界に関する、何かを。今、それを確かに指が掠めたのだ。気付ける筈なのだ。考えろ、
考えろ―――今、何を考えたのかを思い出せ。
「―――」
「姉さん? のぼせちゃった?」
ハンティの声を聴きながら―――、一気に立ち上がった。
納得した。理解した。勢いよく立ち上がり、水を弾き飛ばしながら立ち上がった。残された片腕で顔を掴み、恐らくはほぼ、確実に、理解してしまった。
―――創造神ルドラサウムの心を。
こんなの、誰も予想できないだろ。誰もが予想できない、だからこそ俺にだけ辿り着ける。事前知識、この世界の全てを知った上でないとどうしようもない。こんなの、本当にどうしようもないじゃないか。
あぁ、だけど、理解すると本当に―――言葉を失う。
ルドラサウムが、本当に俺の思う様な存在であるならば、それは、もう、
笑い声と愛しさしか沸き上がってこない。
「は、ははは、ははは―――はっはっはっはっは!」
「ね、姉さん? 大丈夫……?」
ハンティが心配そうな視線を向けて来る。だけどそれを笑い飛ばしながら心配する姿を片腕で引き寄せて、抱き上げて、抱きしめて、笑いながらくるくるとその回る。その様子にハンティが滅茶苦茶困惑するが、やがて足を滑らせて、もみくちゃになりながらそのまま湯船にどぼん、と倒れ込む。笑い声を堪え切れず、笑いながらそのまま空を見上げる様に浮かぶ。
「は、ははは……はは……あー……考えてみればそういう事か……」
ぷかーん、と浮かびながら空を見上げ、笑い声を零す。
「なんだ……ルドちゃんも存外可愛い奴じゃないか……ははは……」
あー……解ってしまった。たぶん答えであろう事が。直感的にそれが真理であると、捉えてしまった。だからこれで正解だ。それが解ってしまうとあの可愛らしくも何も知らない鯨が可愛く見えてしまう。
あー……駄目だ。
あの鯨が可愛く見えてしまった。本当に駄目だ。まだ憎いけど可愛さが先立ってしまう。
「あーあ……仕方がないか」
呟く。ぷかぷか浮かんでいるハンティが抗議のパンチを脇腹に叩き込んできているのを受け止めつつ、呟く。
「鯨も世界も全部愛して―――やるしか、ないかぁ」
まだ一歩。まだ自分には覚悟が足りてない。だけどその一歩を超えたら―――きっと、
未来の為に、自分は歩き出せる。
という訳でついに到着、JAPAN。
あんまりそれぞれのイベント長くやるとランス君の出番までが遠すぎるから、大体一つの地域やイベントはなるべく短く3話前後で終わらせる事を目指してるのよねー。大きなイベントや時代は別として。
ルドちゃんが本当に可愛くて可愛くて、そこら辺に母性出してる主人公。少しずつ女になってきている。