※この作品はR-18です。

ルドラサウム転生異聞録   作:てんぞー

52 / 172
953年

「―――これが《ゲートコネクト》という魔法になります。現状、実用するには相当量の魔力、そして同時に凄まじい演算能力、複雑な術式を記憶するだけの脳、或いは施設を必要としますが、これを運用した際には異世界の技術を入手できる他、魔王の手が届かない世界へと逃げる事が可能となります」

 

「―――」

 

 ジルはその光景を信じられない者を見る様な目で見ていた。

 

 当然だろう。発表会で晒されていた研究内容は、ジルの研究内容なのだから。それを誰よりもジルが理解していた。彼女でなければ思いつけない様な発想、術式が説明されていたのだから―――あたかも、それが今、発表している者の成果であるかのように。その現実が信じられずに、或いは初めて直面する明確な悪意に対して、発表会でそれを眺めているジルの表情は見る見るうちに青くなって行く。

 

 それだけジルにとってはショッキングな出来事だったのだろう。ジルは人の悪意というモノに根本的に触れる経験の少ない少女だったのだろうと思う。だからこそ目の前の光景が信じられない様に表情を青ざめていた。泣きそうな、信じられない様な、何かを言いたいような、言えない様な、そんな表情をジルは浮かべて行く。

 

「ですが現状、この魔法が現実的であるかと言えば……あまり、現実的ではないでしょう。可能性を求めて創作した魔法でしたが、それでも根本的に危険の方が多い魔法であると発覚しました。異世界という道は完全に閉ざして、この魔法と異世界の存在を忘れた方が良いと、私は判断しました」

 

「え、あ、いや、え」

 

「なので私はここでこの研究を、永久凍結する事に決めました」

 

「あ―――」

 

 その言葉に、異論を挟めず、ジルは見送るしか出来なかった。ジルという少女は心の優しい少女だった。ジルという少女は他人を疑わない少女だった。彼女は派閥には興味がなかった。だけど少しでも自分の住む場所と、その周りが良くなるというのであれば、力を貸す事に迷いはなかった。天涯孤独の身であるけど、それでも彼女は自分の住んでいる国が好きだった。

 

 皇帝は偶にやらかすけど、基本的に良い皇帝だった。こういう施設と場所を用意してくれるのは嬉しかった。だがそれがジルの間違いでもあった。ジルは一面しか見ていない。性善説を信じてしまっている。それはルドラサウム大陸でもっとも愚かしい事である。この大陸の人間は性悪説を満たす様に生み出されている。誰もが心の中に悪を飼っている様に生み出されている。そうデザインされている。神は悪辣であり、生贄を待っているという言葉を、ジルはこの瞬間、この時、

 

 初めて自分の経験として理解した。

 

 故にジルは言葉に固まった。何もできず、自分の成果が奪われた上で使い物にならないと言われ、永遠に凍結される瞬間を。やっていたことを奪われた上で無駄だと言われた。誰かを助ける為の研究が、後世には残す必要すらないと全否定された瞬間でもあった。それを、乗り越えるだけの強さがジルにはなかった。

 

 ジルはまだ、少女だった。

 

 悪意を初めて経験する珍しい少女だった。その才能ゆえに今まで、上手く立ち回れてしまっていたから。彼女はまだ、少女だった。そしてその心は少女のままだった。それが初めて、この瞬間、悪意という暴風を受ける瞬間を、

 

 ―――俺はこうなると解っていて、後ろから眺めていた。

 

 

 

 

 発表会が終わった所で呆然とするジルがゆっくりと部屋から出てきた。何人かが怒りに燃えたり、慰めたりしている。それらはジルがどんな研究をしていたか解る連中であり―――その中にはジルの研究を盗んだ奴も混じっていた。あぁ、なんて酷い光景だろうなぁ、とその景色を眺めながら、

 

 やれやれ、と息を吐いた。

 

「借りてくぜ」

 

「わ、わわ、先生!?」

 

「あ、アマゾネスクイーンにジルが誘拐されてる!」

 

 先生が生徒を拉致するのは当然の話なので聞く耳持たぬ。そういう訳で慰められているジルの上からクレーンの様にジルを掴み、そのまま浮かんだ状態でジルを盗み去っていく。それに騒ぐ若者共は追いかけてこない。その配慮が地味に嬉しいが、果たして―――いや、考えるのは別にいいや。

 

「せ、先生?」

 

 答えずにそのまま、窓の外へとジルを拉致って飛び出す。そしてそのまま、大空へと飛び上がった。飛行の魔法がジルは苦手らしく、全く空を飛ぶ事が出来ない為、こうやって抱えてあげないとまともに空を飛ぶ事さえ出来ない。そんな状態なので、こうやって空へとジルを引っ張り上げた。

 

「よし、ジル、やれ」

 

「え?」

 

「だから、やれ」

 

「えーと……何を……」

 

「だから《ゲートコネクト》だよ」

 

「え……」

 

 此方の言葉にジルは何を言うのかを一瞬で忘れてしまったようなので、隻腕でジルを抱えたまま、笑う。

 

「馬鹿だなぁ、あそこに居る全員があの発表は元々お前の物だって解ってたんだよ。その上でお前を潰す為だけにあんなことをやったんだ」

 

「え、あ、私は―――」

 

 だから、と笑いながら言葉を吐く。

 

「使って誰が本当の使い手なのか、見せてやろうぜ……な?」

 

 その言葉にジルは見上げる様に視線を此方へと向け、そして驚いたような表情を浮かべてから、しかしくしゃり、と笑みを浮かべた。頷き、Lv3に相応しいだけの魔力をその全身から放ち、返答の代わりに複雑な術式を天性の才能によって補正された、芸術的とも表現できる魔法を発動させた。空中に魔法が発動し、そこに異界への扉が開かれた。

 

「あ、発動したのは良いけど行先が―――」

 

「ヒャア! 我慢出来ねぇ!!」

 

 がっはっは、と笑いながら空中に生み出されたゲートにそのまま、ジルを抱えて飛び込んだ。光に包まれて周囲の景色が消え去り、そして風景が一変する。空高く飛翔していた姿がゲートを抜けた先で一瞬で景色を変えて、

 

 その向こう側に広がっていたのはアスファルトによって舗装された道路と、そして鉄の建造物の見える風景だった。そこに飛び出しながら飛行を止めて、背後でゲートが消えるのを感じ取りながら道路の上に着地しつつ、ジルを降ろした。

 

「あううぅ……は、激しすぎです」

 

 片手で額を抑えつつジルが軽く額を抑える。目を回している間に周囲へと視線を向ける。アスファルトの道路に乱立する家屋の姿、そして聞こえて来るエンジンの音―――懐かしき、地球文明の音だった。もしかして次元世界3E2を掘り当ててしまったのだろうか? あ、でもセブンイレブンを見つけた。クッソ懐かしい。あぁ、なんだろう、物凄い懐かしさを感じるが、同時に違和感も感じる。

 

 自分がこの世界の一部ではない様な、そんな感覚だった。

 

 ……まぁ、もう既に地球に居た時代よりも、ルドラサウム大陸に居た時間の方が長いのだ、此方ではなくルドラサウムの方をホームと感じていてもしょうがないのかもしれない。いや……地球に居た頃よりも遥かに濃い人生を送れているのだ、もう既にルドラサウムの人間として生きる覚悟を決めているのだ、その後の輪廻も。

 

 周辺へと視線を向ければ、それなりに目立っているのが解る。俺は明らかに露出が多いチューブトップにホットパンツ、それでいて隻腕という姿。その横にはぶかぶかローブの美少女がセットでついているのだ。そりゃあ目立ちもするだろう。俺も言動は非常にアレだが三者視点からすると十分美女カテゴリーに入るし。口さえ開かなければ、という奴である。

 

「とりあえず―――」

 

 どっか、落ち着ける場所を確保しようか。そう思った所で言葉を邪魔する様ににやにやと笑みを浮かべながら制服姿の学生たちが此方に近づいてくるのが見える。おぉっと、こんなに日本って馬鹿が多かったっけ? と思っていると、にやにや笑みを浮かべる学生たちは武器を手にしているのが解る。

 

「おいおい、マブい姉ちゃん達じゃねぇか」

 

「へへ、そんな恰好しちまって、俺達を誘って―――」

 

「非殺傷威力で《ガンマ・レイ》」

 

 めんどくさいので薙ぎ払った。ビームを放って強制的に地面に叩きつけて学生共をダウンさせ、そのポケットをまさぐる。えーと、あぁ、あったあった、とポケットから財布を回収し、その中身を確認する。

 

「あれ、円じゃねぇ」

 

 見た事のない金が入っている。財布から取り出した金色のそれを掲げると、倒れてまだ意識のあった学生が此方を見上げている。

 

「お、俺のBPを……」

 

「そっかぁー。BPだったかー」

 

 どうしよう、困った。これ、3E2じゃなかった。寧ろなんというか、もっとやばい所に《ゲートコネクト》で繋がってしまった感じがある。えー、マジでどうしようかこれ。いや、確かにアリスソフト繋がりなのだが、マジでありなのそれ? アリスソフトだからありなの? という事は【イブニクル】に繋がるゲートも存在しているのかもしれない。そっちのドラゴン娘こっちに大量に分けてくれないだろうか。深刻な問題が割とあるので。

 

 うーん、悩みどころである。とはいえ、俺一人では《ゲートコネクト》が使えない。根本的な問題解決には程遠いよな、と諦めておく。

 

「お、お前、煉クンが黙っちゃぐえぇ!?」

 

「寝てろ」

 

 げしげしと軽く踏みつけて気絶させ、その意識を奪った。カエルの様な声を零しながら気絶した小僧どもを放置し、とりあえずはこの世界というか、今のこの日本で使用する事の出来る金であるBPを財布から根こそぎ奪っていると、漸くジルが復帰したのか、

 

「あ、あわわ、あわわわ、せ、先生! 何をしているんですか!」

 

 え、と声を零しながら振り返る。

 

「カツアゲ。正当防衛だから許されるよな……なぁ?」

 

 通行人に同意を求めれば、サムズアップが返ってきた。この世界も日常的に学園間で抗争しているし、殴り合っているのは割と普通だっけ? と古い知識を思い出す。まさか別ゲーの知識をいきなり要求されるとは思わなかったが、

 

 まぁ―――丁度良い所でもある。

 

 この世界にバッドエンディングを求めてる神の意思は存在しないから、好きなだけ暴れても文句を言う神様が居ないのだ。ストレス解消には丁度良いだろうと思う。最近、思いっきり暴れる機会もなかったし、ここなら適当にナスビ頭の味方をして暴れば良いだろう。

 

「いや、違うんですけどそうですけど、その、なんというか、その!」

 

 ジルが必死に伝えようとする姿に、がっはっは、と笑った。そしてその頭を撫でた。

 

「ジル」

 

「あ、はい」

 

「俺は近いうちに森に帰る」

 

「え」

 

 その言葉にジルは思考を表情を固めた。だけどその頭を撫でたまま、言葉を続けた。

 

「前した、神の役割の話を覚えているか?」

 

 その言葉にジルはゆっくりと、頷いた。そして口を開く。

 

「……人は役割を与えられ、生まれた生き物である、という事ですね」

 

 ジルの答えに頷く。

 

「人が役割を与えられる様に、俺にも与えられた役割がある。幸か不幸か、俺は自分が何のために存在しているのかを知っている。そしてその為に人生の全てを捧げる事を覚悟している。そして今も昔も、俺はその為にずっと行動している……」

 

 ある種の呪いである。俺にはそれに抗えない。抗おうとも思えない。そして成し遂げなければならないと思っている。だから俺はこれ以上、変われないと思っている。運命を、未来を変える事は出来ない。スラルの事は、終わった後で再び新しく始めただけだ―――本質的には何も変化はない。

 

「ジル」

 

「はい」

 

「……君はこれから、物凄く不幸な目に合うだろう。それを回避できるかどうかは、君の努力次第だ。俺に言えるのはそこまでだ。それをどうにかできるのであれば……俺も全力で助けてあげたかった。だけど俺にも定められた役割がある。逃げられない現実がある。だから君が恐らくは不幸を得た時……俺は君を助ける事は出来ない」

 

「先生……」

 

「情けないと思うかもしれない。先生と呼んでくれる君に不義理をしているかもしれないだろう。だけど時が来て、どうしようもなく心が耐えられない時は―――俺を憎んでくれ。そして人類を憎む事を躊躇しないでくれ。だけど愛を捨てないでほしい」

 

 限界だった。これが自分がジルに伝えられるぎりぎりのライン。出来る事の全て、その限界だった。俺はもはや、この賢人会から離れる事を決意していた。もう、ここに居るだけの理由がないし、早めに離れた方が被害を受けずに済む。何より、もう、ナイチサから魔王が交代される年が近いのだ。俺が居たのではスケジュール通り物事が進まないかもしれない。

 

 一旦、舞台から消える必要があった。

 

 だから最後に、ジルの心に逃げ道を用意しておく。

 

 俺が悪い、という逃げ道を。俺を憎むという道を。その果てに殺しに来るか、家畜にされるか……どちらにしろ、それを運命として受け入れる事は考えていた。

 

 果たして、神の真意を知る事が出来た魔王は、俺をどうするのか、という興味がないわけでもないが。

 

 それでも、

 

「これが俺がお前に言える限界だ……すまない」

 

「……いえ、先生がどれだけ苦しんでいるのか、その表情を見れば解りますから」

 

 それに、とジルは笑った。

 

「先生が凄い人で! 良い人だってことは私が良く解ってますから! 見ててください、先生の予想を何時も魔法では覆して来たんです―――今回だって覆しますよ」

 

「……そうか」

 

 そうなればどれだけ良かったのだろうか。そうなれば、どれだけ幸せだったのだろうか。だけどきっと、そんな未来は来ない。もはや予知に近い確信が自分の中にはあった。この少女は絶対に人類を憎む魔王になる。それが今から自分には未来の景色として見えてしまった。その時、自分がどういう風に扱われるのか―――それは、まだ見えない。だが関わった責任は、求められたら応えるだけの覚悟はあった。

 

 と、話が丁度終わった所で、

 

 

オォラァッ!!

 

 

 咆哮の様な声と共に爆発と爆裂、音が響きながら瓦礫や埃が舞い上がるのが見えた。あ、この声はどっかで聞いた事があるぞ、とニヤリ、と笑みを浮かべる。そしてそのまま、ジルの手を取った。

 

「そんじゃあっちでは暴れているらしいし、ゲートを開いて帰る前に1回、記念に暴れていこうぜ」

 

「先生! ダメですよ暴れちゃ!」

 

「がっはっはっは、ここは異世界だからどんだけ迷惑をかけてもいいんだよ! 追ってこられないからな! とりあえずあのナスビ頭に味方しよう、なんかボスっぽいし」

 

「今俺の事をナスつった奴は出てこい!」

 

 その返答にまた笑いながらジルを引き連れ、騒乱の中に引き込んで行く。この一時のはしゃぎが、笑いが、少しでもこの先の未来の運命を和らげることを祈って。今だけは、前借する様に少しでも幸福を楽しめるように引っ張り出して、背中を押す事しか出来なかった。

 

 必ず不幸になる娘の為にも。

 

 運命は変えられない。

 

 ―――否。

 

 結局はそれっぽい言葉を並べているだけなのではないだろうか? それっぽい言葉、言い訳をしてまた逃げているのではないのだろうか? あぁ、それとも今度こそ本当に狂ってしまったのだろうか。それでも未来は、未来はどうにかして救わないとならないのだ。ここまで来てしまった以上、もはや止まれないのも事実だ。

 

 憐れな憐れなジル。その未来は絶対に幸福にならない。

 

 それを知っていて変えようとしないのだから、ほんと、腐ったものだと思う。

 

 だがランスの産まれる未来は変えられない。

 

 絶対に。

 

 何に代えても。これだけは絶対に。

 

 

 

 

NC954年

 

 ウル・カラー、帰郷。突然賢人会を離脱し、帰郷を宣言する形に驚きが溢れる。歴史に詳しく、旧派と改派、その両方の意見を理解しながら融和させる事の出来る数少ない人物であった。何より武勇に優れるという点を持つ上に、政治に全く興味や関心がなく、行動力や人柄で引き付けるタイプの存在であった為、策略を練ってもどうしようもない存在であったウル・カラーは賢人会の中では一種の抑止力として働いていた。少なくとも化け物の前で粗相をしようとする、愚者は混ざっていなかった。だが彼女の帰郷により、それが消える。

 

NC955年

 

 魔王ナイチサ、勇者に敗北。致命傷を受けて魔軍は撤退、その軍事行動が一時的に停止する。人類が魔軍に対して初の明確な勝利を見せる事が成功した。世界はその喜びに満たされ、人類が一気に増長する。魔王という存在を瀕死にまで追い込む事に成功した人類は喜びに震えながら心の枷を外してしまう。絶望の音色を響かせながら喜び、そして恐れる事無く自らの欲望を満たし始める。

 

NC960年

 

「新しい魔王の誕生を―――新たな魔王は魔王ジルと―――来年からGL1年となります、お忘れなきように―――」




 実はパラレル案に魔王ウル誕生ルートというものもプロットで用意してたな? まだ精神力足りているルートだったらジルの代わりにウルが魔王になってUL歴開始! という感じで、ジルがやる事をウル様がやりつつ、魔軍の強化をして、ジル魔人にしつつ人類1000年ぐらい苦しめるルートも考えたんだ。

 じゃけどやっぱガイの魔王化とランス君のt安生で困ったんでどうしようもなかった。ジルを救う裏技が根本的に存在しないのが事実なんだよねー……。ジルの魔王としての役割が余りにも歴史の中に食い込み過ぎて大きすぎる。

 所で俺、ナス嫌いじゃないよ。投票は久那妓に投げて来たけど。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。