5年 暗黒期到来
「あぁ―――イイ! もっと! もっとぉ……」
「はぁ、はぁ、はぁ―――」
女が犯されている。両足を切断され傷口を塞がれた女が両手を枷に縛り付けられ、その秘部に男の肉棒を受け入れていた。男の方も両手で腰を掴むと、一切の遠慮なく腰を動かし続けていた。まるで狂ったかのように腰を動かし続ける男の動きは止まらない。そそり立つ肉棒を陰部に叩き込んでは涎を垂らしながら女を犯し続けている。そして我慢の限界を迎えて膣に射精しながらも―――腰の動きを止める事はなかった。そのまま、狂ったように腰を動かし続けている。
射精しても腰を動かし続ける。それを横に立っている魔物兵が魔道具を使ってチェックしている。
「あー……まだ孕んでないのか。もうちょっと薬を使うか」
そう言うと魔物兵は腰のホルスターから注射器を引き抜き、それを女の首に突き刺した。
「おっ、おっ、おぉっ、おっ」
女が白目を剥きながら絶頂する。首筋に突き刺さった針の感触に絶頂したのだ。そしてそれを犯す男の肉棒が締め上げられる。それによって気持ち悪い声を吐き出しながら男は女を犯し続け、そして女も痙攣しながら犯されている。女の精神は既に壊されている。
「良し、これなら今日中に出産で出来るな」
そう言うと魔物兵はその家畜から目を離し、隣にいるペアへと視線を向けた。そのペアもまた、男と女の組み合わせであり、両足のない女を男が犯していた。既に女の腹は膨らんでいる。それを確認し、魔物はよしよし、と頷きながら次のペアへと移って行く。それは一種の異様とも地獄とも表現できる景色だった。男が女を必死に犯している。そこに一切、なんの疑問も抱かずに。まるで家畜そのものの様に。
「おーい、育児部屋はどうなってるー?」
「今拡張中だぞ? ちょっとペースが早過ぎるんだよ」
「あー、ペース落とさなきゃダメか……」
「薬の使用と交尾時間を減らすか?」
「だけど人間って育つのに時間かかるじゃねぇか。だったら一気に産ませて纏めて育てた方が良くねぇか?」
「そう思うか? ……そうだよなぁ……ちっと交尾部屋の管理が忙しくなるけど、建設班を増やすか」
「ま、それっきゃないか。総合ノルマがあるから油断出来ねぇんだよなぁー」
そう言って交尾部屋、或いは繁殖部屋と呼ばれるその部屋を管理する魔物兵たちは談笑しながら数百人の人間が一斉にペアで犯し合っている部屋で、その様子を管理しながら会話を続ける。その会話の内容は日常的な物だったり、何を食べたとか、そんな話をしていた。普通に、日常生活の会話だった。その景色を見て彼らが思う事はない。相手が人だったら性欲も湧いてくるかもしれない。だけど違う。
家畜に欲情するのは変態ぐらいだ。そして魔物兵としては一般的な感性を持つ彼らに、家畜を犯すような趣味はなかった。そしてだからこそ、家畜が激しく犯されていても興奮する事も、思う事もない。仕事の一環として管理しているのだから、そこに思う事は何もないのだから、当然だ。人間は家畜となったのだ。だからそれはもはや動物だ。管理される生き物だ。
かつて、西部オピロスと呼ばれた大国家の首都、そこは人間牧場へと完全に作り変えられ、必要のない家屋は破壊され人間牧場の為の施設へと再利用されていた。かつて栄光を誇った国家の姿はもはやなかった。国家を治めていた皇帝オピロスの姿は居城の塔に突き刺さった上でその屍に保存の魔法がかけられており、魔法が剥がれるその時まで朽ちる事無く、絶望の証として無人の城に飾られている。
繁殖部屋の外へと出て街を歩けば、従属させられた人間の姿が魔物兵によって管理されているのが見える。完全に人間ではなく動物として扱っている分、寧ろ魔物兵と奴隷の間の距離は短く、殺すような事も、脅すような事もなく、普通に生活していた。店舗を維持するような姿の人間も見られ、そこから無料で食料や娯楽を楽しむ魔物兵の姿が見える。
「オラっ! ははっ!」
「なんか言ってみろよ!」
そして道路の真ん中で人間に蹴り転がされる人間の姿が見える。四肢を欠損した上で舌を切断された人間がサッカーボール代わりに同じ人間に蹴り転がされ、それを眺めている魔物兵がファンファーレを送っている。それを受けた人間が頭を何度も下げながら更に気合を入れる様に蹴って転がしている。
もし、そこに本当の悪という言葉が、概念があるとすれば。
それは恐らく、人が生み出す意思なのだろう。
―――俺は身を隠した状態でそれを眺め、それを漸く理解した。
「これがジルの治世、人間牧場か……」
呟き、《クローキング》を維持したまま、空に飛び上がった。虚空から浮かび上がった声に魔物兵が視線を向けて来るが、その時は既に空に上がっている為、もはや自分の姿はそこにはない。視線を野晒しにされている皇帝の方へと向け、助けられなくてすまない、と心の中だけで謝ってから、かつて栄華を誇った首都から離れていく。
もはやここに人としての生活や誇りは何も残されていない。
残されたのは家畜と、その管理人たちだけだった。人間牧場に戻ってくる事はもうないだろう。ここに来る意味はない。解放する意味もない。既に牧場で生まれた新世代が育ち始めている。彼らが育てばもはや、このシステムに疑問を覚える事はないだろう。そういうシステムをジルは既に構築しているのだから。薬の投与による一世代目の常識封鎖。生まれてくる二世代目に対する洗脳教育。それを行う事で家畜として生まれ、家畜として一生を終える。そこに一切の疑問を感じない様にしている。
悪魔的に合理的だった。
これなら爆発的に人口を増やせる。
勇者の襲撃システムは全体の人口の低下により発生するものであり。故に生まれる勇者そのものを牧場で管理してしまえば勇者として覚醒する事もない。また同時に人口を爆発的に増加させれば適当に虐殺した所で50%には到達しない。故に地獄を味わわせてもペナルティがない。無限に地獄のループを繰り返して殺しては増やすを続けられる。
飛行し、首都から十数キロ離れた地点、一本の木が目印となっている場所に降りる。その下にはルシアと共に待っている一人の青年の姿があった。《クローキング》を解除しながら青年とルシアと合流する。旅である為に旅装、ホットパンツとチューブトップという恰好をしている為、風が良く感じられる。ゼスの熱風も個人的には心地よいものがあったのだが、
今は、そんなものを一つも感じられない程にちょっと、心が弱っていた。
「お帰り、ウルさん。様子はどうだった?」
「お帰りなさいませ、此方をどうぞ」
青年とルシアがそう言って迎えて来る。ルシアから水筒を受け取りながらそれを飲み、渇いた喉を潤す。ゴーグルを外しながら息を吐き、そして頭を横に振った。
「もう駄目だな」
「やっぱり、そうか……」
茶髪の青年は片手を顔に当てながら、絶望感に覆いつくされそうな心を何とか保たせているのが解る。心が折れていないだけ、まだ凄いと思う。空っぽにした水筒をルシアに返しつつ、少し疲れたので、木に寄り掛かるような形で座り込み、ベルトポーチからヒラミレモンを取り出して噛みつく。すっぱい。これが良い気付け薬になるのだ。しばらくの間食べていなかったが、これを食べると心が落ち着く気がする。なんというか、正気に戻る様な、そんな味だ。
「首都は完全に人間牧場になっている。西部オピロスの周辺都市はこれで全滅だな」
「北方の寒冷地帯の方も主要都市は全て陥落していたからな……」
ふぅ、と青年が息を吐いて心を落ち着かせたのを見た。視線が食べているヒラミレモンへと向いたので、ポーチから携帯しているヒラミレモンを1個投げ渡す。それを受け取った青年がすみません、と申し訳なさそうに笑いながら受け取った。自分も齧りながら言葉を続ける。
「首都は大規模に改築されてて必要のない家屋は資材に変換、それを子供部屋とかにしているな。後は教育専門の魔物兵とか、そうやって分野別に部署を作って管理してるのも見える。恐ろしいけど効率的で人類の増産って意味じゃ間違いなく有用だよ、ありゃ。ガス抜き、管理、恐怖、快楽、全てを揃えてマインドコントロールしてるわ」
「今解放したらまだ正気に戻せるかもしれないけど、薬漬けで精神崩壊で未来はないか……」
「そして次世代を狙った所で洗脳教育されているから解放した所で何十年……いや、何百年単位で人類を元の形へと戻さない限りはどうしようもないな」
「そうか……」
悔しそうに青年は歯を食いしばり、そして鞘から剣を抜いた。それを逆手に握りながら青年はそれを眺める。それは不思議な剣だった。刀身が青い光を纏った剣。それはその青年にしか扱えないものだった。そしてその光は日に日に減って行くのが目に見えていた。痛ましいものを見るような視線で青年・アレフを見た。
「俺は―――ナイチサさえぶち殺せればそれで世界が平和になると思っていたんだけどなぁ……次の魔王が魔王を殺しても誕生する。そんなシステムがあるなんて、思いもしなかった……」
「こればかりはどうしようもないさ。そういう風に世界が出来ているからな」
「ウルさんに助けて貰ってまた勇者になれたと思ったのになぁ……!」
強く剣を―――【エスクードソード】を握る勇者アレフの掌から血が流れ出し、剣の柄を濡らしながら大地に落ちて行く。
勇者アレフ、彼は勇者だった。NC955年にナイチサを討った時で15歳。それから既に10年が経過している。アレフという青年は25歳になり、勇者としてあがりを迎えてしまった。だがそれを短い間だけ、覆すだけの裏技がある。それを自分は知っている。だからあがりを迎えたアレフに声をかけた。
このGL5年に。
人類の暗黒期、一切の希望が後年になるまで生まれる事もなく、ひたすら闇の中に全ての光が沈んで行く時代に、少しでも光を見出す為に勇者という存在に、人生で初めて接触した。だがそうやって見出したものはやはり、少しずつ闇の中へと沈んで行く現実だけだった。
なお、コーラス0024はセラクロラスに勇者復活を頼んだ時に戻ってきたので、マッハを投げつけて諸共大陸から叩き落してやった。
「もう、エスクードソードに魔人を殺せるだけの力がない……」
「【逡巡モード】も解除されちまったか……」
「あぁ……だけどそれだけじゃない。力そのものがもう、消えようとしている。たぶんエスクードソードの使用可能段階すら切れようとしている……」
つまり人類死滅率が回復し、30%以下まで死滅率の低下がナイチサ死亡からこの10年間で成し遂げられてしまったという訳だ。【逡巡モード】はエスクードソードと呼ばれる勇者専用の神器が人類の死滅率が30%を超えた時に発動するモードであり、これになると魔人を殺せる力が勇者とエスクードソード自体に宿り、レベル200の魔人だろうが1対1の状況であれば一方的に殺すだけの力を宿す。
そしてこれが50%を超える事で【刹那モード】に入る。
それがナイチサの敗因だ。【刹那モード】はやり過ぎた魔王へのお仕置きだと考えても良い。【刹那モード】では魔王を殺す力が手に入る。これによって勇者は魔王を殺す事が可能となる。あらゆる攻撃を見切って回避し、そして絶対なる強運と死亡しないという特性で魔王を確実に追い詰め、その《無敵結界》を無視して殺す事ができる。人類を減らし過ぎると遊び場が壊れてしまう。その為に存在するのが【刹那モード】である。
そしてそれが80%に到達する事で【阿摩羅モード】に入る。これは時間逆行、レベルリセット、技能剥奪、死者蘇生、自由創造などを行える一級神を殺せるモードとなる。つまり無敵の様に思える女神ALICE等を殺せるモードになったという事だ。その更に上に【涅槃寂静モード】が存在し、大陸で一桁しか生物が残っていない場合に発動する。こうなると三超神を殺す事が出来る様になる。
つまりバランス崩壊し過ぎだよクソ野郎と、クソ運営を殴れるモードになる。
とはいえ、【刹那モード】以降が発揮される場合は存在しないのだが。
「って事は死滅率が10%を切るラインまで見えてきたか……」
「一地方だけじゃそれだけの大量出産は無理だろうし、恐らくは他の地域の主要都市も」
「人間牧場になってるだろうな。人が増えれば増えるだけ出産の数も増えるし」
解っている事だった。ジルをそのままにすれば魔王になるって事も、人間牧場になるって事も解っていた事だった。だけどこうやって自分の足で回ってみて、そしてその様子を知ってショックを受けている俺は何様なのだろうか? 元々こうなるって解っていて放置したのではないか。
今更の話だろう?
「……それで割り切れたら苦労しないんだけどね」
「ウルさん?」
「あぁ、いや、何でもない」
本当に、なんでもない―――それでも未来を作らなきゃいけないのだ。あの鯨に愛を教える為の準備を整えなくてはならない。だから、疑問に思ってはならない。それだけの話だ。責任は受け入れる。それだけだ。ともあれ、
「セラクロラスに頼んで時を戻したけど、それも永続って訳じゃないからな。それにアイツ、探すと絶対に見つからないし」
「という事は俺も今年が勇者としてのリミット、か……正直、どうするかで俺も迷っていて」
勇者を見上げ、ヒラミレモンを齧りながらご自由に、と言葉の続きを促す。それを受けてアレフが頷いた。半分、独り言に近い言葉に思える。
「俺は―――ナイチサを討った。間違いなく追い込んだ。だがその結果がこれだ。果たしてナイチサを討った事実は正しかったのか。そしてこうなってしまった人類に俺が勇者として出来る事があるのかどうか……正直、もう戦ってどうにか出来るとは俺は思えない。まだエスクードソードが【刹那モード】だったら迷う事無くジルを瀕死にまでぶち殺して絶対に動けない様に監禁してやるんだがな……!」
殺意と憎悪の滲んだ声を押し殺し、だけどもうその段階は通り過ぎていると、理解する様に呟いた。
「……後輩共の為の道を作りたい」
「次の勇者か」
「……あぁ。勇者特性はコーラから説明されるからまだいい。だけど新たな魔王の誕生などに関する情報は、俺達勇者にとっちゃ致命傷だ。これをどうにか、後世の勇者たちに伝えたい。何かできるとすれば、コーラの奴が居ない今がチャンスなのには間違いがないんだ」
「大陸から突き落としてやったからな。流石に戻ってくるまで少しは時間がかかる筈だし」
やってやったぜ、コーラの大陸墜落チャレンジ。だけどアイツ、四級神だから神格だけならマッハよりは上なんだよな。ハーモニットには流石に勝てないけど。それでも多少は時間稼ぎになる筈だ。居場所を特定されていない間は何をしているかはバレないだろう、四級ならそこまで全能ではない筈だ。まだマギーホアチャレンジで即死できる範囲だし。
「とはいえ、勇者に継承されるものなんてクソ剣と特性だけだぞ」
「……」
人類が死滅率を上げない限り働かない剣なのだから、クソ剣でも合ってると思う。とはいえ、これこそが勇者の力を最大限に発揮する兵器だと考えると、少々複雑な気持ちだ。現状、【カオス】も【日光】も存在しない状況ではエスクードソードのみが人類による魔人、魔王に対する攻撃手段だ。これ以外で殺傷する方法が現在の所、存在しない。
「俺は大陸南東部を回ったらJAPANを見て回る予定だけど―――お前はどうする?」
「俺は……」
アレフはそこで少しだけ考え込むような仕草を取り、そしてエスクードソードを見た。
「……こいつに魂を残す」
「……エスクードソードに?」
アレフがエスクードソードを持ち上げつつ、頷いた。
「あぁ。唯一継承されるエスクードソードに俺の魂を埋め込めば、後輩共にコーラには気づかれないでアイツが黙ってる事を教えられるかと思ってな……」
アレフのとんでもない発言に言葉を失い、ヒラミレモンを握ったまま、自分の頭をくしゃり、と髪を軽く掻き乱す。
「飯も女もない生活になるぞ。魂ぶち込むんじゃなくて、何か別の手段を考えてみろ。まだあがりまで時間もあるだろ」
「……考えてはみる」
【魔剣カオス】と【聖刀日光】に続き、【勇者剣エスクードソード】までもが人間を材料にしている、とかなったら全く笑えない。だけど勇者に魔王というシステムを伝える事はある意味、重要なのかもしれない。その考えは間違っていない。手段が間違っているだけで。とはいえ、俺にはそう簡単には妙案も浮かばない。
「ついでに各地のカラーの里も巡るか。ハンティならなんか、いい案があるかもしれない」
「だといいんだがな……」
重い溜息が出る。この状況を改善する手段が一つもない。ジルを倒す手段もない。そもそも、俺にジルを倒すような資格はないし、するだけの気持ちもないし、理由もない。立ち上がる事の出来る人間も―――この時代には、まだ生まれる影すらなかった。
人類の暗黒期、
ここに始まる。
アレフ Lv99
ルシア Lv104
ウル様 Lv191
現状のメインプレイヤー最強戦力チーム。下級魔人だったら《無敵結界》込みでもぶち殺すぐらいの戦力あるなこれ……。とはいえエスクードも大体13%ぐらいなので勇者としての力も、どちら含めても終わりが近い。ゲートコネクトが明確にジルの所にあるので異界から攫った者を魔人にするかもしれないし……?
暗黒の大地を歩こう。