※この作品はR-18です。

ルドラサウム転生異聞録   作:てんぞー

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魔王ナイチサ

 《白色破壊光線》。

 

 それを放った。腕で薙ぎ払う様に、無詠唱で。レベル自体は800年以上も前、レガシオと戦った時よりは下がっている。

 

 だが、研鑽は続けてきた。

 

 スラルを助けてから今に至る時間まで、一度も休む時はなかった。常に鍛錬と研鑽を続ける日常だった。怪我をして動けない日があれば、その時は頭の中で魔法をどう改造するかを考えていた。魔法の術式を一つ一つ解体した。それで一つ一つを観察して、勉強して、それをどういう風に構築しているかを理解するのに時間をかけた。

 

 腐る程時間はあったから。これが絶対にいつか必要になるという事は解っていたから。だから無軌道なトレーニングや、簡単に強くなる方法は見送って、ひたすら自分にある物を育ててきた。Lv3技能がどういう風に使うものなのか、それを理解してからはマギーホアに鍛錬を頼む事だってあった。肉体の駆動の仕方を一から一つ一つ、モーションを確かめる事で試して、それを脳にインプットする。技能による才能補正が無くても、《格闘》を保有する奴と経験と判断で戦えるように、剣を何万回も素振りを繰り返して《剣戦闘》を持つ奴と相対できるように。《弓戦闘》が無くても狙った場所を狙えるようになるまで何千回何万回と同じ行動を繰り返して、才能に振り回されないように、自分の全身全霊を常に放ち続けられる様に何億回も槌を、斧を素振りした。

 

 才能だけでは絶対に勝てない理不尽があると知っているからこそ、強くならなければならなかった。サボるなんてことは出来なかった。レベルダウンしている余裕なんてない。常に上を目指す。強くなり続ける。一年前の自分よりも様々な分野で超越して行く。長寿の種族だからこそ一歩、また一歩強くなっている事を実感する為に少しずつ前に進む。人間の様に飛躍的な進化が行えなくても、時間はある。

 

 その飛躍的な進化さえも超える亀の様な歩みで強くなって行く。

 

 生まれてから2000年の成果。

 

 俺は―――レベルが下がっても、前の俺よりも強いと断言できるように強くなり続けた。

 

 それでも《白色破壊光線》は《無敵結界》に阻まれる前にナイチサの前で消える様に霧散した。属性を変える。

 

「《ゼットン》」

 

 炎の魔法が放射され、一直線にナイチサに向かい―――そして触れる前にその姿を半分まで勢いを落として、残りは魔王のオーラに飲み込まれて消え去った。

 

 破壊された魔王城から落下し、ナイチサと同時に着地しながら、ゴーグルを装着した。それを見てナイチサが、

 

「どうした、その程度か?」

 

 挑発を入れてくる。だがこれで確認が取れた。

 

N()C()()()か……光、そして射撃の類の攻撃を無効化する魔王体質か……」

 

「貴様はそう呼ぶか。となると先代の魔王にも似たようなものがあったのか」

 

 あった。SS体質。魔王スラルとしての体質。()()()()()()()()()()()()()()スラルの肉体的な特徴だ。あらゆる攻撃の被害を半減し、氷属性による攻撃全てがスラルに届く前に消滅する。それと同じようにナイチサのNC体質は簡単だ。光属性を無効化し、射撃に類する攻撃を半減する。つまり数で囲んで遠距離で殴り飛ばす、という戦術がナイチサには通じないのである。それだけで厄介なのだが、俺自身の属性が光属性という点に少々、厄介な部分がある。

 

 つまり()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事実が存在する。なら簡単だ。属性そのものを変えて対処すればいい。光属性を抑え込み、重力の属性を引き出す様に切り替える。体に纏う《斥力障壁》が強化される。《勝利の鍵》の槌部分が破壊される。それと引き換えに圧縮され、歪まされた重力の粒子による槌に変化する。魔力を今回は攻撃に回す事を考えなくていい。射撃、そして光属性がこいつを前に無意味なら、

 

 接近して、ぶち殺すしかない。

 

 ()()()L()v()3()による奥義―――それを叩き込めば勝率0%の状態でも、ワンチャンが生まれる。

 

 全てをそこに賭ける。

 

 故に、

 

 迷う事無く飛び出した。

 

 ナイチサがそれを完全に見切り、

 

「《イニシャライザ》っ……!」

 

 斥力跳躍、引力誘引、バランスブレイカーによる瞬間時間加速、空間を重力で歪めて限定的な距離を縮める。

 

 そうやって正面からナイチサの背後へと踏み込んだ。背中を見せたまま左腕を後ろへと関節を無視する動きで回し、斧を首を超えた所で鎌へと変形させながらそれを首に引っ掛ける。これで通常の生物だったら死亡する。反転した極光と重力で織り交ぜられた重力武器はそれ自体が一つの固められた魔法攻撃の様なものだ。触れるとそれに反応して触れた箇所が圧縮、圧壊、滅圧されてそのまま、砂以下の粒子にまで分解して消滅させる事が出来る。《勝利の鍵》の機構を学ぶ事で改良された殺人用魔法武器である。手加減や殺さないという選択肢を排除した武器でもある。触れれば最後、絶対に殺すという兵器。

 

「痒みすらないな」

 

 《無敵結界》。当然だ。それが魔軍の王である魔王の証であり、そして魔人に与えられた究極の盾でもある。だがこいつの攻略法なんざ―――WIKIを大変苦労するほどに読み込んだファンであれば、

 

「知ってるさ―――」

 

 だから引っ掛けた。引っ張る。後ろからナイチサに接近する様に背中から密着する。膝に膝を叩き込みながらバランスを崩す。そして引きずる様にそのまま、

 

 上を超えて投げる。

 

 大地へと向けて素早く、叩きつける様に。その時に武器を外して()()()()()()()のを忘れない。

 

 そしてそれにナイチサが叩きつけられた。大地が陥没し、全力で投げ飛ばした影響によって直径数百メートルを超えるクレーターが一瞬で出現し、その中心にナイチサは少しだけ、驚いたような表情を浮かべた。

 

「ふむ……驚いたな。背中が痒い」

 

「気を付けた方がいいぜ。接触しない落下とかによるダメージだったら自傷と処理されるぐらいにその結界はがばがばだからな」

 

「それは良い事を聞いた」

 

「そうか、じゃあ、死ね……!」

 

 《無敵結界》の攻略法は簡単。

 

 ()()()()()()()()()()()()()だけだ。故にこの世界を支える聖獣が発する、俺達を下へと引き寄せる力、重力を一気に強化する。自分から放つのではない。干渉し、()()()()()()()()()のだ。それ故にそれは《無敵結界》を貫通する。なぜなら自然現象だからだ。常に重力の力は働いている。普段から大地の上に立っているのがその証拠だ。重力まで《無敵結界》が遮断したのであれば、勝手にロケットみたいに空に向かって飛んで行っているだろう。

 

 だからクレーターに叩き込まれたナイチサに掛かる負荷は一瞬で5倍を超えた。同じだけの負荷が自分に掛かる。それを事前に用意していた魔法で軽減し、相殺し―――更に重力的な負荷を10倍へと引き上げる。

 

 過重をそこから20倍、40倍と上げて行く。相殺しきれずに、自分の肉体も悲鳴を上げる。空気そのものが押し潰される様に薄くなっていくような気配の中、ナイチサを見る。

 

「お前ら魔人と魔王対策に考えた戦闘方法だ。どうだ、ちったぁ効くだろう」

 

「あぁ―――驚いた」

 

 ナイチサは称賛する様にそう言って、

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。《ハイパーモード》で身体能力を3倍にした状態で更に、過重を追加する。60倍。内臓を吐き出しそうなプレッシャーの中で、立ち上がったナイチサは自分に掛かった埃を片手でぱっぱと振り払うように落とし、それで、と声を零した。

 

「それだけか?」

 

「聞仲か何かかよお前」

 

 言葉を吐いた瞬間には斬撃が目の前にあった。それを切り払った。

 

「ほう」

 

 それに驚嘆の声をナイチサは零し、少し嬉しそうにしていた。あぁ、違う。こいつ、自分と同じような真実に辿り着いた奴が、タダの道化ではない事を喜んでいるのだ。クソ、気持ち悪い。吐き気がする。内臓丸ごと吐けそう。だが駄目だ。がまん。過重結界は絶対に解除しない。ナイチサはまるでない物の様に動いているが、それでも魔王の力を僅かに、爪先程かもしれないが、制限しているのだ。

 

 これ、解除したら絶対に見切れねぇや。

 

 理解しながら切り払った。ナイチサが剣を振るう。闇を固めて作ったような剣、その斬撃がナイチサ自身が作る闇によって隠され、振るわれてくる。方向の解らない斬撃が魔王という圧倒的スペックから振るわれる悪夢を前に、

 

「マギーホア様よりはトンでもじゃねぇ……ところで俺って今2000歳ぐらいだっけ? もうちょっと若くなかった?」

 

 切り払った。吐き出しそうな気持ちをぶつぶつと冗談みたいなことを呟く事で忘却し、斬撃の軌道を先読みする。ナイチサの剣術は悪くはない―――だがそれでも、経験が足りない。強敵と戦った経験が、匹敵する相手が居るという経験が。相手を殺すだけの剣。強者の剣。

 

 故に経験で裏打ちされた格上と戦う為の基本的な動作で対応できる。切り払う、受け流しながら返す。引っ掛ける。切る、払う。それらの動作でナイチサの動きに、無明の斬撃に対応する。加速しそうなそれを切っ先を、呼吸を読んで対応する。

 

 全身を一つの機構として考え、Lv3技能を歯車に、ドラゴンの力を歯車に、経験をプログラムにして、気力と怒りを燃料にして注ぎ込み、それで肉体を動かす。推定、《剣戦闘Lv2》と思われる。腕前は此方の方が上だ。

 

 故に付け入る隙はある。斬撃を切り、重力の束縛の中、隙を作る為に攻撃を重ねる。その果てに一瞬だけ隙を作る。そこに奥義を叩き込み、

 

 《無敵結界》を貫通出来る悪魔王の骨で作られた剣を突き刺す。

 

 それが、

 

「うし、そ―――」

 

「ん? あぁ、もうこんな時間か。もう少し人間を殺さなくてはならないか。すまない、遊ぶ時間が無くなった」

 

 言葉を放った瞬間には大地に叩きつけられていた。血反吐を吐きながらメキメキ、と音を立てながら骨が折れる音が聞こえた。知覚の範囲を超えていた。そして衝撃はそれで終わらず、神経をとがらせば、

 

 顔面に迫る靴の先が見えた。

 

「かふっ」

 

 血反吐を吐きながら蹴り飛ばされた。大地にクレーターを穿つようにバウンドし、跳ね跳びながら落ちてきたところをナイチサに捕まれるのを知覚した。ドラゴンとして覚醒された力が傷口を強制的に閉ざし、傷を癒す。だがそのまま、ぐきり、と自分の喉から音が響いた。息が出来ない。首が曲がる。

 

 反射的に骨剣を抜いてナイチサに刺した。だが角度が悪い。差し込み切れていない。それを見て、ナイチサがふむ、と声を零した。

 

「手っ取り早く躾けるか」

 

 そして大地に叩きつけた。片足を握られたまま。

 

 そして持ち上げ―――叩きつけた。

 

 布をはたく様に、何度も何度もスナップを聞かせながら大地に叩きつける。ひび割れる大地に気にする事無く叩きつけ、そして投げられる。ドラゴン・カラーとしての血が沸騰する程に沸き上がり、折れた首や体を即座に再生し続ける。ありがとうドラゴン、流石ドラゴン。超強いぞドラゴン。ドラゴン技能無かったら既に死んでいるな、と思えば、

 

 反応出来るよりも早く。

 

「《魔の渦》」

 

 周辺の全てを飲み込む闇渦が襲い掛かってきた。一瞬で飲み込まれ、全身を殴打され、切り付けられ、闇に肉体が焼かれる。だがそれを内側から切り裂いて破れば、正面にナイチサが居る。凄まじいまでの威圧感。魔王としてのオーラ、それが此方を威圧感で拘束した。まるで体が動かない。やばい、と思っても体が動かない。

 

 それを前に、ナイチサが拳を握った。

 

「服従するか死ぬか選ぶ自由を与えよう。共に眠れる白痴の神に供物を捧げるつもりはないか」

 

「―――」

 

 返答の代わりに顔面に唾を吐き捨てた。直後、

 

 ナイチサの本気の拳が振るわれた。知覚は出来た。少しずつ、少しずつ、闘争本能が目覚め、それがナイチサの動きを見える領域まで経験を積み上げて行き―――それを全てあざ笑うようにナイチサの拳が放たれた。

 

 まだ魔血魂が多く吐き出されておらず、その血が濃かった時代の魔王。

 

 その一撃で体中の骨が砕ける音がした。《勝利の鍵》がついにその余波で粉砕されるのが聞こえる。傷が殴り飛ばされながらも急速に回復するが、骨を繋げた所で限界に到達し、大地にバウンドしてから魔王城の城壁に衝突する。城壁に半ば、陥没した状態のまま、血反吐を口からだらりと垂らしながら第三の目が閉じた。バランスブレイカーが必要となる魔力の欠乏により機能停止する。

 

「……」

 

 口が開かない。言葉が出ない。体がまるで動かない。

 

 別段、魔王を舐めていた訳じゃない。勝てない相手だと解っていた。だが一手、一手ぐらいは何とか―――差し込めるかもしれない。

 

 そんな考えそのものが間違いだった。理解した。次元が違う。いや、システムが違うのだ。こんなの、バグが相手でないとそもそも戦いにはならないだろう。ランス君とその子供たちの強さが良く理解出来た。俺がレベル250あったとしても、これでソロは不可能だ。同じようなレベルの連中を最低、8人は集めないと話にならない。というかソロで戦えるマギーホア様ほんとマギーホア様。

 

 あぁ……やべぇ。

 

 動けねぇ。

 

「中々良い催しだった。一曲と引き換えにするには十分な時間だった」

 

 本当にやばい。まるで動けない。回避も逃亡も出来ない。魔力切れ。バランスブレイカーしこたま用意してあったのにまるで塵の様に吹っ飛ばされた。完全に遊ばれていた。だがそれ以上にやばい。

 

「さて、最初に与える命令はどうするか……」

 

 新しいおもちゃを眺めるような視線で手首を切ろうとしていた。

 

 血だ。

 

 血を注いで魔人を作ろうとしている。

 

 つまり、魔人ウル様。不味い、一番ヤバいパターンだこれ。あの時、素直に逃げていればまだ逃げられたのだろう。だがそれが自分には選べなかった。許せなかった。どうしても。それはナイチサとのスタンスの違いからくるものだろう。だからこそ絶対に許せなかった。俺が苦労して泣いて悩んで決めた事を、

 

 こいつは真逆の方向へ一切の躊躇も迷いもなく決断し普通に実行し続けていたのだから。

 

 だから自分に出来る事と言えば、中指を突き出す事ぐらいだった。Fuck you。地獄に落ちろナイチサ。だがこいつなら地獄に落ちても普通に戻って来そうだな、と改めた。なので今度は奈落に落ちろナイチサ。そしてALICEの登場シーンに真っ二つになればいいのだ。というかマジで死んでほしい。

 

 あぁ、駄目だ、まるで抵抗できない。

 

「さぁ、我が僕となれ、カラー」

 

 ナイチサの片手が迫るのが見えるので、口を開き、声を吐く。体力の全てを消費して最後の言葉を紡ぐ。

 

「お断りだよクソ野郎」

 

 その言葉と共に意識を落とした。




 魔王とそれ以外の人間との戦いを表現するなら、

 ファイアーエムブレムを遊んでいるのに相手にディスガイア混じっている感じ。お前、根本的にシステム間違えてない?? って言いたくなるような強さをしている。レベルが高くて対策して準備しても全部無駄って言える相手。最低限結界を破壊した上で250を何人か集めて漸くまともに向き合えるって感じだけど、そのレベルがそんな数いないんで……。

 魔王は強かった。
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